新しい世界を生きるための14のSF (ハヤカワ文庫JA)

  • 早川書房 (2022年6月22日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (816ページ) / ISBN・EAN: 9784150315191

作品紹介・あらすじ

衝突事故直前の車載AIが最後の審判を繰り広げる八島游舷「Final Anchors」、恋人の死体を盗んだ女が超常の存在へ愛を問う斜線堂有紀「回樹」、大正時代の屋敷で少女二人の運命を怪死事件が結ぶ芦沢央「九月某日の誓い」、徳川光圀の命を受けた学者たちが和歌コンピュータを発明する夜来風音「大江戸しんぐらりてい」など、新世代作家たちによる書籍化前の傑作14篇。伴名練によるSF入門14本を併録の超大型アンソロジー

みんなの感想まとめ

多様なテーマが詰まった短編小説集は、読者を異なる世界観へと誘います。新世代の作家たちによる14篇は、愛やAI、超能力、環境変化など、幅広いSFの要素を探求し、個性豊かな物語が並ぶことで一層魅力を増して...

感想・レビュー・書評

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  • ほぼ一ヶ月かけて読了
    どの話も面白く、毎回別次元を覗き込むような気持ちで楽しみました。
    真面目にふざける方向に全倒ししてるモノもあれば(様式美がある)ハード方向に進めてる作品など、並ぶことで個性が際立って
    どの話も面白かったです。

    分厚い本なのだが、とても良いサブテーマの解説があるためSF入門書として読み。自分の好きなテーマを見つけられる造りとなっている。
    コレまで読んできたSFがどのテーマに属してるのかも知ることができた。
    SF作家以外の作品についても名前が挙げられていて唸った。

    ・AI
    ・愛
    ・想像力
    ・実験小説
    ・動物
    ・超能力
    ・宇宙
    ・ポストコロナ
    ・異星生物
    ・言語
    ・バイオテクノロジー
    ・環境激変
    ・AR/VR
    ・改変歴史

    サブテーマの解説…これまた別世界(他作)を読みたくなるなる…でも絶版とか入手困難なモノが混じってるのが辛い…読みたいんですけど…

  • 【収録作品】「Final Anchors」 八島游舷 【AI】/「回樹」 斜線堂有紀 【愛】/「点対」 murashit 【実験小説】/「もしもぼくらが生まれていたら」 宮西建礼 【宇宙】/「あなたの空が見たくて」 高橋文樹 【異星生物】/「冬眠世代」 蜂本みさ 【動物】/「九月某日の誓い」 芦沢央 【超能力】/「大江戸しんぐらりてい」 夜来風音 【改変歴史】/「くすんだ言語」 黒石迩守 【言語】/「ショッピング・エクスプロージョン」 天沢時生 【環境激変】/「青い瞳がきこえるうちは」 佐伯真洋 【VR/AR】/「それはいきなり繋がった」 麦原遼 【ポストコロナ】/「無脊椎動物の想像力と創造性について」 坂永雄一 【バイオテクノロジー】/「夜警」 琴柱遥 【想像力】

    新世代作家たちによる書籍化前の傑作14篇とのこと。
    SFとの相性の悪さをつくづくと感じてしまった。ついていけたのは芦沢央さんの作品くらい。

  • 異様に読み応えのある佳作たち。

  • ――

     SF入門14本、と打たれているけれどちょっととっつきにくいのはページ数だけが理由ではない…
     しかし、これからのSFというジャンルを読んでいこう、って思ったとき、きっと何度も繰り返しこの作家たちに帰ってくることになるのは確かだと思う。



    「Final Anchors」 八島游舷
     進化した自動運転AIを題材に、事故までの0.488秒の間を描く。法廷劇チックに書かれているのが面白く、テンポも良い。
     人間同士では解決しきれない問題を解決するためのAIが、より人間らしくなることで合理的解決から遠ざかる。様々なアプローチが出来るテーマだろうけれど、今作は情感のあるSFとしてグッド。
     ところでこの作品の状況と似たような自動車保険のCMを海外で見た気がする。


    「回樹」 斜線堂有紀
     ふむ? と思ったけれど流れに乗ってみればいかにもな斜線堂作品。ひとつのSF的装置を置くことでテーマを掘り下げる形は、その周辺の現代が既にSFと紙一重になっているということなのかしら。或いはずっとそうだったのかな?
     そしてやはり百合とSFの親和性の高さよ。詰まるところ、それが愛ではないと論理的に説明出来ないわけだよね。


    「点対」 murashit
     うーむ。実験小説…これくらいだと単純に読みにくいだけのような。奇を衒い過ぎ?


