伊藤計劃トリビュート (ハヤカワ文庫 JA イ 7-101)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (731ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150312015

作品紹介・あらすじ

早川書房編集部・編 王城夕紀、柴田勝家、仁木稔、長谷敏司、藤井太洋、伏見完、吉上亮──現代日本SFの中核から新鋭まで全7作の中篇を収録する。

感想・レビュー・書評

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  • ・公正的戦闘規範
    面白かった。描写の細かさにも圧倒された。また、人々がゲームによって殺人を犯している、というところで小林よしのり『新戦争論』『PSYCHO-PASS2』5、6話のハングリーチキンを思い出した。この設定はSFでは鉄板なのかな。

    ・仮想の在処
    設定にまず驚いた。また、人間の定義についても考えさせられた。AIで姉の存在についての記述が巧みだった。

    ・南十字星
    自己相というものをめぐって話が展開されていた。あらゆる人々のあ間で感覚が共有されている、という設定が興味深かった。民族、文化についての記述もあり、考えさせられた。また最後の、主人公が、短刀を首に当てたためシステムから警告されたことに対し、自分のへの殺意すら肯定しないシステムに対し叫ぶ場面は印象的だった。なかなか難しい文章だったので、また読み返したい。

    ・未明の晩餐
    幻想的な料理の描写が印象的だった。料理人に憧れた。(笑)また、死刑囚に最後の晩餐を作る仕事をする人物が主人公という設定が面白かった。

    ・にんげんのくに
    ぎっしり文章がページを占領していて、単語も難しく読みにくい文書だった。また、人間の本性である暴力性が容赦なく描かれていたため読んでいて、胸糞悪くなる話だった。麻薬が熱帯地域の先住民族の間で宗教的儀式に使われていた話は後で知った。

    ・ノット・ワンダフル・ワールズ
    作中のシステムが『PSYCHO-PASS』のシビュラシステムと似ていると思った。違うところは、この作品内のシステムは、提案されたものを拒否できる点だと思った。また、調和を実現するためには意識を無くす必要があるという話が、『ハーモニー』と似ていると思った。
    ラストが衝撃的だった。AIが全て操っていたとは。

    ・フランケンシュタイン三原則、あるいは死者の簒奪
    まだ読んだことがないが、『屍者の帝国』と似ている設定が使われていた。魂や意識について考えさせられ、興味深い内容だった。また、人物設定に関して、「ナイチンゲール」と、歴史上の人物の名が使われていたり、新撰組のような侍がイギリスで警護役をしているのが面白かった。

    ・怠惰の大罪
    メキシコの麻薬戦争が題材なっている話で、一人の麻薬王の誕生を描いている。元々客の一人であった、AI会社に勤めていたアメリカ人の手を借りてAIを駆使することで覇権を握ることができた主人公だったが、技術が発達するにつれて、犯罪もまた技術的に高度になるという点で、ギャングがAIを使うのは実際に起こりそうな話だと思った。また、AIを効果的に使うことを考えた主人公は賢いと思った。
    以上のように、テーマ的には面白いと思ったのだが、裏世界がリアルに描かれていて、『にんげんのくに』以上に胸糞が悪くなる作品だった。特に、主人公の弟マルコが誘拐されて出演させられたい殺人ビデオのDVD渡された主人公がそれを見るところや、主人公が拷問される場面が読むに堪えなかった。本当に容赦ないと思った。銃で指を吹っ飛ばされ、自害することもできないまま手足を縛られて爪は剥がされ歯は抜かれて目を潰されるなんて。そういえば、生きたまま内臓を出された人もいたな。グロ描写はさておき、全体的に退廃的な世界が描かれており、こちらが侵食されそうになった。それは、作者の文章力が高いからということになるのだが。


    全体の感想
      ↓
    非常に分厚い本で驚いた。一気に読むのは大変だったので、他の作品を途中で読むなどして間が空いてしまい、2020年12月末に読み始め、2021年6月前半に読み終わった。
    内容的にも重厚で重い話が多く、心身ともに疲れたが、いい経験になったと思う。
    『仮想の在処』『未明の晩餐』が気に入った。

  • 伊藤計劃の登場がゼロ年代のSFを方向付けた。戦争やAIや環境問題、そして心の在り処。今を生きる私たちの心に刺さる作品が集まった、レベルの高いアンソロジーだった。一人の作家に対し、プロの作家たちはこんな答えを提示するのかと感嘆したし、特に王城夕紀と伴名練の作品には伊藤計劃への深いリスペクトを感じた。あと作家たちの後書きが面白かった。アンソロジーを通して伊藤計劃を読んだときに見落としてたあれやこれやが浮かんできて、次はもっと深く読めると思う。

  • 伊藤計劃に影響を受けた作家たちによる書き下ろしアンソロジーをようやく読了。

    8人の作家が設定が被ることのない話を各々展開していて、読み応えは抜群。
    一部「ん?これはSFなのか…?」と首を捻ったものもあるが、なるほど、読み終えると確かにSFか、となる感じ。
    8作品の中で好きなのは『ノット・ワンダフル・ワールズ』『フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪』

  • 伊藤計劃って名前のせいなのか?
    この8人の作家による中篇集は、それぞれがかなりの攻撃力を持っている。
    またまた、それぞれが異なる作風で僕をアタックする!
    早逝した怨みを晴らそうとしているようだ。
    たまらん!

