- 本 ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150312008
作品紹介・あらすじ
戦火のヨハネスブルグで逞しく生きる戦災孤児が機械人形と出会う表題作他SF連作五篇
感想・レビュー・書評
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一話目、「ヨハネスブルクの天使たち」の冒頭数ページからはとてもこんな作品だとは予想できなかった。良い意味で裏切られた。
DX9という味気ない名前しかつけられていない日本製のロボット、通称“歌姫”が流通している架空の近未来が舞台のディストピアSF短編連作集。時代はおそらく2040〜50年代くらいか。
DX9、あるいは天使たち、は作品の軸ではあるけれども、具体的な外見の描写は控えめ。耐久性が恐ろしく高い、ということ以外ほとんど分からない。あえて抽象的に描いている感じ。
海外、特に中東やアフリカの内戦や戦争の記述が非常に詳しい。参考文献が各話の最後に記載されているが、執筆にあたり調査が徹底していると感じた。
文体は少しクラシックというかスノッブ気味に感じるところもなくはないけど、読みにくいとまでは言えない。ただ、短編連作というスタイルが効果的に発揮されているかは少し疑問だった。一つ一つの物語が少し物足りなく感じられたので、一本の長編という形を取った方がより面白く読めたかも。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
全体的に内省的で様式美に溢れてる作品。現代人の苦悩とかクソどうでもよくて、さすがに「北東京の子供たち」だけは読むに耐えなかったけど、「ジャララバードの兵士たち」、「ハドラマウトの道化たち」はエンタテインメントとして面白く読めた。事実の調査や盛り込みはすごいと思う反面、wikipediaを並べた小説(もちろん、この作品は違うけど)のように見えてしまって、やり過ぎはあまり好みじゃない。事実は小説よりも奇なりのフックを超えたやっぱり小説の方が奇なりを期待して、著者の近作を読もうと思う。
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DX9という日本製の歌唱ロボットが落下するという共通設定を持った、主に世界の紛争地帯を舞台にした短篇集。
解説にもあるように本書はこの主役ともいうべきロボットについての描写(容貌・落下状態など)が割愛されており、それ以外の世界描写が緻密な分だけ妙に幻想的。
「ヨハネスブルグの天使たち」4
「ロワーサイドの幽霊たち」3
「ジャララバードの兵士たち」3
「ハドラマウトの道化たち」4
「北東京の子供たち」4 -
書かされている、のだ。
上質なSFでありながら、SFの形を借りて全く別の命題を書いている要素も、ある。
所謂ポスト新本格、がミステリの形をしているけれどそこから更に踏み込んでいるのと、同じ構造なのかもしれないですね。
良い意味で書かされている、というか。
避けては通れない、というか。
「なんで小説書いてるんですか?」と訊かれて、それが分かるんなら小説なんて書いてない、と応えたのは村上龍だったかと思うけど、
そういう、なんていうか…漠然と、ただ筆を執らせるもの、というのがあるよな、と強く感じました。 -
解説が素晴らしすぎて感想を書くのが恥ずかしいというか、何を書いても、うん、解説にそう書いてあったよね!ってなる(笑)
それにしても嘘みたいな事実と、事実よりもありそうな嘘が混じり合った世界観に脳が騙されてく感じがたまらなく快感。SFの論理性って科学的に正しいかどうかじゃなくて、ありえるって思えるかどうかなのかもと力づくで納得させてくる感じ、好きです。 -
SFは現在と地続きなんだと実感させられる作品。紛争地帯、テロの現場、そして斜陽の北東京の団地が描かれます。そう遠い未来ではないですが、実感を持って迫ってくる。
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初めて手に取った宮内作品。
正直言って難しかったです。
それでもすごく宮内悠介らしい作品で、何度も読み返す一冊。
どうにもならない現実と愚かな人々を描きながらも、希望と慈しみに溢れている。 -
個人的にすごく好きだった。
多分実際に海外で育っているから、
取材旅行だけで適当な雰囲気の作とは違う
リアリティが好き。
文章の涼やかなとこも好き。 -
9.11や実際にあった事件をSFで紡いだ話。このSFの世界観に上手く入っていけず、もう少しでハマり切らんって感じが歯痒かった。嫌いでも苦手でもないんやけど、また別の機会に読んだらガッツリハマるのかもしれやん。
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日本製ホビーロボット・DX9と世界各国の巨大建築物を主軸とした短編集。物語の舞台は南アフリカ、アフガニスタン、イエメン、NY、そして日本と多岐に渡るが、全て戦争(民族紛争やテロ)を題材とする。当初の目的をとうに見失い、終わりの見えなくなった勝者無き争いの戦火を生きる登場人物たちの虚無感が重くのしかかってくるが、それでもしぶとく生き抜こうとする彼らの意志に胸を打たれる。SFではあるが、あくまで味付け程度に留められ、文学作品に限りなく近い質感の作品。直ぐに答えは出せずとも、人は歩み続けることが出来るのだから。
著者プロフィール
宮内悠介の作品





