ラギッド・ガール―廃園の天使〈2〉 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 751
感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309831

作品紹介・あらすじ

人間の情報的似姿を官能素空間に送りこむという画期的な技術によって開設された仮想リゾート"数値海岸"。その技術的/精神的基盤には、直感像的全身感覚をもつ一人の醜い女の存在があった-"数値海岸"の開発秘話たる表題作、人間の訪問が途絶えた"大途絶"の真相を描く「魔述師」など全5篇を収録。『グラン・ヴァカンス』の数多の謎を明らかにし、現実と仮想の新たなる相克を準備する、待望のシリーズ第2章。

感想・レビュー・書評

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  • 前作グラン・ヴァカンスは終盤まで全体像が見えてこない話の展開に何度も挫折しかけ、正直あまり面白いとは思えなかったのですが、ラギッド・ガールを読み、やっと「廃園の天使」という作品の詳細が見えてきて「あれ?グラン・ヴァカンスってもしかして面白かったのか??」という気持ちになりました。今は読み返したくて仕方がないです。

    さて、本作ですがいずれの短編も単独で読み応えのある作品ばかりで、非常に面白い短編集でした。特に表題作からクローゼット、魔述師までの流れが素晴らしいですね。人間を仮想現実世界に送り込むまでの現実的な課題とその解決方法はリアリティに溢れており関心しましたし、そこから生じる課題(現実に及ぼす影響やAIの人格問題など)は、我々のいる現実世界が同じ場面に直面した際の議論に活かせるのではと感じるほどでした。20年以上前にこういった視点から問題を提起し、物語に落とし込んでいた飛先生は本当に素晴らしいSF作家ですね。

    また、表題作のラギッド・ガールは美醜やジェンダーの観点から見たSF作品として素晴らしい完成度を誇っているので、単体でも多くの読者の手にとって欲しいですね。自分の環境や年齢などによって捉え方が変わるかもしれないと感じたので、また時間をおいて再読したいと思います。

  • 前作「グラン・ヴァカンス」は評価を三にしようか四にしようか迷いましたが、今作を読んで四にして間違いなかったと感じました。

    前作で語られなかった部分が短編を読むごとに明らかになり、気持ちいいです。

  • SF。シリーズ2作目。
    〈数値海岸〉を舞台にした短編集。
    一言でいうと、やっぱりスゴイな…、という感じ。
    エロくて、グロくて、美しい。
    全体的に、前作よりも分かりやすかったかも(あくまで比較的)。
    もう1回『グラン・ヴァカンス』読みたくなる。
    「蜘蛛の王」がベスト。アクションシーンが多くて読みやすいが、SF的アイディアに溢れていて、とても楽しく読めた。

  • 前作「グラン・ヴァカンス」は、舞台となる仮想空間「数値海岸<コスタ・デル・ヌメロ>」の成り立ちやここに至るまでの経緯等がほとんど描かれておらず、謎が謎のまま幕を閉じる作品ですが、この「ラギッド・ガール」に収録されている作品群を読むと、その謎のかなりの部分が解明します。こちらを先に読んでも作品としては十分成立しますが、「グラン・ヴァカンス」を先に読んでおくことを絶対におススメ。物語の解像度が、相当異なってくると思います。

    人間が仮想空間を”体感”するために、計算資産をできるだけ食わないように実レベルで開発された画期的技術「情報的似姿」。「ラギッド・ガール」に収録されている作品の半分は、この「情報的似姿」開発の経緯と展開を、生身の人間社会でのひとつのできごととしてサスペンスフルに描写しています。
    「グラン・ヴァカンス」の登場人物たちは、全てAIでした。それと比べると、人間が主役の作品は平易で感情移入しやすいんだろうなぁ・・・なんて思いながら読み進めた鴨が浅はかでした(^_^;人間の登場人物たちの方が、数倍グロテスクで感情移入不能であるという、この驚き。特に、作品群のドライバーとなる阿形渓と杏奈・カスキの両女性キャラの異形ぶり、激烈ぶりといったら、正に夢に出そうなほどのユニークさ。特に杏奈・カスキは、作中では相当な美女であることが仄めかされているのに、読後のイメージは「気持ち悪い」の一言しか思い浮かびません。このキャラ設定、どこから想起されるんだろう。飛浩隆の想像力に脱帽。

    人間の情動をコピーしたともいえる「情報的似姿」とは、生身の人間本体とは切り離されて独自に仮想空間を動き回る存在であり、人間社会のモラルや規範に縛られない存在です。それ故に、コピー元の本人の意思とは関わりなく隠された欲望や衝動がストレートに表出されてしまう、その醜さを描くのが、この作品群のテーマの一つなのかもしれません。
    ・・・とか理屈臭いこと書いてますけど、そんなお利口な理屈をこねる作品ではないことは、鴨も肌感覚でよく判りますヽ( ´ー`)ノとにかくグロテスクで醜悪で破壊的な作品ばかりだけれど、でも、美しいんです。破壊し、分解し、浸食する、そのシーンひとつひとつの美しいこと、艶やかなこと、そしてセンシュアルなこと。細かいロジックを突き詰めていけば、突っ込みどころはたくさんあります。が、そんなことを気にしていては楽しめない世界観だと思います。

    キャラがぶっ飛び過ぎていて鴨的には☆5つまでには行かない感じですが、でも次作が出たら絶対買います!楽しみです!

