虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
4.13
  • (1756)
  • (1719)
  • (750)
  • (152)
  • (49)
本棚登録 : 11543
レビュー : 1547
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309848

感想・レビュー・書評

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  • 以前読んだ『ハーモニー』よりこちらを評価する。第一稿を10日で書き上げたそうだが、才気あふれる作品というのはそういうものかもしれないと納得した。

    以上で発言を終わろうと一旦思っていた。が、チラシ裏程度のことでも、自分のための読書メモだと考えて、自分が思った通りのことを書いておくことにする。

    この作品には大きな欠点がある。
    最初の賞の受賞を逃したのは、この作品を真に偉大な作品にするには物足りないその欠点が原因ではないかと推測する。

    まず・・・・最後まで物語を引っ張る原動力となるジョン・ポールが、あまりにも欧米の知識人「らしくない」こと。

    欧米の知識人は自己について言及する能力が豊かだ。言い換えれば「物語形成能力がある」。

    日本人よりはるかに抽象的な思索に富むし、自分の考えを語ることに慣れている。別の言い方をすれば言い訳がましい。それも立て板に水の名調子で語る。語る。紙面を埋め尽くすように語りまくる。ロシア文学の名作ならその本の三分の一くらいといっても大げさではない。

    この本の主人公は無神論者だが、無神論者であるならあるで、自分がなぜ無神論者であるか、欧米のフィクションに登場する「インテリ」なら聞かれてもないのに長広舌を奮うだろう。主人公より知的なジョン・ポールなら尚更。

    この作品はリアリティを無視してでも、物語を着地させるため、ジョン・ポールに数ページにわたって雄弁に語らせるべきだったのだ。

    さらに言うなら主人公も、最後の母親のエピソード・・・・主人公に「回心」とも言うべき衝撃を与えたに違いないエピソードで、もう少し慎み深さを捨て去るべきだった。

    終盤の主人公は、ある意味外国人が「理解できない」と困惑する日本人の典型を見ているよう。当然悪い意味でだ。

    どうも白人の、それもエリートという設定にしては、最重要人物が二人とも「らしく」なさすぎる。読んでいる最中に耐え難いと感じるほど。(彼らの行動に説明がない)


    この作品はプロットもアイデアも申し分なく素晴らしい。
    けれど人間をその人のプロフィール「らしく」描けていない。

    ほんのちょっとでもこの作品を強化するには、せめて主人公は日系アメリカ人でなくてはならなかったと思う。

    が、それは些末事だ。

    読者の関心は何よりジョン・ポールにあるのだから。

    ジョン・ポールが語るべきことを語っていないこと。これがこの作品の見過ごせない重大な瑕疵である。


    けれど逆にそのことによって、この本は違う重大な問題を照らし出してる。
    死の淵に立っても自分を語る言葉を持たない日本人という問題を。


    言葉が過ぎかもしれないが、今はそう思う。

  • 良かった点:
    ・技術面での充実した調査。特に材料系の調査は充実していたのではないか。
    ・ミリタリーものらしくない一人称語り。新鮮。
    ・虐殺器官という設定。興味深い。

    悪かった点:
    ・技術間の発展の格差。これだけ発達した材料系・生体系技術があるのに、自動翻訳やら生体探知器やらが存在しないのは考えにくく、近未来の発達に統一感がなく不自然。
    ・知識の陳列:カフカやらオーウェルやら、なるほど単語は多いがどれもがあまり肉付けに寄与しておらず散発的。「神は死んだ」の引用のくだりはニーチェの言うところとまるでずれているが、意図したのか調査不足か?
    ・心情が読めない:主人公の内省と行動が結びついていないように感じる。悪役しかり。虐殺器官の掘り下げがもっと欲しい。

