ハーモニー〔新版〕 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
制作 : redjuice 
  • 早川書房
4.13
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本棚登録 : 1872
レビュー : 181
  • Amazon.co.jp ・本 (398ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150311667

作品紹介・あらすじ

優しさと倫理が支配するユートピアで、3人の少女は死を選択した。13年後、死ねなかった少女トァンが、人類の最終局面で目撃したものとは? オールタイム・ベストSF第1位

感想・レビュー・書評

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  • 読むまで、この物語に対して誤解があった。誤解の根拠は主に表紙のデザインにあるのだが、てっきり「ラノベ風味のSF小説」という軽い気持ちで読み始めたのだ。作者の伊藤計劃という名前はさすがに知っていたし、気にもなっていたが、どうにも表紙のデザインから受ける「ラノベ」的印象が、自分をこの物語から長らく遠ざけていた。
    雰囲気としては、たしかにライトノベル的なものをまとってはいるかもしれない。しかし、内容はむしろ硬派だ。SF小説であり、その舞台も徹底的に個人レベルの健康を「生府」とよばれる国家レベル(?)の組織が管理する世界である。この前提だけで、物語はファンタジーの性格を帯びるし、この世界こそラノベの十八番ともいえる領域である。
    だが伊藤計劃の『ハーモニー』はそれでは終わらない。このことは、文庫版の巻末に収録された佐々木敦とのインタビューを読めばわかる。伊藤氏は、一見軽く見えるこの物語に、実に周到な企みを潜ませているのだ。話はロジカルに展開するし、物語の世界も計算しつくされている。多くの人物が登場するけれども、無駄なキャラクターはなく、かつそれらのキャラクターは物語の中で一人ひとり個性が際だっている。
    重いテーマを女子高生に語らせていることに、読み始めこそ軽い違和感を覚えたが、これもまた伊藤氏の深い計算によって生み出されたシチュエーションであった。重厚なテーマも、一見そんな会話をしそうにないガールズトークをメインに進んでいくから、内容もすっと入ってくるし、リーダビリティも高い。
    トマス・モアが『ユートピア』を著して以降、おそらく多くのユートピア小説(対するディストピア小説も含めて)が書かれてきたが、伊藤計劃の『ユートピア』もまたその系譜に肩を並べ、歴史にその名を遺す作品となるだろう。そして、ユートピアとは、ディストピアと常に二律背反の関係として存在することを、あらためて教えてくれる。

  • 健康であること、健全であることが正義とされる世界。人々はあらゆるものをその管理下におき、個人の健康すら徹底的に管理できてしまう。
    そんな世界に疑問をもった人たちの物語。
    この本を読むと「人間らしく生きることとはどういうことか?」ということを考えさせられる。幸せとは健康的に生きることなのか。それとも自由であることなのか。創り上げるべきは、皆が均質的なハーモニーを奏でる世界か。それとも自由を掲げる不協和音の世界か。

  • とても惹き付けられ、一気に読破。
    世界規模の核戦争の反省として、人の生命や健康を第1に考える社会が確立した。病気や痛みが無くなり、犯罪もなく、老衰か事故でしか死ななくなった世界。隣人を愛して当たり前、善意を振りまいて当たり前。それが常識でしょ?という、空気に締め付けられる息苦しさ。本当に今後起きそうで怖いと思う。よくある近未来SFの飛躍した理論なんかではなく、哲学的な考えや、医学的根拠がたくさん記されており説得力があった。

    人間が進化した結果得た「意識」が無駄なものだと気がついてしまうという皮肉は考えさせられるものがあった。
    癌を患い命を落とした作者自信が、この楽園を否定したということは大きな意味を持つと思う。死を目の当たりにした作者にしか描けない死生観の世界だった

  • 虐殺器官以降の世界を描いたようなユートピア(解説では倒立したデストピアと記述される)小説。人工的に生活が管理され、病気が無くなった世界を描くが、本質は人の意識を管理するという部分。健康を管理するWatchmeという生体機械により人体の状態が常に管理されているが、脳は不可侵領域として維持されている(とされている)が、双曲線で定義される脳の報酬系の定義を変更することで、人間の意識を操作する。環境要因により変化する複数の無意識のせめぎ合いで、人の意識を形成するという考え方は、近年の人工知能研究で注目されるニューラルネットワーク(ディープラーニング)で同等の実装がなされる。また、作中で、意識を持たない民族が出てくる。理不尽な双曲線ではなく、価値を最大化するよう常に合理的な判断のみを下す集団。「哲学的ゾンビ」とも言われる。
    人工知能の行き着く先は「双曲線により価値を最大化できないが意識を持っていると考えられる」ものか、それとも「価値を最大化するが、意識を持っていないと考えられる」ものなのか。
    実装かもしれないが、あくまで程度問題で、結局は同じもののような気がする。

