虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
4.13
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本棚登録 : 11543
レビュー : 1547
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309848

感想・レビュー・書評

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  • 凄い本を読んでしまったなという感想。小学生の読書感想文レベルだか、どうしてこんなアイデアが生まれ、それを一冊の本に纏められるのだろうか。

    内容が内容だけに万人受けはしないと思うが、誰しもがショックは受けることだろう。仮に映画化されたとしたら、確実に18禁である。

  •  昔、人間は「甘い」食べ物や「脂質」を多く含んだ食べ物には、なかなかありつけなかった。だから今、それがダイエットの天敵になろうとも、人間には深く刻まれていて、逆らえない。人間の身体が左右対称なのは、昔、魚として海を泳いでいたときの名残だ。男性が会話ですぐに結果を出そうとするのは、狩りをしていたから、女性が感情を確認し合うための会話をするのは、木の実を取っていたから。今の俺たち人間は、進化の過程に捕らわれている。最初からこの形で作られたのではなく、環境に合わせてその場その場で変わってきた。目標が最初からあったわけではない、眼球の作りはそれを教えてくれる。

     人間は進化の過程で、「美味しい」とともに「協調」を「利他的」行動を会得した。レミングは集団自殺をしない。そもそも遺伝子は種の保存など考えていない。生物は自らの遺伝子を残すために生きている。ライオンの雄が他の雄から群れを乗っ取ったときに、群れの(自律できない)子供を殺す。そうすると、群れの雌は新しい雄に対して発情する。妊娠中のネズミが臭いの嗅いだことのない雄に出会うと、流産する。インドでは結婚の当てがないカースト最上位の女の子を中絶する。それらは全て自らの遺伝子を残すため。可能な限り自分に近い遺伝子を残す。それが主題だ。――しかし、「コンドームには人類の英知が詰まっている」なんて俺は言っている。コンドームを使えると言うことは既に人間は、遺伝子の縛りから解き放されているということだ。

     さて、話がそれるというか、知識自慢なってしまうのが俺の感想文。本題に戻ろう。この小説の題名は「虐殺器官」、進化の過程で人間は「虐殺」を得て、フェロモンの代わりに「言葉」で「良心」をマスキングし伝播する、そういう器官のお話。ここで、フェロモンによって集団行動する生物の名でもあげられれば知識自慢に箔がつくというものだが、残念ながら思いつかなかった。そもそも、これは感想文である。知識を自慢する場ではない。感想を書こう。

     色々と書くことがあるような無いような感じだが、まずは「良心」について書いてみよう。良心が魂などとは関係なく、進化の過程で生まれたものだとする。なら、良心は「お菓子」を食べて「美味しい」と思うようなものではないか、「失敗した料理」を食べて「まずい」と思うように、「人」を殺して「罪悪感に襲われる」。それに「良心」やら「善悪」という名前をつけ、ご大層なモノとして扱われる。まずい料理は食べたくないし、人を殺したくはない。うん、わかりやすい理由だ。

     虐殺を悪とする、虐殺を否定する「良心」も進化で生まれたモノだとし、「虐殺」もまた進化の過程で生まれたとしたら、どちらかが間違っているというわけでもないのだろう。「良心」を肯定し「虐殺」を否定するなら、それぞれの価値を決め付けるというのなら、それこそが「言葉」だ。言葉には物事を祭り上げる機能も貶める機能もある、そもそも言葉がなければ「価値」という概念も生まれない。虐殺が悪だから、「虐殺は悪だ」という言葉が生まれるのか、「虐殺は悪だ」という言葉によって、虐殺は悪と定義されたのか。「良心」が祭り上げられるのは、祭り上げる価値があったからなのか、祭り上げられたから「良心」が価値を持ったのか。味の好みは味蕾の数によって決まる、味蕾の数は遺伝子によって決まる。善悪は言葉の情報によってきまる、言葉の情報はミームによって決まるのだろうか?

