海を見る人 (ハヤカワ文庫 JA)

著者 :
  • 早川書房
3.81
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本棚登録 : 786
感想 : 72
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  • Amazon.co.jp ・本 (389ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150307974

作品紹介・あらすじ

「あの年の夏祭りの夜、浜から来た少女カムロミと恋に落ちたわたしは、1年後の再会というあまりにも儚い約束を交わしました。なぜなら浜の1年は、こちらの100年にあたるのですから」-場所によって時間の進行が異なる世界で哀しくも奇妙な恋を描いた表題作、円筒形世界を旅する少年の成長物語「時計の中のレンズ」など、冷徹な論理と奔放な想像力が生み出した驚愕の異世界七景。SF短篇の名手による珠玉の傑作集。

感想・レビュー・書評

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  • 小林泰三さんの小説はアクが強い、というのが自分の中のイメージ。独自のユーモアやブラックジョーク、ナンセンス、詳細なロジック、特異なキャラクターに文体、そしてグロ描写と、合わない作品はどうにも合わないのですが、ハマるときはハマる、そんな不思議な作家さん。

    この『海を見る人』に関して言うと、文章や独自のユーモアやといった小林さんのアクの部分は大分抑えめな印象。一方で精緻なSFの論理と世界観のこだわりであったり、通常の概念を揺さぶるような物語のテーマは健在。「綺麗な小林泰三さん」というべき短編集かも。(他の作品のイメージが、どんなんなんや……と思われそうだけど)

    収録作品は全6編。そしてそれぞれの短編を繋ぐ、幕間の短い会話で構成されています。短編が語られた後にある、二人の人物の会話の部分が本全体の雰囲気を醸し出しているように思います。異なる論理が支配する世界での人々の考え方や生き方。それを読者はどう受け入れるか。その道標の一つにとして考えさせられます。

    最初に収録されている「時計の中のレンズ」は難しかった……。どんな光景が広がっているか。世界観はどういったものなのか。ハードSFの論理は正直ちんぷんかんぷんだったものの、世界観の壮大さだけはかろうじて分かりました。
    宇宙を舞台に遊牧民族の旅と、少年の淡い恋とほろ苦い成長を描いた短編です。

    「独裁者の掟」は異なる二つの宇宙国家の戦争と、強国の統帥の独裁。そしてそれに翻弄される人々を描いた短編。
    戦争の中奔走し、自分の使命を果たそうとする人々の生き様と、無慈悲な統帥の政治の様子の対比が印象的。そして意外な展開が待ち受けると共に、善と悪の概念が揺さぶられました。

    「天国と地国」も壮大だったなあ。
    侵略者に襲われ、壮大な宇宙空間を旅する四人の男女。ある日彼らは、うち捨てられた様子の拠点となりそうな星を見つけるが……
    神話と思われていた星が存在するかも、そしてその星の正体は、というのがなんだか途方もなくワクワクする話でした。この短編を長編版にしたものもあるらしくて、そちらで物語のその後が語られるのかも、気になります。

    「キャッシュ」は仮想空間と現実空間が交差する探偵もの。
    この世界観と設定ゆえの捜査や推理であったり、そして犯人の正体であったり、結末であったり、そしてSFならではの哲学的な面もある、とても好みの短編でした。

    「母と子と渦を巡る冒険」はこれが一番小林泰三さんらしい作品かもしれないなあ。
    お母さんのためボロボロになりながらも宇宙空間をめぐり、情報を集める子ども。明るくユーモラスに(?)描かれるグロ描写ととぼけた雰囲気。そして結末のブラックさと、小林さんらしさにある意味満足しました(笑)

    表題作の「海を見る人」は時間の経過が異なる二つの世界の少年と少女を描いた恋愛もの。
    最後に老人が海を見続けている意味が分かると、切なさの中に一種の狂気的な部分も垣間見える、これも独特の短編だなあ。老人が見続けているものを想像するにつけ、残酷なようでいて、ある意味甘美なようにも思えて、気持ちがざわざわします。

    「門」は量子テレポートとそれを守ろうとする人と、破壊しようとする人々を描いた話。
    小さな宇宙船に艦隊が攻めてくるという、派手な書き出しから、艦長と語り手のいじらしい関係性に結末とこちらも面白かったです。

    世界観を全て理解しようとすると、相当ハードルは高い気がしますが、ぼんやりとでも雰囲気さえ掴めていれば、どの短編もその世界観ならではのドラマに、読み手を引っ張っていってくれる、そんな短編集だったと思います。

  • 細かい理論はわからないのでその部分は流し読みしてしまいました。
    理系とセンチメンタルが同居していて不思議な世界。
    「独裁者の掟」「キャッシュ」「門」が好みです。門はなんとなく、大姉そうだろうなとは思いました。
    独裁者にはびっくりしましたが、固定観念持ってた!というのに気付かされてそれにもびっくりしました。今まで独裁者に居なかっただけで、確かにこんなケースもこの先出てこないことはないと思われます。。


  • 彼にも駄作はあるが、これはお得意の謎サイエンス(謎の論理で納得させられてしまう)とホラーの融合が高いレベルで集まった大満足な作品集。
    表題作の叙情性には悔しさを覚えるばかり。

  • アイディアは秀逸なものが多いと思うんだけど、残念ながら、あんまり文章のうまい人じゃないようだ。あと、「門」はネタバレ。あの手の話はネタバレもしょうがないと思うので、それでも「うーん」とうならされてしまうようなヒネリがほしかった。(直球でした・・・)

  • デビュー作「玩具修理者」で小林泰三を知った私は、この本で彼の虜になった。ホラーとはあまりに作風の違う、ロマンチックなSF物語たち。切ない恋物語である表題作「海を見る人」を始め、この短編集で使われている理論は難しくて半分も理解できないが、ファンタジーとして読めば気にならない。表題作のほか、「独裁者の掟」や「門」「時計の中のレンズ」等々、この本に収められている短編はどれも大好きだ。今は図書館で借りて読んでいるが、いつか手元に置きたい。

  • ハードSF恋愛風味。
    ガチガチの世界観と冷徹な視線がいい。
    極限世界を生きる人間模様ととらえると面白い。
    トキメキやグロは控えめ。

  • SFは読み慣れないところもあって、作中の理論にはほとんどついていけなかった。
    ストーリー自体は小林泰三らしい。個人的には「独裁者の掟」と「キャッシュ」が好きだった。「独裁者の掟」は読み進めて総統の背景が分かってくると途端に無機質な人物だった総統の人間らしさが伝わってくる書き方がうまいなと思った。

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • 『娯楽』★★★★☆ 8
    【詩情】★★★★★ 15
    【整合】★★★★★ 15
    『意外』★★★★☆ 8
    「人物」★★★★☆ 4
    「可読」★★★☆☆ 3
    「作家」★★★★☆ 4
    【尖鋭】★★★★★ 15
    『奥行』★★★★☆ 8
    『印象』★★★★★ 10

    《総合》90 S-

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著者プロフィール

1962年京都府生まれ。大阪大学大学院修了。95年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、デビュー。98年「海を見る人」で第10回SFマガジン読者賞国内部門、2014年『アリス殺し』で啓文堂文芸書大賞受賞。その他、『大きな森の小さな密室』『密室・殺人』『肉食屋敷』『ウルトラマンF』『失われた過去と未来の犯罪』『人外サーカス』など著書多数。

「2023年 『人獣細工』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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