天冥の標Ⅴ: 羊と猿と百掬(ひゃっきく)の銀河 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-16)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 783
感想 : 97
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  • Amazon.co.jp ・本 (423ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310509

作品紹介・あらすじ

西暦2349年、小惑星パラス。地下の野菜農場を営む40代の農夫タック・ヴァンディは、調子の悪い環境制御装置、星間生鮮食品チェーンの進出、そして反抗期を迎えた一人娘ザリーカの扱いに思い悩む日々だった。そんな日常は、地球から来た学者アニーとの出会いで微妙に変化していくが-。その6000万年前、地球から遠く離れた惑星の海底に繁茂する原始サンゴ虫の中で、ふと何かの自我が覚醒した-急展開のシリーズ第5巻。

感想・レビュー・書評

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  • 汎天体動的共同体の主星パラスで野菜作りに励む貧しい農民タックは、町に出たがるやんちゃ娘ザリーカの扱いに悩んでいた。タックは海賊の過去を隠しており、ザリーカ飲み身の上にも秘密が…。そのザリーカが何者かに誘拐されてしまう。

    本作、タックとザリーカを巡る物語より、断章で語られるダダーの起源の物語がメインかな。

    ダダーの正体は、無から自発した寄生的被展開体(生得的・固定的な物理構成を持たず、生物の集合体に取り付いて、密かにその集合体の余剰リソースを食う存在)ノルルスカインだった。はるか昔、ある星に生息する原始サンゴ虫の群れやそれらと共生する熱帯魚の集合のうちに自然に宿った意識、これがノルルスカインの起源だった。やがてある異星人の情報機器に取り込まれ、情報空間上の存在となったノルルスカインは、同じく展開体でいたずらっ子のミスチフと出会う。やがてミスチフと離れたノルルスカインは、ウイルス投射法(「さまざまな生命形態に合わせたレトロウイルスを作り、自身の情報を遺伝子として書き込んで、氷隕石の容器に詰め、よその星へ向かって送り出す」)で自分の分身を増やし始めた。やがて再会したミスチフは、ツル植物から進化したオムニフロラに取り込まれてしまっていた。最強の拡散戦略を持つオムニフロラに呑み込まれないよう逃げながら抗い続けるノルルスカイン。ここに二つの巨大な存在の対立が始まる。

    「紀元前二千年にノルルスカインは地球に到達し、羊に感染してネットへ移って第三準位に展開してダダーとなった」。そして「オムニフロラが…天の川銀河系へ先回りしており、八千五百年前から木星で風力発電をしながら力を溜めていた」。話がやっと繋がった! この物語に通低しているのは、この巨大な二つの存在の対立なのだ。

  •  前作から数十年経っている。小惑星に住む農家の父娘の話。平凡な父娘と思いきや、父は元〇〇で、娘は△△の××。以前の巻とリンクしているんだ。
     そして、ダダーのノルルスカインの誕生から成長…が描かれる。

  • 際どいコースの変化球から一転、ど真ん中直球の巻。ついに謎の知性体「ノルルスカイン」の生い立ちが明かされる断章は、読み応えがあり過ぎて再読必至。とにかくその壮大なスケール感にただただ圧倒されるハードSF。ここまでの総括的な内容にもなっていて、幾重ものベールがやっと1枚剥がされた感じ。一方(本編)の宇宙農場を舞台にしたハートウォーミングな冒険譚と併せ、メリハリがとてもよく効いていると思った。ラストで新たな展開が予告され、次巻への期待も高まる。でもまだ全体の3分の1…。

  • 宇宙農家と知的生命体の話が交互に進む。
    多分ノルルスカインの話だけだと
    「読者、置いてけぼりになる」危険性があるためと思われる。
    前作に比べて、やや落ち着いてるけど
    農業を絡めてくるあたりと
    毎回登場していたアイツの正体がわかる。

    こんなに読む巻ごとに違った切り口で
    一つの話を束ねているシリーズがすごい。

  • シリーズの今までの中で一番好きかも!
    被展開体ノルルスカインとミスチフの話。
    著者の作品の「老ヴォールの惑星」大好きなので、異性体モノやった〜\(^o^)/という感じ。
    こういう生命体を考えるのも楽しいし、小難しくなくむしろ愉快に書いてくださるから、すごく嬉しいです。
    「ノルルスカイン、旅慣れる」にある、旅のアドヴァイスが面白い^_^

