プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 805
感想 : 68
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  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150313234

作品紹介・あらすじ

北海道大学大学院で有機素子コンピュータを研究する南雲と、突然死した友人のAIが、恋愛にまつわる事件に巻き込まれる連作集。SFマガジン不定期掲載の4篇に書き下ろし1篇を加える。

感想・レビュー・書評

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  • 読書備忘録758号。
    ★★★★★。ちょっと悲しくなったので5つ。

    サブタイトルにあるように、グリフォンズ・ガーデンの後日譚短編集です。
    知能工学研究所(グリフォンズ・ガーデン)が閉鎖され、有機素子コンピュータは北大工学研究室に移譲された。
    そして型番がイッコ進んでいてIDA-Ⅺとなっている。
    コンピュータを構成するブレード上で会話プログラム(いわゆる自己学習型AI)が動作しているという背景設定で物語が語られる。コンピュータを管理しているのは南雲薫助教授。
    短編が進むに従い時間がちょっとずつ進んでいく形式。

    【有機素子ブレードの中】
    航空会社が運行する3泊4日の寝台特急。下関⇔釧路を走破する旅。この列車に乗り合わせた北上渉と尾内佳奈。
    二人は意気投合して旅を道連れる・・・。
    ただ、渉が時々つぶやく・・・。つまらん、とか、彼が設定してるとか・・・。
    この時点で気づく。どうやらこれはブレードの中の仮想現実の中。
    北大工学研究室のぼくがプログラミングしているようだ。"ぼく"は、助教の南雲薫とAI会話プログラムを使った出会い系サイトを運営しており、年商で億を稼いでいる。バレたら助教をクビになること必至!
    そして、仮想現実の渉はどうやら、自分がプログラムであり、プログラミングした"ぼく"を意識して行動している。"ぼく"はこのブレードだけ処理が暴走仕掛かっているのを気にしている。バグか?
    そして、バグに気が付く!そこは設定していない!

    【月の合わせ鏡】
    "ぼく"は突然死していた・・・。
    プログラミングを没入すると3日徹夜するような不健康な生活が祟り、バグに気が付いた時に心不全に陥ったみたいです。
    通信工学専攻の"ぼく"(前話のぼくではない笑)は鏡に写った世界は現在ではないことにこだわる。光には速度があるので、鏡で反射した世界が目に飛び込んでくる時には時間は進んでいると。過去が写し出されていると。
    この合わせ鏡を無限に繰り返すと・・・。
    "ぼく"は南雲のところを訪れ、ブレードにこの世界を構築する提案をする。南雲のところで契約社員として働いているのは尾内佳奈(笑)。"ぼく"と付き合っている。
    ただ、この短編の本当の物語は南雲がキーボードで会話している"ナチュラル"と呼んでいる会話プログラムの存在。南雲は突然死した唯一無二のパートナーであった"ぼく"をAI生成したのだ。その会話、友人との会話から離れられない南雲薫、過去に雁字搦めとなり前に進めない悲しさが主題だ。

    【プラネタリウムの外側】
    工学部の佐伯衣理奈。
    教授の藤野奈緒に会話プログラムを作りたいと相談する。ここで藤野奈緒登場!グリフォンズ・ガーデンで主人公の上司だった女性ですね。どうやら、主人公と結婚して幸せに暮らしている模様・・・。笑
    奈緒は、衣理奈に南雲のところに行けと指示する。
    そして、南雲は不承不承、衣理奈の要望を受けいれてブレードを一つ割り当てる。
    そこにプログラミングしたAIは自殺した友人、川原圭であった。衣理奈と圭は高校時代交際したが別れた。そして大学では恋愛以上の友人関係を構築した。そう、圭は同性愛者だった・・・。圭には気になる男性がいたが、そいつはどうしようもないやつ。告白したい圭を引き留める衣理奈。しかし、圭は告白してしまい、結果、瞬く間に圭が同性愛者であることが学内に広まった。
    そして圭は札幌駅で電車に飛び込んだ・・・。
    圭の自殺を思い留まらせたい!その一心で圭のAIと会話する衣理奈。しかし、なんどやってもプログラムは強制終了してしまう。要するにプログラムの自死。
    このままでは、衣理奈は永遠にこの無限ループから抜け出せなくなる。衣理奈を救うために"ナチュラル"が書き換えた。衣理奈を無限ループから救い出す。同時にそれは過去に雁字搦めになっている南雲を救うためでもあった。
    プラネタリウムという天動説の世界と、その外側である地動説の世界。う~ん!深い!

    【忘却のワクチン】
    経済学部の"ぼく"。高校時代の彼女だった香織のリベンジポルノがネットに拡散された。
    "ぼく"はなんとかそれを消したい。どだいそんなことは無理。いろいろ相談したが、無理と断られる。唯一無理と言わなかったのは工学部の佐伯衣理奈。
    南雲と相談する。南雲はナチュラルと相談する。
    消去の方法はあった。それは人間が記録をコンピュータに依存し、それを元に記憶を保っている構造を逆手に使った驚くべき方法。ウィルス+対処ワクチンによる記録の消去と、人々の記憶の改竄であった。
    これはAIが人間の心に踏み込む禁忌であった・・・。

