ユートロニカのこちら側 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 158
レビュー : 16
  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150312992

作品紹介・あらすじ

個人情報を提供する見返りとして、生活全般を保証する実験都市アガスティア・リゾート。理想的な環境が啓く"永遠の静寂"とは……。

感想・レビュー・書評

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  • 2018年、第38回日本SF大賞に輝いた『ゲームの王国』の著者のデビュー作。大IT企業のマイン社がアメリカ政府と提携し、実験的に開始した超最先端都市「アガスティアリゾート」。住民は、視覚・聴覚・位置情報などありとあらゆる情報をリアルタイムで提供する引き換えに、誰もが羨む豊かな暮らしを手に入れる。しかし、理想的に思えた都市での生活にも闇はつきまといー。
    広告代理店の元デジタル広告担当として、無料サービスの利用と引き換えにとっことん一般市民の顧客情報(ええ〜そこまで、と思う様な情報まで)が吸い上げられ利用される様を見てきたので、この本に書かれている世界に私達は既に片足どころか半身浸かっているのでは、と思わずにはいられない。
    例えば米A社が最近試験的に導入し始めたレジなし無人スーパー。支払いの全自動化で顧客は利便性を手に入れるが、A社には、いつ・何時何分に・何を購入したかが筒抜けになる訳だ。そしてその情報が毎日の様に蓄積されていけば、彼らは顧客の生活習慣から趣味趣向まで、手に取るように分かる様になる。でも、便利な生活が手に入るのであれば、それも悪くないのでは?果たして本作の理想都市に自分も住む機会が与えられたとしたら、どうするだろう?色々夢想しながら読まずにはいられません。あなたはこちら側とあちら側、どちらを選びますか?
    全体的に少々丸く収まっている印象は否めませんが、同じテーマを掘り下げているデイヴ・エガーズ著『ザ・サークル』よりは良く出来ていて好き。あと、ディストピアアニメ『PSYCHO-PASS』と一部似ている部分があるのでそちらが好きな人は本作も手に取ってみては。

  • ある巨大情報企業がサンフランシスコ沿岸に実験都市を作った。選ばれた者しか住めない住民はあらゆる生体情報(視覚・味覚・聴覚、位置情報)を企業に提供することによって報酬を得て生活している。プライバシーはトイレと風呂のみだが、街も人もデータとアルゴリズムによって管理され、犯罪はAIによって未然に防がれる。

    そこでは生活が保障され仕事をする必要がない。競争がないから何かに疲れることもない。住民は仲間とのレクリエーションや散歩、読書やスポーツなどで日々を過ごす。何をするかは個人の自由だ。もちろんストレスもない。人間関係に悩んだらAIに訊けばいい。誰と仲良くなり親友となれるのか、恋人や結婚相手もAIが教えてくれる。データとアルゴリズムによってその人に合った最適な答えに導いてくれる。

    街では犯罪や事故が起きないから寿命以外で死ぬことはない。つまりそこは生きていく上で一切の危険や危機がない。

    労働から解放され、犯罪や事故に遭うこともない。誰もが羨む理想郷としての都市。
    しかし、この世界に適応できなかった者たちがいた。ある者は体制に疑問を抱き、ある者は自由とは何か?と問い続け、ある者はユートピアという名のディストピアと闘うことを決意する。これが連作形式のSF小説のアウトラインである。
    読みながら科学の知見と文学的な想像力を兼備した著者の知性に圧倒されて、伊藤計劃の再来か・・、と驚嘆したが、デビュー作だけあって文章が多少ひっかかるところがあったのがたまに傷。