  • シリーズ5巻は宇宙農場の奮闘と、ダダーのノルルスカインの生誕と成長譚。面白かったです。
    実家が農家なので農夫タックの仕事の忙しさに身につまされながらも、プラスで年頃の娘さんがイシスのクローンということで苦労にしみじみしました。
    タックは元海賊で(しかもエルゴゾーン!)これまで奪ってきたから、娘さんと生み出す農業やってるのかなと思いました。レッドリートとか大農場ミールストーム社とか問題も山積みだけれど、明星よかった。。
    ノルルスカインの方は別ベクトルでとても面白かった。生命に意識が誕生して成長し、遠くまで移動していく。億単位の時間をかけて。。
    ダダー〈偽薬売り〉となったノルルスカインは何でもお見通しな絶対的強者だと思ってきたけれど、変な友人(?)ミスチフを取り込んだオムニフロラと大バトルを繰り広げながら太陽系まできてたんだなぁ。
    オムニフロラがドロテア・ワットだとすると強力で邪悪なのも頷ける。
    時系列整理しなきゃいけなくなってきた気がするけれど続きも楽しみです。6巻は上中下か。。。

  • 宇宙農家とノルルスカインの話。
    一巻から読んできたが、間が空いているので、
    全体の流れが、わかるような、わからないような。
     
    ここで敵の正体ミスチフがわかったのかな?
    もう一回読んだほうがいいかな。

  • 純朴そうな農夫とか羊飼いが活躍する話と、影の主人公ともいえる情報生命というべき存在の話が交互に出てくる。
    宇宙での農業の話とかちょっと地味なとこだけど結構そこが面白かった。
    1巻の役者は大分出そろった感があるけど、まだまだ大きな展開がありそうで、次が気になる。

  • 全10巻のSFシリーズ、ですが、各巻での話のつながりとほとんどなく、登場人物の薄いつながりがあるぐらいなので、どの巻から読んでもOK!と思います。SF好きなら読むは当然、好きでなくても、物語好きなら試してみてほしいシリーズです。今回は、ある惑星の一農民(用語は違えども、悩みはあまり私たちは変わらない)と、「ダダーのノルルスカイン」の物語が交互に語られます。特にノルルスカインの話が燃えた!!この、単位を見よ!という様がまさにSF。何かを超えていく様を目の当たりにできるのが、SFの特色であり、すばらしいですね!説明口調な地の分も、他の巻と違っていて面白かった。次は何を見せてくれるんだろう?

  • 「葉物は鮮度が命だからな」

    という天冥の標、第5巻。
    超スケール!ワイドスクリーン・バロック!(?)

    3,4は正直いまひとつだと思っていましたが、
    5は文句なく最高です!

    今回は、今から遡ること6000万年前、地球から遠く離れた惑星の海の中で「我あり!」と覚醒したノルルスカインの誕生から長い旅の話と、
    西暦2349年、アステロイドベルトの小惑星の一つで細々と農業を営む農夫タックヴァンディのお話。

    超銀河団規模の舞台とアステロイドベルトあたりでウロウロしてるお話が並行で語られるのが面白いですね。

    サンゴ虫(に似た生き物)を(人間でいう)ニューロンのひとつひとつのようにして
    そこから発生した意識、という地球外知性というのは斬新でわくわくしますよ。
    しかもサンゴたちそれぞれも自意識があるという。
    (他にも前例があるのかも知れないけれど、私は知らない。あったら凄く知りたい。)
    つまり、隣り合った細胞と細胞の化学反応から意識というものが現れているのなら
    隣り合ったサンゴ虫とサンゴ虫の相互反応の積み重ねから意識というものが生まれても不思議でないというネタです。

    小惑星農業のほうも、宇宙で農業するっていうのがどういうことなのか、興味深いことしきりです。
    アニーがアレだったあたりは、こう来るか~!と膝を叩いてしまう展開で大興奮。


    間に小ネタとして、「銀河ヒッチハイクガイド」ネタが挟まれています。
    スポンジが大変重要視されていてタオルがとっても貶められています。
    つい笑っちゃったけど、ちょっと強引じゃないかな~?

    5巻までの各巻を面白い順で並べると
    2>5>>>3>4、かな。
    1巻はまだ評価できません。巻が進むごとに1巻が面白くなっていきます。

    ところで、
    0.8光速で進むオムニフロラがボイドを渡るのに3000万年というのはずいぶん早い気がします。
    Wikipediaによるとボイドの直径は1億光年以上。
    真ん中を渡る必要はないけど、ボイドの端っこをちょっとショートカットしただけ?


    「ぼくは思ったよりもたくさん見てしまったから」
    「何を?」
    「人が、可憐に滅んでいくさまを」

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著者プロフィール

’75年岐阜県生まれ。’96年、河出智紀名義『まずは一報ポプラパレスより』でデビュー。’04年『第六大陸』で、’14年『コロロギ岳から木星トロヤへ』で星雲賞日本長編部門、’06年「漂った男」で、’11年「アリスマ王の愛した魔物」で星雲賞日本短編部門、’20年『天冥の標』で日本SF大賞を受賞。最新作は『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ2』。

「2022年 『ifの世界線  改変歴史SFアンソロジー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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