虐殺器官 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-1)

著者 :
  • 早川書房
4.12
  • (1860)
  • (1815)
  • (803)
  • (161)
  • (56)
本棚登録 : 12984
感想 : 1624
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  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150309848

作品紹介・あらすじ

9・11以降の、"テロとの戦い"は転機を迎えていた。先進諸国は徹底的な管理体制に移行してテロを一掃したが、後進諸国では内戦や大規模虐殺が急激に増加していた。米軍大尉クラヴィス・シェパードは、その混乱の陰に常に存在が囁かれる謎の男、ジョン・ポールを追ってチェコへと向かう…彼の目的とはいったいなにか?大量殺戮を引き起こす"虐殺の器官"とは?ゼロ年代最高のフィクション、ついに文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 勧められなければ手に取るジャンルではなかった。一部グロテスクな表現はあるものの、それほどではなく読み終えることができた。立場によって変わる正義。正義とは何かを改めて考えさせる作品だった。

  • 物騒なタイトルと繊細な心理描写。荒っぽい戦闘シーンと知性溢れるやり取り。
    ストーリーはもちろんだが、披露される知識や概念、考え方が非常に面白い。でも決して衒学的ではなく、その匙加減が素晴らしいと思います。

  • この人は頭かなり良いんじゃないかー。
    私の頭じゃ大変でした。
    近未来SF?近々ここに出てくる技術は確立してしまうような感覚になる。
    SFだが、自由、戦争、テロ、人間の思考など現実的に語られていて考えさせられる本。
    見聞きしたいものだけを選ぶのが人間で、他を知らんぷりか…確かにあるかも。

  •  タイトルの言葉に、ぐっと心が反応した人は、本書を読んで損はない、と思う。
     ここで指す「反応」には、もちろん拒否反応も含まれる。

     本の雑誌などで、かなり高い評価を受けていた伊藤計劃。
     本書を読んで、その理由がよく分かった。
     伊藤氏は、神林氏に匹敵する才能を持った作家さんだった。
     その早すぎる逝去は、ただ惜しいのひと言に尽きる。
     卓越した言語感に裏打ちされた骨太の物語を、もっともっと読んでみたかった。

     本書は、その残虐なシーンの数々に眉をひそめる向きもあろうかと思う。
     けれど、どこまでも静謐で淡々と綴られていく筆致の冴えは、その残虐さを限りなく薄めている。
     さらさらと流れる清流のように。残虐なシーンは流されていく。
     それは、モノクロの記録映画を観ている感覚に近い。

     作品としての完成度は、おそらく高くはないのだと思う。
     しかし、ここには歴とした「可能性」が煌めいている。
     兎にも角にも、ただただ惜しい。
     

  • 近未来(たぶん2020年代)、アメリカ軍 特殊暗殺部隊の主人公青年が、途上国で意図的に虐殺・内戦を引き起こす扇動者を暗殺する為に追う、SF&ミリタリー小説。

    殺人の描写が過激なところと、SFや兵器に関する用語が最初とっつきにくいのが難点だけど、とても深いテーマで考えさせられる小説。

    たぶん、SFには二種類あって、「非現実な世界観を堪能するエンターテインメント要素の強い小説」と、「未来に起こるかもしれない出来事を通し、現代社会の問題点を考えさせてくれる思考実験的な小説」があるのだと思うけど、この小説は圧倒的に後者。
    科学技術・医学が発達しても、現代の価値観・社会ルールのままだと、人類は不幸になってしまうよ、という問題提起をしてくれている。
    こういうのを「ディストピア小説」と言うのだろう。

    僕が感じたこの小説のテーマは、「戦争・内戦・テロ・虐殺は、なぜ完全には無くならないのか?」という命題。

    主人公は、虐殺扇動者と対峙していく中で、世界は全然平等では無くって、先進国の人達の幸福な生活は、途上国の人達の犠牲の上で成り立っているのだ、という「見て見ぬふり」をしてきたことに気付かされ、自身の仕事(暗殺部隊)の罪悪感にさいなまれて葛藤する。
    読者である僕らも、良く考えたら現代社会でも先進国が途上国から搾取する構図は同じ状況なのではないか、という気になってきて、虐殺扇動者の言い分こそが「不都合な真実」なのではないかとも思えて来るようになる。

