嘘と正典 (ハヤカワ文庫JA)

著者 :
  • 早川書房
3.84
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本棚登録 : 975
感想 : 73
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150315276

作品紹介・あらすじ

稀代のマジシャンが本物の時間旅行に挑む「魔術師」、名馬スペシャルウィークを仰ぐ傑作青春小説「ひとすじの光」など全6篇収録

感想・レビュー・書評

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  • 「王と道化の両方」
    初めて読む作家さん。
    親子で継ぐいい話系と狂気じみた展開だったりふざけてるのかどうかすら怪しいくらい計画的な犯行っぽい作品もあり、だんだんどっちに振り切るのかわからない状態で次の短編へ読み進めるのが楽しくなっていった。

    「嘘が正典になるにら正典とは何か?」と言う思いが頭を巡る。

    他の方の感想見ると「短編も面白い」って言葉が気になりますよ…それ聞いたら長編も読みたくなるって.

  • 表題作「嘘と正典」は、冷戦下のソ連で、アメリカのCIAが、過去を改竄するように、時空間通信という技術を使って共産主義を抹消させようとする話で、共産主義の父とも言われるマルクスの親友でもある、エンゲルスの裁判を改竄させようとする。
    エンゲルスの罪を無罪から有罪にすれば、エンゲルスは、オーストラリアに流刑となるので、その後の世界で、共産主義の概念が無くなり、ソ連という国が生まれないと感じて、CIAのホワイトは、過去を未来から変えようとした。
    小川さんの作品は、SFと世界の歴史を上手く交差させて、実際にあったんじゃないかと、想像させる
    ことができる作品が多いので、とても面白いし、歴史の勉強にもなるなと個人的には、感じました。
    その他の作品も、一つの競走馬に自分を重ねた作家の話や(ひとすじの光)、音楽が通過、財産になる島の話(ムジカ・ムンダーナ)など、違ったジャンルのストーリーが楽しめるので、小川哲作品初心者の人に読んでほしいです。

  • 「魔術師」、「時の扉」、「ムジカ・ムンダーナ」、「最後の不良」、「嘘と正典」を収録。いずれも摩訶不思議な物語。不思議な読後感。

    「魔術師」
    稀代のマジシャンが披露した世紀のタイムトラベルマジック。

    「ひとすじの光」
    父親が残した遺稿に沿って名馬スペシャルウィークの系譜を辿る物語。

    「時の扉」
    時間の流れを止め、過去を抹殺する「時の扉」の魔力をヒトラーに語るオッペンハイム???

    「ムジカ・ムンダーナ」
    音楽を貨幣、財産として所有し取引する不思議な島、デルカパオ島。演奏されたことのない名曲中の名曲。

    「最後の不良」
    流行を追い求めることを止める「虚無」の風潮が蔓延する世の中に反旗を翻す桃山。

    「嘘と正典」
    過去にメッセージを送り、歴史改変を可能とした「時空間通信」技術がもたらした歴史戦争。

  • SFマガジン2018年4月号魔術師、6月号ひとすじの光、12月号時の扉、2019年6月号ムジカ・ムンダーナ、Pen2017年11月最後の不良、書き下ろし嘘と正典、の6つの短編を2019年9月早川書房刊。2022年7月ハヤカワJA文庫化。魔術師で語られる、トリックかタイムマシンかという二者択一の真相に迫る展開が秀逸。嘘と正典に出てくる時空間通信にまつわる世界構築のアイデアと展開が楽しい。

  • 短編集。表題作「嘘と正典」が気に入っている。
    冷戦下のモスクワで活動するCIAのスパイSF小説。
    過去に干渉して歴史は変えられるのか。
    共産主義が生まれないようにするために、変えるべき一点はそこだったのか、しかしそう上手くいくのだろうか。
    彼らだけに注目していたらもっと大きな枠を見せられて、面白かった。

    「時の扉」もよかった。
    千夜一夜物語のようで寓話的なのに、どうも現実的だなあと感じる内容なのが面白い。
    最初は「王」が誰なのかが気になり、徐々に見えてきてからも「私」との繋がりが気になって釘付けになってしまった。

  • 「地図と拳」で直木賞を受賞した著者の2019年、1回目の同賞候補作。時間や歴史が全編を通したテーマとなっているが、解説にもある通り、まさに「ジャンル越境的」な魅力の詰まった6編。とても濃厚な短編集だった。何と言っても「魔術師」と「嘘と正典」の歴史改変ものが出色。短いけれど、流行を皮肉った「最後の不良」も面白かった。小川哲氏に従来の「SF作家」のイメージを重ねるのはもうやめようと思う。

  • 短編小説集とは知らず
    ゲームの王国を読んで以来、小川哲さんにひかれ
    全部読みたいと思って購入しました。
    6作品いろんな顔をもつ話で
    こんなにあちこちからよく思いつくなー
    と本当に感心しました。

    どこか哲学的であるところ
    哲学や、外国の話が日本人が書くから
    読みやすいのも魅力ではないでしょうか?

    特に好きなのは
    ムジカ・ムンダーナ
    最後の不良
    嘘と正典

    SFの世界と本当の世界のギリギリのラインを
    攻めるところが、現実味のある
    ありえるかも的な面白さで
    引き込まれました。

    薄い本なので、ぜひ手にとってみて欲しいです。

    君が手にするはずだった黄金について
    も全然日常的ながら、SFよりではないのに
    最近とても面白かったし
    内容や、書き方も
    幅が広すぎる、素晴らしい作家さんです!

