ルーティーン 篠田節子SF短篇 (ハヤカワ文庫JA)

  • 早川書房 (2013年12月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (445ページ) / ISBN・EAN: 9784150311421

作品紹介・あらすじ

ジャンルを越境し多岐に亘るテーマを描き続けるベテランによるSF作品の最高峰を精選

感想・レビュー・書評

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  • 『斉藤家の核弾頭』しか読んだことが無いのだが、つとに評価の高い作家であることは認識していて、今回SF短篇集ということで読んでみた。傑作選ということもあり非常に面白かった。
    「小羊」 オーソドックスな管理社会を描いたSFという側面もあるが、管理される側の心理の揺らぎが終盤スリリングな展開になる。管理社会の問題を管理され続けた側の心理の難しさの側からも描いているのが現代的。
    「世紀頭の病」 女性と男性がそれぞれ別のパターンの症状になる病気が流行して一変した社会を描くコメディ。同様のテーマのSFによくある展開を予想させつつ軽やかに裏切って新たな世界を見せてくれる手つきが心憎い。
    「コヨーテは月に落ちる」 真面目一筋で働いて来た中年女性に訪れた予期せぬ転勤話。呆然とする彼女の前に現れるコヨーテ。都心の無機的な風景とコヨーテというコントラストが非常に美しい。好きな一篇。
    「緋の襦袢」 結婚詐欺を働いた過去を反省することもない嫌われ者の老女の住居探しをするはめになった人の良いケースワーカー。破格に安いわけあり物件を下見したところ…。コミカルホラーというか落語の様な話で、全く芸域の広い作家である。
    「恨み祓い師」 老朽化した貸家に住み続ける母娘。これもホラーにあたるがこちらはオカルト探偵もので、母娘のグロテスクな描写が冴えている。
    「ソリスト」 いつ演奏を聴けるか分からない気まぐれな天才ピアニストを舞台に迎えることが出来た主人公。その時現れたのは。これは音楽ホラーかな。音楽をテーマにした小説は多々あれど、小説から音が響きだす様な小説は少ない。SF系の作家ではスタージョンのジャズ小説や飛浩隆「デュオ」がそれに当たるが、この小説もそれに並ぶもので、鳥肌が立つような美しくも怖ろしい音楽が奏でられる。傑作。
    「沼うつぼ」 絶滅寸前、食べると他に比べることのできない味わいを持つという沼うつぼ。最後の一匹なら是非食したいという作家にTV番組スタッフが加わって…。一種のUMAものだろうか。見捨てられた漁師町の男が重しになって、ドタバタ劇に物悲しい風味が加えられていてこれまた傑作。
    「まれびとの季節」 松脂が取れることが特長という貧しい島。特有のしきたりによる信仰を七百年続けていた。ある時、外から宗教改革を進めるカリスマがやってくる。宗教がテーマというより、新たなシステムが導入される軋轢についての話として読める。新旧どちらの問題も両義的に書かれている印象があり、どの作品もその絶妙なバランスにより実に奥深い世界が提示されている。
    「人格再編」 下降線を描く日本社会の行く末に偏屈になった老人の人格を矯正する技術が導入されることになった。基本コメディタッチなのだが、この技術導入の経緯がやむを得ない感満載で苦笑せざるを得ない。どんなに良心的に物事を準備しても成る様にしかならない人類のしょうもない姿が見事に描かれている。
    「ルーティーン」 妻も子もある平和な家庭を持つ主人公がふとしたきっかけで日常生活から逸脱してしまう、という話なんだけど、そのよくある話が斜め上の展開に。テーマとしては「コヨーテ~」に共通するものがあるが、あちらは幻想美、こちらはややコミカルなシュールと全く色の違う話になっていて、著者の変幻自在の語りに唸らされる。
    柴野拓美によるSFの定義「人間理性の産物が人間理性を離れて自走することを意識した文学」を思い浮かべた。ホラーっぽいものは少々違うものあるが、多くの作品に人間の作り上げたものが自走する(「まれびとの季節」では宗教だがこれも人間理性の産物だろう)要素が含まれていて、SFの特質を深く理解していることが感じられるし、何よりもそのしなやかでしたたかな筆致でモチーフ、ジャンルいずれにおいても幅の広い作品を物に出来る素晴らしい作家であることを実感した。

