シュレディンガーのチョコパフェ (ハヤカワ文庫 JA ヤ 6-1)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309145

感想・レビュー・書評

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  • 数年前『神は沈黙せず』をタイトル買いしたのが著者との出会いだった。『MM9』『地球移動作戦』も読んだ。プレ・オタク世代の私には腰の引ける人物設定もあるが好きな作家の一人である。(作者紹介見たら年上でした!)全7編中『サイボーグ009』『エイトマン』へのオマージュとも言える「奥歯のスイッチを入れろ」がなかなか面白かった。30秒限定だが音速で動ける者同士が戦ったらどうなるかを克明に描いている。主旨は違うが、死が一瞬でないことを残酷なまでに描いたアンブローズ・ビアスの『アウル・クリーク橋の一事件』を思い出した。

  • 山本 弘 『シュレディンガーのチョコパフェ』
    (2008年1月・ハヤカワ文庫)
    キャラグッズの買い物につきあってくれる裕美子は、俺にとって最高の彼女。
    でも、今日のデートはどうにも気分が乗らない。
    久々に再会した旧友の科学者、溝呂木がこの世界の破壊を企んでいるらしいのだ──アキバ系恋愛に危機が迫る表題作、SFマガジン読者賞受賞の言語SF「メデューサの呪文」、孤独なサイボーグの見えざる激闘を描く「奥歯のスイッチを入れろ」ほか7篇を収録。
    『まだ見ぬ冬の悲しみも』改題文庫化。(早川書房HPより)

    2006年1月出版の『まだ見ぬ冬の悲しみも』に短編「七パーセントのテンムー」を加えて改題、文庫化。

    「シュレティンガーのチョコパフェ」
    原型は20年以上前に発表されたものらしいが、『MM9』でも物語の核となっていた「人間原理」を主題に、マッドサイエンティストのちょっとした発明で崩壊していく世界を描いた一篇。
    論理的には無茶だが、この人が書くと納得せざるをえない。
    量子の世界における不確定性原理を現実世界に当てはめることで、世界の存在そのものが揺らぎ始める。
    各個のアイデンティティを保つのに必要なのは自我ではなく他者への愛だとする理論に万歳三唱。
    しかしこの作品の理屈だと、やはり世界の中心には自分がいる、ってことなのか???

    「奥歯のスイッチを入れろ」
    いわゆる加速装置をハードSFの世界で描いた作品。
    不慮の事故によりアンドロイドとして生まれ変わった主人公が、ヒロインを守るために敵のSSS(ソニック・スピード・ソルジャー)と戦う。
    超音速で戦うと言っても、脳の処理速度も400倍なので、いろいろと不都合が多いらしい。
    重力、慣性、物質強度の影響を深く考察してあるのが興味深かった。
    若い頃に読んだ『ゾウの時間ネズミの時間』(本川達雄・中公新書)を思い出した。
    石ノ森章太郎先生が存命ならば感想を聞いてみたかった。

    「バイオシップ・ハンター」
    トカゲ型異性人イ・ムロッフ族のみが操縦できる生きた宇宙船「バイオシップ」。
    ある宙域で地球の船が正体不明のバイオシップ集団に襲撃される事件が頻発していた。
    イ・ムロッフ族の濡れ衣を晴らすために主人公は彼らの船に同乗してその謎を追う、という話。
    バイオシップの出自が解明されるくだりも白眉だが、異性人の目に映る地球人という種族という視点が非常に面白い。そこに示されるテーマは限りなく重い。

    「メデューサの呪文」
    たった8行の詩が地球人類を滅亡の危機に追い込む、というスゴイ話。
    惑星アルハムデュラーで地球の戦艦2隻が衝突大破し、一人を除いて乗員全員死亡する事故が起きる。
    その生き残った地球人の独白という形で、事故の真相とさらなる脅威が語られていく。
    アルハムデュラーに住むインチワームが作り上げた「言語文明」の設定が素晴らしい。
    彼らが紡ぎ出す言葉によって喚起されるイメージの渦の壮大な描写はさすが、である。

    「まだ見ぬ冬の悲しみを」
    CHLIDEX(クライデクス)という理論により始まった過去へのタイムトラベル。
    有人CHLIDEX実験の人類初の被験者を主人公にしてうまくまとめた一篇。
    未来へのバタフライ効果や並行世界の分岐は多く書かれているが、この考え方は初めて。
    時間遡行が孕む危険性が無限に拡大するのと裏腹に、物語は物悲しい結末へと収束していく。

