グラン・ヴァカンス: 廃園の天使1 (ハヤカワ文庫 JA ト 5-2 廃園の天使 1)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 1474
感想 : 138
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  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150308612

作品紹介・あらすじ

仮想リゾート"数値海岸"の一区画"夏の区界"。南欧の港町を模したそこでは、ゲストである人間の訪問が途絶えてから1000年、取り残されたAIたちが永遠に続く夏を過ごしていた。だが、それは突如として終焉のときを迎える。謎の存在"蜘蛛"の大群が、街のすべてを無化しはじめたのだ。わずかに生き残ったAIたちの、絶望にみちた一夜の攻防戦が幕を開ける-仮想と現実の闘争を描く『廃園の天使』シリーズ第1作。

感想・レビュー・書評

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  • 人間のゲストが訪れなくなってから1000年が経過した、仮想のリゾート空間「夏の区界」。
    そこに放置されたゲストを迎えるAI達は永遠に続く夏を過ごしていた。
    しかし世界を食べる“蜘蛛”の出現でその平穏は破られてしまう…。

    艶かしく非常に残酷な物語です。

    それでいて『夏』のイメージに相応しく、美しい。
    凄惨なシーンに眉をひそめながらも読む事をやめられなかったのはそのせいでしょう。

    ただ、この本で全ての謎が明かされるわけではない。少し間を置いて続編の短編集を読みたいと思う(続けては精神的にキツイ…)

  • 著者が水見稜の『マインド・イーター』の解説を記していたことから興味を持った次第。
    読了後はさながら這う這う(ほうほう)の体といったところで、これまでに読んだSF小説の中で最も衝撃を受けた一冊。

    AI(人工知能)が暮らす仮想空間が混迷の一途を辿る、という凄惨なストーリーでありながら、描かれ方がやけに甘美。随所に「人が物語を作ること・読むこと」への寓意やメタファー(隠喩)が織り込まれており、小説読みの一人として胸を貫かれる思いだった。

    展開の悲惨さゆえ星は四つに留めたが、ただのSF・娯楽では終わらない、本物の文学。
    文章自体は至って平易だが、この小説の真意をどれほど汲み取れたのかは不明。
    ※のちに星五つに変更

  • 仮想空間にあるリゾート「数値海岸」の一区画「夏の区界」を舞台とした群像劇。SFでありパニックホラーであり、幻想、ファンタジーであり…と様々な要素が組み合わさっているのに「とりあえず詰め込んでごっちゃ煮になってしまいました」的な崩壊は無い。美しく、残酷な物語である。
    蜘蛛の襲撃は災害的な恐ろしさがあるが、それに対抗するAI達のそれぞれの能力を生かした闘いは熱い。蜘蛛の襲撃、生き残ったAI達が立て篭もる鉱泉ホテルでの攻防戦、明かされていく過去と敵の目的…。絶望から一筋見えた希望、そしてまた絶望…。
    魅力的なAI達は人間に近すぎるが故に、蜘蛛による物理的な攻撃は勿論、蜘蛛の王ランゴーニにより精神的な弱みを突かれ崩壊していく様が痛ましく辛い。そして過去に区界に訪れていたゲストの醜悪さがもう…。
    第1作から既に満腹気味だが、ランゴーニがジョゼに見せた「天使」の正体は?大途絶は何故起きた?仮想空間に接続されていた・いなかった人間達はどうなった?シリーズの行き着く末が気になる

  • 8年ぶりに『グラン・ヴァカンス』読んだ。AIだけが取り残された仮想リゾートの設定、今読んでもそんなに古臭い感じがしないのはすごいなー。続編はいつか読めるんだろうか…

  • AIたちが終わりなき夏を過ごす仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」。ゲストとして訪れる人間をもてなすために構築されたこの世界には、もう1000年もゲストが訪れたことはなく、AIたちがルーチンのように夏の日々を過ごしている。
    そんな平穏にして停滞した世界に、ある日突然災厄が訪れる。世界を無効化するために現れた<蜘蛛>、それを操る謎の存在。AIではあるものの確個たる自我を持つ彼らは、自己の存在を死守するために蜘蛛との戦いに臨む。終わりなき夏のとある一日、絶望的な攻防戦が幕を開ける・・・

