ヒッキーヒッキーシェイク (ハヤカワ文庫 JA ツ 2-2)

著者 :
  • 早川書房
3.44
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本棚登録 : 827
感想 : 103
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  • Amazon.co.jp ・本 (408ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150313791

作品紹介・あらすじ

「人間創りに参加してほしい」カウンセラーのJJは年齢性別さまざまな4人の引きこもりを連携させ、あるプロジェクトを始動する

感想・レビュー・書評

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  •  面白かった。作家と出版社の関係で物議をかもした作品。文庫化されて良かったと、率直に思った。

     引きこもりのカウンセラーをしている男が4人の引きこもり(ヒッキー)とあるプロジェクトを始める。そのプロジェクトが意外な方向に動いていく。結末はある程度予想がついたのだが、ちょっとしんみりさせられる

  • 幻冬舎から出た単行本を既読なのだけど(https://booklog.jp/users/yamaitsu/archives/1/4344029410)なんだかいろいろあったようなのでハヤカワさんに感謝の気持ちで文庫版も購入。まあ一連の騒動についての賛否は別として(しかし販売部数云々についての部分は笙野頼子の純文学論争と同質な気はする)津原泰水の知名度が上がったと思えばそれはそれでいいんじゃないかと。もっと読まれていい作家なのは間違いないし、これを機会に読む人が増えるといいな。

    既読とはいえ2年以上前に一度読んだだけなので、キャラクターは覚えていたものの結末をほとんど忘れており、初読同様新鮮な気持ちで楽しめました。改めて、ちょっとした細部での作者の巧さにも気づけた。私はあまりたくさんミステリーを読むほうじゃないけれど、どのタイミングでどこまで種明かしするかのセンスはやはり大切で、津原泰水はそれが絶妙なのだと思う。ローズマリー、タイム、パセリときてセージの登場のタイミングや、洋佑のある秘密に竺原はずっと気づいているのだけれどそれを読者に知らせるタイミングとか。

    あと主要人物以外の、つまりヒッキーではない脇役たちがすごく魅力的なのがとてもいいなと改めて。吹奏楽部の文太くんとか、ブリューゲルゼミの葵と鬼塚とか、竺原の幼馴染のお亀さんとか、こういう人たちの当たり前のようなさりげない善良さに世界は支えられているのかも。

    ところで大きなお世話だけど、津原泰水は基本はミステリーながらたいへん幅広いジャンルを手掛ける作家で、本作はややライトなほうだけど、真骨頂(というか単に私の好み)はもっと幻想文学よりのハードめの作品だと思うので、一連の騒動で津原泰水を知ったというひとむけに勝手に以下のような分布図(?)を参考までに。※個人の主観および既読のものだけです。

    <ライト(青春・お仕事)>
     ↑

    『ルピナス探偵団の当惑』『ルピナス探偵団の憂愁』(ルピナス探偵団シリーズ)
    『爛漫たる爛漫』『廻旋する夏空』『読み解かれるD』(クロニクル・アラウンド・ザ・クロックシリーズ)
    『エスカルゴ兄弟』(→文庫『歌うエスカルゴ』)
    『ヒッキーヒッキーシェイク』
    『ブラバン』
    『赤い竪琴』
    『たまさか人形堂物語』『たまさか人形堂それから』(たまさか人形堂シリーズ)
    『蘆屋家の崩壊』『ピカルディの薔薇』『猫ノ眼時計』(幽明志怪シリーズ)
    『綺譚集』(短編集)
    『11 eleven』(短編集)
    『バレエ・メカニック』
    『少年トレチア』
    『妖都』
    『ペニス』

     ↓
    <ハード(幻想・SF)>

    本作がとても面白かった!という方にはその前後に位置する『エスカルゴ兄弟』や『ブラバン』をおすすめ。これらは入手も簡単なはず。個人的にはやはり幽明志怪シリーズは是非とも読んで欲しい。耽美、幻想、SF系が好きな人には短編集『綺譚集』『11 eleven』、長編ならサイバーパンクな『バレエメカニック』を。私がいちばん好きなのは『少年トレチア』。『妖都』や『ペニス』は絶版なので入手が困難。これを機会にハヤカワ文庫か河出文庫あたりでなんとかならないかしら。あと私もまだ入手できていない『アクアポリスQ』も。

