華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
4.04
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  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310851

作品紹介・あらすじ

ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は"魚舟"と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす-。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • ホットプルームと呼ばれる大規模な地殻変動によって、太平洋海底が大きく盛り上がり、その影響で海面が250メートル以上上昇、陸地の多くは水没した(リ・クリステイシャス)。本作は、"リ・クリテンシャス" と呼ばれる地殻変動から数百年後の変わり果てた地球の物語。

    陸地が足りなくなった人類は、DNAを改変して海上生活に適した種族(海上民)を生み出していた。海上民は、魚舟と呼ばれる海洋生物(サンショウウオのような生物)と一緒に生まれ、成長した魚舟は海上民の居住空間・移動手段となった。乗り手(一緒に生まれた海上民)を失った魚舟は、やがて人を食らう狂暴な怪獣("獣舟")へと変異し、大きな社会問題となっていた。

    海上民の多くは、陸上民が支配する国家に属さず(タグなし)、税金を払わずに貧しくも自給自足の自由な生活を謳歌していたが、深海性クラゲを媒介した致死性ウイルス〈病潮〉の被害を避けるには、陸上民が製造・管理するワクチンの定期接種が必要で、このワクチンは闇ルートで取引されていた。

    陸上民の国家(汎アジア連合)は、増えすぎたタグなし海上民の船団を海上強盗団と見なして虐殺する暴挙に出た。国際社会もそれを黙認。正義感溢れる日本の熱血外交官 青澄公使は、この暴挙を何とか阻止しようと奔走する。巨大なタグなし船団のオサ、ツキソメの体の秘密、そして、新たに判明した、人類滅亡に繋がる更なる天変地異の予測も絡んで…。

    魚舟や獣舟の設定があまりにも過激。まあでも天変地異後の世界の生物相は全く予想できないから、何でもありという気もするな。

    なお、青澄のパートは、青澄のアシスタント知性体(AI)マキの視点で語られていて、青澄を理解しサポートするマキの冷静だが愛情溢れるキャラがいい。こんなAIにサポートされたい!

  • 文庫版を手に入れて再読。
    目先の面白さじゃなくて、じっくり読ませてくれる壮大な物語。すぐに引き込まれた。

    地球の海面が上昇し、陸地が少なくなった未来。
    陸上民と海上民の間に起こるトラブルの仲介を担う外交官の青澄は、互いに利益を得られるように交渉するのが仕事だ。
    しかし彼が誠実に動こうとしても、現場ではない上の人間はメンツだとか手柄だとか自分たちの都合ばかりで、ほんと勝手なのだ。偉い人は話し方もなんかいやらしい、とか思ってしまう。
    そんな人間同士の腹を探り合うような会話の裏で、アシスタント知性体同士の穏やかなやりとりはなんだか和むなあ。

    環境や資源や人口増加など、事態は深刻になっていく。
    海上民を守るために青澄はどう動くのか。
    下巻も続けて読まなきゃ。

  • ポリネシア・ホットプルームの上昇によって、太平洋海底は地面の底から押され、その上にあった海水がすべて周辺へ流れ出した25世紀。人類文明を破壊し尽くす大規模な海面上昇は、次々と、世界中の平野と海抜の低い土地を飲み込み始める。最終的には260メートル近くなると予測された海面上昇は、人類の科学力で止められるものではなかった。
    〈リ・クリテイシャス〉
    海の広さが白亜紀(クリテイシャス)の頃の規模に戻ることから、この現象はそう名づけられたこの時代。
    地球規模の環境の激変に人類がとった行動。
    それは、地球上のあらゆる生物に、人為的に改変を加えることを容認すること。人類という種を生存させるために、ついに、科学技術に関する従来の倫理規定を捨てる決断をしたのだ。