    そんな風に、頭の中をグラグラさせられたい人にはおススメ。
    フィクションだからと言ってバカにしていられない問題提起がある。
    見ない方が、知らない方が、意識しない方が幸せなことなのかもしれないけれど。

  • まず冒頭からいきなりグロいのに、一人称視点のクラヴィスの語り口が冷静で淡々としているから読者である自分側もなんか冷静に受け入れられてしまうんだよなぁ。
    人を殺す描写を淡々と読めてしまう感覚にヤバいなこれ……って危惧を覚え始めたところで、クラヴィス含む特殊部隊の面々が洗脳に近い処置を施されてる具体的なシーンがあってなるほどな!って思った。構成の妙。
    たぶんしばらくは空想の中でしかあり得ないような未来の技術描写と「もしかしたら起こるかもしれない事件」の現実味がうまく地続きになってる世界観は、グロテスクで残酷なのに惹かれるものがある。

    物語の主軸になるキャラクターではないけど、ウィリアムズの存在がとてもこの小説のテーマ性を表してると思った。
    不都合な現実を積極的に「見てみぬふり」って、現代の日本人にも通じる考え方だよね。
    「人間は愚か」と思いつつ、自分も同じ立場だったら今の平穏を守るために同じ選択をするんだろうな……。

  • 初めましての作家さん。故人だったとは・・・
    SFって、苦手意識が強く働いてしまうので
    普段は避けているんだけれど、読んでみたら、
    頭の中に知らないうちに忍び込まれた様な
    やられた感に打ちのめされてしまいました。
    なんか、リアル過ぎて惚けてしまいました。
    アニメ映画化してるということなので、探してみましょ。

  • 「虐殺器官」のアイディアと、ラストの主人公の決意(決して良いとは言えませんが……)が、知的で新しい!
    ひどいこと言ってるのに、つい感心して納得。
    (つまり私には、器官にせよ紛争減少にせよ、この本の世界でこれ以上の方法を思いつけない)

    外国、しかも架空の設定なのに、ここで描かれる紛争や戦闘を日本の読者に他人事ではないと感じさせる力量も、素晴らしいです。

  • 近未来の混沌を描いたSF大作。
    主人公はアメリカ軍の特殊部隊員であるシェパード。
    軍事物のアクションが迫力があり、しっかり書かれているだけでなく、ストーリーと何よりそこで語られる哲学的問と最後に現れる皮肉的なラスト。
    意味深長で考えさせられることが多い良書でした。
    人の言葉・良心の本質について問いかけられました。

    ストーリーのあらましは近未来において、世界は安全で管理された先進国と残虐性が支配するカオスな後進国とに分かれていた。
    そんな世界の中で急激に大量虐殺を伴う内戦が頻発し、主人公を含む特殊部隊が虐殺の黒幕暗殺に奔走するが、その陰には常にある男がいた。。

    これだけの才能ある人物がすでに逝去されているのを悔やむばかりです。

  • 旧版。購入は2年以上前だが、無性にフィクションが読みたくなり、当初の予定を変更して読み始めたのが数日前。いやいや、これはもっと早く読んでおくべきだった。己の見る目の無さを激しく後悔。認証によって凡てが管理され、テロの猛威が過去のものとなった代償に様々な国で内戦が頻発するディストピア的世界。大量虐殺の陰に謎の男ジョン・ポール(元ネタはジョンジー?)の姿あり。要人暗殺のため、感情を脳医学的に調整される主人公の、装飾を抑えた冷静な視点。そんな主人公が真相を知り、採った最後の選択に打ち震える。思弁小説の大傑作。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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