  • タイトルがどっかで聞いたことがあると思って口ずさんだら、曲調を覚えていた。カバー・イラストにあるのと同じ型のベースを持ったマッシュルーム・カットのポール・マッカートニーが『ヒッピー・ヒッピー・シェイク』と歌っていた。「ヒッキー」が引きこもりの俗称であることは知っていた。扉の裏に次のような文言が引かれている。

    ひき - こも・り【引き籠もり・引き隠り】
     仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、六ヶ月以上続けて自宅にひきこもっている状態。時々は買い物になどで外出することもあるという場合も「ひきこもり」に含める。(厚生労働省)

    読んで、ちょっと引いた。これで自分は、政府から正式に「ひきこもり」に認定されてしまったような気がした。妻もどこかでこれを読んだのかもしれない。本気で自分の夫のことを「ひきこもり」ではないのか、と心配していたことがあった。趣味は読書くらいで、何かをいっしょにやる知り合いというものがいない。ゴルフもカラオケも嫌いで、年に二回、学生時代の仲間と飲むのを除いたら、酒は家で飲むと決めている。

    なんだか、人間はずっと家にいてはいけないのか、という気がしてくる。勤めていたころ、雨になると仕事に出てこない人物がいて、理由を訊いた相手に、人間はなぜ家に屋根をつけたと思っているんだ、と返事したらしい。ちょっと変わった人だったが、ちゃんと本は書いて何冊かは売れたようだ。人が快適に暮らす場所として家があるという考えは誤りではない。たまに飛行機が墜ちたり、車が飛び込んで来たりすることはあっても、確率は低い。

    好きで家から出ない私のような場合は別として、出たいが出られないというのは辛いものがあるにちがいない。しかし、タイトルやカバー・イラストを見る限り、どうも暗い話ではなさそうだ。津原作品は一冊だけ『エスカルゴ兄弟』というのを読んだことがある。人生を深く考えるにはあまり役立たないが、面白い話だった。全部が全部、そういう世界ではないだろうが、「ひきこもり」をどう扱うのか興味がわいた。

    竺原丈吉というひきこもり専門のカウンセラーが、自分のクライアントの中から使えそうな人材をスカウトして「不気味の谷」を越えようとする話。そこに、世界的なハッカーであるロックスミスが加わって、ミッション・コンプリートとなるはずだったのが、どこからかロックスミスを上回る腕前のハッカーが登場して、せっかく創り上げたプロジェクトが思いもかけない方向に漂流しはじめる。

    ネット上で「不気味の谷」を超える精度のCGの美女を動かそうというのが、竺原の目論見のようだが、同郷の友人の榊にさえ詐欺師扱いされている竺原のことを、人一倍猜疑心の強いロックスミスは端から信じていない。いざというときには自分の手でどうにでもなるという自信がロックスミスにはあり、独自の動きで牽制しつつ、プロジェクトは進行する。

    竺原が考えた四人のハンドルネームは、パセリ、セージ、ローズマリー、タイム。有名なバラッド「スカボロー・フェア」の歌詞から来ている。パセリは苦味を消し、セージは忍耐、ローズマリーは貞節・愛・思い出、タイムは勇気を象徴するという説がある。パセリは白人の父に似た容貌を持ちながら、日本育ちで英語が喋れない。周囲から浮く美貌もコンプレックスになっている。絵はかなりの腕前。セージは技術はピカ一だが会社勤めに不向き。中学生のタイムは熱血教師の指導があだとなり学校で嘔吐する癖がついた。ベースを弾く。

    パセリの原画をセージがポリゴン化し、タイムがセリフをつけた「アゲハ」を動かすのがローズマリー(ロックスミス)だ。竺原の狙い通り、四人はそれぞれ他人との共同作業を通じて、少しずつ知らない間に「ひきこもり」から脱却していく。同時進行する別のプロジェクトも軌道に乗り、万々歳かと思ったところに邪魔が入る。竺原が次に仕掛けようと思っていたウィルスが、「ジェリーフィッシュ」という凄腕ハッカーの手で、彼らのプロジェクト「アゲハ」に仕込まれ、「アゲハ」を見た者はそのサイトに誘導され、病気になってしまう。四人は強力な敵とどう戦うのか。

