- 本 ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150315276
作品紹介・あらすじ
稀代のマジシャンが本物の時間旅行に挑む「魔術師」、名馬スペシャルウィークを仰ぐ傑作青春小説「ひとすじの光」など全6篇収録
感想・レビュー・書評
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「王と道化の両方」
初めて読む作家さん。
親子で継ぐいい話系と狂気じみた展開だったりふざけてるのかどうかすら怪しいくらい計画的な犯行っぽい作品もあり、だんだんどっちに振り切るのかわからない状態で次の短編へ読み進めるのが楽しくなっていった。
「嘘が正典になるにら正典とは何か?」と言う思いが頭を巡る。
他の方の感想見ると「短編も面白い」って言葉が気になりますよ…それ聞いたら長編も読みたくなるって.
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表題作の中篇を含む6篇の短篇集。また、時間を題材にした作品集でもありました。
どれも良かったですが、特に気に入ったのが
『魔術師』『ひとすじの光』『嘘と正典』です。
『魔術師』
売れっ子マジシャンとして大成した父は、積年の夢だった「魔術団」を結成します。しかし、天才的な演出力や演技力があっても、事業を取り仕切る才に欠け、借金を重ねて零落し、ついには妻と離婚して姿を消します。
ある時、再び表舞台に復帰した父は、僕と姉を公演に呼び「仕掛を見破って、恥をかかせたくないか?」とマジシャンになっていた姉を挑発してきます。はたして、父の人生を賭けたタイムトラベルマジックは本物なのか…
マジシャンがやってはいけない三つのことという「サーストンの三原則」。これに挑戦するという演出から、過去の好きな時間に飛ぶ片道のタイムトラベルは、アニメ『シュタインズゲート』のバイト戦士(鈴羽)の手紙を思い出して、涙腺が緩みそうになった。ラストは、読者に想像を任せる終わり方なので、謎は謎のままですが、これはこれでいいと思いました。
『ひとすじの光』
亡き父の残した競走馬と病室で書いていた未完の原稿。生前は、相続に関する手続きをほぼ終えてしまうほど几帳面だっただけに、競走馬の処遇を決めずに逝ってしまったのが謎でした。
その謎を解くため、父の原稿を読み始めたところ、スペシャルウィークの系譜を遡るところから始まっていた…
実在のダービー馬であるスペシャルウィークの血統を遡って行くうちに、作家の息子が父の思いを理解していく感動作。終盤は、まるで競馬の実況を聞いているような臨場感。ラストは、そこから新たな物語が始まるかのような終わり方が秀逸でした。
『嘘と正典』
時は米ソ相対する冷戦時代。ある日、モスクワ駐在の米大使館員(CIA工作員)が、接触してきたソビエトの電子電波研究所の技師から機密情報を得るようになります。周囲はKGBの監視が張り巡らされた、不自由な諜報活動。そんな中、技師は偶然にも「過去にメッセージを送る方法」を発見します。
それを知ったCIA工作員は、自分の過去に影を落とす共産主義を消滅させるため、マルクスとエンゼルスの出会いを阻止しようと歴史改変を試みます…
ミステリではないですが、伏線の回収が見事ですね。後半は、スパイ小説さながらのハラハラドキドキしながらの読書でした。しかしながら、何をもって正しい歴史とするのかとか、最後はいろいろ考えさせられました。 -
「魔術師」、「時の扉」、「ムジカ・ムンダーナ」、「最後の不良」、「嘘と正典」を収録。いずれも摩訶不思議な物語。不思議な読後感。
「魔術師」
稀代のマジシャンが披露した世紀のタイムトラベルマジック。
「ひとすじの光」
父親が残した遺稿に沿って名馬スペシャルウィークの系譜を辿る物語。
「時の扉」
時間の流れを止め、過去を抹殺する「時の扉」の魔力をヒトラーに語るオッペンハイム???
