華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
4.02
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本棚登録 : 826
感想 : 70
  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150310851

作品紹介・あらすじ

ホットプルームによる海底隆起で多くの陸地が水没した25世紀。人類は未曾有の危機を辛くも乗り越えた。陸上民は僅かな土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は"魚舟"と呼ばれる生物船を駆り生活する。青澄誠司は日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねてきたが、この星が近い将来再度もたらす過酷な試練は、彼の理念とあらゆる生命の運命を根底から脅かす-。日本SF大賞受賞作、堂々文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 文庫版を手に入れて再読。
    目先の面白さじゃなくて、じっくり読ませてくれる壮大な物語。すぐに引き込まれた。

    地球の海面が上昇し、陸地が少なくなった未来。
    陸上民と海上民の間に起こるトラブルの仲介を担う外交官の青澄は、互いに利益を得られるように交渉するのが仕事だ。
    しかし彼が誠実に動こうとしても、現場ではない上の人間はメンツだとか手柄だとか自分たちの都合ばかりで、ほんと勝手なのだ。偉い人は話し方もなんかいやらしい、とか思ってしまう。
    そんな人間同士の腹を探り合うような会話の裏で、アシスタント知性体同士の穏やかなやりとりはなんだか和むなあ。

    環境や資源や人口増加など、事態は深刻になっていく。
    海上民を守るために青澄はどう動くのか。
    下巻も続けて読まなきゃ。

  • ポリネシア・ホットプルームの上昇によって、太平洋海底は地面の底から押され、その上にあった海水がすべて周辺へ流れ出した25世紀。人類文明を破壊し尽くす大規模な海面上昇は、次々と、世界中の平野と海抜の低い土地を飲み込み始める。最終的には260メートル近くなると予測された海面上昇は、人類の科学力で止められるものではなかった。
    〈リ・クリテイシャス〉
    海の広さが白亜紀(クリテイシャス)の頃の規模に戻ることから、この現象はそう名づけられたこの時代。
    地球規模の環境の激変に人類がとった行動。
    それは、地球上のあらゆる生物に、人為的に改変を加えることを容認すること。人類という種を生存させるために、ついに、科学技術に関する従来の倫理規定を捨てる決断をしたのだ。

    リ・クリテイシャス以降の人類にとって、地球環境は保全するものではなく、積極的に作り替えるものとなる。しかしながら、それは人類を追い詰めるものにもなる。環境を弄り、人間の都合のいいように作り替えた結果、予期せぬ副産物が生み出されたからだ。
    科学実験の末に生み出された、海上生活に適した身体を持つ海上民。旧来の人類である陸上民。日本の外交官として様々な組織と共存のため交渉を重ねる青澄。彼らはそれぞれの立場で、その副産物である、ただ本能に従って生きているだけの生物と向かい合う。
    人間に害を為すものとしての生物との共存。
    それはとてつもなく難しい。

    そんな中、近い将来、人類滅亡と言っていいほどの危機が地球に訪れることが判明する。
    地球を変えられないなら、人間のほうを変える。人はまた、生き残るために身体改造への道を選ぶようである。だけど、それはもう人としての姿形だけでなく、感受性も考え方も、すべてがいまのままでいられなくなるということ。
    今の姿を保っているからこそ、人間だ、という価値観は、これからの時代、幻想に過ぎないとある研究者はいう。何もしないで亡びるというのも、生物の在り方として自然なのかもしれない。それでも、人間も生物である以上、生きる道を、簡単に捨ててはいけない、それが怪物のような姿となるにしても。

    世界の終わり。そのカウントダウンが始まる。
    それぞれの人類は、どういう道を選ぶのだろう。
    私ならどうする?
    あなたなら?

    「けっきょく、滅びしか待っていないのだとすれば、人類その生きる意味を、終局までの道程に見出すしかない」

  • ホットプルームによる海底隆起で海面が250メートル以上上昇し、広大な海域が広がる世界。
    人々はわずかな土地で暮らす〈陸上民〉と、海上生活に適応し、居住する〈魚舟〉を自ら生み出せる〈海上民〉とに分かれて生きている。
    一度滅びかけても、陸上に残った陸上民はかつての国家の代わりに連合を作って、覇権争いが激しくてどっと疲れます。中心人物として描かれる青澄と、彼に関わる人たちがもがきながらもなんとかして陸上民も海上民も助けたい…となっているのが尊いです。気持ちの良い人たち。
    ツキソメも気高くて好きです。魚舟、いろいろなのがいてどんな感じなんだろう…サンショウウオっぽい魚のようですが大きいので。歌うのもいい。
    獣舟は怖い…けど海上民の想いもわかります。
    終盤で、今度こそ人類は絶滅する大災厄に地球は見舞われるという予測が立てられたので下巻もハラハラ読みます。

    青澄が記念パーティーの出席者について鬱陶しそうに「連中は己の下劣さに自覚がない。自覚がないから、際限なく下品な言葉を繰り出せるんだ」って言ったの、現実を思い出してしまいました。

  • とにかく壮大!
    日本SF大賞受賞作で、遠い未来の地球を舞台にした、人類の生き残りを賭けた物語です。人間って何なんだろう、生きる意味って何なんだろう、ということを(上巻にして既に)考えさせられます。

    冒頭のプロローグは2017年が舞台。この時点で豆腐は合成プロテイン製になるほど異常気象の影響が出ているのですが、本編の舞台はなんと25世紀。
    わずか数ページで4世紀飛ぶというこのダイナミズム。この間に地球は大きく変貌し、海底が隆起して多くの陸地は水没し、辛くも生き残った人類は陸上民と海上民に(見た目もライフスタイルも)分かれ、変わらないものはと言えば日本(まだあった!)の政治のドロドロ感とノロマさくらいのもの。この舞台装置にまずは驚かされます。
    そんな世界の中で、骨のある外交官がいたり、海上民の長や戦士がいたりの人間ドラマがあり、厳しいながらもそれなりに美しい世界の姿が描かれていくのですが、上巻の終わりにはとんでもない問題が明らかになります。