    リ・クリテイシャス以降の人類にとって、地球環境は保全するものではなく、積極的に作り替えるものとなる。しかしながら、それは人類を追い詰めるものにもなる。環境を弄り、人間の都合のいいように作り替えた結果、予期せぬ副産物が生み出されたからだ。
    科学実験の末に生み出された、海上生活に適した身体を持つ海上民。旧来の人類である陸上民。日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねる青澄。彼らはそれぞれの立場で、その副産物である、ただ本能に従って生きているだけの生物と向かい合う。
    人間に害を為すものとしての生物との共存。
    それはとてつもなく難しい。

    そんな中、近い将来、人類滅亡と言っていいほどの危機が地球に訪れることが判明する。
    地球を変えられないなら、人間のほうを変える。人はまた、生き残るために身体改造への道を選ぶようである。だけど、それはもう人としての姿形だけでなく、感受性も考え方も、すべてがいまのままでいられなくなるということ。
    今の姿を保っているからこそ、人間だ、という価値観は、これからの時代、幻想に過ぎないとある研究者はいう。何もしないで亡びるというのも、生物の在り方として自然なのかもしれない。それでも、人間も生物である以上、生きる道を、簡単に捨ててはいけない、それが怪物のような姿となるにしても。

    世界の終わり。そのカウントダウンが始まる。
    それぞれの人類は、どういう道を選ぶのだろう。
    私ならどうする?
    あなたなら?

    「けっきょく、滅びしか待っていないのだとすれば、人類その生きる意味を、終局までの道程に見出すしかない」

  • 感想
    SFだから当たり前だが、人間も変容し、高度な人工知能と自然が融合した独特の世界観。天変地異が起こっても人はやはり、土地争いと戦争に明け暮れるのかと思うと少しウンザリしてしまう。

    人間が作り出したものに翻弄され、人間が歪み合う。人間のカルマのなれの果てを描いているよう。ありえるから怖い。

    終盤は細かい話から一気に壮大な話へ、人類に第二の危機が生じる。

    あらすじ
    近未来、海底が260m隆起して、人々は土地の奪い合いを始めた。それぞれが連合国を形成し、そのうちに陸上民と海上民に分かれて人は生活するようになった。

    青澄は陸上民で、海上民とのトラブルを解決する外交官だ。今回政府から、ツキソメという海上民を日本政府に帰属させ、税金を納めるように交渉せよとお達しがあった。一方のツキソメは、日本に帰属する気はないが、海上ステーションの建設により生まれる利益を納めても良いと言ってくる。青澄の交渉が始まる。

    海上民は魚舟と共に生活する。ツキソメは多くの魚舟を操れる結手だった。パートナーのいない魚舟は陸に上がって、餌を食い散らかす問題になっていた。

    細かい政府の縄張り争いにとどまらず、地底のマグマが大量に地表に噴き出す可能性が予測されたこれにより、噴火による直接の影響だけでなく、空が粉塵で覆われることにより、太陽光を得られず極寒の中、人類が滅亡する可能性が出てきた。

  • 前回読んだ上田早夕里「獣たちの海」で、すっかり「オーシャンクロニクル・シリーズ」のファンになってから約一年が経った。そこでシリーズを一気に読むことも考えたが、甘利にももったいないので、寝かせて寝かせて、ついに今年もあと僅かという時点で「華竜の宮」に着手した。読むにあたって、ハヤカワSFシリーズ Jコレクションか文庫版(上・下)かの選択に迫られたが、電車で読める文庫版を選んだ。また、上巻読了という中間地点か上下巻全部読んでから書評を書くかここでも迷ったが、上巻の記憶が薄れるかもしれないので、ここ中間時点で書くことにした。