  • 中短編集でありながら、どれもがっつり効く。作品間でのクロスオーバーが多く見られるのも楽しい。例えば硝視体<<<〈非の鳥〉、ミランダ≒著作人格、チョコレートの感触と香り≒父の指についたランゴーニの髪の匂い、など。人物関連もいっぱいあるけど省略。単純に父=安奈かと思ったけど、阿形渓でも面白いか。p.88、過剰な感情移入故の懊悩かと思いきや異常な嗜虐性向故の官能だった、というのをさらりと吐露する描写が安奈の静かな狂気を感じさせて一番怖かった。リアルと数値海岸が互いにどうなっていくのか、続きが気になる。

  • 長編よりも中小編の方がやはり切れ味が有ると改めて思いました。
    前作「グラン・ヴァカンス」の伏線を回収していく中編集。
    あちら側とこちら側の視点で描かれるどちらの世界も美しい文体で綴られ、
    最早中毒気味です…次回作が楽しみ過ぎます!
    「魔述師」「蜘蛛の王」辺りが個人的には好み。

  • グラン・ヴァカンスを読み終えてから、だいぶ時間をおいての読了。

    飛作品には、生と死が溢れている。
    生と死が、モザイク状に作品を形造っている。
    数えきれないほどの側面があるように見えても、生と死には実は境界はなくて、時には全く一続きのものにも見える。

    どのように生きるのか。
    自分の、どの欲望に沿って生きるのか。

    どのような死を選ぶのか。
    自分の、本当の欲望はどんな形なのか。

    そんなことを問われている気がした。

  • 『グラン・ヴァカンス』を読んだのはたぶん1年ぐらい前だけど、これは連続で読めば良かったなー。
    『グラン・ヴァカンス』を読んだときは、”数値海岸”、”夏の区界”…etcと一つ一つの単語からも感じる凄まじいこだわり、静謐ってこういうことだなと思わされる文章力からなる見事な世界の美しさに圧倒された。そして、それとは全く正反対とも思えるんだけどやはり美しい残酷な痛み・苦しみの表現、これも本当に凄かった。
    本書でも飛浩隆の書く世界の美しさというのは改めて感じ入った。が、それよりも彼の書く世界というのが”数値海岸”の中だけでなく、ちゃんと現実の理論があってフィクション(数値海岸)があるとまで練られているところが驚きだった。もちろん、この現実の理論もフィクションではあるのだが、まるで別世界か遠い未来でも見てきたんじゃないかと思えるほど虚構が理に敵っている。第三作が本当に楽しみです。

  • 前作の「グランヴァカンス」はSFというよりもどこかしら童話のような感じがした。

    何かとっても深い意味が隠れているなか物語が美しく残酷に進む。


    読んでいて正直理解できない場面も多々あったけれど何故か引き込まれる。

    「グランヴァカンス」はそういった印象だった。


    続編である「ラギットガール」はそのなんだか分からないけれど当たり前のように進められていた様々な事象や思いについての回収がなされている。


    前作は「仮想リゾート数値海岸」での出来事、つまりはAI側(仮想世界)からの物語。


    「ラギットガール」は5編の中編が収録されていてその中には現実世界の話もある。

    人間の訪問が途絶えた“大途絶”の真相を語った話もあるのでかなり真相に近づく事が出来る。

    一回読んで把握するのはちょっと難しかった。

    私の場合は現実世界での設定がかなかな理解できなかった。

    すべて腑に落ちるまではかなりの読み込みが必要だと思う。

     

    しかし読めば読むほどピースがハマるようになるのでやっぱり面白い。

    早く第三部が出ないかなぁ~と楽しみに待ってます。

  •  前作、グラン・ヴァカンスの続編。
    表題作はアンソロジーで先に読んでいたがいまいちピンとこなかった部分があった。だが前作のグラン・ヴァカンスを読んだあとではすっきりした。
    グラン・ヴァカンスの続き、別視点からの話なんだなと。あのVR世界の開発者や大途絶の原因の事件を描いている。

    いつもどおりの残酷な世界。思うにこのようなVR世界だと世界破滅ものが不自然ではない。んまあ現実世界以上に魅力的なものをもってこないと説得力がないが。
    箱庭世界で神として世界をコントロールしたい、徹底的に破壊したいのは人間としての業なのかと読後に考えた。
    VR技術として「似姿」という方法をもってくるのは非常にリアルだ。面白い。
    さて、三部作の最終巻はいつ出版されるのかなと……

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著者プロフィール

1960年島根県生まれ。島根大学卒。第1回三省堂SFストーリーコンテスト入選。『象られた力』で第26回日本SF大賞、『自生の夢』で第38回同賞を受賞。著書に『グラン・ヴァカンス』『ラギッド・ガール』。

「2019年 『自生の夢』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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