トマト・ゲーム (ハヤカワ文庫JA)

  • 早川書房 (2015年6月4日発売)
3.61
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Amazon.co.jp ・本 (432ページ) / ISBN・EAN: 9784150311971

作品紹介・あらすじ

ライダーレースの衝撃の顛末を描く表題作他、問題作「獣舎のスキャット」など全8篇。華麗なる狂気の世界に浸る奇想犯罪短篇集!

感想・レビュー・書評

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  • 個人的にかなりレベルの高い短編集。
    ジュブナイルの悪意・犯罪にフォーカスした不条理系短編集だが、舞台装置やオチまでのトリックが鮮やかで非常に楽しめる。
    『アルカディアの夏』と『獣舎のスキャット』は特に印象深く、作者の初期の良い所がギュッと詰まり、いいとこ取りな1冊では。

  • す、すごい。去年は皆川さんにハマって色々読んだけれど、こんなに毒のある作品も書けるんだ…。皆川さんらしい華麗で耽美な世界観なんだけど、底知れない闇が広がっている。
    表題作のトマトゲームは、ラストにむけて物語が急降下していく様にゾッとした。
    登場人物たちがみんな狂っている。少年少女の若さゆえの狂気、過去の傷が膿み広がって産まれた狂気、さまざまな狂気がある。しかし獣舎のスキャットと蜜の犬はやばすぎでは…
    かなりグロテスクでショッキングな話もあるので、楽しく読める本ではない。だが、ここまでの狂気を読める本も中々ないのではないだろうか。

  • 皆川博子の初期の短編作品集。
    本作に収録されている短編作品は犯罪をテーマにした作品で、皆川博子の耽美で幻想や伝奇、ミステリーなどのイメージとは違うのだが、だが確かに皆川博子らしい作品ばかりが集められている。

    個人的には『獣舎のスキャット』がやはり印象的である。
    『獣舎のスキャット』は自分は『悦楽園』という別の短編集で触れたが、とても黒々しい情欲が顔を出すような作品で、人には薦めないが大好きな作品である。
    他にも『密の犬』『アルカディアの夏』『花冠と氷の剣』が好み。

    また中川多理による球体関節人形の表紙が皆川博子の作品世界と合っていてとても良い。

  • 面白かったです。
    いつもより毒が濃かった気がします。
    「蜜の犬」「アイデースの館」が好きです。
    老若男女、闇に呑み込まれていく…いつから狂っているのか。
    皆川さんの幻は甘美なものも感じることも多かったのですが、この作品集ではゾッとするものもありました。
    「遠い炎」と「花冠と氷の剣」のラスト一行、冷水を浴びせられた感じがしました。怖い。
    でもやっぱり皆川さんの世界は辞められません…虜です。

  • 皆川さんの、1973~76年ごろの作品を収めた短篇集。

    読みたくて読みたくて買って、でも、すぐに読むわけじゃなくて、積読というのとも違って、「私の準備が整うまで、待っていて欲しい。その背表紙を毎日眺めて、どっぷり浸かれるようになる日を待っていて欲しい」本の、待機場所というのがある。
    そこで半年眠っていてもらった、「トマト・ゲーム」である。
    半年間、何度も手に取り、表紙をうっとりと眺め、ブックカバーをかけようとして、「でも、まだだ…」と感じ、本棚に戻した。
    やっと、皆川さんの世界にずぶりと沈みきる準備ができました。

    『いつか華麗な狂気の世界を、文字の上にもあらわしたいと、一枚、二枚、と書きつづけています。』(p.431、受賞コメントより。皆川さんの言葉。)

    不安と恐怖は、狂気と仲良しだ。
    いつの時代も、きっとそれらは仲良しなんだろう。
    全然違う時代の、全く知らない少年少女の、恐怖や不安や焦燥や憎悪を、しかし私は知っていると思った。
    登場人物たちを、身近に感じてしまう。
    その身近さに同族嫌悪を感じる、孤独さも。

    心配ばかりが降り積もる、不安と恐怖とそれから憎悪に絡め取られたら、輪郭の曖昧な狂気の世界の靄が足元からたちこめる。
    皆川さんがその怖ろしさを、『華麗に』描いてくれるから、孤独にならずにすむことができるのだと、感じた。

    何の音楽もかけず、皆川さんの本とこんな時間を過ごせる。
    今日は素敵な一日だった。
    また「待機場所」に皆川さんの本を新しく追加しないといけない。

  • 装丁の中川多理の、頬寄せ合う人形の画だけでもうやばみがすごい。
    既読の短編もちらほら。

    「トマト・ゲーム」
    皆川博子初期作品といえば、バイクに狂う若人。
    しかしこんなに陰湿なゲイが居座っているとは…。
    どうしたって嫌なヤツってのはいるんだなあ…。
    でもオチの後味の悪さは既に皆川博子だったな…。

    「アルカディアの夏」
    アルカディアとは、ギリシア語の”楽園”。
    ……こんなにも楽園に縁遠いテンションもないやろ…(暗鬱)
    と思いますが、それも含めていつもの皆川博子の描く少女の闇!!!!!!!!!!!って感じだったな…。

    「アイデースの館」
    アイデースってハデスのことなんか…。
    デスマスク、そんなに関係ない気が…???と思ったけど、その辺がハデスなのかも分からん。
    ちょっと赤江瀑みてえなテンションだったな。