    飛浩隆作品は、これまで短編をいくつか読んでいますが、鴨的には正直なところ「何が描かれているのか/何を伝えたいのかよく判らない」という印象で、ハードルが高いなと思っておりました。が、この作品は非常にストレートに世界観に入っていくことができ、世界観の解像度が半端なかったです。長編向きの作風なんですかね。

    作品の冒頭では、AIたちが「暮らす」南仏の片田舎の港町風の素朴な生活が、淡々と描かれていきます。この過程において、AIが極めて人間的な「官能」の能力を持っていることに、鴨はまず違和感を覚えました(ここでいう「官能」は、いわゆる性的なそれだけではなく、五感を総合する広い概念を指します)。が、後半において、AIたちにそこまでの能力が付与されている理由が明らかにされます。
    「数値海岸」は、単なる仮想リゾートではなく、性的嗜虐趣味を持ったゲストの快楽を満たすために、AIたちが従順に苦痛を受け入れることを目的として構築された世界である、という真相。反吐が出そうなほどおぞましい描写が、延々と続きます。でも、AIたちは「そのために作られている」存在であり、粛々と受け入れるしかありません。どこにも逃げ場のない、絶望的な修羅の世界。そんな残酷な世界でも、彼らはそれを守らずにはいられない。

    語弊を恐れずに申し上げると、鴨は「村上春樹っぽいな」と思いました。
    極めて凄惨で残酷なことが描かれているのに、極めて静謐で美しい筆致。ロジカルに突き詰めるなら、突っ込みどころは満載です。でも、そんな突っ込みどころを圧倒的な力でねじ伏せるだけの美学が、この作品には感じ取れます。そんなところが、ちょっと村上春樹っぽいな、と。
    さっそくシリーズ2作目「ラギッド・ガール」を購入しました。この世界観がどのように展開するのか、楽しみにしています。

    • たまもひさん
      こんにちは。うんうん、そうねそうね!と激しく共感しながらレビューを読みました。「廃園の天使」シリーズはマイオールタイムベスト10に入るかなと...
      こんにちは。うんうん、そうねそうね!と激しく共感しながらレビューを読みました。「廃園の天使」シリーズはマイオールタイムベスト10に入るかなというくらい気に入っているのですが、よくわからない…と思う飛作品も結構あるのです。「象られた力」とか最近では「自生の夢」とか。
      でも「ラギッド・ガール」は強烈に良かったです。色彩豊かなのに静謐、という独特の世界にやられました。鴨さんの感想が楽しみです!
      2019/05/10
    • ま鴨さん
      をーたまもひさん、お久しぶりです!コメントありがとうございます。
      そうなんですよね、鴨的に初めて読んだ飛浩隆作品が「自生の夢」だったもんで...
      をーたまもひさん、お久しぶりです!コメントありがとうございます。
      そうなんですよね、鴨的に初めて読んだ飛浩隆作品が「自生の夢」だったもんで、「???」なイメージしかない作家だったんですが、「グラン・ヴァカンス」ですとんと腑に落ちた気がします。「ラギッド・ガール」楽しみです!
      2019/05/11
  • 構想から10年の歳月をかけて書かれたというSF大作。そして、そこでは「大途絶」から1千年後の「夏の区界」のヴァーチャル世界が実に緻密な筆致をもって描かれる。小説世界の基本構造は極めてシンプルである。ジュールと、ジュリー、ジョゼとアンヌがそれぞれの極をなしつつ、そのムーヴメントが作品の時間を形作っていく。この作品に内包されるもの、そしてここで描かれるものは、「時間」そのものの形象だ。そして、そのすべてを見通すことになる老ジュールこそは、まさにゲルマン神話の「さすらい人=ヴォータン」にほかならないのである。

