マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫 JA ウ 1-6)

著者 :
  • 早川書房
3.99
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本棚登録 : 982
感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (350ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150308711

作品紹介・あらすじ

ギャングの世代間抗争に端を発した拷問殺人の背後には、闇の軍属カトル・カールの存在があった。ボイルドらの熾烈な戦いと捜査により保護拘束されたナタリアの証言が明らかにしたのは、労組対立を利用して権力拡大を狙うオクトーバー一族の影だった。ついに牙を剥いた都市システムにより、一人また一人と命を落としていく09メンバーたち。そしてボイルドもまた、大いなる虚無へと加速しつつあった-暗黒と失墜の完結篇。

感想・レビュー・書評

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  • 3冊合わせて10時間ほどで読了。
     私はボイルドが大嫌いだ。力で叩き伏せ、潰して、その上を表情も無く踏み荒らしていく、ボイルドのやり方が大嫌いだった。バロットとウフコックとイースターが大好きだったから、彼女たちが苦しむ姿を見るのは本当に辛かった。だからスクランブルのクライマックスは胸がすっとしたし「やっと終わったんだ」と安堵のため息さえ漏らした。
     だから、ヴェロシティを手に取る事ができなかった。スクランブルを読み終えてからヴェロシティを手に取るまで3年もかかった。
     ヴェロシティはスクランブルより少し前の話、ボイルドがウフコックとパートナーだったときの話を描いている。そこにはスクランブルのような餓えた獣のように虚無を求めるボイルドはいなかった。愉快な仲間たちとチームを組み、時折笑みを浮かべることすらあった。ページをめくるたびに違和感と激しい拒絶があった。だって、あのボイルドが「笑ってる」んだから。衝撃的でもあり、興味深くもあった。何が彼を変えたのか、ページをめくる手は止まらなかった。
     話が進むうちに沢山の謎とおぞましい事件が発生する。09の面々は、チームを組んで、少しずつ謎に迫っていく。その中で起きる痛くて辛い結末。読むのも辛い凄惨な出来事。けれど、読まずにはいられなかった。ボイルドを理解するために。ボイルドの有用性を確かめるために。
     すべて読み終わってから、スクランブルのクライマックスを改めて読み直した。「やっと終わったんだ」と思った気持ちは変わらなかったけれど、それはボイルドの本心でもあると、分かった。

  • 最終巻。デストロイ。
    途中まで黒幕はクリストファーだと本気で思ってた(笑)
    徐々に減っていくメンバー、内部分裂。分かっているけどやっぱり切ない。
    なんと登場人物の8割死亡。

    スクランブルで語られた事件がここにきてやっと登場。
    ボイルドのことを、ずっと、自棄になってウフコックを濫用、勝手に自滅してなぜか敵サイドについたラスボス、みたいに思ってたのに守りたいもののために自分から破滅の道を選んで、記憶も心も消してって・・・格好よすぎだ!この作品でボイルドの印象が180度変わった。

    外堀を埋められて、完全に詰んだ状態で、それでもウフコック、残った09、ナタリアの願いを守るためにウフコックと別離したボイルド。
    自己犠牲度ハンパない。でも結局ボイルドが自分で選択した結果だったから悲しいけど納得できる終わり方だった。

    途中まで躊躇してたボイルドが、邪道を選んだ理由が、ウフコックをオセロットのようにしたくない、ってのがまた泣ける。自分的にバロットよりもボイルドとの関係性の方が好み。守りたいから遠ざけたって話に弱い。

  • また読み返したい。すばらしかった。

  • 全3巻まとめて感想。プロローグ100から始まってカウントダウン/エピローグ0へ。爆心地/グラウンド・ゼロ=約束の地。何かをそぎ落としたような文章。スラッシュとイコールの多用で慣れるまで読みにくい。前作「マルドゥック・スクランブル」より以前の話。ウフコックがボイルドと相棒であり友人だった頃。09法案の創立メンバーが二桁いた頃。そして失われていく過程。過酷。ネイルズファミリーとオクトーバーファミリーは家計図が欲しいところ。すべてを飲み込むには難解な背景。ていうかシザースの繁殖怖すぎ。エイリアンみたいだ(汗)。読み終わって直後は頭が混乱。後から次第にじわじわと効いてくるボディブロー。重たい。そしてまた、読み返したくなってくる。懸念していたイースターの体型は過酷な状況でダイエット成功。09メンバーのチームワークがとても良かった。信頼し合う仲間。それだけに後半が辛い。クルツとオセロットのあの場面とかもう!(泣)ボイルドが痛々しい。彼が最期まで正気であったことが。眠らせた良心で行ったことが。「スクランブル」の後に読んでいるのだから、ある程度の結末がわかっている状態なのだが、だからこそ、ゼロへ向かっていくことが辛い。「スクランブル」ではシザースもモンスター・ジュニアも出てこなかったと思うが、これはまた続編を期待してもいいのだろうか・・・。面白いっていうか、なんか凄かった。時々理解を置き去りにして読み進めたよ。「スクランブル」共々、再読つーか再チャレンジしたい。