  •  篠田節子の長編は何冊か読んでますが、短編集は初めて読みました。しかもSFベスト集ということで、期待は高まります。
    装丁も最近のハヤカワらしく、かっこいいです。
    作品はどれも面白かったです。
    篠田節子らしく、現実をうまく盛り込んだストーリーは切実感があり、ぐいぐい読ませてくれます。
    また、すべての短編に共通するのは、汚い、醜いものも、それはすべてこの世にあって受け入れなければならない、意味があるものだというテーマが感じられます。不幸・老い・排泄物そんなものですら何か意味があるのかもしれない…というような。
    それと篠田節子という小説家はジャンル不明というか、様々な作品を書いてますが、この短篇集でもSFというジャンルですが、ミステリ風だったりホラーっぽくあったり、多彩です。
    最後には作者のインタビューや編者の解説もあり、篠田節子の好きな短編の傾向も知ることができます。どうも小松左京がお好きらしく、なんとなく雰囲気は似てるような気もします。
    ただ、篠田節子の方が女性らしく生々しかったり女性独特の冷静さがある点が、もしかすると読み手を選ぶかもしれません。

  • ソリストを推したい

  • 最初の「子羊」でカズオイシグロやっぱすげえ、と。同じ内容であれだけ引っ張り、読ませて感情移入させるのは、すごいな、と。表題の「ルーティーン」がゾッとしたかも。逃げたのに、元の場所に絡め取られる恐怖なのだと思ったよ。お金のために働いてると自由になりたい!と確かに思うけど、しがらみに絡め取られて最後は戻ってしまう自分の弱さよ。 90

  • 人って何だろう?とか、人生って?とか考えてしまう短篇が集まってます。

  • 突如『SFの短編集が読みたい!』と思い立ち購入。篠田節子さん初読みだが、出版社の垣根を超え、著作の中から【SF】とカテゴライズされる短編をかき集めたベスト盤とのこと。正にSF!もあれば、これってSF…?と首を傾げるものもあり、改めて【SF】の広義の意味を考えさせられる。介護問題がテーマの「人格再編」が最も衝撃的。気が重くなるリアルさと手術後のユーモラスさが混ざり合い、最終的に『老い』の意味を説く着地点には思わず唸ってしまう。サラリーマンの私には「コヨーテは月に落ちる」も表題作も諸々共感できてしまうのだ…。

  • 短編集。SF。ホラー。サスペンス。
    著者の本は『はぐれ猿は熱帯雨林の夢を見るか?』に続き2冊目。
    ハッキリと言って合わない。文章かな〜?
    個人的にSFとは思えない作品が多くて、イメージと違っていた。
    そのなかで「世紀頭の病」は、ブラックなオチが光るパンデミックSFとして楽しめた。

  • 篠田節子は本当に面白い。どれを読んでも面白い。この打率は驚異的であり、まさに稀有の存在であると思う。
    そんな篠田さんの短編集。いやはや、変幻自在である。
    「子羊」~私を離さないで、ではない。羊から人間へ!
    「世紀頭の病」~因果応報。この世は喜劇。
    「コヨーテは月に落ちる」~不条理な精神世界。人の執着はこんなにも深く、人の運命はこんなにも悲しい。そしてこの世はこんなにも滑稽だ。
    「緋の襦袢」~人間の性はどこまでも業が深い。
    「恨み祓い師」~オチのある怪談話。
    「ソリスト」~消えぬ記憶。実態のある記憶。
    「沼うつぼ」~果てのない欲望。執着と快楽の対比。
    「まれびとの季節」~押しつけの正義ははた迷惑。
    「人格再編」~その人はその人。束の間通り過ぎる生。
    「ルーティーン」~我が人生も交換可能。

    「コヨーテは月に落ちる」が衝撃的だった。

  • 「まれびとの季節」まで頑張って読みましたが、精巧で例利な筆致にやられ、ここで放置。。。
    文章力のある人が不条理を描くと、ひたひた迫りすぎて。

  • 篠田節子のSFチックな短編集、この中では『人格再編』が面白い、近未来の日本社会が描かれている。構造不況の日本では優秀な人材は海外に流れてしまい、日本に残っている若者は学習する習慣もないという時代が到来する。産業どころか人材と能力が空洞化してしまう、など・・・読んでいてあり得ない事ではないと感じる。

  • いろんなテーマを持った作家さんですね。気になってたんだけど長編に手が出なくて、短編集なら、と読んでみたんだけどいいです。好きな感じです。表題作は私の知ってる範囲で言うとちょっと山野浩一的な、不条理小説。カズオイシグロのあの作品のモチーフを先取りしていたり。神、美、音楽、老い、文化と文化との接触…つまり人間そのものへの関心、というか。小松左京ほどスケールが大きくはなく、日常との接点を保ちながら普遍的なところにアクセスする道を模索しているような。そんな印象。

  • ”篠田節子SF短篇ベスト”と銘打っているけれど、私としては”SF”よりも”不思議な話”に分類したい。
    とても不思議な話のオンパレードなんだけど、どの話にも「そういうことあるよな」って思わせるリアリティがあって、いったいどれだけ綿密に取材をしたのだろうと感嘆しました。