    「もしもぼくらが生まれていたら」 宮西建礼
     これは再読。初見よりもしっくり読めたのは成長かしら。それでも、技術的な部分の緻密さとテーマの安直さとのアンバランスがやっぱり気になってしまうかなぁ。それも青春SF的ではあるけれど。


    「あなたの空がみたくて」 高橋文樹
     スペオペ感もあってグッド。そして、SFでありながら科学的に上位な存在、或いは科学よりも上位な存在が見え隠れすると突然ホラー要素が増してスパイシィになりますね。


    「冬眠時代」 蜂本みさ
     やっぱりSFと云えば猫だよな、と思いつつ。
     動物、をテーマにしたSFの面白さは、その動物の持つ習性を如何にSFと連結するか。この場合熊の冬眠とその間に見る夢をSFチックに設定していて、そのあたりそのままコールドスリープ的な話に繋がりそうでもあるのだけれど、本篇自体はどこか牧歌的なSF。


    「九月某日の誓い」 芦沢央
     戦争と超能力と百合、って組み上げはこんなにポロポロあるのか?! 確かにどうしたって面白いけれど。
     悲壮感と戦争。それが、決して結ばれないけれど結ばれずには居られない少女同士の関係と絶妙にマッチしている。これは良作。


    「大江戸しんぐらりてい」 夜来風音
     歴史改変系SFはどれだけ緻密な構成で馬鹿をやるかというところが大事だと思ってるのだけれど、これは…すごい…
     “徳川光圀の命を受けた学者たちが和歌コンピュータを発明する”ってあらすじからしてもう、ねぇ? 演算もの、としても面白いのだけれど、そこから更に古代文明の遺産やらそれを奪い合うエンタメ要素もばっちり。


    「くすんだ言語」 黒石迩守
     アイデア的には伊藤計劃トリビュートということで良いし、言語SFとしてディティールもしっかりしている。はっきり筋はとおっているのだけれどなんだか、小説としては面白くないなぁ。説明に終始しているような。


    「ショッピングエクスプロージョン」 天沢時生
     こういうのよ…こういうのなのよ…!
     環境激変、というタグがついているけれど、良質なサイバーパンク冒険譚でもある。それでもやはり環境激変SFとしての要素が強いのは、いまの我々にも馴染みのある世界構造のほんの一部に集中してSF的想像力を注ぎ込むことで世界そのものを大きく書き換えていて、そのことが物語自体の中核になっているからだろう。具体的にはド○キだが。
     着想ももちろんだけれど、タッチがとても好みで引き込まれました。いい意味で雑な、これくらいでいいだろう? って態度の用語設定だとかルビだとか、シェイキィな会話だとか。小説はこうでなくちゃね、って感じ。


    「青い瞳がきこえるうちは」 佐伯真洋
     SFには希望が詰まっている。
     技術力も想像力も、本当に、それを使う人間の想いに大きく左右される。全体的に悲壮感のあるストーリィなのだけれど、技術をよすがにして出来ないことを出来るようにしようとする、わかりあえないものを少しでも、ほんの少しでもわかりあえるようにしようとする、その前向きさが、静かでけれどしっかりとした歩みのような文体と非常にマッチしていて佳い。


    「それはいきなり繋がった」 麦原遼
     ポストコロナSFというジャンルも、悲しいかな軌道に乗ってしまった感があるけれど、その中でも特殊な一編。パラレルワールドものでもあるのだけれど、その対となる世界と積極的に繋がろうとする理由のひとつが感染症の蔓延でもあるという部分に面白さを感じた。マイナスの要素に、しかし背中を押されることだってもちろんある。