  • 非常に面白かった。ユートピアが実現した世界で人々が破滅の道を歩むとしたらどうなるのか、人間の意識と意志の仕組みと必要性、進化との繋がりなど、決してファンタジーに頼ることなく科学的・哲学的に書かれていたので勉強になった。

  • ハーモニー…この小説の世界観はなんともいえない気味の悪さを感じる。

    さこの世界は大災厄が起こったあとの日本の話だ。
    二度と悲劇を繰り返さないように人々は平和な世界の実現を目指した。

    子供はリソースとして社会に存在し
    大人になるとwatchmeという機械を体に埋め込まれる。

    「あなたは残酷なものを見ました。セラピーを受けてください」
    「体重が一キロ増えました」「この食事は塩分が…」
    などなど、人々の体を1から10まで管理してくれるので
    人々は病気から解放された。

    おまけに人の健康状態や個人情報まで知ることができる。
    つまり、犯罪を犯せばすぐに知られることになる。
    その前に人々は平和な世界で善意に包まれて生きているので犯罪すらない。

    そのお陰で、この世界は平和になった。

    しかし、優しさで窮屈なこの世界で 
    平和を憎んでいたミァハという少女がいた。
    彼女もこの世界では重要な資源だ。

    物語の主人公トァンとキアンと共に
    このきれいな世界を汚すために自殺という形で
    抗議することにした。
    リソースである自分を殺すことで社会に
    痛手を負わせようとするというお話。

    この小説…特に序盤は読んでて謎の窮屈さに見舞われました。

    ちょうど「規制」「嫌煙」「悪影響」などと
    ヒステリックにがなりたてる人々を見たときのような
    居心地の悪さににている。

    人間には少しの毒も必要なのだ。

    それを一切、取り除いたら
    人はどうなるだろう?本当に平和になるのだろうか?
    そう考えさせられた。

    ちなみに、この物語は自殺に失敗し大人になったトァンが主人公。
    前作の「虐殺器官」がハードボイルド系統だとすると
    「ハーモニー」は少しミステリー風味で楽しむことができました。

  • 2冊目として読了。「平和」であることの意義・理由を問うという点では良い。アニメ版も比較的忠実で良かった。
    読後感は別として、雰囲気としては平和な本書の方が好みではあった。

  • アニメがなかなかよい作品で原作を読んでみる気に。文字で読んでこそ面白い物語。アニメで背景説明が足りなかった部分も補完されて満足。

  • ユートピアとは何か、人間の意識とか何かということを問いかけてくる小説。個人的にはhtmlをもじったetml形式と言うのがちょっとハマった要素であった。

    人のプライベートを完全に公共のものにしてしまう、あるいは、人は社会のためのリソースであるといった思想は、かなり極端で非現実的だが、確かに、公共性ゆえに犯罪も起こり得ないだろうし、健康管理も自主的に行うシステムがあれば、表面上は皆が幸せに暮らせるユートピアが誕生するようにも思える。

    しかし、そのような理想的な社会も一人一殺を達成しないと自分が死ぬと言う脅しで、揺らいでしまうという儚いものである。

    現代のSNSは一種の監視システムとして機能しうるのではないかと思うとともに、人間らしさっていうものはもっと欲望の近くにあり、人間のドロドロした部分が現れるところなんだろうなと感じた。

    小説的には、内容的にそんなに凝った設定であるわけでもなく、登場人物の心情描写もあまりなく、なんとなく無機質な感じを与えるが、これもこの小説の味なのだろう。

  • 設定が難しかったから深く考えずに読んだ。
    何でもできる主人公がかっこいい。
    でも、何がしたいのかはついて行けなかった。

    優しすぎる世界が苦しいっていうのが、わかるようなわからないような…。
    死にたくなるほどしんどいというのがあまりピンとこなかった。
    ミァハちゃんを殺してしまう意味がよくわからなかった。

    意識は自分。今の人間はつぎはぎの産物。感情は必要があって生まれた。
    世界はなにで動いてるんやろうと思わされた。

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著者プロフィール

1974年東京都生れ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』でデビュー。『ハーモニー』発表直後の09年、34歳の若さで死去。没後、同作で日本SF大賞、フィリップ・K・ディック記念賞特別賞を受賞。

「2014年 『屍者の帝国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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