  • 序盤のファンタジー風冒険譚から一転、中盤以降は「ここから先、酷いことが起きるよ」って看板が立ってる道をトロッコで下っていく感じ。言葉の選び方や描写の美しさが、酷さをより際立たせている。SF的な世界観、主要キャラクターたちのそれぞれが持つ論理も精緻に練られていて、善悪の二元論では括れない多層的な整合性を成立させながら描かれる神話的絶望と僅かな希望が心を圧し潰し、絡め取ろうとする。天使とは何か、ランゴーニの作戦とは、ジュールの旅路は、AIたちの運命は。続きはまだですか。早く読ませてください、飛さん!!

  • 文章力に飲み込まれそうだ。
    私自身が文章を味わうというよりも、書かれた言葉が私の内を蹂躙し、駆け抜けていくような気さえする。
    苦痛と悦楽の坩堝。
    それは正反対のようで、実はごく近いものなのかもしれない。

    濃密な読書体験だった。
    しかしこれは人を選ぶな。

  • 課題本読了。

    柔らかいのばっか読んでたから、久々に脳味噌に負担かかった。
    作中のキャラクターを描き方が、重いというか、ぐろぐろしている。
    海外SF的なイメージを持った。
    それぞれの用語について解説をせずに、とりあえず作中世界に突っ込ませるところとか。

    後半の防衛陣営が崩れていくシーンはシチュエーションだけ見れば俺好みなのに、共感できなかった。
    人間が内側から崩壊するけれども、それが伏線として描写されていないわけでもないし。
    相手側、敵側の正体が良く分からないからか。
    それとも絶望を感じる間が少ないからか。

    個人的評価高くないから続刊は読まないな。

  • 永遠の夏休みを演出する仮想空間。
    あるときを境にしてゲストがふつりと途絶えたその場所で、AIたちは 千年以上もの間、与えられた“役割”に縛りつけられていた。
    甘やかで、切なくも美しい日常。
    いつまでも続くかと思えたその世界は、突如として破壊と苦痛の嵐に呑み込まれる。

    とある小さな仮想空間が蹂躙されていく様子と、それに抵抗するAI達の姿を描いたSF作品。
    あくまでも甘く官能的な描写で彩られる絶望の鮮やかさには、読んでいて思わず眩暈を覚えるほど。

    目の前に映像として立ちあがるような細やかな情景。
    鋭敏さを増していく感覚のうねり。
    いなくなってもなおAIの行動原理を支配する人間の病性…。
    しだいに明らかになる世界の姿は、残酷なまでに歪んだ形で、完成されている。

    加速する狂気のなかで掴みだされたのは、イノセントな愛情。
    それはしかし、鈍い痛みだけを最後に残す。

    ***

    「この記憶が、俺を、拘束している。思い出の思い出が俺を呪縛する。」

    「きみの不幸はすべてきみを土壌に咲いている。」

    「あの人は劣等感とその裏返しのはったりでできている。その落差の中に純粋な優しさを保持している人だ。それはとてももろい優しさ。」

    「ここのAIは、みな同じ。まだ観たことのないものが、好き。好きなんだ。」

    「もともとは区界の制作者がデザインした感情だったにしても、それでもぼくらのかけがえのない真正な感情なのだ。」

    ***

    徹底してAIの視点を通すことによって、人間の身勝手な欲望のおぞましさを彫り出している。
    一方で、硝視体という不思議な物質から感じられる、あたたかな体温のようなものの“意味”を知ったときには、少しだけ救われたような気がする。

    少年の成長譚としてもSFとしても読み応えのあった作品。

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著者プロフィール

1960年島根県生まれ。島根大学卒。第1回三省堂SFストーリーコンテスト入選。『象られた力』で第26回日本SF大賞、『自生の夢』で第38回同賞を受賞。著書に『グラン・ヴァカンス』『ラギッド・ガール』。

「2019年 『自生の夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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