    「無脊椎動物の想像力と創造性について」 坂永雄一
     一流のSF作家は一流の研究者である…と思いがちだけれど、或いは研究者としては異端になりやすくもあるのだろう。なんとなく陰謀歴史論とかトンデモ中世史、とかを語っている歴史家と紙一重のようにも思える。
     それでもこの作品はやっぱりSFとして本物だなぁと思うのは、簡単に笑い飛ばせない恐怖、畏怖がしっかりあるからでしょう。ある程度の近未来SFには共通して、有り得べきみたい、という恐ろしさが付き纏う。
     そんな中で、その未来それも絶望的な未来に対面して希望ばかりを描く主人公の姿に、SFの面白さ楽しさを存分に感じた。
     名作であるのはもちろん、このアンソロジーのテーマをいちばん表しているように感じました。


    「夜警」 琴柱遥
     “物語だけが光の速度を超える” まったく至言である。
     ここまで読んできて最後にこの、云わば純文学系SFを配する編者にはさすがのひと言。SFに込められた希望も絶望も、可能性も恐怖も、物語の推進力無くしてどこにも届くことはない。


     ほんとうに。
     生きるために、読んでいる。
     どっと疲れた。けれど本当に、有難く得難いアンソロジーだと思います。
     何度も手に取って、また世界が変わったときには戻ってこよう。

     ☆4.7

  • 《目次》
    「Final Anchors」八島游舷
    「回樹」斜線堂有紀
    「点対」murashit
    「もしもぼくらが生まれていたら」宮西建礼
    「あなたの空が見たくて」高橋文樹
    「冬眠時代」鉢本みさ
    「九月某日の誓い」芦沢央
    「大江戸しんぐらりてい」夜来風音
    「くすんだ言語」黒石迩守
    「ショッピング・エクスプロージョン」天沢時夫
    「青い瞳がきこえるうちは」佐伯真洋
    「それはいきなり繋がった」麦原遼
    「無脊椎動物の想像力と創造性について」坂永雄一
    「夜警」琴柱遥

  • 濃い…!たいへん楽しく読みました。
    サブジャンルも新しめのものが多かったように思いましたが、SF色が強いサブジャンルのお話のほうがなんだか叙情的でした。

    特に好みだったのは、
    ○八島游舷「Final Anchors」
    ○夜来風音「大江戸しんぐらりてい」
    ○麦原遼「それはいきなり繋がった」
    ○琴柱遥「夜警」
    でした。短編だけれど世界の広がりがすごい。

    破茶滅茶になりそうな、大型ディスカウントストア“サンチョ・パンサ”による世界の終わりのお話は、意外と王道少年マンガみたいだったな〜と。ガチャガチャしてそうでしてない。
    編者の伴名練さんが1話ごとの後ろにつけられてるコラムの情報量に圧倒され、こんなに載せて書いても「ページが足りない」と言わしめるSFの奥深さにクラクラしました。
    物理的に収められなかったジャンルの新しいアンソロジーもぜひ編んでいただきたいです。他力本願

  • 文庫本の800ページ…。久しぶりに一冊で3日目突入してしまいました。SF好きな人や、これから読んだり書いたりしたい人には、同じ系統の過去作品のこれでもか!っていう量の解説ついてるので、超おすすめなんだけど、ちょっと読みにくい作品の方が多かったように感じます。
    ◆作品として好きだったのは、
    ・斜線堂有紀「回樹」
    百合とファンタジーの融合。人体吸収する樹。
    これは、SFっていうより、拗れ愛小説。
    ・芹沢央「九月某日の誓い」
    超能力のある世界で、科学者である父の自殺により奉公することになり、その家のお嬢様の能力、そして意外な結末。
    ・琴柱遥「夜警」
    夜に空から降る星の話。子どもが願うと叶うのだが、それには秘密があり…。少し宮沢賢治っぽい雰囲気が良かった。
    ◆作品ネタとしては面白かったけど、イマイチ入り込めなかったのは
    ・八島游舷「Final Anchors」
    自家用車に搭載されたAI同士の一秒に満たない時間での会話や思考
    ・宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」
    小惑星が日本に落ちることが分かったことと、高校生の衛星構想コンテストと核のない未来
    ・夜来風音「大江戸しんぐらりてい」
    実在の数学や天文の天才達を登場させ(安井算哲、関孝和など)柿本人麻呂の歌が実は数式だったというロジックで大演算機構が作られる江戸時代。
    ・佐伯真洋「青い瞳がきこえるうちは」
    VR技術で仮想スポーツ大会が出来るような未来。卓球に才能のある兄弟の感情。一人は盲目、一人は寝てしまう病。
    ・坂永雄一「無脊椎動物の想像力と創造性について」
    科学者飼育による蜘蛛生態改変で、蜘蛛に京都を乗っ取られる世界を描いている。この話は凄く面白くなりそうなのに、とても入り辛くてもったいない!と思った。