    現在、日本が抱える二つの大きな不安要素は、地震とエネルギー危機。地震は単なる国土の被災だけではなく原発事故、汚染水・処理水へと被害が拡大・進展していく。エネルギー危機は、不安定な中東からの石油調達問題、石炭回帰による地球温暖化加速・海面上昇に直接繋がるとして国際社会からのバッシング、太陽光発電や風力エネルギー等の再生可能エネルギーは官民の汚職(三浦清志・瑠麗、秋本真利衆議院議員)等でなかなか大胆には進まない。オーシャンクロニクル・シリーズが始まった約15年前でも盛んに警鐘が鳴らされていたが、これらの諸問題は現在でもなお根本的な解決に至っていない。

    SFだからこそ災害に対して小手先だけの技術進歩で得られた様々な解決案を駆使して面白いストーリーを楽しめるが、本作品は人間自身の改造の範囲を超え、怪物に姿を変えることで生き延び、そして再度迫りくる災害に右往左往する。ここでも政治家というどうしようもない権力大好き人種が民を苦しめる。政治家は強くても弱くてもいけない。ひたすら民衆のために尽くすことが重要だが、そんな人間はほんの一握りしかいない。しかもその一握りというのは赤ちゃんの小さな手よりも小さい。これが人間の真の姿と判れば、人間は先んじて滅ぶべき存在なのだが、滅んでしまっては話にはならない。滅びたくないので、科学技術を駆使して、対話を極限まで尽くして足掻きまくる。その苦しむ姿を楽しむのがSF小説の読者、SF作家はどこで寸止めできるか力量が問われる。上田早夕里という作家は、そのボーダーラインを上手く表現できる作家である、だから面白い。緻密な科学技術背景が現状とはそれほどかけ離れていないのも、生々しくてストーリーを面白くさせている要因かもしれない。

    本シリーズも2冊目ともなれば、内容はするすると頭に入っていく。新たな問題を解決すべく奔走する登場人物の働きを予想しながら下巻を舐める様に読んでいきたい。

  • ホットプルームによる海底隆起で海面が250メートル以上上昇し、広大な海域が広がる世界。
    人々はわずかな土地で暮らす〈陸上民〉と、海上生活に適応し、居住する〈魚舟〉を自ら生み出せる〈海上民〉とに分かれて生きている。
    一度滅びかけても、陸上に残った陸上民はかつての国家の代わりに連合を作って、覇権争いが激しくてどっと疲れます。中心人物として描かれる青澄と、彼に関わる人たちがもがきながらもなんとかして陸上民も海上民も助けたい…となっているのが尊いです。気持ちの良い人たち。
    ツキソメも気高くて好きです。魚舟、いろいろなのがいてどんな感じなんだろう…サンショウウオっぽい魚のようですが大きいので。歌うのもいい。
    獣舟は怖い…けど海上民の想いもわかります。
    終盤で、今度こそ人類は絶滅する大災厄に地球は見舞われるという予測が立てられたので下巻もハラハラ読みます。

    青澄が記念パーティーの出席者について鬱陶しそうに「連中は己の下劣さに自覚がない。自覚がないから、際限なく下品な言葉を繰り出せるんだ」って言ったの、現実を思い出してしまいました。

  • とにかく壮大!
    日本SF大賞受賞作で、遠い未来の地球を舞台にした、人類の生き残りを賭けた物語です。人間って何なんだろう、生きる意味って何なんだろう、ということを(上巻にして既に)考えさせられます。

    冒頭のプロローグは2017年が舞台。この時点で豆腐は合成プロテイン製になるほど異常気象の影響が出ているのですが、本編の舞台はなんと25世紀。
    わずか数ページで4世紀飛ぶというこのダイナミズム。この間に地球は大きく変貌し、海底が隆起して多くの陸地は水没し、辛くも生き残った人類は陸上民と海上民に(見た目もライフスタイルも)分かれ、変わらないものはと言えば日本(まだあった!)の政治のドロドロ感とノロマさくらいのもの。この舞台装置にまずは驚かされます。
    そんな世界の中で、骨のある外交官がいたり、海上民の長や戦士がいたりの人間ドラマがあり、厳しいながらもそれなりに美しい世界の姿が描かれていくのですが、上巻の終わりにはとんでもない問題が明らかになります。

