ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
制作 : redjuice 
  • 早川書房
4.15
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  • (18)
  • (3)
本棚登録 : 1776
レビュー : 175
  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311667

作品紹介・あらすじ

優しさと倫理が支配するユートピアで、3人の少女は死を選択した。13年後、死ねなかった少女トァンが、人類の最終局面で目撃したものとは? オールタイム・ベストSF第1位

感想・レビュー・書評

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  • 読むまで、この物語に対して誤解があった。誤解の根拠は主に表紙のデザインにあるのだが、てっきり「ラノベ風味のSF小説」という軽い気持ちで読み始めたのだ。作者の伊藤計劃という名前はさすがに知っていたし、気にもなっていたが、どうにも表紙のデザインから受ける「ラノベ」的印象が、自分をこの物語から長らく遠ざけていた。
    雰囲気としては、たしかにライトノベル的なものをまとってはいるかもしれない。しかし、内容はむしろ硬派だ。SF小説であり、その舞台も徹底的に個人レベルの健康を「生府」とよばれる国家レベル(?)の組織が管理する世界である。この前提だけで、物語はファンタジーの性格を帯びるし、この世界こそラノベの十八番ともいえる領域である。
    だが伊藤計劃の『ハーモニー』はそれでは終わらない。このことは、文庫版の巻末に収録された佐々木敦とのインタビューを読めばわかる。伊藤氏は、一見軽く見えるこの物語に、実に周到な企みを潜ませているのだ。話はロジカルに展開するし、物語の世界も計算しつくされている。多くの人物が登場するけれども、無駄なキャラクターはなく、かつそれらのキャラクターは物語の中で一人ひとり個性が際だっている。
    重いテーマを女子高生に語らせていることに、読み始めこそ軽い違和感を覚えたが、これもまた伊藤氏の深い計算によって生み出されたシチュエーションであった。重厚なテーマも、一見そんな会話をしそうにないガールズトークをメインに進んでいくから、内容もすっと入ってくるし、リーダビリティも高い。
    トマス・モアが『ユートピア』を著して以降、おそらく多くのユートピア小説(対するディストピア小説も含めて)が書かれてきたが、伊藤計劃の『ユートピア』もまたその系譜に肩を並べ、歴史にその名を遺す作品となるだろう。そして、ユートピアとは、ディストピアと常に二律背反の関係として存在することを、あらためて教えてくれる。

  • 健康であること、健全であることが正義とされる世界。人々はあらゆるものをその管理下におき、個人の健康すら徹底的に管理できてしまう。
    そんな世界に疑問をもった人たちの物語。
    この本を読むと「人間らしく生きることとはどういうことか?」ということを考えさせられる。幸せとは健康的に生きることなのか。それとも自由であることなのか。創り上げるべきは、皆が均質的なハーモニーを奏でる世界か。それとも自由を掲げる不協和音の世界か。

  • とても惹き付けられ、一気に読破。
    世界規模の核戦争の反省として、人の生命や健康を第1に考える社会が確立した。病気や痛みが無くなり、犯罪もなく、老衰か事故でしか死ななくなった世界。隣人を愛して当たり前、善意を振りまいて当たり前。それが常識でしょ?という、空気に締め付けられる息苦しさ。本当に今後起きそうで怖いと思う。よくある近未来SFの飛躍した理論なんかではなく、哲学的な考えや、医学的根拠がたくさん記されており説得力があった。

    人間が進化した結果得た「意識」が無駄なものだと気がついてしまうという皮肉は考えさせられるものがあった。
    癌を患い命を落とした作者自信が、この楽園を否定したということは大きな意味を持つと思う。死を目の当たりにした作者にしか描けない死生観の世界だった

  • 虐殺器官以降の世界を描いたようなユートピア(解説では倒立したデストピアと記述される)小説。人工的に生活が管理され、病気が無くなった世界を描くが、本質は人の意識を管理するという部分。健康を管理するWatchmeという生体機械により人体の状態が常に管理されているが、脳は不可侵領域として維持されている(とされている)が、双曲線で定義される脳の報酬系の定義を変更することで、人間の意識を操作する。環境要因により変化する複数の無意識のせめぎ合いで、人の意識を形成するという考え方は、近年の人工知能研究で注目されるニューラルネットワーク(ディープラーニング)で同等の実装がなされる。また、作中で、意識を持たない民族が出てくる。理不尽な双曲線ではなく、価値を最大化するよう常に合理的な判断のみを下す集団。「哲学的ゾンビ」とも言われる。
    人工知能の行き着く先は「双曲線により価値を最大化できないが意識を持っていると考えられる」ものか、それとも「価値を最大化するが、意識を持っていないと考えられる」ものなのか。
    実装かもしれないが、あくまで程度問題で、結局は同じもののような気がする。