  • 爆心地<グラウンド・ゼロ>へとひたすら失墜し続けるボイルドの物語。<br>
    「SHOOT」というかけ声から始まる悲劇。<br>
    一巻とは正反対に希望なんて全然詰まってません。<br>
    次々に命を落としていく09メンバーたち/追いつめられていく09。<br>
    ウフコックを守るためのボイルドの決断<br>
    そのためにウフコックを裏切り、虚無を受け入れることになろうとも戦うボイルド。<br>
    虚無への加速、臨界点の突破、そして…。<br><br>

    結末がスクランブルで既に示され、全てが予定調和の上で絶望へと加速していながらも、読む手を止める事が出来ず、クルツの一件以降は涙と共にページをめくるのみでした。<br><br>

    「スクランブル」を補完する話ではあるが、単独でも読め、且つただ埋め合わせるのではなく、むしろ引き立てるものとしてこれ以上のものはないでしょう。<br>
    「スクランブル」とは180°異なる一面を見せるボイルドを見るために、「スクランブル」→「ヴェロシティ」→「スクランブル」の順に読むのがオススメ。<br><br>
    <br>

    ウブカタ氏がインタビューで続きの構想を語っていたが、はたして続編は出るのか。<br>
    何年だろうと待つから是非刊行してほしいところ。

  • マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫JA)

  • マルドゥック・ヴェロシティ 3 (ハヤカワ文庫JA)

  • 著者:冲方丁(1977-、各務原市、小説家)

  • 2018/7 11冊目(2018年通算113冊目)。色々な事が明らかになり、その悲惨な現実に色々な意味で頭がパニックになりそう。ボイルドがダークサイドに堕ちていく過程は急だなとも思うが、ウフコックのことは袂を分けた後でも、一番のパートナーとして大切に思っているのだなということもい理解できた。この後の「~フラグメンツ」「~アノニマス」も引き続き読んでいきたいと思う。

  •  巨大な力を前に追い込まれていく09メンバー。そして、事件を終結させるためにボイルドが下した決断は…

     小説を読んでいて時々出会うのが、話の内容が今一つわからないのに、それでも引き込まれてしまう小説。自分的には『薔薇の名前』がそうだったのですが、この『マルドゥック・ヴェロシティ』も、そんな小説でした。

     権力者一族やギャングの家系の闇、財界や都市の政治の陰謀が渦巻く事件の様相は、09メンバーを狙う殺し屋一団の凶悪さと相まって、読めば読むほど闇が深くなってくるのがわかります。

     ただその分、ややこしくもあり、登場人物全員カタカナ名だったのも、ちょっときつかったかなあ。

     しかし、それでも読ませる上に、ボイルドの絶望と虚無が伝わってくるのがすごいところ。=や―、/を多用する文体(クランチ文体というらしいです)が、状況を報告しているようで、ボイルドの感情を失った感覚が伝わってくるということ。

     拷問を受けた死体の残虐さ、そして、底なし沼にはまっていくように終わりが見えない事件の深さが、分からないなりにも、読者である自分に伝わってきたからだと思います。

     ボイルドとウフコックの決別も印象的。この時点では、まだボイルドはウフコックだけでも、安全圏に逃がそうとする意志が見られた気がするのですが、その後の『マルドゥック・スクランブル』の感じだと、これから数年がたち、完全に虚無と暴力に飲み込まれてしまい、武器としてのウフコックを求めたということなのかなあ。

     それか失って改めて良心としての、ウフコックを求めたのか、改めてスクランブルを読み返したくなる作品でした。

     ボイルドとナタリアの話も切なかった…。スクランブルとはまた違った楽しみ方のできる作品だったと思います。

     あとがきで冲方さんが、この作品の執筆時のエピソードも書かれていましたが、なんというか…、改めて小説家(冲方さん)ってやばいなあ、と思いました(苦笑)

     文字通りマルドゥックシリーズに冲方さんは命を懸けてらっしゃいますね。

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著者プロフィール

1977年岐阜県生まれ。1996年『黒い季節』で角川スニーカー大賞金賞を受賞しデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で第24回日本SF大賞、2010年『天地明察』で第31回吉川英治文学新人賞、第7回本屋大賞、第4回舟橋聖一文学賞、第7回北東文学賞、2012年『光圀伝』で第3回山田風太郎賞を受賞。主な著書に『十二人の死にたい子どもたち』『戦の国』『剣樹抄』『麒麟児』『アクティベイター』などがある。

「2022年 『骨灰』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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