    世界の構築からストーリーの構築まで、これだけの話を良く描けるなぁと思ってしまうレベルで、登場人物も多いのですが話が散らかることなく、読ませる本だなぁと思います。本著の肝である地球科学的なくだりは少々難解ではありますが…。
    少しネガティブな感もありますが、これも有り得べき未来なのか。下巻が楽しみです。

  • 人類に壊滅的被害を与えたリ・クリティシャス後、海面が約250メートルも上がってしまった25世紀の地球が舞台。地球の地表の多くが海底に沈み、生き残った人間は、わずかに残った地表に暮らす陸上民と広大な海に暮らす海上民に分かれて暮らしていた。
    海上に住む海上民は海上での生活に身体を適応させており、彼らは人間の遺伝子操作により生み出された「魚舟」と呼ばれる生物を海の上で人間が生活する空間として利用していた。

    陸上民と海上民との対立やごく普通にAIを身体に埋め込んだ人間の生活、そして身体を遺伝子的に改造された海上民の魚舟での生活などが詳細に描かれており非常に面白い。将来あり得べき未来を今見てきたかのように描写されている。

    主要な登場人物は、海面上昇のため日本列島ではなく日本群島になってしまった日本政府の外交官の青澄誠司、海上民であり海上船団の女性オサで高齢であるも年を取らない謎の女性ツキソメ、そして海上民出身で異形の姿をした海上警備隊の隊長ツェン・タイフォンの三人を中心に話が進んでいく。

    本書は、海面上昇後の過酷な地球環境や病潮(やみしお)と呼ばれる謎の疫病との戦い、人間を補佐する知的生命体(AI)の利用状況など、科学的にもリアルに描写しながら、過酷な運命を生き抜く人間の生き様を描いた一級のエンターテイメント作品として楽しめる。

    ストーリーテリングも非常に巧妙で興味深い。物語の内容が非常に重厚でページ1枚1枚に込められた情報量が多いのでサクサク読めるという物語ではないが、ページを繰る満足感が非常に高い。

    このような過酷な状況の中、地球にさらなる危機が訪れ、全人類が絶滅する可能性が極めて高いとの研究結果が出される。
    人類に止める手立ては無く、宇宙へ人間を脱出させるような技術はすでに過去のものなり、今は無い。人類は座して死を待つだけなのか・・・。
    以下、下巻、期待度MAX。

  • 多くの陸地が水没した25世紀の世界を舞台とした海洋SF

    上田さんの作品を読んでまず思うのは、SFの世界観への引き込み方の巧さです。

    プロローグから第1章までの数十ページで、現代に近い世界がどのような歴史をたどって25世紀の陸地の水没した世界に変わっていくかまでが、きっちりと書き込まれています。なので話の本編が始まるころには、アシスタント知性体とともに過ごす陸上民の人々や危険と隣り合わせの生活を続ける海上民たちとその独特の文化の存在を無理なく受け入れられる下地が自分の中で作られている感じがします。

    登場人物たちも魅力あふれる人たちばかり。みんなそれぞれの信念を持ち、厳しい状況や現実に追い込まれつつも行動している様子が胸を打ちます。

    外交官の青澄大使の現状と政治的プレッシャーを読み取りつつ交渉を進めていく様子もとてもリアル。一見荒唐無稽に見える世界も細部の設定やその中での登場人物たちの行動がリアルなので疑問を持つこともなく世界観に引き込まれたまま読んでしまいました。

    個人的には同じ世界観を舞台にした短編『獣船・魚船』を読んでから、この話を読むのがベストだと思います。
    下巻も非常に楽しみ!

    第32回日本SF大賞

  • 祝文庫化!

    第32回(2011年) 日本SF大賞受賞

  • 上下一括感想
    下巻にて

    凄まじいほどのシミュレーション
    その全ては、「今」の延長…

    地球の息吹に対して、
    人間の科学の無力な事、
    ましてや、
    政治や経済活動の愚かさ。

    どうなる……これから……

  • 「深紅の碑文」とセットで読んだ方がよい。ただし、「深紅」ほうが内容がハード(グロい)の苦手な人は注意です。

  • 前情報なしで読み始めたので、最初は科学小説的なものかしらと思ったら突然の天変地異と殺戮知性体というメタルギアな世界。

    虐殺器官ばりの殺伐とした展開かと思いきや、いろんな意味で人間性と人類のあり方について考えさせられると同時に、青澄や桂大使、マキといった登場人物(?)が魅力的でシンプルに楽しめる作品でした。

    どういうラストにたどり着くんだろうと思いながら一気よ魅しましたがまあまあかなあという印象です。ツキソメの秘密あたりをもっと掘り下げてもよかったのかなーと個人的には思いましたがこれはこれで楽しめたのでよしとします。

    ちなみにストーリー初めの頃に、地震についていろいろふれられているのですが、被害について、全く津波について触れられていないのがいまの時代には却って不自然な気がするのが、自分としてはちょっと感慨深かったです(あとがきにこの作品が東日本大震災前に書かれたことと、作者ご本人が阪神大震災で家族を喪ったことが添えられています)。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「メタルギアな世界。」
      そうなんだ、、、上田早夕里はスケールの大きな話を書かれるので、割と気に入っているのですが此れは未読。。。早く読まな...
      「メタルギアな世界。」
      そうなんだ、、、上田早夕里はスケールの大きな話を書かれるので、割と気に入っているのですが此れは未読。。。早く読まなきゃ!
      2014/04/25
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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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