ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 6874
レビュー : 939
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310196

感想・レビュー・書評

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  • ひさびさにSFを読んだ。
    SFだけじゃなくミステリーや哲学的な要素も含んでいて面白かった。

    21世紀初頭に発生した<大災禍>。
    それは全世界規模で不安が巻き起こり核爆弾を互いに打ちまくった大災禍。
    人類は社会の要素である価値観を植えつけた世界に移行し、健康であり争わない高度な医療経済社会を築いていた。

    高度な医療経済社会では、身体の状況や感情がすべてサーバーに送られ、悪い変化の兆しがあるとあらゆる処方箋を提示し実行できる支援をしてくれる。病気も肥満もない健康体。つまり身体の状態管理維持支援をフルアウトソーシングしている。

    みんな同じ肉体。みんな理想の肉体。
    体調変化に気を配る必要がない世界はスマートかもしれない。
    世界は進化するけど個は退化ですよね、やっぱり。

    この小説は「人ってなに?」を突きつけてくる。
    身体の状況をフルアウトソーシングすることを許容するならば、「意志」も第三者にアウトソーシングしてもいいのではないか?
    脳も身体の一部じゃないのか?と。

    争い、病気、自殺、不安をなくし進化させる世界を突き詰めた到達点にあるハーモニー(調和)とは...。

    たどり着くハーモニーな世界の仕組みは理論的に正しいのかもしれない。
    でも感情が正しいと理解しない。
    理論的に正しい、統制的な世界を望むのか。
    統制されていない理不尽な世界が遺る個の感情・意志のある世界を望むのか。

    統制的な世界に、個を認識できない、個を知らない世界に生まれてしまったら、それが世界でありとても生きやすい世界かもしれないですね。
    でも争いがあるからこそ、矛盾を抱えるからこそ進化するんじゃないかな。
    ハーモニーは計算されつくした世界だけじゃなく、ノイズからも生まれると思う。

    地球を滅ぼさないハーモニーを構築しつつ、ノイズを許容できる世界が訪れますように。


    著者が生き続けていたら読み応えのある作品にもっと出逢えたんだろう。
    残念です。

  • 世界観や設定が卓越して面白かった。だが私のような原始の感覚の至上主義者からすると氏の合理的すぎる思考には物足りないところがいくつもあった。そうであることに安心する。この作品は小説であるが、作中の事件が、ある意味では現代に起きてもおかしくない危うさを含んでいるからだ。故に、「氷でできた刃」のように美しく感じるのかもしれない。早逝が惜しまれる。

  • 近未来に対する設定がすごい。よく考え抜かれているなぁ。未来が舞台ながらたまに参照される古典や歴史の事実。人という種の定義やその限界。独特なタグ表記の意味。とても楽しめました。なんか、EVAの「人類補完計画」みたい。最後のシーンだけちょっと消化不良かなぁ。。

  • 近未来の大戦後に作られたユートピアの話。
    世界観は前作の虐殺器官に続いている。

    この作家は言葉の力をすごく信じている。
    前作はそのままだったけど今回もそれを節々に感じられた。

    人が病気を駆逐した世界ってどんなものなんだろう。
    いまいちピンとこない部分もあった。
    ひとつの病気が無くなったら、さらに違う病が出そうだけど。
    でも極端な世界観は読み手の想像が広がるなぁ。
    これがSFなのかな。

    実は本編よりも解説の方を読んでハッとしました。
    病室でこの作品を書くというのはどういう心境だったんだろう。
    想像すると改めて畏怖した。

    亡くなられているのを知りませでした。
    もっと伊藤計劃の読みたかった。
    もっとすごい作品がかけただろうに。
    残念です。

  • 伊藤計劃の傑作SFファンタジー。
    世界を滅ぼしかけた核戦争〈大災禍〉後に築かれた完全福祉社会に馴染めぬまま大人になった、嘗ての少女の視点から語られる、ユートピアにしてディストピアの物語。

    この手抜きし過ぎ感のある表紙は一体どうしちゃったわけ??そして作中でちょこちょこ挿入されてくるHTMLタグは一体何??と激しく疑問に思いつつ、どんどん読み進めていって最後のページに辿り着いた瞬間には「もうこの作者天才だろ!」と心の中で叫ばずにはいられなかった。

    確かに安全安心の理想郷かもしれないけれど、個々人の自由や可能性まで駆逐されてしまった社会は、人間が生きる意味を最初から失ってしまっているのも同じということなんだろう。それなら感情を手放してしまっても何の問題もないし、人類は幸福になれるのかもしれないけれど、想像するだに恐ろしい近未来。。。
    作者はほんとすごい、すごすぎる。34才という若さで早世されたことが悔やまれる。

  • SF。
    前作「虐殺器官」の続きにして伊藤計劃の遺作、になるのかな??
    虐殺器官の最後に訪れた世界の大混乱のあと、人類が平和と「人間というリソース」の重要性に気づき、世界は「生命主義」の時代に移行する。
    「生命主義」社会においては、隣人を愛せよ精神が世界のスタンダードになり、「善」が蔓延する。
    息苦しい「善」の空気に違和感を感じる女子高生3人がそれぞれの方法で「生命主義」社会にアクションを起こしていくストーリー。

    結果、人間が思考をやめ、論理的に導かれる自明の選択肢を遂行することしか世界に調和が訪れない、という答えが導き出されていくのは切ないなあ。
    また、今ある現実と、この小説で描かれる世界がそんなかけ離れていなくもない、というのが少々怖いところでした。