    世界の構築からストーリーの構築まで、これだけの話を良く描けるなぁと思ってしまうレベルで、登場人物も多いのですが話が散らかることなく、読ませる本だなぁと思います。本著の肝である地球科学的なくだりは少々難解ではありますが…。
    少しネガティブな感もありますが、これも有り得べき未来なのか。下巻が楽しみです。

  • 人類に壊滅的被害を与えたリ・クリティシャス後、海面が約250メートルも上がってしまった25世紀の地球が舞台。地球の地表の多くが海底に沈み、生き残った人間は、わずかに残った地表に暮らす陸上民と広大な海に暮らす海上民に分かれて暮らしていた。
    海上に住む海上民は海上での生活に身体を適応させており、彼らは人間の遺伝子操作により生み出された「魚舟」と呼ばれる生物を海の上で人間が生活する空間として利用していた。

    陸上民と海上民との対立やごく普通にAIを身体に埋め込んだ人間の生活、そして身体を遺伝子的に改造された海上民の魚舟での生活などが詳細に描かれており非常に面白い。将来あり得べき未来を今見てきたかのように描写されている。

    主要な登場人物は、海面上昇のため日本列島ではなく日本群島になってしまった日本政府の外交官の青澄誠司、海上民であり海上船団の女性オサで高齢であるも年を取らない謎の女性ツキソメ、そして海上民出身で異形の姿をした海上警備隊の隊長ツェン・タイフォンの三人を中心に話が進んでいく。

    本書は、海面上昇後の過酷な地球環境や病潮(やみしお)と呼ばれる謎の疫病との戦い、人間を補佐する知的生命体(AI)の利用状況など、科学的にもリアルに描写しながら、過酷な運命を生き抜く人間の生き様を描いた一級のエンターテイメント作品として楽しめる。

    ストーリーテリングも非常に巧妙で興味深い。物語の内容が非常に重厚でページ1枚1枚に込められた情報量が多いのでサクサク読めるという物語ではないが、ページを繰る満足感が非常に高い。

    このような過酷な状況の中、地球にさらなる危機が訪れ、全人類が絶滅する可能性が極めて高いとの研究結果が出される。
    人類に止める手立ては無く、宇宙へ人間を脱出させるような技術はすでに過去のものなり、今は無い。人類は座して死を待つだけなのか・・・。
    以下、下巻、期待度MAX。

  • 多くの陸地が水没した25世紀の世界を舞台とした海洋SF

    上田さんの作品を読んでまず思うのは、SFの世界観への引き込み方の巧さです。

    プロローグから第1章までの数十ページで、現代に近い世界がどのような歴史をたどって25世紀の陸地の水没した世界に変わっていくかまでが、きっちりと書き込まれています。なので話の本編が始まるころには、アシスタント知性体とともに過ごす陸上民の人々や危険と隣り合わせの生活を続ける海上民たちとその独特の文化の存在を無理なく受け入れられる下地が自分の中で作られている感じがします。

    登場人物たちも魅力あふれる人たちばかり。みんなそれぞれの信念を持ち、厳しい状況や現実に追い込まれつつも行動している様子が胸を打ちます。

    外交官の青澄大使の現状と政治的プレッシャーを読み取りつつ交渉を進めていく様子もとてもリアル。一見荒唐無稽に見える世界も細部の設定やその中での登場人物たちの行動がリアルなので疑問を持つこともなく世界観に引き込まれたまま読んでしまいました。

    個人的には同じ世界観を舞台にした短編『獣船・魚船』を読んでから、この話を読むのがベストだと思います。
    下巻も非常に楽しみ!

    第32回日本SF大賞

  • 地球規模の大災害の後、人工的に人類や他の生命体を作り変えて無理矢理凌ぐ…という発想は、原作版ナウシカを彷彿とさせる。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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