「ムジカ・ムンダーナ」
音楽を貨幣、財産として所有し取引する不思議な島、デルカパオ島。演奏されたことのない名曲中の名曲。
「最後の不良」
流行を追い求めることを止める「虚無」の風潮が蔓延する世の中に反旗を翻す桃山。
「嘘と正典」
過去にメッセージを送り、歴史改変を可能とした「時空間通信」技術がもたらした歴史戦争。 -
SFマガジン2018年4月号魔術師、6月号ひとすじの光、12月号時の扉、2019年6月号ムジカ・ムンダーナ、Pen2017年11月最後の不良、書き下ろし嘘と正典、の6つの短編を2019年9月早川書房刊。2022年7月ハヤカワJA文庫化。魔術師で語られる、トリックかタイムマシンかという二者択一の真相に迫る展開が秀逸。嘘と正典に出てくる時空間通信にまつわる世界構築のアイデアと展開が楽しい。
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直木賞作家・小川哲の、以前直木賞受賞候補作になったSF短編集。6篇が編まれている。どれも独立した話だが、共通項に、過去と未来、父と息子、血脈、歴史改ざん、などを持つ。少し小難しく、気品があり、魅力的だ。謎めいた話の立ち上がりから注意深く読み進め、その短編の世界観を徐々に把握し、やがて筋はクライマックスを迎え…ホーっ、そういう展開ですか…。どれも複雑に構成された物語で、これぞ短編という味わいがあった。
「魔術師」は、かつてメディアで人気を博したマジシャンが再び表舞台に立ったとき、ステージ上でタイムトラベルのマジックを披露し、消えてしまった。そのステージの動画を何度も何度も見返す大人になった息子と娘。父は本当に過去に戻ったのか?父のマジックを再現しようとする姉。終始謎めいて不穏な雰囲気。
「ひとすじの光」は打って変わり、競走馬の血統をたどる話。疎遠だった学者の父は病に伏せっていた。亡くなる数日前に病室に呼び出された作家の息子は、父が唯一処分しなかった財産である競走馬についての父の原稿を読む。この馬のルーツを辿りながら、いつしか自分のルーツに思いを馳せる。
「時の扉」は、ファンタジーめいた話。どんな話なのかなかなか掴めない。古いヨーロッパのおとぎ話もしくはシェイクスピアの戯曲を読んでいるような感覚で読み進めているうちに、これは…!ある歴史上の人物の話なのだとわかる仕掛け。過去を認めず改ざんしていくと、時間は線形ではなくなる。
次の「ムジカ・ムンダーナ」は、異国情緒溢れる不思議な話。フィリピンの離島に、通貨の代わりに音楽で商取引がされる島がある。取引のために披露された楽曲は、徐々に価値を失っていくという。島の最高峰の音楽はまだ誰も聴いたことがない。かつてその島を訪問し帰ってきた作曲家の父は、以降いっさいの活動をやめた。父の遺品の中に古いカセットテープを見つけた息子は、印象的な曲が録音されていることを発見し、島に渡る…。
「最後の不良」は近未来の日本。流行を追いかけ続けることに嫌気が差し、オシャレを志すことがダサいと言われるようになった無機質な日本。トレンド情報誌の編集者だった主人公は、売れなくなった雑誌を横目に辞表を叩きつけ、特攻服を来て暴走族となるが…。ちょっと星新一テイストを感じた。
そして表題作「嘘と聖典」へ。冷戦の時代のソ連が舞台。主人公は、CIAの工作員。ソ連側の技士が寝返りたいと接触してくる。どうやら過去にメッセージを送る装置が開発されたそうな…?そこで、共産主義の祖であるマルクスとエンゲルスの出会いを阻止することで共産主義の誕生を阻止し、冷戦の原因を根絶できるのではという発想に至る…。果たしてこの歴史改ざんはどうなる。冒頭の伏線を回収するラストで、ふーっと満足感とともに本を閉じる。
贅沢な読書体験だった。 -
短編集。表題作「嘘と正典」が気に入っている。
冷戦下のモスクワで活動するCIAのスパイSF小説。
過去に干渉して歴史は変えられるのか。
共産主義が生まれないようにするために、変えるべき一点はそこだったのか、しかしそう上手くいくのだろうか。
彼らだけに注目していたらもっと大きな枠を見せられて、面白かった。
「時の扉」もよかった。
千夜一夜物語のようで寓話的なのに、どうも現実的だなあと感じる内容なのが面白い。
最初は「王」が誰なのかが気になり、徐々に見えてきてからも「私」との繋がりが気になって釘付けになってしまった。 -
この短編集の感想を書くのは難しい。バラバラの話だが同じような世界観で描かれているような。
時間を超えてマジックを見せていくような魔術師、共産主義の時代を将来から過去に繋げていくような嘘と正典、名馬の血統の繋がりを探し出すひとすじの光。
この感じが好きな人にはハマるだろうという作家は多いが、私にはちょっと面白さがわからなかった。他の人の感想にあった回収が見事、という点を探し出せないところが多くあり。 -
短編小説集とは知らず
ゲームの王国を読んで以来、小川哲さんにひかれ
全部読みたいと思って購入しました。
6作品いろんな顔をもつ話で
こんなにあちこちからよく思いつくなー
と本当に感心しました。
どこか哲学的であるところ
哲学や、外国の話が日本人が書くから
読みやすいのも魅力ではないでしょうか?
特に好きなのは
ムジカ・ムンダーナ
最後の不良
嘘と正典
SFの世界と本当の世界のギリギリのラインを
攻めるところが、現実味のある
ありえるかも的な面白さで
引き込まれました。
薄い本なので、ぜひ手にとってみて欲しいです。
君が手にするはずだった黄金について
も全然日常的ながら、SFよりではないのに
最近とても面白かったし
内容や、書き方も
幅が広すぎる、素晴らしい作家さんです!
余談
地図と拳も読みたいけど、太すぎてー
電子書籍を利用してないので
電子書籍端末を買おうか悩むくらい。
でも、まだ本がすきなんですよねー
本の匂いと、質感がたまらなく好きで
本好きの方はもう電子書籍にしてるんだろうかー??
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「地図と拳」で直木賞を受賞した著者の2019年、1回目の同賞候補作。時間や歴史が全編を通したテーマとなっているが、解説にもある通り、まさに「ジャンル越境的」な魅力の詰まった6編。とても濃厚な短編集だった。何と言っても「魔術師」と「嘘と正典」の歴史改変ものが出色。短いけれど、流行を皮肉った「最後の不良」も面白かった。小川哲氏に従来の「SF作家」のイメージを重ねるのはもうやめようと思う。
著者プロフィール
小川哲の作品