    「七パーセントのテンムー」
    自我と形成する核と考えられている「意識」を、どうやら人類の7%は持っていないらしい。
    そんなトンデモ理論を軸に描かれるこれまたちょっぴり切なくなる一篇。
    意識が行動や情動を決定するのではなく、それ以外の脳機能が起こしたそれを追いかける形で認識しているにすぎない、とする理論はとても怖い。
    リチャード・ドーキンスとはまた違うのだろうが、生かされている、という恐怖は同質のように感じた。

    「闇からの衝動」
    実在のSF作家C・L・ムーアを主人公に、その時代の作品群に対するオマージュの形で描かれた作品。
    このタイプの話は洋の東西を問わず、また歴史だろうがSFだろうが無関係に好みである。
    出てくる作家たちと一人も知らないのでもうひとつ刺激が足りなかったのだが、ファンには堪らない一篇であったろう。


    文庫版の解説でも言及されているが、山本弘という作家はその作品世界において自らのアイディアを様々な形で作品世界に投影しているようだ。
    だからこそひとつの理論が少しずつ形を変えて何度もでてきているらしい。
    そうとなれば他の作品も読まねばなるまいて。

    またこの人の作品はその奇抜な設定もさることながら、そこに人が描かれているのが素晴らしい。
    個人の愛であったり、地球人類に対する愛であったりするが、本質は変わらないように思う。
    このあたりが山本弘という作家に魅かれる一因なのであろう。

    85点(100点満点)。

  • SF短編集。ラノベっぽい表紙に騙されちゃいけない。
    全ての物語が良質で、お勧めできる本だと思う。

    シュレディンガーのチョコパフェ/奥歯のスイッチを入れろ/バイオシップ・ハンター/メデューサの呪文/まだ見ぬ冬の悲しみも/七パーセントのテンムー/闇からの衝動

    AIや未知の生物がメインの話より、現代の科学をこねくり回したような作品が好きなので、シュレ~、奥歯~がお勧め。
    メデューサ~も良い。

  • 正直自分はSFというジャンルに詳しくないが、そんな自分をして本作はSF小説の入門としてちょうどいいのではないかと思った。まず短編集だから読みやすいうえに、世界崩壊やアンドロイド、宇宙人、タイムリープなど、各話とも違った方向性からSFを表現していて面白い。短編集は、短編の当たり外れがあるので良いイメージがなかったが、本作のように全部違って全部面白いと思ったのは初めてかもしれない。その中でも『七パーセントのテンムー』が一番好きだ。派手さはないが、日常の中の非日常のようでいて、哲学的なテーマも含まれているところが自分好みだ。
    著者があとがきで書いてある通り、筋の通った荒唐無稽な物語というところがSFの魅力だと改めて思わされた。どんでん返しものの作品で騙されることに喜びを覚えるのと同じように、SF作品ではこんなことも現実にありえるかもしれないと考えさせられることに快感を得ている。

  • シュレディンガーのチョコパフェ
    亜夢界 思い通りになる?
    奥歯のスイッチを入れろ
    ニューロドロイド 400倍の加速。思考も動作も ーーヒュン
    バイオシップ・ハンター
    生体宇宙船 鯨に飲まれたピノキオ?
    私が好きな異星人は、イ・ムロッフ
    メデューサの呪文
    呪いの言葉 気付かないうちに触れている?
    まだ見ぬ冬の悲しみも
    パラレルワールド、拡散と収束、時の流れ、
    過去へも拡散?
    七パーセントのテンムー
    脳のどこが好きを決めるのか、意思は?心は?
    闇からの衝動
    闇に在るものを呼び出してしまったら……