    総評:
    設定は面白いのに、物語に当てる焦点のピントがずれていると感じた。

  • ゼロ年代の傑作という割にはなんか80年代な単語がいっぱい。
    カフカ出てきて、「お、カフカの文学論だったり、生涯とからめて物語はすすむのか」と思いきやそんなこともなく、JGバラードが出てきたので、「お、バラード的終末論が語られるのか」というとそうでもなく、すべてがどーも薄っぺらい。(それも含めて80年代っぽい?)
    この小説の核となる「”言語”は進化によって獲得した”器官”である」についての説明もまったくピンと来ない。
    あと、うじうじと悩む主人公以外の人物描写も薄っぺらく、ジョン・ポールなんて人物がまったく見えてこないので「虐殺」への動機が非常に弱い。一人称語りの弱点が思いっきりですね。
    「生命維持装置を外したことで感じる母親殺しの罪悪感」って同じ思いをした者としてはなんだか違うんだよねえ。

    面白くなくはないけど、なんか思いっきり物足りない。

  • うーん…。ゼロ年代SFは、 生きることに対する愛とか熱意をこそげ落としても なお有る気力、が面白いんだろうけれど、 その分悲哀も削られているようで物足りない気がした。 他の方の感想を見ると絶賛の嵐なので、 私の読み取りが足りないんだろうなあ、 とは思いましたですよ。 『ハーモニー』に入るかどうかはまだ思案中。

  • つまらん、とは言わないけど、かなり物足りない作品。
    せっかく面白い設定なのだから虐殺の言語についてもう少し説明すべきだと思う。
    虐殺を起こす張本人のジョン・ポールの動機にしてもこじつけ臭いし、それを受けての主人公の行動は随分矮小な感じがする。
    それから、主人公がアメリカ人なのに、言い回しや思考回路が日本人的に思える。

  • 『虐殺器官』ギャクサツキカン 伊藤計劃 イトウケイカク

    アメリカ情報軍  クラヴィス・シェパード大尉
    虐殺を扇動しているとされるアメリカ人 ジョン・ポール
    ジョン・ポールの元カノ ルツィア・シュクロウプ

    たいへん評価の高いSFなので読んでみたが
    哲学っぽい語りは、よく分かんない
    ちょっと好みでなかったかな
    長いわりになんか物足りないストーリーに感じた
    アニメ映画で公開されるらしいので
    映画の尺だったら面白いかな?

  • ジェノサイドとサイコパスを足して2で割ったような話。言うほどおもしろくなかったかな-

  • 初めに言葉があった。言葉によって成らなかったものはない。
    と、そんな一節を思い出した。

  • 戦争の中で遺伝子と良心について考えるという忙しい小説。設定は面白い。戦争の中で良心はどこにあるのか、罪と罰はどこにあるのか、選択はどこにあるのか、というようなことを扱っている。言いたいことが多いようで登場人物が十行単位でよく喋る。
    設定は面白いものの、全ての種明かしのはずのエピローグが短すぎるのが残念。虐殺文法とは何なのか、母の伝記の内容は何だったのか、主人公の行動の動機は何なのか、全てが曖昧で、具体的な情報がない。結局何の話だったのか、さっぱりわからない。突然主人公が抜け殻になって陰謀に暗躍すると言われても突拍子もない。長編小説にも関わらず、終わりだけショートショートというか、意味怖的な強引さがある。

    また、文体が苦手だ。漢字読みがなカタカナという言葉がいっぱい出てくる。機関名やデバイス名なら許せもするが、アメリカ人の台詞の中に「いきまっせ(ヒア・ウィー・ゴー)」「捕まえた(ガッチャ)」「そ(ヤップ)」とか出てきて、クッソ痛々しい。そんなに英語使わせたかったら英語で書けばよかったのに。なーにがガッチャや。ガッチャってなんや。百歩譲って英語併記なら辻褄合うけど、ガッチャってそれ日本人の耳にしか通用せんやないか。主人公アメリカ人で一人称の小説書いてるのに耳だけ日本人の耳ってどないやねん。
    wikiで知ったけどノイタミナでアニメ化するらしい。映像にした方がわかりやすい小説だと思うので、良かったと思う。そのときヤップはどうするんだろうwww

  • 最初、この人のハーモニーを読んでなかなか面白かったので同じSF枠の本作を読んでみるも、戦争ものという流れ、また、いまいち現実味がないというか調べ物的な知識が綴られているような描写、というところから挫折。

著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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