獣たちの海 (ハヤカワ文庫 JA ウ 4-6 The Ocean Chronicle)

著者 :
  • 早川書房
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本棚登録 : 340
感想 : 25
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150315146

作品紹介・あらすじ

陸地がほぼ沈んだ25世紀。海に生きる海上民と〈魚舟〉や〈獣舟〉の美しくも激しい生きざまを叙情的に描いた、待望の全作書き下ろし4篇

感想・レビュー・書評

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  •  首を長くして待ったオーシャンクロニクル・シリーズの最新中短編集。短編三つと中編一つからなり、全編書下ろしである。すべて海上民と魚舟の視点から語られている。それらは、「華竜の宮」と「深紅の碑文」で描かれる時代の出来事となっている。そして短編「老人と人魚」では、名前こそ明かされないが長編に登場するある人物の最後が語られたりする。前述の2作品は、「日本沈没」や「デューン 砂の惑星」と比肩されることもあり、ぜひとも読むことをお勧めする。

     そして圧巻は、中編「カレイドスコープ・キッス」だろう。海上民と地上民、海上民同士、人とアシスタント知性体(描写が少なめだが)の関係が上手く深く描かれている。最後はじんわりと泣けますよ。

     次の短編集は人間の末裔たるルーシィを描いたものになるらしい。期待大です。

  • 短編が3作品と、中編が1作品。
    オーシャンクロニクル・シリーズを読むのが久しぶり過ぎて、用語や設定の記憶が曖昧だったけど、読み始めたらすぐに物語の世界に入り込めた。
    ああもう絶対シリーズの長編を読み直そう。

    短編作品はどれも、その世界に生きるものの姿を一部切り取っていて、それだけでしっかりと心を掴まれた。
    一部であってもきちんと描かれている世界観が好きだ。

    でも私はある程度長いエピソードのほうが面白くて、「カレイドスコープ・キッス」がよかった。
    海上都市で生活する海上民と、魚舟で生活する海上民の物語。
    問題が起きた時の、疑う人、信じる人、対話と交渉。このシリーズらしいなと感じた。
    夢中になって一気に読んでしまった。

  • 「華竜の宮」と「深紅の碑文」に挿入できなかった4つのエピソードを収録した、オーシャンクロニクル・シリーズ最新作。「深紅の碑文」に続けて読みたい作品。この世界観好きだな。この後もシリーズが続くといいな。

    「迷舟」
    朋と出会えず満たされない思いを抱くムラサキは、船団からはぐれた迷舟を何とか手懐けようと試みるが…。

    「獣たちの海」
    魚舟は、人の子とともに誕生するとすぐに海へ放たれる。やがて成長すると、本能の命ずるまま自分が生まれた船団へと戻ろうとするが、探し出せないまま時が過ぎると次第に我を忘れ、獣舟化していく。

    「老人と人魚」
    〈大異変〉が迫る中、独り者の老人は島を出る決心をする。島に打ち寄せられた〈ルーシィ〉をヨットで牽引しながら。

    「カレイドスコープ・キッス」
    船団を離れ、海上都市マルガリータに住む海上民のメイは、アシスタント知性体レオーと共に育ち、学校を出るとマルガリータ周辺を漂白する船団を保護するリンカーとなった。やがて、ある船団の若きオサ、ナテワナと出会う。

  • 25世紀、陸地がほとんど海に沈んだ時代の物語

    海上民と陸上民に別れ、海上民は「魚舟」と呼ばれる人工生物を操りながら暮らすと言う設定

    現実でも起こっている文化や差別、貧富、マイノリティの問題、争いをリアルに描かれていました

    昨今の異常な気象を考えると、海面上昇は現実に起こっているし、「魚舟」のような人工生物まで作り出せるからわからないけれど、これも人間のDNAを改変して、生殖機能を改変して作り上げられたもので、人間は追い詰められると、そう言うことを平気でやりかねないよなぁ、と感じたりもしました

