ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
4.14
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本棚登録 : 989
感想 : 52
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150314057

作品紹介・あらすじ

百万人以上の生命を奪ったすべての不条理は、少女と少年を見つめながら進行する……まるで「ゲーム」のように。規格外のSF巨篇!

感想・レビュー・書評

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  • カンボジアのポルポト政権下を舞台とした冒険小説。
    SF作品として数々の賞を受賞しているが、上巻ではSF的な話はあまりない。

    ポルポト、クメールルージュといえば、映画『キリングフィールド』が有名であるが、それを文章化した本といえばわかりやすいだろうか。

    原始的な生活を至上とし、数多くの知識人を虐殺したポルポト政権下のカンボジア。
    そのような状況のなかで生き抜く二人の少年少女。
    二人の生きざまには手に汗握るものがあった。

  • 舞台は1956年~1978年、フランスから独立後混乱が続くカンボジア。独裁、圧政、汚職、腐敗、秘密警察、密告、処刑。元国王・国家元首シアヌーク独裁下の状況は、ロン・ノルがクーデターで政権を奪っても変わらなかった。デタラメな政府の転覆を目指した共産主義革命勢力クメール・ルージュの首魁サルト・サル(ポル・ポト)は、秘密警察の手を逃れ、民衆の不満を背景に革命を成功させたが、トップに立った途端疑心暗鬼に駆られ、以前にもまして強烈な恐怖政治を始める。

    乱れに乱れた政治に翻弄され、死と隣り合わせの生活を強いられるカンボジアの人々。反政府の噂を立てられただけで簡単に処刑されてしまう恐怖は人々に不満を募らせる。

    こんな厳しい時代、本書に登場する若者たちは、何故か異能者ばかり。田舎村ロベープレンソンの超秀才少年ムイタック、プノンペンの孤児(実はポル・ポトの娘?)で他人の嘘を見抜く超秀才少女ソリヤ、土と言葉を交わし土に命令もできる少年プク(泥)、輪ゴムと会話でき村人の死を予言するクワン(輪ゴム)、13年間喋らず突然美声で歌い出したソングムスターのリラ(鉄板)等々。そういえば、綱引きの神が宿るマットレスという大人も出てくる。

    彼ら彼女らは、ポル・ポト政権の内部或いは外部から政権に対抗していこうとする。

    これって、史実をベースとした革命ドラマ? それともオカルトチックなファンタジー? 上巻を読んだだけでは先が全く見えない。唯一ハッキリしたのは、ポル・ポト政権打倒という志を同じくしながらも、深い遺恨を残したムイタックとソリヤが鋭く対立していくであろうということ。

    下巻が楽しみ。

  • 面白いと言えるかどうかはまだ分からない。それでもこの『ゲームの王国』が持つただものでない雰囲気は、上巻序盤で伝わってきます。ゲームなんかをやっていると、バトルの時のBGMの入りで「これヤバイやつや……」となるのですが、そんな印象を受けます。

    物語は1950年代から70年代のカンボジアが舞台。権力者や警察による弾圧的な政治や捜査が横行する時代。革命を目指す地下組織クメール・ルージュが活動する一方で、
    彼らを追いかける秘密警察は、一般市民に対しても理不尽な捜査や拘留、そして拷問すらためらいなく行い、自分たちの都合の良いように調書を作り上げます。その秘密警察によって、育ての親を殺されるソリヤという少女。

    同じくカンボジアの小さな集落。常人には理解できない言動で、親をはじめ村人たちからも気味悪がられながらも、独自の生活リズムを崩さない少年のムイタック。そのムイタックの才能を、村で唯一勘づいているムイタックの兄、ティウン。

    彼らが運命の邂逅を果たしたその日。革命が起こり政府は倒され、クメール・ルージュが新たに権力を握ります。理想の共産国家を目指す彼らは、その思想の元、国民に新たな生活を強いるのですが……

    このクメール・ルージュの支配下の描写がえげつない……。自分たちに牙を向ける可能性のある一般の知識人たちをまず粛正し、その後、組織に刃向かうそぶりを見せた者、組織の思想に合わない者も処刑。
    結果、誰もが密告を恐れ、疑心暗鬼となりクメール・ルージュ内でも、幹部たちによる密告合戦の様相を呈しはじめ、一方で誰もが処刑を恐れ、失敗や間違いを公に認められなくなり……

    一方でムイタックたちは独自のルールを作りクメール・ルージュの支配下でも理想郷を作ろうとするのですが、それも上手くいかず……。

    この二つの例から、統治された組織、そして国家まで作るのはいかに困難か、というのが現われているように思います。ムイタックは作中でルールには二種類あると語り、ルールそれ自体と、ルールを縛るルールがあるとしています。

    例えば憲法なら、憲法の条文それ自体がルールであり、そもそも憲法は守らなければいけない、という前提であったり、あるいは、国民投票なんかで憲法を改正してもいい、というのがルールを縛るルールということなのだと思うのだけど、
    それをムイタックはゲームのルールになぞらえつつ、国や革命を見通していきます。この辺の論理がだいぶ面白かった。

    一方でソリヤは、正義を遂行しカンボジアを変えるため権力を指向するようになっていきます。そしてその道は、捨てるもの、諦めるものを選択する道でもあり……

    カンボジアというあまり見ない舞台設定に加え、統制される思想と運命や暴力に屈し、不条理に倒れる人々と、物語は暗く重く、そして話の流れもなかなか見えてこないので、読むのはやや苦労しました。

