The Indifference Engine (ハヤカワ文庫 JA イ 7-3)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310608

作品紹介・あらすじ

ぼくは、ぼく自身の戦争をどう終わらせたらいいのだろう・・・
戦争が残した傷跡から回復できないアフリカの少年兵の姿を生々しく描き出した表題作をはじめ、
007シリーズに捧げたオマージュ、円城塔が書き継ぐことを公表した「屍者の帝国」冒頭部分など、
ゼロ年代最高の作家が短い活動期間に遺したフィクションを集成。

感想・レビュー・書評

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  • 伊藤計劃の短編やコミックの原作を務めた作品を集めた作品集。『虐殺器官』で描かれた戦争や悲劇に対する考察や、『ハーモニー』で描かれた意識、自由意志などそれぞれの作品に補完の関係があり、呼応している。「007」シリーズや「メタルギア」シリーズに対するオマージュの作品もあり、伊藤計劃の作品は自身の作品群の枠を拡張し、メディアの形式を超えて遺伝子が引き継がれているのだと感じた。

  • 伊藤計画さんの著作をよむとみんな格好つけた文章を書きたくなるんじゃないでしょうか。

  • 「意識とは何か、自我とは何か」
    という表題が作品を貫く。

    私たちが今現在認識している世界は意識が創造した夢にすぎないかもしれないのだ。


    円城塔が「死者の帝国」を引き継ぎ書き上げると宣言したが、
    私にとっては彼の難解な文体は少し苦手なので読みたいか微妙なところ。

    伊藤計劃の作品は、彼よりはやわらかめな文学的表現もしつつ、論理的哲学的に構築された表現もあり、文章を呑みこめるか呑みこめないかの絶妙なラインをついてくるところがよい。

    科学と哲学は表裏一体。SF作品を咀嚼しているとよく感じる。
    この2つの思想は記っても切り離すことができない。

  • "虐殺器官"ですっかり魅せられ、ハマってしまった伊藤計劃の読了二作目。これもまたすごかった。表題作は虐殺器官のミクロを描いているとも考えられる内容で、痛みはわかるけど痛くないマスキングのところで改めて思い出した。あとHeaven scapeでも冒頭の"後頭部にぱっくりとひらく紅い花"やナノマシンの描写は虐殺器官に通ずるものを感じた(ナノマシンは万物理論でも見かけた気がする??)。本書の後ろ三部は"私"というテーマでどこか繋がっているような感じがして、特に"from nothing, with love"は正直前半はわけが分からなくてなんだこれ。と思ったけど、終盤タイトルの意味が分かったときには息が止まりそうにびりびりきた。話のトリックとして面白かったのはもちろんだけど、この作での"意識"の捉え方や作品全般での人の頭の中については見えている景色が本当に違うと思う。数は少ない伊藤計劃全作に丁寧に触れたい。あと屍者の帝国もすごく惹かれた。

  • 引き寄せられるような疾走感と、たっぷりの皮肉と、途方もない退廃と、途轍もない喪失感。
    そういったものたちが、残されていった。
    その先がないことが、とても、寂しい。

  • 夭折の天才、伊藤計劃の遺稿を含む短編集。同人誌に掲載した試作や未完の作品が多く、「お試し」感の強いラインナップで、一読しての印象は「なんか中途半端だなー」というのが正直なところ。
    ただし、完結している作品ももちろん収録されてまして、この完成度が恐ろしく高いです。「虐殺器官」と同じ世界線にある表題作はもちろんのこと、鴨的には「From the Nothing, with Love」が衝撃的な出来。ぱっと見はあの世界的に有名なスパイ・アクション映画のパスティーシュで、なんでこの映画が題材なんだよ!と心の中で突っ込みながら読み進めたわけですが、これがちゃんとSFしていて、しかもいかにも伊藤計劃らしい深堀りした思索が静かに展開されていて、短編にも関わらずお腹いっぱいな読み応え。

