楽園追放2.0 楽園残響 ―Godspeed You― (ハヤカワ文庫JA)
- 早川書房 (2016年1月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150312152
作品紹介・あらすじ
深宇宙へ旅立ったAIフロンティアセッター。彼の追撃を楽園の中央保安局が命じたのは、反逆者のバックアップ、アンジェラ・ダッシュであった!
感想・レビュー・書評
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SF。VR。
アニメ映画『楽園追放』の続編・外伝・スピンオフ。
前提として『楽園追放』のあとに読むべき。
個人的に戦闘シーンは苦手だが、戦闘シーン以外はなかなか好み。
VRの世界に移住しても、資産が全ての格差社会とかいうディストピアっぽい世界観が良い。
フロンティアセッターは相変わらず可愛い。
エピローグ2が感動。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
クリスティン、いいよね…。
声、林原さんだし(え、そこか?)
これは良い続編。
荒廃した地球を旅した原作に対し、電脳世界と宇宙が本作の舞台です。
登場人物も楽園の少年少女達へ一新…かと思いきや、何とアンジェラ再登場。…だったら良かったのに、まさかのアンジェラのコピー、「アンジェラ'(ダッシュ)」。これは予想外と言うか…いきなり主人公の一人課せられた設定が重過ぎです。
これはつまり、本人のあずかり知らぬ中、「本人をもう一人作られてしまう」という個人の人格と命、個性を蔑ろにした行為が行われたということ。まさに電脳世界が成立しているからこそできる(起こりうる)行いですが…。作中、ユーリも言っていますが、なんて勝手な事を。傲岸不遜にもほどがある。
というか、全編を通して原作の比ではないほどに「楽園」の存在がをこき下ろされています。
登場人物は事あるごとにこぞって楽園dis。
そもそも、主たるキャラクターが上記のように反逆者(アンジェラ)のコピーであったり、下層市民(しかも反体制気味)だったりなので、「楽園」に肯定的にはなりにくいのですが。
それを差し引いても制度的な不条理が出てくる出てくる…。立場的な問題が原因のように見えますが、その根底には根本的な不公平と矛盾があり、そして皆(少なくとも登場人物達)はそれに気づき始めている。
特に楽園管理者、保安局は総じてパワハラ上司でクズムーブをかまし、読者の好感度をガシガシ下げてきます。
猜疑心の塊で厚顔無恥、傲慢の権化…と性格が悪いだけならまだしも、実務・管理能力すら皆無で何のために存在してるのか全く分からない。
彼らにとっての「問題解決能力」とは部下へ無茶ぶりする事であり、最善と最悪を天秤に懸けてよりマシな選択を獲る事すらできない。
下層市民は当然、直属の部下ですら切り捨てる。評価も温情もかけられないマネジメント能力の欠如。
……あれあれ? これってどこかで見た人達ですね?
結果として、この作品で(そしておそらく原作でも)描かれている「楽園」とは、「死を克服した『だけ』の世界」のようです。
いや、死を克服した結果、新たな束縛と諦観を得ているとすら(原作通り)。
…但し。
それでも「楽園」を選ばなければならなかった、という事情がある事も描かれているのが趣深い。
さて。
新世界への愚痴はともかくとして。
この物語はボーイミーツガール…じゃなくて、ジュヴナイルになるのでしょうか。
間違いなく少年少女が閉塞した古い世界から未知の世界を目指そうとする話。
彼らはそれぞれ「楽園」に居心地の悪さを覚えており、それゆえに「楽園」管理側からは不穏な存在と見做され不遇な環境に置かれています。
その不遇の末、「受肉」し星の海の中で星屑の除去という罰を課せられ……新しい世界への希望、フロンティアセッターの複製と出会う―
何とも心躍る導入です。序盤からひたすら不穏かつ危険な雰囲気に満ち満ちていますが(苦笑
ユーリのまだ見たことのない世界を見たいという衝動、ライカの恋心、ブラウンの後悔と覚悟…そのどれもが楽園から失われたもので。
ユーリとライカの子供らしい一途さ、無鉄砲さは実に応援したくなることうけあい。
…ただ、人間らしさというか仁義というもの、ケジメというものを描いていることを考えると、ブラウンの生き様は熱いと思わざるを得ません。
非常に難しいですが、死ぬ(かもしれない)事を持ってしか生を表せない事がある…のかも。
もう一人の主役、アンジェラ'。
…ひたすら不遇。
そもそもが反逆者の(関係者の)立場から始まっているので逆境上等ではあるのですが、それを払拭するために頑張っても頑張っても一向に報われない虚しさ。
それでも努力し続けなければ自らの存在意義を失うという強迫観念のままに空回りを続ける哀しさ…。
読者としては「楽園」が忠誠に値する組織ではないと思っているので、早くオリジナルと同じ心境に至ってくれれば…と思うのですが…。
そんなわけで、その分終盤の展開がひたすら熱くてたまりません。カタルシス。
単純な「倍返しだ!」という感じではなく、我慢して耐えて、溜まりに溜まったフラストレーションが一気に解放される感じもあり、気持ちいいったらありゃしない。
いわゆるコンビネーションアタックがたまりませんよね。是非アニメで見たいものです。
描写もさることながら「筆のスピード」も上がり、戦場の緊迫感と速度が感じられて実にいい…。