    この作品の素晴らしさは、テクノロジーや情報化は人間からプライバシーや自由を奪うという単純な話ではないところだ。問題はその先にある。それも深刻な話だ。
    そもそも、データとアルゴリズムによって管理された都市で暮らすと人間はどうなるのか。人から意識が消えていくという。
    人類の進化と歴史は裏切り者との競争の連続だった。
    個人が食べ物を獲得し生き延びるためには利己的であると同時に他の誰かと集団を築き協力や協調行動といった利他的行動も必要だ。利他的振る舞いにより多くの獲物を狩り、多様な食料を集め、分配と贈与に与れる。これらが生存確率を高める。
    しかし集団生活において利己的にしか行動しない、つまりタダ飯にありつこうというフリーライダー(裏切り者)がいる。こうした裏切り者との競争と闘争によって人間は法や制度、文化、宗教を作り、集団の協力を大規模化させ文明を作り発展させ、やがて現在の繁栄へと至った。
    ところがこのフリーライダーがテクノロジーによって炙り出され排除できるのなら、人間はあと何をすればいい?何もしない。
    こうした状態が常態化すると人間はどうなるか。誰かと協力して何かを作ったり発明したりしなくなる。ものを考えない。考える必要がない。想像力という概念すら変化していく。いずれ意識のない静寂な世界=ユートロニカが生まれる。
    技術を駆使して人が利便性のもとで誰からも強制されたわけでなく自発的に意識を手放そうとする。AIに意識が宿る前に人間が意識を手放すというこの皮肉。

    ユヴァルの「ホモ・デウス」を読んで真っ先に思い浮かべたのがこのSF小説だった。本作はデータ至上主義が実現した社会の姿と人の営みとその先まで描いている。今後の世界を見通す上でこの作品は思考実験になるし、考える素材を提供してくれる。それに、小説として純粋におもしろい。

  • 向こう側じゃなくて、こちら側。

  • 遠くない近い未来。自由の捉え方が変わる未来。管理された方が楽なのは本当だ。

  • 個人情報を全て提供するかわりにユートピアに移住できる。みたいな仕組みがある近未来が舞台の群像劇。

    最初にロボット工学の三原則から始まったから勝手に人間VS社会を管理するAI〜みたいなのを期待して読んでしまったので三章あたりからちょっと飽きてしまった。

  • 友人との待ち合わせの際に最終ページまで読み終わる。どうやら彼はもう少し遅れて来るらしい。幸いなことにそこは地元の駅前で、数年前にできた新しい店舗を含めて書店が二軒ある。少し逡巡してから行きなれた古い本屋に足を向け、見慣れた書棚から著者の次作「ゲームの王国」をレジに持っていった。
    大衆、自由、作られた社会システム、そこに相容れぬ者たち。僕が読みたかった物語がここにあった。こんな衝撃は「虐殺器官」以来だ。自分の脳みそでは作り上げられなかった物語がそこにあった。これだから読書はやめられない。

  • 『ゲームの王国』を購入してみようか迷っていた時に古書店で同作者のを見つけたのでポチッた。嫌いではないけど、別のも読んでみたいとまでは…

  • 全個人情報の管理された近未来社会を描く.6つの事象を例に,そんな社会はディストピアかも,でもそうじゃない可能性だってあるよね,と囁かれるような筆致なのだが,登場人物達が人工知能のような表層的な存在に感じて,いまいちのめり込めない.

  • 各章、少しずつ登場人物の重なる6つの物語。おもしろくて第四章まで一気読み。
    「アガスティアリゾート」はまだまだ実現には程遠そうに思えて、しかしよく考えてみれば情報銀行のようなものはすでに原型が生まれつつあるなと思う。いま現在、スマホに入れたアプリに対して個別に許可・拒否しているような個人情報が、もっと大枠の存在に吸い取られて管理される未来は突拍子もないものじゃない。
    その後、この物語では街づくりに進んでいるわけだけれど・・・現実では何が起こるんだろうなぁ。

    「リップ・ヴァン・ウィンクル」での、監視に無頓着でいられる人とどうしても耐えられない人、というのはすごく想像できる状態だなと思う。
    『鈍感さはこの街で最も尊い美徳のひとつなんです。時代は変わりました』

    「死者の記念日」での、旧世代のスティーヴンソンと時代に順応したライルとのかみ合わないやり取りもどこかで交わされていそうだ。
    『まるで差別が正当化されるような口ぶりだな』
    『これは決して差別ではありません。契約です』

    最後は宗教が出てくるところが、アメリカらしい。文体のせいもあって、翻訳ものを読んでいるような気分でおもしろかった。

  • 序盤〜中盤は面白いのに、ラストがなぁ‥まとめきれなくていい話っぽくして終わりました的な。

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