    「花冠と氷の剣」
    皆川博子作品とフェンシングの親和性の高さよ。
    しかし、奇形を抱える男って性癖もご健在でなんか安心感すらあるな…。
    その男に振り向かれない女、ってのも…。


  • 未熟であやうい少年少女のヒリツキ感や性の揺らぎが生々しい。「トマト・ゲーム」では、ゲームに挑む少年たちの目線ではなく、そのまわりにいるフラフラした大人たちの目線で描かれていて、その大人たちも未熟さや不完全さを宿しているのが印象的。

  • 70年代の短編集。『悦楽園』で既読の「蜜の犬」がやっぱり優れてる。純粋な好奇心が狂気となる。ゾワゾワっとくる。

  • 桜の花弁を「小指の爪のような」と表現するのが強烈。忘れられない。

    ふとパンドラを思い出した。

  • 壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた、著者最初期の犯罪小説短篇集。(裏表紙)

    トマト・ゲーム
    アルカディアの夏
    獣舎のスキャット
    蜜の犬
    アイデースの館
    遠い炎
    花冠と氷の剣
    漕げよマイケル

    今まで皆川さんの初期の作品は幻想と狂気が薄めだと思っていたのですが、単純にモノを知らなかっただけだったんだなぁ、と。
    全編、濃淡あれど狂気に彩られていました。
    近頃のものであればそこに幻想が加えられますので、幸か不幸か生々しさが薄れていたのですが、これはもう、グロテスクな感じさえ受けました。

  • 単行本版、文庫版を統合した完全版。「華麗なる狂気」という言葉がこれほど似合う短編集はなかなかありません。背徳的でありながら、どうしようもなくうっとりさせられてしまう作品ばかりです。なかなかにえげつない物語が多くって、「美しい」という表現はなんとなくそぐわない気もするのだけれど。受ける印象はやはり美しいんだなあ。
    お気に入りは「遠い炎」。一番素朴な印象を受けたのだけれど、結末がなんとも恐ろしくって。読むほうも震えが止まらなくなりそうです。
    「獣舎のスキャット」も凄いなあ。もうあまりに邪悪でどうにもこうにも、酷いとしか言いようがありません。なんて凄いものを書かれたんだ皆川さん! これを好きとは言い難いけれど、一番インパクトのあった作品かも。

  • 2015-6-11

  • 休みなく注がれる毒に感覚が麻痺していくのを感じた。より強い刺激を求めて、もっと、もっととページを繰ってしまう。

  • テイストは変わってないけど、密度の高さがない。でもその分スピードがある。若さだなあ、青春だなぁ。このノリを半世紀も前からやってるなんて、ホント偉大だ。

  • "少女外道"を越える黒と赤の生臭い各短編。陰鬱、淫靡、沈美、いや華麗なる狂気の波動に悩殺される

  • 短編集。それぞれ、狂気の余韻があって面白かった。

  • 女性作家特有のねっとりとした毒々しさが苦手だと毎度言っているわけですが、幻想文学などにおいてはそれが濃密であればあるほど独特の幻惑感となって良しとされるのもまた理解できるし、そのとおりだとも思う。
    しかしながら、実際問題としてどうしても凶悪な胸焼けで内臓が爛れていくまま読み進めなければならない。不快感に苦しめられるとわかっていてもなお、その世界観を垣間見たいと思ってしまうジレンマ。

    その最高峰たる皆川作品は、その強烈な誘引力には到底逆らえず、何度も手にとっては内臓を焼かれながら必死に喰らいつき、読了後は屍のようになるのが常。
    今回もまたその美しい蜘蛛の巣の糸に絡め取られて手を出し、いつもの様に打ちのめされて今に至ります(苦笑)。
    それでもまた懲りること無く、繰り返しその艶やかな華に手を伸ばすことをやめられない。

  • 「犯罪小説短編集」みたいな紹介をされてました。全体に暗いお話が多い。途中までは結構引き込まれるんだけど、どのお話も「これで終わり?」と感じてしまう。ちょっと物足りなさがあったかな。
    一番面白く感じたのは最後の「漕げよマイケル」。お父さんへの崇拝っぷりとそれが崩れた絶望が伝わってきました。

  • あらすじ(背表紙より)
    壁に向かってオートバイで全力疾走する度胸試しのレース、トマト・ゲーム。22年ぶりに再会した男女は若者を唆してゲームに駆り立て、残酷な賭けを始める。背後には封印された過去の悲劇が……第70回直木賞候補作の表題作をはじめ、少年院帰りの弟の部屋を盗聴したことが姉を驚愕の犯罪に巻き込む「獣舎のスキャット」等、ヒリヒリするような青春の愛と狂気が交錯する全8篇収録。恐怖と奇想に彩られた、著者最初期の犯罪小説短篇集。

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著者プロフィール

皆川 博子(みながわ・ひろこ):1930年旧朝鮮京城生まれ。72年『海と十字架』でデビュー。73年「アルカディアの夏」で小説現代新人賞受賞。86年『恋紅』で直木賞、90年『薔薇忌』で柴田錬三郎賞、98年『死の泉』で吉川英治文学賞、ほか多数の文学賞を受賞。著書に『聖餐城』『海賊女王』『風配図 WIND ROSE』『天涯図書館』など。

「2024年 『大江戸綺譚 時代小説傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

皆川博子の作品

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