    ハッピーエンドに近いものにも、よくわからないまま怖さが残る。 でも読むのを止められない

  • 短編7本を収録しています。

    第1話「シュレディンガーのチョコパフェ」は、孤独な友人が開発した夢時空を生み出す装置によって崩壊していく世界で、アキバ系カップルの男女がたいせつなものをたしかめる話。第2話「奥歯のスイッチを入れろ」は、高速運動ができるニューロドロイドへと人体改造した男が、敵国のニューロドロイドから愛する女性を守る話。第3話「バイオシップ・ハンター」は、異星人イ・ムロッフがあやつる宇宙船「バイオシップ」に乗り込んだ人間が、普遍的な基準のない宇宙時代の善と悪の問題を突きつけられる話。第4話「メドゥーサの呪文」は、高次の言語文化を持つ異星人インチワームのもとを訪れた詩人の話。第5話「まだ見ぬ冬の悲しみも」は、世界初のタイム・トラベルをおこなうことになった主人公の話。第6話「七パーセントのテンムー」は、意識を司る脳の機能をもたない「天然無脳」(テンムー)の恋人を持つ女性作家が、愛について思い悩む話。第7話「闇からの衝動」は、家の地下室にひそんでいた異次元の触手生物に捕らわれた女性と、彼女の意識を引き継いだ触手生物の話。

    個人的には「メドゥーサの呪文」と「七パーセントのテンムー」がおもしろく読めました。「闇からの衝動」は、もはやSFというよりB級ホラー小説といった雰囲気で、著者はこういう小説も書くのかと驚かされました。

  •  詩人をよこせというのだ。
    詩人にだったら重大な秘密を打ち明けてもいいと言ってきた。
    しかもそれは、星間文明滅亡の原因に深く関わるものであるらしい。 


    という、山本弘の短編集。

    先進波発生装置で世界の消滅をたくらむマッドサイエンティストの表題作「シュレディンガーのチョコパフェ」

    時間圧縮装置を付けられたサイボーグの話「奥歯のスイッチを入れろ」

    異星人とともに、謎の海賊船を追っていく話「バイオシップハンター」

    文明消失の謎を解くため、超文明の末裔に出てこないかと話を聞きに行ったら詩人にしか話さないぞと言われた話「メデューサの呪文」

    情報だけやりとりしてエントロピーが変わらないからタイムトラベル出来るよ、という「まだ見ぬ冬の悲しみも」

    人類の7パーセントは哲学的ゾンビだった話「七パーセントのテンムー」

    実在の人物をなぜかクトゥルフ的ホラー話の主人公にしてしまった「闇からの衝動」

    以上7編。
    好きなのは「メデューサの呪文」かな。
    物質文明を捨てた種族というはなしは良くあるけど、その先が言語文明というのはなかなか面白い。
    言語兵器というガジェットもいくらでも広げられそうで楽しい。
    「呪法宇宙 カルシバの煉獄」というSFで、「感染」した敵の使う「呪文」を聞くとその人間も感染してしまう話がありました。
    宇宙中に広がってしまうかも知れない、という怖さがよく似てます。
    「象られた力」も通じるところがありますね。
    あと「食前絶後」の言葉とか。

    説教くさい、と解説でも言われているのはいつも通り。
    説教というよりは愚痴っぽい。
    このへんはやっぱりちょっと好きになれない山本弘っぽさです。
    主人公たちのおっさんくさい性格も今ひとつ好きになれないし、
    「天然無能」がスラング化して「テンムー」になるセンスも合わない感じ。

    でもそれでも読んでしまうSFとしての面白さがあるんです…。
    アンビバレンス。

  • 文庫化に際し『シュレンディンガーのチョコパフェ』と改題したことで『まだ見ぬ冬の悲しみも』より10倍は売れることだろう。手をのばしたくなるタイトル。

  • 「人としてどうかと思うがネタとして最高だ」的確だ
    基調が同じだけにアイデアを楽しめる短編のほうが面白かった

  • 17:山本さんのSFは見かけを裏切る(というと失礼ですが)ハードさと、そのハードさを感じさせない滑らかな地の文が大好きなのですが、物理がわからないためにSF的面白さをほどほどにしか味わえないのが残念。「ウィンクラーの夢事象理論」は知らなくても、読み進めるうちに概要がつかめてくる、そんな親切設計なのですが、やはり非SF者さんには勧めづらいかも。加速世界での死闘を描く「奥歯のスイッチを入れろ」や地球人とは価値観も概念も異なる異星人の生態系と交流(?)を描く「バイオシップ・ハンター」「メデューサの呪文」など、相互理解や時空を超えた不変のもの、揺るぎない感情についての短編集。タイムスリップあり、宇宙船ありとガジェット類も魅力的で、登場する異星人がどこか怪獣ぽいのも山本作品ならではかな、と思います。

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著者プロフィール

元神戸大学教授

「2023年 『民事訴訟法〔第4版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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