ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
制作 : みやうち ゆうすけ 
  • 早川書房
3.67
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本棚登録 : 295
レビュー : 27
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150312008

作品紹介・あらすじ

9・11の現場からアフガンまで世界五都市を舞台に、日本製の機械人形を媒介に民族・宗教・紛争・言語などの本質に迫る連作短篇集。SF的想像力で世界のリアルに肉薄する五篇、文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 日本の某メーカーが愛玩用として開発した少女型ロボット「DX9」。歌うことが主な機能の彼女らは、安価で改造しやすい低スペックの製品であったことから、世界各地で大量に購入され、本来の用途とは異なる目的のために改造・使用され、世界各地で降り続ける。ヨハネスブルグの高層ビルから、ニューヨークのツインタワーから、アフガンの戦場から・・・DX9が「降る」光景を共通項に、不穏な世界情勢の中でもがく人間像をリリカルに描き出す連作短編集。

    少女型ロボットが、空から降ってくる。それも、時によっては雨のように大量に。
    SFとジャンル分けするには、あまりに詩的で幻想的な世界。その一方で、舞台となるのは戦場であったりテロの現場であったり、現実の国際情勢を強烈に意識せずにはいられない設定となっています。読後感は「かなり伊藤計劃」ヽ( ´ー`)ノ伊藤計劃以降、こういうムードの世界観が流行っているんですかね。ただし、未来に多少なりとも希望を残すストーリーが多いところが、伊藤計劃との大きな違い。

    確かに面白い作品です。洗練された筆運びにはただならぬセンスを感じます。この世界観が好きな人には、たまらない作品だと思います。
    が、鴨的には残念ながらどうしてもしっくりこないところがあり、手放しで絶賛するには至りませんでした。しっくりこないところとは、語弊を恐れずに言えば「SFとしての説得力」です。耐久性の試験をするためだけに高層ビルを買収して毎日数千体もロボットを落っことすって、その会社はどんなコスト管理してるのか?安価で低スペックが売りのDX9に、どうやって人格転写できるだけの容量が確保できるのか?あの「9・11」をロボットを使って完全再現する意味って、結局何?・・・などなど、イメージ重視の人にはおそらくどうでも良い細かいことなんでしょうが、鴨にはそのリアリティの無さがどうしても引っかかってしまい、せっかく現実社会と地続きの舞台設定を採用しているのに何だかもったいないなぁ、という印象を得るに至った次第です。

    と、ここで鴨がくどくどと述べるまでもなく、巻末の解説で大森望氏が「最後のところで論理よりも美を優先する反SF的な作風」と端的に表現しておられました。正にその通りの作風で、SFとして評価すること自体が筋違いなのかもしれませんね。気になる作家であることには違いないので、これからもチェックして行こうと思います。

  •  日本製のロボットDX9を媒介に世界各国のテロや紛争地区の近未来を描いた連作短編。

     民族問題や宗教問題などの歴史的背景と問題の複雑さが各短編で描かれるので、正直作品を理解しきれたかどうかは自信がないのですが、それでもこの作品に備えられている力というものは十二分に感じました。

     その力の理由に作品の独創性がまずあると思います。現代においても未だ解決の糸口が見えない民族や宗教の問題、それを近未来とDX9というSFのガジェットを使ってどう描くか。表題作や「ハドラマウトの道化たち」でのDX9の利用法や政治の統治法もすごいなあ、と思ったのですが、なによりすごかったのが「ロワーサイドの幽霊たち」。虚実を織り交ぜて語られる壮大な物語に心を奪われました。

     そしてそうしたアイディアだけでなく文章も独特の詩情があります。だから理解しきれなくても、これは力のある作品なんだな、というのが分かるのです。

    『盤上の夜』を読んだ時も思ったのですが、宮内さんは今までのSF作家とはまた違った世界を目指しているように思います。作中のSF要素もその世界を表現するために一番都合がいいのがSF的な世界観なだけであって、そのうち分類不能な新しい文学が宮内さんの手から生まれるのではないか、読み終えてそんな考えがふと湧いてきました。