    うーん、鴨の全く個人的な感触ですが、伊藤計劃は短編向きの作家だったんじゃないのかな、という気がします。
    長編は一通り読みました。スゴく面白かったんだけど、正直かなりリダンダントな印象を受けて、読後感は今ひとつでした。今にして思うと、鴨は伊藤計劃作品に「フツーのSF」を求め過ぎていたのかもしれません。先日師匠が初めて伊藤計劃作品を読んで、「村上春樹っぽいね」と評しておりました。正にその通りで、SFとして読む前に、この人の作品は「物語」なんでしょうね。歳を重ねて円熟した伊藤計劃がもし作品を世に出したら、どれほどの傑作になったんだろう、と今更ながらに思います。惜しい才能を無くしたなー。

  • 円城塔よりずいぶんストーリーテラーなんだなあと感じた。
    たとえて言うなら村上春樹のように固有名詞を頻発し、
    自らと同じもしくはそれ以上の知識水準を読み手にあからさまに要求してくる。
    これが固有名詞でなく専門用語だと円城塔に近いけれど、
    いずれにせよ円城と伊藤は作風においては似ていなかったんだなあということが、
    わかってよかった。

  • 「短編集」というよりは、これらの短編を経て発表された長編(『虐殺器官』『ハーモニー』『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』)に繋がる「習作集」といった印象を強く感じました。これから伊藤計劃という作家に触れてみよう。という人がまず最初に読む入門書というよりは、長編を読み、その上でハマった人が伊藤計劃を研究、またはより深い理解を得るために読む。そういった楽しみ方が、本書には合うかと思います。

  • 伊藤氏の短編を読むのは初めてなのですが、さすがに粒ぞろいの作品が揃っています。
    「虐殺器官」、「ハーモニー」のスピンアウトと呼べるような作品、ゲームの「メタル・ギア・ソリッド」に繋がるもの、「007シリーズ」を題材にしたもの、そして遺稿となった「屍者の帝国」のプロローグと、伊藤氏の作品の傾向が網羅的に理解できる構成になっています。
    円城塔氏が完成させた「屍者の帝国」もそうですが、伊藤氏の作品はいずれも「意識」とは何か?という問題意識に貫かれているように思います。
    「意識」とは何なのか?伊藤氏の作品を読みながら、そんなことをじっくり考えてみるのも良いかもしれません。

  • 表題作を含む、中短編集。過去に他媒体で既読のものもあるが、まとめて読めたのは良かった。全体の印象としては"習作集"。大作に取り組む前のデッサン画やスケッチのよう。ああ、この作品のココが『虐殺器官』へ、『ハーモニー』へ、そして『屍者の帝国』へ行くんだなと納得する。なお、"習作集"だからつまらんということではなし。

    中でも007シリーズの二次創作と言おうかオマージュと言おうか、その他英国モチーフ満載のフルカラー漫画(!)『女王陛下の所有物』と小説『From the Nothing, With Love』がめちゃくちゃ面白かったなぁ。飛浩隆の言を借りると、世に放たれる"呪詛"はこの作品でも同様だし……。よし、冒頭からちょっと引用--"そのうえでこう言わせて欲しい。私の魂に安らぎあれ、と"。なんという予言的で印象深い文章であることよ。

    それにしても伊藤計劃は根っからのエンターテイナーなのだなと思う。あれこれ重たいテーマを世界に突きつけながらも、それでいて同時にきっちりと楽しませてくる。『セカイ、蛮族、ぼく』のようなコミカルテイストの作品ももっと読んでみたかったな。

    『屍者の帝国』を書き継ぐと発表した円城塔の作品は、読むと天才の頭の中をこっそり覗き込んでいるような感覚になるが(私はそこが楽しい)、はてさてエンターテイナーが遺した『屍者の帝国』をどう料理するのだろうか。この二人の共作という『解説』がその試金石。どこが円城塔でどこが伊藤計劃か見分けてやろうと目論見ながら読むも、それは見事失敗したのであった(笑) 二人のエッセンスが見事溶けたスープ、ご馳走様でした。『屍者の帝国』がほんとに楽しみ。

    あーー『伊藤計劃記録:第弐位相』買おうかな……

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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