虐殺器官〔新版〕 (ハヤカワ文庫 JA イ 7-6)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311650

感想・レビュー・書評

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  • ハーモニーの対となる作品。
    ハーモニーを先に読んでいたからか、そこまでの目新しさを感じられなかった。
    精神性を徹底的に疑い、人を極めて物質的にとらえようとする思考実験。

    自由とは選択できること。
    『虐殺器官』で描かれるのは「無法」という名の自由の世界。
    『ハーモニー』で描かれるのは「秩序」という名の自由の世界。

  • 映画化するということなので重い腰をあげて購入。
    高校生の頃、全く不謹慎な話だが、戦争というものは、実は、人間の総量調整をして自然界のバランスを保つために必然的に起こる営みで、いわば自然の自浄作用のようなものなのではないかと思ったことがある。この本を読んでいて、そんなこと考えていたなと思い出した。

  • 中々難解で読み応えがあった。虐殺の器官について、少々曖昧な点があると思った。ハーモニーとは正反対の世界設定だが、人間の選択や意識の所在など、哲学的なテーマは一緒であり、考えさせられる作品だった。

  • ハーモニーを先に読んでいたので、その世界が訪れる前の段階の極限に振り切れる過程を読んでいるという自覚のもと、ページをめくった。
    ただのミリタリーものとは一線を画しているのは読んでいけばわかる。
    目の前に出現する景色は黒と赤。
    空の青はない。豊かな緑もない。砂の黄色すら赤い血潮に塗れ絶望の黒が塗りたくられている。
    自然は見えなかった。
    戦闘用の銃やヘリや鞘や無機質な銀色とやはり付きまとう黒。
    プラハの夜さえ官能的にはなってくれず、石畳すら絶望の深淵が透けて見える。
    極限までの黒を見せつけられるたび、ハーモニーの白を思い出す。
    ふわふわの曖昧模糊とした雲のような手に掴むことのできない不安の体現である白。
    大人の男性視点で語られるこの作品があまりにも硬質で鋭利な刃を持ってい過ぎて、先に読んだハーモニーの少女たちの無邪気で無垢でふわふわとした世界が恋しくなったが、その世界とて、彼女たちの背後や足元には口を開けた絶望の深淵がドロリと白い口を開けている。
    まさに真綿で首を絞められていく世界。
    息苦しさ。
    無機的に肉体的に、物質的に体を傷つけられていく虐殺器官の硬との対比で、有機的に心理的に、精神的に魂を抉られていく軟のハーモニー。
    二冊を読んで、二つの世界は一つになる。
    虐殺器官の主人公の方がより私たちに近い心理状態を持っている気がしたが、故に、研ぎ澄まされた戦場で奪われた命を目にするシーンは、彼のマスキングされた精神状態が異常であること、ひいてはそれを施して許される世界の異常さを物語っているように感じた。

    ハーモニーにおける死を望む気持ちは生きたい欲求だ。
    虐殺器官における生を遂行しようとする行動は足元に死体の山を築くことだ。

    望むものが極端であるがゆえに、しかしそれ自体は当たり前のすぐ手の届くところにあるものであるが、しかし、周りの状況如何で自然に訪れるものではなく、与えられるもしくは自ら掴み取りたいと望まなければならないものになる。

    最後に、この作品が10日で書き上げられたと解説で読んで、しかもほとんど資料を必要としていなかったと知って、呻き声をあげずにはいられなかったことを付記しておく。


    追記メモ
    虐殺器官は受け手は閉じることのできない耳。強制受信してしまう耳。それは知らず風景に紛れ込んでいるかもしれない。耳とは言ったが、知らず受け取る器官としては目もあるだろう。
    虐殺媒介=手法が「言葉」であり、虐殺器官とは言葉を生み出し、使用することを選択する脳。
    媒介をまき散らす方法が、世界中に張り巡らされたネットワークであり、ネットワークがいきわたっていない世界においては看板等の目につきやすいもの、ラジオ等の耳に入りやすいもの。

    何を犠牲に差し出すか。
    「言葉」を手に入れた者が虐殺器官となり、使うか、使わないか、使うならどこに使うか、の選択権を行使する権限を有する。
    しかしその選択の意思の決定を行うのは医者でも、コンピューターでも統計でもなく、人の脳である。感情である。そう、感情なのだ。

  • うまく表現できないし、解釈も間違っているかも知れないし、理解もできてないかもしれないけど、とにかく、なんかわかる!と思いながら読みました。

    久々に誰かにしっかり、面白いから読んでみてと言いたくなる作品でした。
    虐殺器官というタイトルも好きです。

  • 今現在ときちんと地続きになっているSFで最高だった。2006年でこの未来への洞察力は凄まじい。細々散りばめられる哲学が嬉しい〜!

  • おもろい



  • これがSFの醍醐味

  • とても面白かったです。10日で書き上げたって、凄すぎる。小島監督やメタルギアシリーズをよく知ってると想像しやすい描写もところどころありました。

  •  ざっくり腑分すると世界/人間×表層/深層の2×2のマトリクスで本書は出来ていて、表層→深層の言説が大小強弱織り混ぜながら色々出てくる。まずその知的興奮がものすごい。ハッとさせられる。
     それは言葉つきにも表れている。表層と深層のバッファを顧みず、イコールで縫いつけてしまう。暴力的なフレーズの生成。これが非常に気持ちいい。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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