     虐殺の文法というものが無くとも、人は言葉によって「良心」をマスキングされる。ネットでよく見かける例は「正義」を振りかざし「叩く」人たちだ。「犯罪」とされるような行動を取った者は「悪」とされる。叩く者は正義になる。「犯罪」とは便利な「言葉」だ、犯罪の名がつけばそれは即ち「悪」とされる。深く考えなくて良い、「犯罪なら悪じゃないか」、と。それは思考停止を招く、扉を開けばもっと奥に部屋があるのに、「犯罪」と書いてある扉を見つければ、それで全てがわかったかのようにそこで立ち止まってしまう。それが言葉の力だ。

     ネットの言葉では「中二病」という言葉がある。それは恥ずかしいモノとされる。会話で「それって中二病だよね」との台詞が出ると、何かが解決したかのような気になり、その会話はそこで終了する。もっと深くつっこめばそれぞれのもっと違う部分に触れることが出来るのに、わかりやすい名前をつけて満足する。言葉には「物事をわかった気にさせる力」がある。「物事を決め付ける力」がある。「ニート」だと聞けば「やる気がないよね」と、「犯罪者」と聞けば「悪人だよね」で終わる。それぞれには一言では終わらない物語があるはずなのに、言葉は全てをひとまとめにする。それは虐殺である。一つの言葉生まれたことによって、他の言葉は滅ぼされた。

     「虐殺器官」、その物語の最後で、主人公は自らを見ていなかった母の瞳を知る。俺たち人間は「虐殺」の言葉だけを聞いて、現場の人たちを見ていない。「犯罪」の言葉だけを見て、その人を見つめていない。「ニート」で終わらせて、その人間を真に見てはいない。俺は物語を書く身だ。だから、一言で終わらさず、ひたすら文字を綴ろうじゃないか、「美味しい」とい単語を使わずに、料理の美味しさを表してこそ作家だ。犯罪者も「犯罪」を抜きにして、その人間を語ることができる。「虐殺」という言葉の奥に秘められている、美しさだってきっと書き出すことが出来る、そう、美しいという言葉を使わずとも、それを読者の心に刻み込める。そして、その情報はミームとして世界を渡るだろう。俺が死んだ後もずっと――。

  • 近未来が舞台のSF小説。
    先ごろ芥川賞作家円城塔氏が書き継ぎ完成させたことで話題になった「屍者の帝国」の作者伊藤計劃の第一長編小説である。

    小説を読んでいて鳥肌が立ったのははじめてだ。
    いや、喩えではではなくリアルに。
    緻密でありながら難解でなく、残酷でありながらエンターテイメント性も失っていない。
    すごい小説だ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「鳥肌が立ったのははじめてだ。」
      そうなんだ、、、読もうと思いつつ、エグそうなので迷っている。
      伊藤計劃は短いのとエッセイを幾つか読んでいる...
      「鳥肌が立ったのははじめてだ。」
      そうなんだ、、、読もうと思いつつ、エグそうなので迷っている。
      伊藤計劃は短いのとエッセイを幾つか読んでいるのですが、円城塔は全く、短編かエッセイを何か読んでからにしようと思っています。。。
      2013/03/26
    • aiさん
      確かに残酷なシーンは多いです。でも、読む価値はあると思います。胸に迫るものがあります。円城塔は芥川賞作品を読みましたが、私は眠くなりました。...
      確かに残酷なシーンは多いです。でも、読む価値はあると思います。胸に迫るものがあります。円城塔は芥川賞作品を読みましたが、私は眠くなりました。「屍者の帝国」は文庫になったら読みたいとは思っています。
      2013/04/02
  • 久々のSF。SF…だよね?外人が主人公だけど、登場人物がそんなに多く無いので、通常の海外作品のような「カタカナ名を覚えられない病」に苦しめられることなく読めます。暗殺部隊の話で血生臭い描写もありますが、グロいというほどでは無い。近未来における生と死の境界の話や、人が人を殺すことの生物学的な意味の話とか、作中で取り上げられている哲学はとても興味深かった。

  • 凄く面白かった。
    時代は、テロを防止する為に日常生活では常に認証が必要となった近未来。
    暗殺部隊にいる主人公は、虐殺が発生する国に常にいるジョンポールなる人物を追うが逃げられてばかりいた。そこで彼の恋人に接触するが逆に捕えられてしまう。ジョンポールから聞いた虐殺の真相は驚愕の内容だった。
    あらすじを書くと陳腐な内容になるが、人物やストーリーがとても良く書かれていてリアルに感じられ面白かった。登場人物は主人公、同僚のウィリアムズ、ジョンポール、彼の恋人ぐらいと少ない。ただ彼らと主人公の会話等がとても興味深い。中でもこの言葉が印象に残った。「自由はバランスの問題だ。純粋な、それ自体独立して存在する自由などありはしない。」
    作者が亡くなってしまったのが残念。

  • 東南アジア旅行の旅のお供に読んでいた。丸善で特に買うつもりもなかったのだけど、帯に惹かれて。で、読んだら、面白かった、という。スケールで言ったら、これは普通にハリウッドで映画化されて然るべきレベルにあると思う。他の作品も読みたい。というか、もう亡くなってしまっているというのは非常に残念だな、と素直に思う。(10/10/23)