    名伯楽がいて、特別な才能を持つ協力者を募り、ある使命に向かって死力を尽くす。『七人の侍』や『鷲は舞い降りた』などに見られる共通のパターンがここでも用意されている。竺原が狩り集めた四人が果たす使命はいったい何なのか、最後まで目が離せない。なにより、竺原自身がうそつきを自認しているので、プロジェクト自体が「信頼できない語り手」によって書かれたシナリオであることが明かされている。お約束のどんでん返しが披露されたところで、話はストンと幕を下ろす。少し風呂敷を広げ過ぎた気もするが、後は野となれ山となれ、という感じがいっそ清々しい。

    『日本国紀』をめぐる騒動で、幻冬舎から出るはずだった文庫が早川書房から出版された経緯は、新聞にも出たのでここで詳しくは書かない。結果的には作家の考えを広く知らしめ、新しい読者を得たと思う。単行本の表紙を飾っていた、ビートルズの『REVOLVER』のジャケットを描いた、クラウス・フォアマンの原画が使えなかったのは残念だったが。

  • タイトルは、チャン・ロメロという人のロック曲「ヒッピー・ヒッピー・シェイク」のもじり。ヒッキーと言えば宇多田ヒカル。ヒッキーが「ヒッピー・ヒッピー・シェイク」歌ったらカッコいいよな…と思う。

    ヒッキー(ひきこもり)ズが人間創りをするという、興味深いプロジェクトの話。小気味好い展開で面白く読めたけど、ドライな印象の小説。

  • 早く寝なきゃ、なのにページを繰る手が止まらない。あぁ今夜も夜更かしだ…。
    久しぶりにそんな読み方が出来た。
    軽快だけど軽過ぎず、適度に読みやすい文体。

    変に道徳的過ぎないのも好ましい。全ての登場キャラクター達に純粋な意味でのハッピーエンドは無い。それぞれに甘辛ミックスな現実がある。
    だけど最後には一筋の希望の光が。

    スレてしまった大人でも心が温かくなる、爽やかな青春冒険譚。

  • 津原泰水という作家を知らなかった一人。
    Twitterの顛末を知って、『11』を買ったけど、合わなくて、この作品も買った。悔しいけど、合わなかった(笑)

    というわけで、津原泰水は私にとってのユーファントなのかもしれない。

    引きこもり達がインターネットを通じて、人間を創るというプロジェクトに携わっていく。
    それぞれがエピソードの中で、自分なりの扉を開けていくという、お話。
    メインの目的地が見えていながら、まず脇道で立ち尽くしたのが、イハイトの爪という挿話だ。

    有名なギタリストの兄を持つ妹が、兄の爪が欠損したときのために爪を伸ばしている。
    という短い挿話で、なぜか一気に耽美な方向へ(笑)

    幻の象、ユーファントの話も、痴漢から果敢に美少女を救うブリューゲルゼミの話も、面白い。
    なのに、肝心のアゲハにまつわるメインストーリーにハマれなかった。
    不思議なことも、あるものだ。

    世界は何次元で出来ているのだろうか。

  • 軽妙で、お茶目なんだけど、描写が誠実というか、「引きこもり」の人たちを決して馬鹿にしたり、過剰に持ち上げたりしていないところにものすごく書き手として信頼できる人だなって感じる。とはいえ読んでいちばんの感想は「とにかく、ただ面白い」。大好きな作家さんが1人増えました。

    題材としてタイムリーなものがたくさん出てくるし、しっかりと練られているんだろうなあとは思うんだけど、そういう練り具合を読者に押し付けてはこないところが読んでいるときの純粋な心地よさに繋がっているのかなと思う。あとは文章として、奇抜な、豊かな語彙の比喩も出てくるし、言い回しが凝っているんだけど、テンポの良いストーリーの邪魔にならないのは何でだろう、決して鼻につかないし、すごいなと思った。「掃除機の予備吸い込み口のような」って!!でもよく分かる。

    その一方で、Twitterでのクールなご対応(褒めてます笑)から、すごく複雑な描写ばかりかもと勝手に思ってたら、登場人物の、「信じてもらえたら嬉しい」「褒められたら嬉しい」「不安だけどちょっと頑張ろうと思えた」というような、共感できたり励まされたり応援したくなったりする心の動きもストレートに描かれていて、とても良いなと思った。決して頭が良くないと読めないようなことはなくて良かった。笑