  • 10の短編が収められている。「子羊」「世紀頭の病」「コヨーテは月に落ちる」「緋の襦袢」「恨み祓い師」「ソリスト」はすでに単行本等に収録済み。「沼うつぼ」「まれびとの季節」「人格再編」が雑誌に発表のものがここに収められ、標題の「ルーティーン」は書きおろし。

    「ルーティーン」は団地に妻と子供二人がいるサラリーマンの話。ある日の帰宅途中、夢遊病のように家の前を通り過ぎる。以後名前を無くして1人で工場労働者として20年。でまたある日フラッシュがたかれるように元の団地の扉を開けると、何事もなかったかのように「おかえり」と迎えられる。「父帰る」ではなく、自分は失踪しているのに、別の自分がいる生活があった。人生も中盤を過ぎると、振り返った年月は夢かうつつかわからなくなる。そんな感慨がやけにリアルに迫ってくる。

  • ああこの人だなあーという感じの短編集。読み終わったあと刺やもやもやが心に残る。その不快感が魅力。

  • 1本目の「子羊」が超好みで、ちょっと内容確認くらいのつもりが一気に読んでしまいました。
    フィクションの短編もいいですが、それ以上に、巻末のエッセイとインタビューの内容に感激。

  •  篠田節子のSF10編を収録した短編集。どれも水準以上の面白さで、打率が高い短編集と言える。このうちの2編、「子羊」と「恨み祓い師」は他の短編集で既に読んでいたが、再読しても面白かった。解説にも書かれているように、「子羊」はカズオ・イシグロの某作品と同じテーマ、シチュエーションだが、発表はこちらの方が10年以上早いそうだ。
     痛感したのは篠田節子の小説のうまさ。特に中年女性の描写は男性作家にはできないだろう。アイデア以上に描写の際立つ作家なのだと思う。SFのアイデアや科学知識は前面に出てこない作品ばかりなので、コニー・ウィリスやスティーブン・キングが好きな人にはお勧めだ。
     SFの多いハヤカワ文庫JAに篠田節子の本が入るのは初めてとのこと。これは意外だった。10冊ぐらい出ていてもおかしくない作家だと思う。

  • SF書評ブログにて、人間臭さとか底辺の描写がうまい人だとあったので。
    読んだこともないし、人気の人のようだから読んでみるかと。



    ホラー風味SFばかりだったので、キングやクーンツに読みふけっていた時期もあるけれど、もう満足したんだなあと思った。

    毒の効いた話と笑いがある。
    『世紀末の病』
    あの薬の名前が「マグワイア」って、いかにも薬っぽく普通に書いてあるけれど、この名前からしてギャグだよね。っていう、毒のあるテンポいい笑い話。

    『ソリスト』
    天賦の才を持つ人間の緊張感と自負と責任。そして、傲慢。

    『ルーティーン』
    妻にとっても、彼にとっても、その関係性というのは「記号」だったんだな。という恐怖。

  • ジャンルSFで登録。もともと「弥勒」「神鳥ーイビス」など圧倒的な怖さで好きだった作家。ブラックユーモアの効いたものや静謐なもの、ホラーっぽいものとかなり贅沢に楽しめる。まあ、星5つは少し大袈裟だけど。

  • 個人的には篠田節子には長編のイメージが強く、短篇を読むのは初めてかも。短篇だとその文章力や辛辣な部分がより際立っている気がするね。ブラックでシュールながらも、どこか現実的な生々しさを感じさせるのも著者らしい。インタビュウでの”『弥勒』は文化人類学SF”だとの指摘に大いに納得させられた。お気に入りは「まれびとの季節」、「人格再編」かな。

  • うーん、篠田節子の良さはやはり長編だ。本書は短編集。
    篠田節子の良さは、油絵のようにこれでもかこれでもかと重ね塗りして出てくる深みのある色彩。それが少し間違えば陳腐になってしまう物語の舞台に一定のリアリティを与え、読み手は安心して作品世界に浸ることができる。そこで描写される人間の愚かさも素晴らしさも、そういう舞台だから輝いている。取り上げられる重めのテーマも、読む側が強いられる没頭の質や量と釣り合う。
    だけど短編だと水彩画とか素描といった感じ。真っ暗にならない映画館、周りの日常生活が見える遊園地になってしまう。
    巻末のインタビューやあとがきで著者自ら語っているように、短編には短編の魅力や楽しみがある。著者からすると、短編には短編の書き方がある。驚いたことに、長編を書く時は、書いては半年寝かせて書き直し、半年塩抜きしては書き直し、を何度も繰り返すとのこと。なるほど、まさに重ね塗り。だから篠田節子の長編は面白いんだと納得。同時に、本書がイマイチな理由にも納得。ここにある短編はそのプロセスを経ていないから、アイデアとしては面白いけど、小説としては熟成が足りず、素材感や切れ味を楽しむ作家でもないから中途半端な物足りなさが残ってしまう。
    長編で再会したい。

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