  • 800Pは長い!読了まで1ヶ月かかってしまいましたが、それに見合う面白さだったと思います。

    特に心に残った短編は下記のとおり。いずれの作品も素晴らしかったので、機会があれば他の作品も読んでみたいと思います。(というかそろそろ伴名練さん自身の作品集をぜひ)


    「回樹」斜線堂有紀
    斜線堂有紀さんの作品ははじめて読みましたが、読みやすいし、題材もとても好み!律の出す結論が怖くて結末を見るのに勇気が必要だったけど、とても綺麗な終わり方でした。それは確かに愛だよ。
    ※ハーモニーしかり、百合とSFの相性の良さはなんなんでしょうか笑

    「大江戸しんぐらりてぃ」夜来風音
    劉慈欣の円や三体など、人力コンピュータSFという題材に馴染みはありますが、それが次第に暴走し、人間を超越した存在となっていくというのは新鮮な面白さがありました。見事な改変歴史SFですね。

    「夜警」琴柱遥
    題材自体に真新しさはないかもしれないが、文章が綺麗でグッと引き込まれました。結末も印象的で素敵な短編でした。

  • 超大型アンソロジー、ということで、読み応え充分。各小説ごとに付いてくる本書編者伴名練さんの解説的コラムも情報量がめちゃくちゃ多くて、
    あぁ積ん読本がさらに積みあがった…と遠い目になる。

  • どれもこれも秀逸な作品ばかりで本当に素晴らしかった。

    ただ、最後の最後で最高傑作をぶつけてきたのにはやられた。この分厚い本は夜警を読ませるための本だったのか。秀逸な作品は全て脇役になりやがったわ・・・・

  • 伴名練編のSFアンソロジー。「SF単著を刊行していない作家」という条件に当てはまる比較的若いSF作家の作品で、AI・歴史改変・バイオテクノロジーなど各SFサブジャンルからは被りなく選んで、しかもそれぞれのサブジャンルを彩ってきた日本SFの作品の歴史も解説付きという、どこから見てもSF愛に溢れたアンソロジー。まぁまず800ページという物量感から愛が伝わってくるよね。あとがきで述べられている通り入れられなかったサブジャンルはいくつもあるんだろうし、SFサブジャンルってきれいに分けられるものでもないから難しいけど、でもSFに興味のある方にSFという宇宙の広大さを知ってもらうには良い本かと思う。
    作品はどれも面白いものばかりで日本SFの未来の明るさを感じたが、「ショッピング・エクスプロージョン」は小学生のときにたまたま手にして恐らく私が初めて読んだSFであろう椎名誠『アド・バード』を思い出して感慨深かった。

  • まだSF作家として単行本を出していない、新人SF作家だけのアンソロジー。でも全部ハズレがなくて凄い。各テーマごとの編者解説も充実で色々な意味で新しいSを盛り上げるための入門書って感じだ。中でも「大江戸しんぐらりてい」「ショッピングエクスプロージョン」の2作がドンピシャ好み。以下収録作ごとのコメント。

    「Final Anchors」
    テーマはAI。トロッコ問題とAI問題の応用で分析的な筆致と現代性はよし。一方でトロッコ問題を題材にするにはオチが予想の範疇を超えるものではなく佳作といったところか。

    「回樹」
    テーマは愛。死者を吸い込み遺族の感情を操る謎の人型樹木!魅力的なギミックと死別百合の相性が良く世にも奇妙なテイストで結構好き。雰囲気特化ではなくそのような存在がなぜあるのか、社会に表れたら人々はどうするか、という分析要素も手堅く奇想SFの本懐。

    「点対」
    テーマは実験小説。元が同人誌だからこそできた文体ギミックを単行本にした苦しさはちょっとあるけどムードと文体実験は良く出来てる。でも収録作の中では意匠強めでパワーはそこまでかな。

    「もしもぼくらが生まれていたら」
    テーマは宇宙だけど改変歴史に入れてもいい。メッセージ性と小説の馴染ませ方は本書でも一番際立っている。あるイベントが起こらなかった世界を舞台に小惑星衝突に立ち向かう高校生の青春を表にしながら、大災害に対する人類の叡智、一見拍子抜けな結末からは科学というものへの信頼も浮き彫りになっている。将来性は一番感じた作家。最後の1行が鮮やかすぎて脱帽。でもちょっと頭で書きすぎた感じはあるわね。