  • ゼロ年代の傑作という割にはなんか80年代な単語がいっぱい。
    カフカ出てきて、「お、カフカの文学論だったり、生涯とからめて物語はすすむのか」と思いきやそんなこともなく、JGバラードが出てきたので、「お、バラード的終末論が語られるのか」というとそうでもなく、すべてがどーも薄っぺらい。(それも含めて80年代っぽい?)
    この小説の核となる「”言語”は進化によって獲得した”器官”である」についての説明もまったくピンと来ない。
    あと、うじうじと悩む主人公以外の人物描写も薄っぺらく、ジョン・ポールなんて人物がまったく見えてこないので「虐殺」への動機が非常に弱い。一人称語りの弱点が思いっきりですね。
    「生命維持装置を外したことで感じる母親殺しの罪悪感」って同じ思いをした者としてはなんだか違うんだよねえ。

    面白くなくはないけど、なんか思いっきり物足りない。

  • あんまりSFは読まないけど、これは凄い作品。
    世界観はメタルギアソリッド4のありとあらゆるものが管理されている情報社会に近い。
    個体の「認証」が無ければ何もできないし、個人情報をさらけ出すことを引き換えに安全を貰い受ける。
    メタルギア4が部分的に入ってきたりするからあの世界観や、今から地続きにな近未来に興味のある好きな人にはオススメ。
    近未来っていうとドラえもんの様な世界を僕は思い浮かべるけど、そんなステレオタイプの近未来じゃなくて現代から考えたの近未来という感じ。
    9.11後の世界というのをきちんと扱ってる作品に初めて出会ったので驚いた。

    考えさせられるテーマがいくつもある。
    あと、主人公にちょっと感情移入ができなかった。

    凄くて面白い小説だけど、著者が亡くなっているということがとても悲しい。
    巻末の解説が悲しい。

    普段は読んだ本を読み返すなんてことはしないけど、この本に限ってはそうならなさそう。

  • よく考えられた小説だなあと、読み終わってまずそう思った。
    未来の先端技術を駆使した戦闘シーンもさることながら、主人公クラヴィスとその周りの人々が、ときに論理的に、ときに哲学的に「戦争」や「政治」、「言語」について持論を披露するシーンが興味深い。
    ドンパチガッシャーン、で終わらない小説で、僕の中のSF観(それも読まず嫌いでまったくといっていいほど読んだことのない僕のSF観)を大きく覆されることになった。
    ジェノサイドもめちゃくちゃおもしろかったし、これからはSFにも手を広げていこうかと思う。

    • Yoshi_Navyfieldさん
      ものすごく繊細で、どこか虚しさの漂うストーリーは、ある意味SFっぽくないというか、SFの定義を覆された作品でしたね。
      読まず嫌いと言わず、コ...
      ものすごく繊細で、どこか虚しさの漂うストーリーは、ある意味SFっぽくないというか、SFの定義を覆された作品でしたね。
      読まず嫌いと言わず、コテコテの定番SFなんかもぜひ読んでみてください。
      2012/03/04
  • 9・11以降の戦場においてもヒトは変わらずヒトでいるのか。
    情報管理×バイオメトリクス×感覚制御といった高度テクノロジーの手を借りて、他人の命を絶つこと、虐殺に対して倫理的ノイズをきたさぬようヒトは最適化されていく。

    自分が見たいものだけ見る。
    自分が信じたいことだけ信じる。

    しかし主人公はけなげにも自問する。

    この殺意は、自分自身の殺意だろうか。

    幾度となく繰り返される母親の死に関する叙述。
    戦場で日々殺戮を全うしながらも、自責に駆られる一つの殺人。
    ナノレイヤーで姿を隠し、偽装IDで他人になりすますことが可能になったとき、ヒトはダレであるということができるのであろう?
    自ら背負った罪こそが主人公たちに許された自己承認の術だったのかもしれない。

    「地獄はここにあります。頭のなか、脳みそのなかに。大脳皮質の襞のパターンに。目の前の風景は地獄なんかじゃない。逃れられますからね。目を閉じればそれだけで消えるし、ぼくらはアメリカに帰って普通の生活に戻る。だけど、地獄からは逃れられない。だって、それはこの頭の中にあるんですからね」

    感想や日記といった膨大な記述は、情報空間であらゆる種類のライフログに収斂されうるやもしれないが、それは断じて一個の人間足りえない。
    そこには文字や画像といった情報しかなく、なんの影も形もない。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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