  • 非常に面白かった。ユートピアが実現した世界で人々が破滅の道を歩むとしたらどうなるのか、人間の意識と意志の仕組みと必要性、進化との繋がりなど、決してファンタジーに頼ることなく科学的・哲学的に書かれていたので勉強になった。

  • ユートピアとは何か、人間の意識とか何かということを問いかけてくる小説。個人的にはhtmlをもじったetml形式と言うのがちょっとハマった要素であった。

    人のプライベートを完全に公共のものにしてしまう、あるいは、人は社会のためのリソースであるといった思想は、かなり極端で非現実的だが、確かに、公共性ゆえに犯罪も起こり得ないだろうし、健康管理も自主的に行うシステムがあれば、表面上は皆が幸せに暮らせるユートピアが誕生するようにも思える。

    しかし、そのような理想的な社会も一人一殺を達成しないと自分が死ぬと言う脅しで、揺らいでしまうという儚いものである。

    現代のSNSは一種の監視システムとして機能しうるのではないかと思うとともに、人間らしさっていうものはもっと欲望の近くにあり、人間のドロドロした部分が現れるところなんだろうなと感じた。

    小説的には、内容的にそんなに凝った設定であるわけでもなく、登場人物の心情描写もあまりなく、なんとなく無機質な感じを与えるが、これもこの小説の味なのだろう。

  • 設定が難しかったから深く考えずに読んだ。
    何でもできる主人公がかっこいい。
    でも、何がしたいのかはついて行けなかった。

    優しすぎる世界が苦しいっていうのが、わかるようなわからないような…。
    死にたくなるほどしんどいというのがあまりピンとこなかった。
    ミァハちゃんを殺してしまう意味がよくわからなかった。

    意識は自分。今の人間はつぎはぎの産物。感情は必要があって生まれた。
    世界はなにで動いてるんやろうと思わされた。

  • 健康帝国主義と化した一見ユートピアだけど、ディストピアな世界。わたしがわたしであること、が自明ではなくなっていく。意識すら、必要ないとされ、人間が個ではなく社会的存在となる結末に、上田岳弘にも通ずる世界観に達していたことを感じる。文学の最先端は突き詰めると似通うのか(流れる空気は全然違うけど)。もっと遡ればエヴァンゲリオンの人類補完計画の変奏なのかもしれない。ただ、地球上でオフラインの残り2割には関係ない話であることが、なんとも…と。

  • 「虐殺器官」の対になっていると言われている小説。

    「人間は健康で、かつ幸福であるべきだ」という思想の下、医療的監視システムであるWatchMeを体内に入れ込むことで、人間を「健やかに」管理することが可能になった社会。
    誰も病気にならない、傷つかない、苦しまない。精神的にも肉体的にも誰かを傷つけることは許されない、優しさに覆われた背か。善意の世界。ある種のユートピア的な世界。

    私たちはどん底を知らない。どん底を知らずに生きていけるよう、全てがお膳立てされている。

    感情や生死にすら作用する"WatchMe"
    見せかけの優しさで守られる世界と「人間らしく」いきたい少女たちの物語。
    例えばどうしようもない悪意や嫉妬に潰れてしまいそうになることを私たちは人生で何度も経験する。

    「ハーモニー」が描く世界はその逆で"善意と愛で窒息する人間"という発想がすごく新しい

    ここでいう「善」はたた「良いこと」ではなく、「何らかの価値観を継続させる意志」であり、永続性の内膳は淘汰されていくから、意志は進化をしなくちゃいけない。でも、進化の意志には傷つけ傷つけられることが必要だから結局人は苦しみから逃れられない。

    「逆ユートピア」的な発想。

    "生かされていること"に対して疑問を抱いて人間らしくあろうと思える、人間らしくありたいと思える。

    傷つくことも厭わず、悲しむことも厭わず、
    ユートピアを創造したはずがそこはディストピアだった。

    純白の退廃。

    1秒1秒緩やかに死に流れいく人生の中で命よりも大切なものって一体何なのだろうか。

    ユートピアなんてない。

    6畳1間を作る白い壁、白い天井、意志は取り残されたまま。吐き出した息と一緒に消えるだけ。

    さよなら、わたし。さよなら、たましい。
    今人類は、とても幸福だ。

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    にゃんたこさんの紹介が素敵すぎたので、メモ的に引用させてもらいました。ありがとうございます。

  • 何十年後かの世界で、ウェアラブルを超えて、人に何かを埋め込むようになったとき、生殺与奪を政府(生府)に握られるようになるのだなというディストピアな世界を描いた小説。
    例によって前半は読むのが重い感じだったが、絵は無いのに目に浮かぶような残虐シーンがあり、陰謀に迫っていく主人公という展開から引き込まれていった。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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