  • 目次
    ・公正的戦闘規範 藤井太洋
    ・仮想(おもかげ)の在処 伏見完
    ・南十字星 柴田勝家
    ・未明の晩餐 吉上亮
    ・にんげんのくに Le Milieu Humain 仁木稔
    ・ノット・ワンダフル・ワールズ 王城夕紀
    ・フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪 伴名練
    ・怠惰の大罪 長谷敏司

    どの作品も伊藤計劃の気配を漂わせているけれど、特に濃厚なのは王城夕紀の作品(ハーモニーの世界観)と、伴名練の作品(屍者の帝国の世界観)。
    この2作品は好きだなあ。
    特に伴名練作品のナイチンゲールは夢に出てきそうなくらい恐ろしい。

    単純な幸福はない。
    幸福に正解はない。
    けれどどの作品も屈託がありすぎて、胸が苦しくなる。

    本の分厚さもあって、心身ともに体力を必要とする読書でした。

  • 2009年に亡くなられた伊藤計劃氏へトリビュート。
    とりあえず買っておくか。

  • ゼロ世代によるトリビュート

     玉石混交というか散弾銃というか、とにかく圧倒の700ページだ。

     気に入ったのは、フランケンシュタインものと料理ものと仮想現実ものかな。具体的には、伴名練「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」、吉上亮「未明の晩餐」、伏見完「仮想の在処」。いずれも知らない作者さんだった。

     まぁまぁ楽しめたのが、藤井太洋「公正的戦闘規範」。知ってる作者さんだ。

     あとはギブアップ。続編も楽しみだ。

  • テクノロジーが人間をどう変えるのか、という問いを内包したSF、の中編集。

    サイバーパンクの定義はポストヒューマンという古く新しいテーマとして蘇った。

    ○公正的戦闘規範 藤井太洋

    藤井太洋に苦手意識があって、足踏みしてたけど、読み切ったら正統なトリビュートだった。
    中国語ってやっぱかっこよい。戦争のあり方を巡る個人の闘争。
    説明臭すぎるような。でもこんなもんか?

    ○仮想の在処 伏見完

    AIとして生まれ育った、死産する予定だった、双子の姉との対話。
    そこにも一応、仕掛けがあって。

    メモリアルAIというアイディアとして描写はトリビュートとしてあまりにも正統というか。
    ポストヒューマンSFの中編として隙のない作品。

    ○南十字星 柴田勝家

    クロニスタっていう長編の冒頭部分らしいが、この後どうなるんだ?
    カロリーが高いなこの中編集は。
    戦地に赴く文化人類学者。民族。自己と他者の境界。文体が思弁的過ぎて、小説としてはどうなんだろう。


    ○未明の晩餐 吉上亮

    料理人の主人公が、死刑囚の最後の晩餐を用意する。
    死刑囚が求めているものは何なのか、が解かれる謎となる。
    長編ぽいアイディアとキャラクター設定だけどバランスよく構成されている。

    ○にんげんのくに 仁木稔

    時代設定は実は、現代と変わらないっていうのは読みはじめてすぐにわかった。
    未開文明で生きている少年。
    異人と呼ばれる彼は風に操られるものだということを自覚する。
    風、は物語、作者のことなのかと思った。
    語り手が焦点化した人物(≒主人公)が異人であって、それをコントロールする存在を感知するっていうメタフィクションなのかな、と。

    未開文明のの歴史は19世紀程度にしか遡れないっていうのはそうだろうな、と。
    条件次第で人間になってしまう。
    お題に直球。

    ○ノット・ワンダフル・ワールズ 王城夕紀

    LeI。巨大コングロマリット。進化ビジネス。

    進化は選択で、ゴールは調和。
    ではない、という話。

    進化は選択で、ゴールはひとり勝ち。
    自己言及的な文章が多くて、このトリビュート自体も冷笑的な態度なのか。

    ○フランケンシュタイン三原則 あるいは屍者の簒奪 伴名練

    ここまでずーっと真っ当なトリビュートが続くのか。
    屍者の帝国的なアプローチで、切り裂きジャックの回顧録を描く。

    ○怠惰の大罪 長谷敏司

    これも長編の第一章なのか。
    AIがキューバの麻薬密売人たちの世界にもたらす影響。
    だが一人の男の立志伝というか、伝説がメインでSFとしてではなく、面白かった。

  • いかにも伊藤計劃トリビュートらしい中編集。
    戦争をAIから取り戻す「公正的戦闘規範」、AIが推奨される選択肢を掲示する世界「ノット・ワンダフル・ワールズ」が特に面白し、伊藤計劃らしさがある。
    分厚さもありSFはじっくり読み込んでしまうので時間がかかったが非常に面白かった。

  • ページ数のボリューム感に感動した…気に入ったのは「未明の晩餐」「ノット・ワンダフル・ワールズ」「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」

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著者プロフィール

一九七八年八月、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。二〇一四年、第十回C★NOVELS大賞特別賞を受賞した『天盆』(「天の眷族」を改題)で鮮烈なデビューを飾る。著書に、奇病に冒され、世界中を跳躍し続ける少女の青春を描いた『マレ・サカチのたったひとつの贈物』(中央公論新社)、本の雑誌社『おすすめ文庫王国2017』でオリジナル文庫大賞に輝いた『青の数学』(新潮文庫nex)がある。

「2018年 『マレ・サカチのたったひとつの贈物』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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