    「魚舟」が野生化したり、テロ組織のような集団ができてしまったり、とにかく人間本質的な部分は、どんな時代、状況になっても変わらないのかも、とも感じました

    ちょっと設定が現実離れしていることもあって初めのうちはなかなかついていけなかったのですが、巻末のあとがきを読んで知ったのですが、シリーズもののようです。シリーズ最初の作品を読んで、基礎知識を頭に入れてから本作を読んだ方が、もう少し内容が受け入れやすいかもしれません

  • このシリーズは中編よりも短編か長編が私のツボをつくらしい。好きだ。満足。

  • オーシャンクロニクルの続編が出たの嬉しい。面白かったです。
    〈プルームの冬〉が近付いてても、陸上民と海上民は相容れないままなんだな。マルガリータ・コリエ育ちはまた違う立ち位置で。。
    「獣たちの海」「カレイドスコープ・キッス」が好き。表題作、魚舟の心が描かれてるのが面白かった。魚舟だったころは色々考えてるけど、獣舟になってしまうと飢えを満たす事だけを考えてて、完全に違う生物なんだなとつくづく感じました。
    「老人と人魚」、ザフィールのその後を読めてそれも良かったです。

  • "大異変"を迫り来る現実として感じている海上民たちにとって、生きること、子を成すこと、死ぬことがどのような意味を持つのか――一緒になって思わず考え込んでしまう。生き延びること、命を繋ぐことがなによりも重要なのかと思いきや、凍りつく地球においてなお生きられる人数には限りがある、という揺るがない事実を前に、生死という葛藤の段階はすでに通り過ぎているのだった。

    「命を何よりも尊いと考えるなら、それも選択肢のひとつだ。おまえたちは、命の重みを一番に考えるがゆえにその生き方を選んだ」
    『カレイドスコープ・キッス』の、若きオサ・ナテワナの言葉にどきりとする。ひとはいつか死ぬ、ならばどこで、どのように死ぬのかを自分で選ぶ。それを考えて行動することは、生の放棄などではありえない。
    ナテワナたちの燃えさかる命の炎、輝きに惹かれてメイは海へ出る。自分に与えられた権利や利便性と、自分から奪われた尊厳を見つめて――自分が求める人を追って。
    「この悲惨極まりない世界の中で、せめて、自分が愛しいと感じるものをまっすぐに見つめていたい」
    待つのはディストピアなのに、温かくやさしい気持ちが湧いてくる。

  • 作者の中にはきっと海が迫りくる世界が展開されてるんだろうな。
    そこを覗かせてもらってる。
    単体でも首飾りのひとかけらとしても、最高。

  • 〈オーシャンクロニクル・シリーズ〉の番外編的な短編集。唯一の中編である「カレイドスコープ・キッス」を除けば、筋があるにはあるがスケッチ的な作品で、これだけ読まされても「なんだこれ?」的な感想しか抱けないかも知れない。シリーズの長編を読んでいると雰囲気が掴めると思うんだけどね。

  • 海上民を主人公にした作品集で、当然ながらこれまでの陸上民の視点とはかなり異なる。そこが醍醐味なのだけど。「カレイドスコープ・キッス」がめちゃくちゃ良くてひたすら泣いた。
    オーシャンクロニクルシリーズをあくまでフィクションとして読んでいたけど、難民問題、地球規模の大災害、命の選別と、今の自分の生活と切り離せなくなってしまったのでよけいにぐっときた。
    銘とレオーの関係や距離は、青澄とマキとはまた違っているけど心地良かった。互いの領域に踏み込まない、からかな。

    あ、それから女性キャラクターの口調、「〜だわ」「〜よ」が極力排されてる気がした。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。2003年『火星ダーク・バラード』で第4回小松左京賞を受賞し、デビュー。11年『華竜の宮』で第32回日本SF大賞を受賞。18年『破滅の王』で第159回直木賞の候補となる。SF以外のジャンルも執筆し、幅広い創作活動を行っている。『魚舟・獣舟』『リリエンタールの末裔』『深紅の碑文』『薫香のカナピウム』『夢みる葦笛』『ヘーゼルの密書』『播磨国妖綺譚』など著書多数。

「2022年 『リラと戦禍の風』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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