あと、「手刀を切る」。
これは欠かせない1コマ。ホントに「アンジェラ」になったように思えて胸が熱くなりますね。
余談ですが、アンジェラ'(アンジェラ)が「楽園」の価値観に縛られず、市民の人生や生命をかけがえのないものだと思っている点は、きっと彼女の生い立ちに起因するものだろうと思われます。
下層市民の生まれでありながら、稀有な才能を持ち、努力を重ねて上級市民、ひいては三等官にまで上り詰めた事が彼女のパーソナリティを作ったのでしょう。
…そこから、きっと、アンジェラ(オリジナル)がそもそも他のディーヴァ市民とはどこか違っていたのではないかと。
保安局の上司のように現状維持に終始し、改善も前向きになる事もできないのが一般的なディーヴァ市民なのかも。
だからこそ、アンジェラは幸運にも才能に恵まれ、努力して報われてきたからこそ、「楽園のウソ」に気づけていなかったのではないかな、と。
そして同時に、そんな「ディーヴァ市民らしからぬ」彼女の性質がディンゴに好ましく映ったのではないでしょうか。
最後にクリスティン。
良いとこ持っていきました。きっと、アンジェラ'に残った友情の欠片。そして「魂の牢獄」と化した「楽園」の希望。
大変だろうけど、まだ地球にだって未来があると思いたいです。
そんなわけで楽園追放の続編として非常に面白く、また興味深く読ませていただきました。
何ならまだまだ続編が出てもいいな、と思えます。
…個人的には、「猫アレルギーとかないよね?」がいいと思うんですよ。
彼女は一人じゃなくて、家族を作れているんだな、と思えて。 -
映画『楽園追放』の後日譚。楽園の刺客としてアンジェラの複製体が外宇宙へ旅立ったフロンティアセッターの追撃を命じられる。
映画の結末では、フロンティアセッターの旅立ちは孤独だった。一抹の寂しさを覚えたのは自分だけではあるまい。
こういう結末があっても良いと思う。あの映画が好きなら誰もが夢想するような救いのある物語だ。
これは謂わばもう一つの『楽園追放』であり、一つの新しい創世記だ。
著者の『楽園追放』への愛は行間から横溢している。原作を愛し、寄り添うような良いスピンオフだ。
尚、終盤の戦闘描写は圧巻。原作顔負けの快刀乱麻を断つが如き活劇も含めて、『楽園追放』のネームバリューに依らずとも、ひとつの小説作品として一読の価値は充分にある。 -
本作は、3DCGフルアニメーション映画『楽園追放―Expelled from Paradise―』の後日譚。当然ながら映画の内容を前提とした内容なので、読むのは映画(又はノベライズ)を当たってから。先に発刊されている前日譚『楽園追放 mission.0』の内容にも少し言及されているので、こちらも先に読むことをお勧めする。
映画が一つの作品としてしっかりと完結しており、また、特に映画の内容を補完するものでもない、もう少し"楽園追放"の世界に浸りたい人向け。前日譚と同様、原作者(虚淵玄)による作品ではないが、しっかりと世界観を引き継いでいるので、"楽園追放"の世界観が好みだった人にはがっかりとはならないだろう。
読んだ感想としては・・・まあこんなものだろう。可もなく不可もなく。改めて考えると、そもそも自分が映画『楽園追放―Expelled from Paradise―』に引かれたのは、ハイスピードに繰り広げられる迫力の戦闘シーン等の映像美であって、シナリオは二の次だったなと。 -
続編があるの知らなかった。前作と作者は違うらしいが、作者が本編のファンらしいので、期待して読み進めた。映像化したものも見たい内容。
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ライカ、ユーリ、ブラウンという3人の新キャラクターを加えた『楽園追放』の公式続編小説。アニメ映像向きの内容。ひょっとするとまた劇場アニメになるかも。
ジェネシスアーク号で外宇宙を目指す野生化AIであるフロンティアセッターと、それを阻止しようとする楽園ディーヴァの中央保安局との戦い。中央保安局は、裏切ったアンジェラ・バルザック捜査官のバックアップをもとにアンジェラ’を製造、地球圏に潜伏するフロンティアセッター’の炙り出しの使命を与える。アンジェラ’は、なぜオリジナルがそれまでに築いた地位を投げ捨てて裏切ったのか疑問に思いつつも、かつての特権を剥ぎ取られた上で任務に就くが・・・という内容。『楽園追放』の方が面白かった。 -
あとがきを読んでたまげたのがこれが二次創作だということで…。でも実質公式続編ですよね。というよりむしろ、こちらの幕引きのほうが「楽園追放」というタイトルに相応しい気がします。映画『楽園追放』とこの小説『楽園残響』のセットで「楽園追放」という話が完成するという感じ。
尺の都合とか諸々の事情であまり描かれなかったディーヴァの実情が詳しく描写されるのだけど、それが肉の身体を手に入れたディーヴァ下層市民の口を借りて発せられるのがいいですね。安いコーヒーの味がどうとか。
オリジナルキャラクターが大半だけど、フロンティアセッター(のコピー)は早い段階で出るし、後半のドンパチ騒ぎではまさにオールスターという風情で盛り上がりますね。ディンゴの出番は(ほぼ)ないけど。
映画の方はあれはあれでしんみりしていい幕引きなのだけど、やっぱりひとりぼっちは寂しいもんな。とても後味の良い物語の終わりと、新しい世界の幕開けを描いた素晴らしきスピンオフ。