    第34回日本SF大賞特別賞

  • SFは現在と地続きなんだと実感させられる作品。紛争地帯、テロの現場、そして斜陽の北東京の団地が描かれます。そう遠い未来ではないですが、実感を持って迫ってくる。

  • DX9という日本製の歌唱ロボットが落下するという共通設定を持った、主に世界の紛争地帯を舞台にした短篇集。
    解説にもあるように本書はこの主役ともいうべきロボットについての描写(容貌・落下状態など)が割愛されており、それ以外の世界描写が緻密な分だけ妙に幻想的。

    「ヨハネスブルグの天使たち」4
    「ロワーサイドの幽霊たち」3
    「ジャララバードの兵士たち」3
    「ハドラマウトの道化たち」4
    「北東京の子供たち」4

  • 書かされている、のだ。


    上質なSFでありながら、SFの形を借りて全く別の命題を書いている要素も、ある。
    所謂ポスト新本格、がミステリの形をしているけれどそこから更に踏み込んでいるのと、同じ構造なのかもしれないですね。
    良い意味で書かされている、というか。
    避けては通れない、というか。

    「なんで小説書いてるんですか?」と訊かれて、それが分かるんなら小説なんて書いてない、と応えたのは村上龍だったかと思うけど、
    そういう、なんていうか…漠然と、ただ筆を執らせるもの、というのがあるよな、と強く感じました。

  • 難しいし重いし暗いが、発送の面白さと奇抜さが良い意味でとっぽくて抜き出ている。
    解説を読むと、自分の見たものや趣味を反映させているようだが、それもまた非常にディック的でヤバくて良い。

  • 初めて手に取った宮内作品。
    正直言って難しかったです。
    それでもすごく宮内悠介らしい作品で、何度も読み返す一冊。
    どうにもならない現実と愚かな人々を描きながらも、希望と慈しみに溢れている。

  • 個人的にすごく好きだった。
    多分実際に海外で育っているから、
    取材旅行だけで適当な雰囲気の作とは違う
    リアリティが好き。
    文章の涼やかなとこも好き。

  • 解説が素晴らしすぎて感想を書くのが恥ずかしいというか、何を書いても、うん、解説にそう書いてあったよね!ってなる(笑)
    それにしても嘘みたいな事実と、事実よりもありそうな嘘が混じり合った世界観に脳が騙されてく感じがたまらなく快感。SFの論理性って科学的に正しいかどうかじゃなくて、ありえるって思えるかどうかなのかもと力づくで納得させてくる感じ、好きです。

  • 短編集であるが、DX9という歌うロボットが共通なガジェットとして登場する。DX9は日本が開発した楽器扱いの玩具ロボットである。本来の目的は人を楽しませるものだが、この作品では、高性能であるがゆえに、兵器として使われたりする。さらに、DX9は高所から落とされることを運命つけられたように扱われる。この落ちるDX9をどう解釈するか、どう共感するのか、読み手は自由である。ただし、明るい結論は出てこない気がする。本作は直木賞候補だったようだ。ただし、人を楽しませるエンタテインメントではなく、読者に考えさせるエンタテインメントである。純文学に近いかもしれない。

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著者プロフィール

宮内悠介(みやうち・ゆうすけ)
1979年東京都生まれ。2010年「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞してデビュー。12年同名の作品集で第33回日本SF大賞、13年第6回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞をそれぞれ受賞。14年『ヨハネスブルグの天使たち
』で第34回日本SF大賞特別賞。17年『彼女がエスパーだったころ』で第38回吉川英治文学新人賞、『カブールの園』で第30回三島由紀夫賞、18年『あとは野となれ大和撫子』で第49回星雲賞〈日本長編部門〉を受賞。近著に『超動く家にて』『偶然の聖地』『遠い他国でひょんと死ぬるや』など。


「2019年 『宮辻薬東宮』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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