    登場人物みんないいところもダメなところもあって好きだけど、いちばんパセちゃんが好きだったな!まっすぐで、自分の弱さにもまっすぐで、そういうところ素敵だよって、言いたくなるような子。「ほかの人生はないのだ!」この一言に心震わせずにいられる人がいるだろうか?ただの事実なんだけど、その事実を、噛み締めて満喫して生きていきたい、と思った。

  • 元々、著者の綺譚集が大好きで、他のも読んでみたいなと思ったときに、表紙とタイトルのキャッチーさに惹かれて買っておいた。
    サクサク読めた、面白かった。

    私も以前、積極的に外に出るのが難しい時期があって、その時にこういうことがあったら、今とはまた違った人生を歩んでいたのかもな、なんて思った。

    引きこもりが問題とか言われるけど…彼らには彼らなりの理由があるし、作中のビッキーズのように、才能がある人だっている…だから、竺原の様なカウンセラーがいてもいいんじゃないかなとも思った。

    引きこもり問題って、結構ナイーブな面があるけど…この話は明るくて楽しかった。
    詐欺師だーとか言われていた竺原の来歴と、最後を知ると…ちょっとしんみりしてしまった…。

    ただ、ビッキーズのみんなのドタバタで明るい(?)未来が、〈続けろ!〉から想像出来て、ちょっと楽しい気持ちになった。

    綺譚集とは全然違う…他のも読みたいと思った。

  • 件の騒動がなければ手にしなかったであろうけど、なかなかよかった。

  • いつも利用しているe-honの予約ランキング上位に突如登場していて、刊行を知った。これまでこんなに力を込めて予約ボタンをクリックしたことはない。そうだよね!買うよね!話題になったから読んでみるという人も多いだろうけど、「津原泰水を売れない作家扱いしやがって。見とけよ見城!」と鼻息荒く購入する人も私だけじゃないと思う。

    ヘイトスピーチを垂れ流す「人気」作家。「コイツの本は売れん」と公言する出版社社長。悪夢のようだが、これについてはもう言わない。今回自分が一番痛切に感じたのは、「買わなかったらこんなこと言われちゃうんだ」ってこと。好きだったり、おもしろいと思ったりしている作家でも、買わなかったら支持者としてカウントされない。本って生活必需品じゃないから、買うのにどうもそこはかとない後ろめたさがつきまとうのだけど(この気持ちも私だけじゃないよね?)、ええい、買うよ!これからはもっと!…限度はあるけど。

    で、すぐさま読んだ本作の感想だが、やっぱり素晴らしかったー!…と言えたら良かったのだけど、まことに残念ながら、そうとは言いがたい。私が津原作品で好きなのは、幻想系の「バレエ・メカニック」(イメージの奔流が最高)、ミステリでは「ルピナス探偵団の憂愁」(切ない~)、ホラーでは「蘆屋家の崩壊」(マジ怖い)、普通小説なら「ブラバン」(青春音楽ものの傑作)など。あらためてこうあげてみると、実に多彩な才能だなあと感嘆してしまう。結構たくさん読んでいると思うが、あんまりピンとこないのもちらほらある。本作の印象は、例えばその一つである「エスカルゴ兄弟」に似ている。

    いや、作品世界としてはまったく違うのだが、読んでいるあいだずっと、これはどういうたぐいのお話なのか腑に落ちず、とは言ってもどこかしら惹きつけられるようでもあり、どうにも居心地が悪いまま読み終えてしまう、という点が共通しているのだった。要するに、好みではないということだろうけど。

    もちろん、胸に響いてくるものはある。ある登場人物の「ほかの人生はないのだ」という言葉が忘れられない。そう、誰だってそれぞれ、そこに至るのっぴきならない道のりを歩んで今があり、これからだって「ほかの人生はない」のだ。語り方が自分のストライクゾーンではなかったけど、芯にあるものは充分受け取ったと思う。

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著者プロフィール

1964年広島市生まれ。青山学院大学卒業。“津原やすみ”名義での活動を経て、97年“津原泰水”名義で『妖都』を発表。著書に『蘆屋家の崩壊』『ブラバン』『バレエ・メカニック』『11』(Twitter文学賞)他多数。

「2023年 『五色の舟』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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