    しかし最初に書いたように、物語全体に漂うただものでない雰囲気に飲まれ、いつの間にか、歴史と思想、虚実入り乱れる壮大な物語に憑かれてしまったようにも思います。

    こんな重たい話でありながらも、ところどころブラックユーモアというか、下品なネタに、頭の中で常に綱引きする男。土と会話し操れる男。百発百中のゴム占いをする少年と、とんでも要素を物語の一部に組み込んで、そしてなぜか成立させてしまうあたりが、また不思議で仕方ない。これも『ゲームの王国』が持つ物語の力なのかも。

    そしてここまでの壮大かつ壮絶な物語がある意味で、上巻ラストの前フリにすぎないという事実にも、また末恐ろしい気持ちがします。

    凄い物語と、面白い物語は、自分の中で必ずしも一致するわけではありません。だから、上巻読み終えた時点では面白いとは、言い切れないのだけど、この『ゲームの王国』は凄い小説、ヤバイ小説、とんでもない小説なのは、まず間違いないと思います。

    第38回日本SF大賞
    第31回山本周五郎賞

  • 物語では絶望的な世界に登場人物たちが置かれており、目を背けたくなるような惨状のシーンが繰り返し登場する。登場人物達が次々死んでしまうので、読後感が悪い章も多い。独裁政権に至ってしまう構造や、なぜそれが皆間違っていると分かりながら持続し、進んでしまうのかという社会組織の構造がそれぞれの立場の人間の視点から描かれていてわかりやすかった。ムイタックとソリヤという二人の天才がポル・ポトを打倒するという同じ目的を持ちながら、その道を分かつという物語の大枠は典型的でありながらも、興味を惹きつけられた。途中、泥や輪ゴムの超自然的能力が登場し、どういう世界観なのか混乱した。下巻でどういう結末にもっていくのか期待大。

  • 登場人物が多いので、何度もこの人誰だっけと説明を見返し、えっこの人が死んでしまうのと恐れ慄きながら読んでいました。

    戦後のカンボジアの歴史やカンボジア難民については覚えていたようで覚えていなくて、今更ながらクメール・ルージュとかポル・ポトについて調べ直したりしながら手に汗握って読みました。

    いつの時代も結社や宗教には内ゲバや粛正があり、その中を命をかけて逞しく生きて行く登場人物に感情移入しながら読んでいました。

    シリアスな話にも関わらず、ところどころ超能力を持つ人物がいたりしてそこも面白かったな。

    自分がこの時代のカンボジアに生きていたらあっという間に殺されていたなと思いながら、この時代の理不尽かつ狂気に満ちた殺戮に怒りを覚えたのに、現実世界で起きている同様の出来事には完全な他人事と受け止めていた自分自身に気づいてなんとも言えない気持ちにもなりました。

    正しい考えが正しい結果を生むわけではない。政治とは正しい考えを競うゲームではなく、正しい結果を導くゲームだ。

  • 「あれ…?この小説、SFなんだよな…?」という疑問を頭の片隅に抱えながらも、数十年前のカンボジアの凄惨な状況に意識が向き、次第にSF作品かどうかなど気にならなくなる大作歴史小説…と思いきや、これが全て前振りになってしまうのが同書の凄いところ。

    ポル・ポト政権の凄まじさは一般教養程度に知っていたが、ポル・ポトの名前があまり出てこないのでWikipediaで調べてみたら、重大なネタバレを発見…とショックを受けたが、全くネタバレではなかった。

    というか、上下巻を読み終える頃には「その設定すら完全に前振りなんかい!」とツッコミたくなるので、むしろWikiでポル・ポトについて調べてから読んでも良いかもしれない。

    完璧な下巻のために書かれた完璧な上巻。

  • 週末に上下巻を一気に読了。
    いやー、なんかスゴいもん読んじゃったなぁ、と思います。登場人物は皆、愚者か狂人か天才、あるいはその全て。語弊を恐れずに言えば、J・G・バラードっぽいです。「夢幻会社」とか、あの辺り。
    詳細は、まとめて下巻レビューで。

  • カンボジアの歴史が全然わかっていなくて最初の方でつまずいたので、大まかに調べてから読んだ。
    秘密警察とか強制労働とか虐殺とか恐ろしいんだけど、そういう時代をどうやって生き抜いていくのか、とにかく先が気になる。
    ジャンルがSFというのも気になっていて、上巻ではそういう感じがしないから、この後何がどうなるのか予想がつかない。

  • あらゆる権力、政治システムが腐敗し、前提となるルールが存在せず理不尽な生活を強いられる社会↔︎ルールが機能していて、スタート地点が同じ。正しい努力によって皆に成功の可能性があるゲームのような世界。

  • 本当に日本人が書いたのか?と思う位に総大。カンボジアの歴史を調べ直した。大作で傑作。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年に『ユートロニカのこちら側』で 第3回ハヤカワSFコンテストの大賞を受賞しデビュー。『ゲームの王国』で第38回日本SF大賞と第31回山本周五郎賞を受賞。他の著書に『嘘と正典』がある。

「2021年 『Voyage 想像見聞録』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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