深紅の碑文(下) (ハヤカワ文庫 JA ウ 4-5 The Ocean Chronicle)

著者 :
  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (581ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150312183

作品紹介・あらすじ

陸海の対立解消に奔走する者、種を宇宙に送り込もうとする者……苛烈な闘争の時代に己の信念を貫く者達が、この星に生の輝きを灯す究極の黙示録巨篇

感想・レビュー・書評

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  • 結局、最後まで青澄ら救済団体の善意・好意を拒絶し、逆に攻撃し続けたザフィールとその一味。「欲しいものは自分で決める。手助けはいらない」、むしろ迷惑だししゃくにさわる。過去の不幸な出来事を世代を経ても昇華できない狭量な人間の性がまざまざと描き出されている。

    一方、〈大異変〉が迫る中で強い反対運動に晒されるなど紆余曲折あったものの、DSRDは何とか物資輸送ロケット打ち上げを再開し、宇宙空間で宇宙船アキーリ号を組み立てた。そして25光年彼方のハビタブル・プラネット〈マイーシャ〉に人類の歴史と生命の種、そして人工生命体(コピー・マキ)を載せた無人宇宙船アキーリ号を送り出すアキーリ計画が実行に移されたされた。人類の希望と科学者の夢の結実、現実を取るか夢の実現にリソースを割くか、究極の問い。

    青澄のぶれない信念と行動が印象に残る作品だった。「華竜の宮」に勝るとも劣らない、読み応えたっぷりの作品。

  • 暴力の連鎖が辛い。
    ラブカの闘争は、そうなった経緯や心理的な面も丁寧に描かれていて、こいつらは悪人だと簡単に切り捨てられるものじゃないから色々と考え込んでしまう。

    しかしそれ以上に、宇宙開発に携わる人々の思いがとても心に響いて、胸が熱くなった。
    自分たちが結果を見届けることはない。けれどもきっと、その先があると信じている。
    それってとても心が豊かでいれられることだと思う。

    解説によると、この先にまだまだシリーズの続編が予定されているそうで、楽しみだ。
    惑星マイーシャの話、ルーシィの話、NODEの話、どれも読みたくてたまらない。

  • 下巻も読み応えがある世界でした。人の業は深い。
    人類滅亡が避けられない未来がやってくるのを知りながらも、分断と闘争はなかなか止められないないというのが…血塗れの「深紅の碑文」という言葉が重くのしかかりました。
    陸・海・空をそれぞれ、青澄・ザフィール・ユイという登場人物が中心になって描かれていました。
    青澄は救援活動、ザフィールはラブカでの陸との闘争、ユイはアキーリ号を宇宙へ放つ、というそれぞれの闘いは悲しい結末や消息不明にもなったけど、それでも、アキーリ号出発は救いでした。青澄は脳内で見てたんだな…再読で、意識不明中だったのに気付きました。副脳凄い。
    連作で続編も構想されているようなので楽しみです。

    「反対意見を持つ者を社会から排除したり、力ずくで叩き潰したりするような真似は、どこの誰にもさせてはなりません。それこそが、あの闘争から私たちが学び、最後まで担うべき仕事ではないでしょうか」…今の状況に重なる気がするので覚えておきます。

  • 1を解決するために2を無くす。そうすると2と共存関係にあった3は快く思わない。

    現実も様々な原因や現象が複雑に絡み合っており、この問題はこうすれば解決するという単純な道筋はないのだと感じました。
    また、自分の信念が揺らぎそうになる時、それをどうしたら保つことが出来るのか、それが出来る人は強い人であり、でもそれは側から見ると滑稽にも映ります。
    人それぞれ千差万別の考え方がある中で、多様性を重んじ、簡単に物事を解決しようとしない青澄さんを尊敬します。

  • 人の業の深さを感じる作品。
    前の作品では人一人殺すことすら躊躇していた青澄さんでしたが、彼の一生もまた血の深紅に染まってしまいました。なぜザフィールが今の彼に最後まで心を許さなかったのか少し分かるような気がします。立派な人であることに、変わりはないのですが。
    未曾有の危機を前にしたとき、人はどのように振る舞うのか…。多くの人に読んでもらいたい作品です。高潔な理想だけでは人は救えないということ、理想を実現するためには綺麗なままでは生きられないということを思い知らされます。

  • 様々な登場人物の生きた軌跡から、人間としての愛情豊かな生活が窺われ、未来人も
    やはり私たちと同じ人間だということが感じられる。

    どうぞ、25世紀の皆さんもこのつらい時代を生き抜いてください。

  • 「華竜の宮」の続編
    新たな登場人物の活躍、海の民の未来・・・
    上巻では「焦点を当てる人物が多い気がして、いまいち物語に没頭できなかった」と書きましたが下巻は、これら人物の結末が見事に描かれ、人間の愚かさや思いの強さは何でも叶うという、気持ちいい読了感です。

    この後の世界の小説も考えているようで、ぜひ読んでみたいと思いました。

  • 華竜の宮のラストでコピー・マキが言った「彼らは全力で生きた。それで充分じゃないか」と
    マキの「(アキーリ号にコピー・マキを乗せるという)それを選択なさったのはあなたです。これだけで、もう充分ではありませんか」が重なって泣いた。

    結局作中でプルームの冬はこなかった。
    陸と海が手を取り合うとか、全く綺麗に物事が進まなくてもどかしい。リアル。でも、実際には絶対にそうなるだろうな。海と陸にわかれてなくても世界中が一丸になって、みたいな想像出来ない。

  • 壮年から老境に入り陸の青澄、中年期から次第に老いを自覚していく海のザフィール、青年期から中年へと成長していく空を目指すユイが対照的に描かれる
    過度にきれいな構造や結末にこだわることなく、十分にありそうな紆余曲折が丁寧に描かれる
    主人公も決して、高潔なだけの人物ではなく清濁併せ吞む人物としてほかの主人公に相対する
    しかし降りかかる数多くの問題に苦悩しながらも理想を捨てない姿は逆に胸に迫るものがある
    SFとしての興味とともに、人間ドラマとしても一流のドラマであった
    まだ続編が予定されているようであり、そちらも楽しみである

  • ストーリーの終焉がきれい。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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