    「あなたの空が見たくて」
    テーマは異星生物。魅力的な異星生物はその生態系を的確に情景として描くだけでもものになるという自信を感じる。編者解説も言う通りとりたてSFでは珍しい生き物でないのに文章の美しさが飛び抜けてて読ませる。

    「冬眠生物」
    テーマは動物。早い話がケモナー獣人叙情物語だけど、冬眠中熊は他の熊の記憶の世界に繋がっていける、というワンアイディアで切なく美しい失恋小説にしている。着想的に民話や神話の要素も取り込んでるんかな?

    「9月某日の誓い」
    テーマは超能力。すでにミステリ業界では有名な作家なのもあるのか筆の達者さでは本書でもナンバーワン。百合小説としても極めて上質で、繊細な雰囲気と作中異能をめぐる謎と伏線回収の気持ちよさが見事に両立している。といっても真相も能力の正体もそんな意外性のあるものではないのだけど、ストレートで投げてストライクをきちんと取ってくる感じ。あと危機を打開するときに能力の詳細を解説するとこれだけ百合に振っても熱血少年漫画っぽくなるのね。

    「大江戸しんぐらりてい」
    テーマは改変歴史。本書収録作で個人的には最強。徳川光圀や関孝和といった実在人物を出して、算術と和歌研究という突拍子もないものを結びつけながら、神話的スケールのとてつもないビジョンと派手なエンタメを見せてくれる。SFに限らず小説には鮮烈なインパクトとビジョンを求めているのでドンピシャ。

    「くすんだ言語」
    テーマは言語。そのままやね。翻訳ツールの発展による未知の言語の誕生と人々への影響という筋立てはワクワクするし、よくあるネタだからあえてスケールを広げすぎずに父と娘の物語に絞ったのも悪くない。けど虐殺文法以後の小説としてはやっぱ地味かなぁ。期待したほどには届かなかった。

    「ショッピング・エクスプロージョン」
    テーマは環境激変。ドン・キホーテで、ワンピースで、サイバーパンクだ。バカバカしく猥雑で意識が低く、なのに熱い。つまり最高の小説だ。ドン・キホーテをイメージしたであろう自己増殖する激安の殿堂が世界を覆い尽くしたポストアポカリプスで創業者が残した宝物「サンピース」をめぐる冒険が始まる。サンピースとか言うてる時点でアホですね。パロディも多いのにどういうわけか冒険物としてはガッツリ骨格がしっかりしてはる。

    「青い瞳がきこえるうちへ」
    テーマはVR/AR。身体障害者でも脳を使った仮想空間でのスポーツなら感覚を得られるよね?という小技でもおっと確かにそうだなと興味深さが募るけど、本題はスポーツ小説としての爽やかさと熱さにある。漫画化しても向いてる感じのシナリオ。

    「それはいきなり繋がった」
    テーマはポストコロナ。でも実態はコロナ禍をフックにしたパラレルワールドものか。コロナのなかった世界とコロナのあった世界が繋がってしまって、しかもなかった世界にはコロナも映らない、という設定が魅力的。世界観描写と主人公カップルと反転世界の主人公カップルのドラマも両立できているししっかりした技術を感じる。

    「無脊椎動物の想像力と創造性について」
    テーマはバイオテクノロジー。改造によってとんでもない糸による生産力を得た蜘蛛により変貌した世界が舞台だが、パニック映画じみた筋書きに対して「生き物が進化により得た世界に働きかける力は人間の想像力や創造性と変わらないんじゃないか」という問いかけがメイン。思索性豊かだが、きれいな京都が蜘蛛の巣に覆われて焼き払われて大炎上するので……きれいなものが燃えてると楽しい!のも加点ポイント。

    「夜警」
    テーマは想像力。編者解説でも言う通りブラッドベリっぽさのある叙情奇想SF。めちゃくちゃ怖いドラえもん。穏やかな導入から世界観がわかって宇宙的恐怖の片鱗に触れた感覚は気持ちよかった。編者はブラッドベリにも届きうると書いてるけど、わかりやすいものの流石に文章のパワーはブラッドベリには敵わんと思うね。でもかなり面白い。