  • 「虐殺器官」があまりにもよかったので、すかさず購入。
    こんな世界を生きたくはないけれど、そんなに遠い話でもないような。実はよく理解できないところも結構あり、何だか勢いで読んでしまったが、もう一度じっくり読み直そう。

  • 若くして亡くなった伊藤計劃氏の事実上の遺作。

    直接的な言及は無いが、作中の時間的には氏のデビュー作である「虐殺器官」の後の時代を描いているとみられ、事実上の続編とも言える。

    世界的な大混乱「大災禍(メイルストローム)」で人口は激減し、壊滅的な打撃を受けた世界から既存の政治形態を持つ「政府」の機能はほぼ崩壊。

    健康こそが、最大の価値であり、生命の維持が社会の共有資産(リソース)であることが常識となっている社内。
    WatchMeと呼ばれる生体管理システムを体内に組み込み、「生府」と呼ばれる健康管理機能が統治の単位となる。

    国連の中でもWHOに当たる組織が最大の権力を持ち、医学が全ての産業の中心となる。

    人々はWatchMeやそれに依存する生活設計の様々なシステムにより、病気や苦痛を味わうことが殆ど無くなった。

    酒はもちろん、刺激物であるカフェインを含む珈琲ですら飲むことを憚られるような世界となった。

    霧慧トァン、御冷ミァハ、零下堂キアンはそんな世界を疑問に思う女子高生だが、とある事件で3人は死にかけ、ミァハだけが姿を消す。

    それから何年か経ってトァンはWHOの螺旋監察官となり、世界の紛争地帯の調停に当たっていたが、世界を揺るがす大事件に巻き込まれていく。



    ここでいう「ハーモニー」とは、皆が健康を維持し、親密であることを当たり前とする社会価値観が奇妙な社会的ハーモニーを生み出しているところに由来している。
    誰もがWatchMeが実現する健康システムに依存し、犯罪や病気の不安の無い生活を送っている。


    人類の全ての生活を統治し、管理するWatchMeや生府という考え方という意味では丁度今放送中のアニメ「PSYCHO PASS」のシビュラシステムに近いかもしれない。
    WatchMeは健康管理を外注化し、シビュラシステムは人々の犯罪傾向を外注化した。

    本来、人が自分自身の価値基準と責任感でやるべき事を、外部のシステムに依存させてしまう事が当たり前になった世界の違和感とそれがもたらす「自己の意思がどこまで何を判断すべきなのか」と言う事のあやふやさをどちらもうまく昇華して物語にしていると思う。

    本作品では最後、全く予想もしない結末を迎える。
    少し悲しい、そして色々と考えさせられる結末だった。

    作者の伊藤計劃氏はこの作品を発表して、まもなく亡くなってしまう。「虐殺器官」もそうだったが、彼の作品には常に「生と死」をリアルに、真剣に向き合っている事が分かる。

    限りある生に対して、彼のありったけの想いがこの作品に注ぎ込まれている。読み終わった後少し涙が出てきた。



    余談だが、この本を電子書籍版で読んだが、最初
    画面にいきなりXMLタグのような表示が出てきたので、
    「epubがデコードに失敗したのか?」
    と思ったが、そうではなかった。

    読みながら
    「何だかあちこちにXMLの属性タグみたいなのが入って読みにくい文章だなあ」
    と、思っていたのだが、実はこの表記ですら、ちゃんと意味があることが最後まで読むと分かる。XMLやHTML等のマークアップ記述言語の知識が無いと分かりづらいけど、この記述に意味があることが分かったときの衝撃はすごかった。

    この才能が既にこの世に居ないことが本当に残念。

  • 命はすべからくかけがえのない社会的リソースという意識に支配された世界のお話。そのおぞましさは、慈母のファシズムって言葉に集約される。

    問題を矮小化すると、宿題をやれと言われてやるのと、やろうと思ってやるときの違いというか、例え良いことで、結果が同じでも、選択の余地のない道徳世界は私もいやだなあ。同じ理由でこの話の結末も受け入れ難い。

    が、プロットはシンプルかつスマートで、ラストまでのテンションも申し分ない。
    緻密な世界観を立ち上がらせ、それをある種の諦念に支配されたメランコリックな文体と無機質なコーディングが装飾する、骨太なSFだったなー。

    虐殺器官とどっちが好きかと言われると悩むけど、不気味さとか世界の描き方は虐殺器官の方が好きで、登場人物のトァンとかミァハとか、ネーミングがどうなんだと思わないではないけど、ハーモニーの方が主人公は魅力的だった。
    思いやりに満ちたパステルカラーの社会の中で、真っ赤な制服に身を包んだクールな元女の子。死んじゃった親友のコピーでしかないのかと思いきや、なかなか自分がある感じで最後の方はかっこ良かった。

    最初戸惑ったのだけど、クエスチョンマークが使われないのが独特だった。問いかけ文は「…」で締められていて、問いかけというより呟きみたいで、反響しない言葉による孤独さが際立つ。

    個人的に、全書籍図書館のルビが「ボルヘス」と振ってあるのにグッときた。

  • なぜだか今だに最初のところのミァハがトァンの手の甲に口付けをするシーンが忘れられなくて印象的であった。
    これは映像化されたらすごくおもしろそうだし、自分でも読んでてシーンが浮かんでいた。未来にこういう事が起こりうるんだよな…

著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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