- Amazon.co.jp ・本 (428ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150311650
感想・レビュー・書評
-
詳細をみるコメント0件をすべて表示
-
まず、海外ドラマっぽさを感じた。アクションあり、ミステリーあり、そしてSFあり。1冊の娯楽小説として、安心してその展開に身を委ねることができる。
構成としては、主人公の生い立ちや悲しみというミクロ的なテーマがある。それから、世界構造や正義の在り方などマクロ的な観点で物語が進行していく。という2層構造。
筆者の見識の広さに下支えされた世界観は、安心して没入することができた。言語学を中心に、医学からゲーム理論まで手広い。クレオール、あるいはクレオール言語というのは知らなかった。あとは、サピアウォーフの仮設。
それから嗜みとして、ジョージ・オーウェルを2作とも読んでおいて良かった。作中で引用されるので読んでおいて損はない。
淡白だけど情感に訴えかける文章も良い。筆者の使いたい言葉を自在に組み込んでる印象。それでいて難解な言い回しにならない。語彙力の多さに支えられた余裕のある文章だと感じた。
戦地に赴く前の感情調整のシーンには、伊藤計劃らしさが光ったように思う。
兵士たちは痛みを認識できるが、感じることのないように調整される。主人公はここで、殺意ですら他者からコーディネートされてるのではないかと疑う。それが自分のものであってほしいと願う独白は、鮮烈な印象を残した。
個人的には、あの結末は突き抜けていて好きな終わり方。だけど、それが世界の正解だとは思わない。痛みを自分のものとして感じること、そのことの自由と幸福は譲ることはできない。きっと人間主義なのだと思う。
そんな風に、読者は伊藤計劃からの問いに向き合わざるを得ない。
総評としては、良作。優れたSF小説はSFの枠に収まらないということを思い出させてくれる1冊だった。
(書評ブログの方も宜しくお願いします)
https://www.everyday-book-reviews.com/entry/%E7%97%9B%E3%81%BF%E3%82%92%E6%84%9F%E3%81%98%E3%82%8B%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%AE%E8%87%AA%E7%94%B1%E3%81%A8%E5%B9%B8%E7%A6%8F%E3%82%92%E7%9F%A5%E3%82%8B_%E8%99%90%E6%AE%BA%E5%99%A8%E5%AE%98_%E4%BC%8A -
表紙は、ラノトノベル風!表紙からは想像出来んほど、中身は…重くてベビー!
出たしから、グロい〜
こんな文法で、ジェノサイド になるのか…
サブリミナル効果の親戚みたいな…
虐殺の文法って、具体的に何なのかは触れず…ひょっとして、作者は本当に知っていて、どこかで実践してたかも?ってないわ!(^O^)
ラストは、賛否両論ありそうやけど、個人的には、好きな感じ。気分は晴れんけど。 -
ハイテクノロジーにも関わらず、結局は好きな女ひとつで人がコロッと変わるその縮尺がシニカルだ。
ずいぶんとグロテスクな描写が多いためぞっとすることも多い。
私たちは普段あまりに綺麗な世界で生きているのかもしれないと感じた。 -
「ゼロ年代最高のフィクション」とは文庫版カバーに記載された紹介文。これはあながち大風呂敷ではない。ストーリーの疾走感や展開のドラマチックさ、そして、登場するガジェットは初期のウィリアム・ギブスン作品で感じたサイバーなワクワクに溢れる。
辛いのは、「ハーモニー」同様に胸くそ悪い描写が多いこと。必須なスパイスなのだろうけれど、読者を選ぶ本作。
それを押しても、新作を期待することができないことが残念。
-
自由とは?
罪とは?
ジョンポールの思想とは?
虐殺器官とは?
作者が闘病中にこれを描いたのがすごい。 -
「虐殺器官」の意味がわかった時は、かなりの納得感があり、読書の気持ち良さを久々味わえた。9.11
後の近未来(恐らく2030〜50年位なイメージ)が作品の世界なわけだけど、実際その世界の入り口に私たちはいるわけで、SF作家の見通すチカラに感心しつつ、後半怒涛の一気読みでした。 -
「PENは剣より強し」というけど、本当に「言葉」が破壊行為を生み出すことがあるのか。
ある!
SNSでの誹謗中傷や、プライバシーの暴露からの暴力、そして悲劇。
事実のようなありようで世に流される偏った考えと、拡散されたことで始まる事件や暴動。
発信側の責任だけでなく「見たいものしか見ない」という受け取る側の責任が重い。
あとのことも考えずに「面白いから」といって拡散する“自称”罪のない多くの人びと。
「何も知らなかった」
「そんなことになるなんて考えていなかった」
「ただ”いいね”しただけ」
それが原動力となって引き起こされる事象にはまったく別の目的があったとすると……それがこの物語。
そして、その末に待っているのは、次作「ユートピア」での反動世界の物語。
この物語は「9.11」事変以降の世界を主題としているとのこと、作者伊藤計劃氏がその後の2011年の東日本大震災や2020年コロナ・パンデミックを経ていたら、どんな物語を紡いでいたのか……。
現実がとても信じられない(今、ウイルスパンデミックの物語を読む気にならない)時代には、とっても優しい物語を創造してくれていたかもしれない。 -
謎の男ジョン・ポール追う中、主人公の暗殺者は自分の母親の病気がきっかけとなり命令に従い暗殺を行う行為に疑問が生まれてくる。
世界平和のために、多くの命が消えていく姿を目に焼けつけてきた。最新のテクノロジーやセラピーで、残酷な状況に陥っても正しい判断を早急に下せるような脳に悪と闘う者は変えられる。正常な者であれば罪悪感が生まれてくるが、最新の技術により人は変わりゆく。
「私たちは見たいものしか見ない」という言葉が頭に残った。自分の周りが良ければ、外の世界に関心はいかない。もし難民のことを知識として得ていなければ、私たちは彼らに対して何の関心もない。それは現在の私たちも同じである。
また虐殺器官の意味を知った時に、言葉の素晴らしさそして怖さを感じた。
初めて日本でこの様な小説を読んだが、海外の有名なディストピア小説に負けないおもろしろい本だった!!