  • 斜線堂有紀『回樹』、芦沢央『九月某日の誓い』、黒石迩守『くすんだ言語』、天沢時生『ショッピング・エクスプロージョン』、琴柱遥『夜警』が好き。

  • 文庫本で過去最厚かな。しかし、ジャンルが多様で全部違って、それぞれの作品が秀逸なんで、全然長いと思わずに読み終えた。特に好きだなと思ったのは以下。

    Final Anchors:意志を持ったAIが持つ葛藤っていう設定が好きなんだと思う

    回樹:身近な人の死ってテーマは重いよね…

    九月某日の誓い:どんでんがえしが秀逸

    くすんだ言語:すでにこういう侵食は始まってると思う

    ショッピング・エクスプロージョン:『ニューロマンサー』のオマージュもの、いいよ

    無脊椎動物の想像力と創造性について:神の御業って言葉を感じる

    夜警:ファンタジーと思いきや、ヘビーな世界に生きる村人の物語

  • SFが苦手だ。なのに、なぜこちらを手に取ったかというと、どこかで紹介をされていて芦沢央さんの作品が読みたかったのと、序文で「二〇二二年五月時点で、まだSFの単著を刊行していない」作家限定とあるところに魅力を感じたので。

    編者というものをここまで強く意識したのは初めてかも?
    有名作家の短編集とかだと、どうしても知っている作品はあるし、編者によって大きく収録作品やカラーが異なるという意識がなかった。

    結局SFはやっぱり苦手!ことを再認識させられたが、面白く感じる作品もあったりして、良い経験になった。

  • SFアンソロジー。
    一つ一つの話のテーマが紹介されていて、同じテーマの他の作品も紹介されている。
    自分が読んだことのあるタイトルが述べられていると少し嬉しい。
    一見同じ世界に思えるけど、少しずつ違う世界の片鱗が見えてくるお話が好きだなと気づきました。

  • これからのSF界をになっていくであろう14人を編者が選出してテーマを別々に短編を集めたもの。まったく知らない作家のものばかりで、とても楽しめた。それぞれの作品のあとにテーマにかんしての解説があるのがありがたい。

  •  日本の現代SF短篇というと、大森望氏のNOVAシリーズが有名でもっぱらそれを読んでいたが、NOVAの作家陣とはまた違った感性の作品が読めるアンソロジーだった。
     NOVAがベテラン、新人問わず書き下ろし作品を募集しているのに対し、本アンソロジーでは編者の伴名練氏が、2022年5月時点でSFの単著を刊行していない作家という条件で、商業誌からWebまであらゆるジャンルから選りすぐった作品を収録している。
     【AI】【宇宙】【改変歴史】などテーマごとに選ばれた14の作品はハードSFからファンタジー色の強いものまでバラエティに富んでおり、アイデア自体は昔からあるものであっても新しい感覚で書かれた作品が多かった。800ページ近くある分厚さで、読み終わるまで何日かかるかと思ったが、ひとつ読むとすぐに次の作家の作品を読みたくなり、結局1日半で読み切ってしまった。
     NOVA収録作で既読の作品もあったが、粗削りであっても新人の作品でこれだけ粒揃いの日本SF短篇が増えていることに驚き、嬉しかった。伴名練氏には単発で終わらせず、是非次のアンソロジーを企画してほしい。

  • ここ5年間に発表されたSF短編の傑作集。まだ単著を刊行していない作家限定、新人SF作家たち。70年代以来の黄金時代を迎えつつある日本SF界、その歴史を10年早めるためのアンソロジー。

    各作品の後に掲載されているコラム、短編と同じく14点がすごいです。たくさん名前があがっているSF、読んでみたいと思わせられます。コラムは最初の方しか読み切れていませんが。。

  • おもしろかった!

    冒頭作品であるAI自動運転社会の『Final Anchors/八島 游舷』が、まずとても気に入り、そのあと一気に文庫本約800ページを駆け抜けた。

    パラレルワールドものの『もしもぼくらが生まれていたら/宮西 建礼』にも新鮮な感動をありがとうってな感じ。

    知らない作家さんばかりのアンソロジーをたっぷり楽しませてもらいました。

    なお、回樹は次読むことにしているから、今回はパスしています!

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