    【夢であう人々の領分】
    出会い系サイトを運営する南雲と佳奈と衣理奈。
    3人は社員旅行として、釧路から下関の寝台特急を楽しむことにした。しかしそれは別の目的もあった。
    偶然ではなく乗り合わせた奈緒。
    AIがヒトの心の領分に踏み込む禁忌を危惧し、出会い系サイトの閉鎖と、IDA-Ⅺの初期化の命令であった。
    そして初期化。南雲はつぶやく。ここは設定しているか?と。

    素晴らしい幾何学的恋愛小説でした。
    現実と仮想現実がフラクタル構造になっており、工学系の読者の心を鷲掴みにする。それでいて、切ない恋愛小説。なかでも表題作が圧巻。
    ただ、男がモテすぎるのがちょっと嫌ですね!笑

  • 内容については正直、はっきり覚えていないが、AI、コンピューターなど、機械をメインに書かれているので、読んでいる時も、静寂したというか、パソコン等をいじっている時の不可思議な感じを、読みながら感じられる一冊かもしれませんね。読み手によっては神秘性も感じられる作品。

  • 描写されている言葉のひとつひとつに、そのものの意味とは異なる隠された意味があるように感じながら読みました。何重にもマトリックス構造があって、今はどの次元にいるのか分からなくなるのはグリフォンズガーデンと同じ。読んでいる間はその言葉や空気感に魅了されて心地良いのだけど、読了後は、薄ら寒く背中を冷たい何かが触っていったような、ヒヤッとする怖さを感じる。今でも感じている。
    人の記憶や感情は簡単に操作できる。実際ネット上では自分の正義が本当に自分の思考から出たものかどうか、全く信用できない状況になってきている。それでも世界は通常通り回っているので、個人の意識の良し悪しなどは大勢に影響ないのかもなとも思う。こんなに自分の意識に拘るのは、人だからだろうね。

  • 頭がごちゃってなる話であった。
    SF恋愛ものになるだろうか、マッチングアプリのサクラとして作り出された会話プログラムとしてのAIと、それを取り巻く人たちの話。
    プログラム内での話なのか、現実なのかの判断が序盤で狂わされ、気づけば思い出が消えている人がいて、個人的にはミステリーでもあったなと少し思っている。

  • 未必のマクベスがすきだったので、他のも読んでみたいと思って。やっぱりこのひとの文章すき。プログラムとか諸々専門的な事は解らないけどそれでもおもしろかった、解る状態で読んだらもっとおもしろいんだろうなあ。寝台列車乗って知らない街に行きたい。記憶って曖昧なものだな。そう考えるといつも不安になる、わたしの大切にしている"記憶"は、本当にあった事なのだろうか。

    「さくら」だった人間にはまたおもしろい話だった。というか、作者さんも「さくら」経験者なのではと思った。10年以上前、わたしは女の割に優秀なアルバイトだった(と思っている)けど、いまその業界はこういうプログラムで会話が成り立ったりしているのかな、と思うと不思議。



    百GBを超える記録容量をスマートフォンで持ち歩いて、家に帰れば、テラ・サイズのパソコンがある。ノートを取らずに板書をスマートフォンで撮って、講義を受けたつもりになる。友だちと旅行やゲームセンターで写真を撮れば、肌の色や目の大きさを補正して保存する。人間は、脳という記憶装置を外部化して、自分の記憶を軽視していると思わないか?

    惹かれていることと、恋人として受け容れることは違う。

    だって、誰かと夢で会うころって、その人が『不在』になってからだもん。

  • 不思議な物語で、恋愛小説という感じはしなかった。現実と仮想の境界が曖昧でよく分からなかったので不思議な感じがしたのかも。
    存在しないことと無はイコールではなくて、不在は有ることをしってるしそこにいなくても強力に意識し、作用し作用されるのだろう。面白かった。

  • 感想がありすぎて、不思議な話でした、という感想しか書けない…。読んだらしばらく本の外に戻ってこれなくなりました、それくらい引き込まれた。

  • たまたま書店で手にして、タイトルに惹かれて、読み進める手が止まらない、という滅多にない作品。きっと幾度となく読み返すだろう。

  • SFのようなラブストーリーのような。
    プラネタリウムの外側、サーバの外側。我々プログラマからすると未定義のひとことで片付けてしまう領域に思いをはせる。

  • 職場のトイレの手洗い場には正面だけでなく左右にも鏡が張ってあり、相互に映った自分の姿がずっと奥まで映し出される。
    一緒になった部下に『“燃えよドラゴン”みたいだな』と言ったら、『何ですか、それ?』ってという反応で、知らんのかい!?と思ったが、まあ、こっちのほうが古いか…。
    本書の2つ目のお話を読みながら、全く関係ないそういったことを思い出したが、してみると、トイレの鏡の中でも奥のほうに見える姿は厳密に言うと少し前の自分の姿を見ているということだな。

    コンピュータの会話プログラムの研究者・南雲、一緒に研究していて突然死した友人、元恋人の死の直前の心持ちを知りたくて会話プログラムに縋ってきた学生・衣理奈。
    亡くなった人とプログラムを通じて会話し、そこに作られる世界の内と外を心の中で行き来する。
    AIによる記憶の改変などの考えさせられるテーマも塗され、なかなか興味深い世界。
    端麗な文章で、男女の機微を絡ませたお話も面白く読めたが、私にはどの話も“落ち”がスッと入って来ずに些か消化不良でありました。

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