    余談
    地図と拳も読みたいけど、太すぎてー
    電子書籍を利用してないので
    電子書籍端末を買おうか悩むくらい。
    でも、まだ本がすきなんですよねー
    本の匂いと、質感がたまらなく好きで
    本好きの方はもう電子書籍にしてるんだろうかー??

  • 6篇の短編集。「ひとすじの光」と「ムジカムンダーナ」父親が亡くなったことにより残された息子が宿題を解く物語だと思った。「嘘と正典」が一番面白かった。最初に書かれた部分をよく覚えておくと最後になるほどと納得する。

  • 嘘と正典(小川哲/ハヤカワ文庫)

    「地図と拳」で直木賞を受賞した小川哲さんの中短篇小説集。簡潔に言えば、めちゃくちゃ面白い小説。小説に没頭して夜中まで読んでしまうということは多々ありますが、本作では読みたくて早起きしてしまいました。

    勝手に分類するとミステリー1篇、家族史的人生ドラマ1篇、修辞的歴史ドラマ1篇、家族史的ファンタジー1篇、ショートショート的1篇、伝奇SFミステリー1篇の6篇。
    どれも面白く読めます。その中で凄いと思ったは「嘘と正典」、「ひとすじの光」、「魔術師」。

    「嘘と正典」
    100ページの中篇ですが、物語の骨格というか前提が凄いです。この内容であれば、1篇の大長編小説にしてもよかったのではと思うくらいの濃い内容。冒頭の裁判シーンから結末まで、緊張が続き、読み終えた後の開放感は快感でした。

    「ひとすじの光」
    競馬の好きな方は必読。「なるほど、こう来たか」というのが素直な感想。昌次郎の言葉んk罪悪感を覚えました。

    「魔術師」
    面白いとしか書けません。

    どの作品も作者の発想に驚かされます。文庫本裏の紹介文は余計です。何も知らずにガツンとやられるのが本書の正しい楽しみ方と思います。「圧倒的な筆致により日本SFと世界文学を接続する」は大袈裟ではないような気もします。

  • 濃密な短編集でした。作品の世界観や設定、そしてテーマ。これまでの小説やジャンルにとらわれない作品の数々に、改めて小説という世界は広がり続けているのだと気づかされました。

    収録作品は6編。個人的には歴史に科学や時間改編の要素を絡めた作品が面白かった。表題作『嘘と正典』は謎めいた裁判シーンから始まりその後、話は一転して冷戦下のCIA職員を描きます。

    アメリカとソ連の秘密裏の覇権争い。祖国に疑念を抱くソ連の科学者。この二つがSF的アイディアで結び付いたとき現れる壮大な思いがけない物語。

    ものすごく突拍子もないアイディアでありながら、冷戦下という緊迫した舞台設定で話に巧みに引き込み、そのアイディアがどこかで本当にあったかのように思わせてしまう。そして歴史や政治、国家に翻弄される個人の哀しさも感じる一編でした。

    「時の扉」も歴史と科学を合わせ、そして時間の概念を問いかけてくる思弁的な作品。王に対しいくつもの物語を語る男。現在とは過去とは未来とは。世界の在り方とは。そうしたものを考えさせられながら読んでいくうちに、男の語る物語が史実と結び付き……

    思考実験的な面白さに加えて、二人の正体が明らかになった時、物語の意味がまた違って見えてきてより深みが増しました

    青春小説の味わいのある作品も、切り口が唯一無二のもので面白い。
    父が息子に遺した競走馬の謎を追いかける「ひとすじの光」。
    音楽を通貨とする集落に訪れた青年と、亡くなった父の関係が描かれる「ムジカ・ムンダーナ」

    前者は競走馬の血統という歴史から、父親の思いを描くことで主人公の再生を描き、後者は不思議な民族の文化と父が遺したテープの謎が呼応して、主人公が音楽のトラウマを乗り越えていく。

    ストーリーとしてはどちらも主人公が確執のあった父親とのわだかまりや、いま抱えている喪失を乗り越えるというものだけど、その切り口や謎を解く過程が独特で面白く読み込んでしまい、そのぶんラストの爽やかさも印象的に残りました。

    謎解きと父親との確執でいうと「魔術師」もおもしろかった。稀代のマジシャンが最後に行ったタイムトラベルのマジックを描いた短編。

    マジシャンの人生や子供たちの複雑な思いを描き、マジックに関する謎解き物語でありながら、超常的な要素も完全に排しないどこか奇妙な味の要素もある不思議な感覚の作品。一方で家族を描いた物語でもあり、改めて考えても感想を表すのが難しい……。とにかく多重的な作品だと思います。

    「最後の不良」は他の作品とは少し毛色の違った物語。流行や個性をシニカルに描いた警句的な意味合いも感じられる短編で、これも最近のSDGSやファッションブランドの潮流やSNSの存在と合わせていろいろ考えさせられました。

    小川哲さんは前回『ゲームの王国』を読んだとき、理解しきれないけどすごい物語を書く人だという印象を抱いたのですが、今回は短編集ということもあり前作より読みやすく、それでいて小川さんの描く物語の唯一無二の感じは失われず、改めてそのすごさを感じました。

    SFというジャンルを超えて、またすごい物語が小川さんの手から生まれそうな予感がします。

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著者プロフィール

1986年千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年『ユートロニカのこちら側』で、「ハヤカワSFコンテスト大賞」を受賞し、デビュー。17年『ゲームの王国』で、「山本周五郎賞」「日本SF大賞」を受賞。22年『君のクイズ』で、「日本推理作家協会賞」長編および連作短編集部門を受賞。23年『地図と拳』で、「直木賞」を受賞する。

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