夜獣使い 黒き鏡 (ハヤカワ文庫JA)

  • 早川書房 (2023年6月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (256ページ) / ISBN・EAN: 9784150315542

作品紹介・あらすじ

冷蔵庫の赤子、落ちてくる三つの首、蝶になった母親……黒き衣装の探偵・鏡見は、にわか助手のひなげしとともに怪事件に挑む。

みんなの感想まとめ

幻想的な怪異と文学的なテーマが織り交ぜられた物語で、主人公のひなげしが黒ずくめの探偵・鏡見と共に不気味な事件に挑む様子が描かれています。冷蔵庫の中で育つ胎児や落ちてくる三つの首といった恐ろしい題材が、...

感想・レビュー・書評

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  • 私が死んだら、<黒屋敷>へ行きなさい。
    姿を消した母の言葉に従って、冬乃ひなげしは黒ずくめの男・鏡見夜狐と出会う。


    黒ずくめの謎の探偵・鏡見と、その助手になったひなげしが、冷蔵庫の中で育つ胎児、落下する三つの首の幻など、恐ろしい怪異を解決していく幻想連作ミステリ。

    初読の作家さんですが、短い文章を連ねていくような書き方が特徴的で、若干詩寄りにも感じます。
    そういった文章の雰囲気もあるのかもしれませんが、悪夢のような怪異はどれもとても幻想的で美しく、幸せな解決はしないのに何だか魅了されたような気分になりました。

    それぞれの事件には、テーマとなるような有名近代文学や詩が設定されていて、それを知っていると尚楽しめるかなと思います。
    一例をあげると、冷蔵庫の中で育つ胎児の話『胎児よ、胎児よ』には、夢野久作の『ドグラ・マグラ』。三っつの首が落ちてくる話はヘルマン・ヘッセの『少年の日の思い出』など。

    こんな文学的・幻想的な雰囲気なのに、主人公のひなげしが直情的で、猪突猛進物理アタッカーぶりを発揮してくれるので笑ってしまいます。怪しげで美麗な怪奇譚に合っているのかは読んでるうちによく分からなくなってきますが、真っすぐでとってもかわいい。

  • 予定調和の天秤は、納得の重みに傾いちゃった。

    本作『夜獣使い: 黒き鏡』は幻想・ミステリ・ゴア・ファンタジーなど、多彩な側面を併せ持つ作家「綾里けいし」先生の幻想ライトミステリです。
    表紙から受ける印象を読書体験の中で噛みしめながらも、とてもいい意味で裏切られました。
    方向性としては、探偵という“いきもの”をいかに奇妙不可思議に演出するかに筆力を注いだ感があります。

    まず、主人公コンビの拠点「黒屋敷」およびその主たる居室である「驚異の部屋」は、あたかも衒学を形にして描写してみましたといわんばかりの大時代的な舞台でした。
    引用される詩や小説の名句と言い、戦前の探偵小説のエッセンスをこれでもかと詰め込んだ感がありましたね。

    それから、本作は人を食った物言いで煙に巻く怪異喰いの探偵「鏡見夜狐」と、天下無敵の小娘を絵に描いたような助手「冬乃ひなげし」のコンビを主人公とします。
    男女バディで探偵と助手の凸凹コンビという綾里先生が得意とされるフォーマットに物語を落とし込んだだけあり、表面上の仰々しさに反してとても親しみやすい作品に仕上がった風でした。

    さて、ここからはネタバレを避けるつもりですが、期せずして作品の根幹に触れる可能性がありますので未読の方はご注意ください。持って回ったような比喩を駆使してごまかすつもりですが、奏功するかの保証はありません。
    少女とは向こう見ずないきものだと思うので、あなたが少女か、少女に倣ったいきものであるなら先に進んでください。

    では。

    本文は表紙絵からして一目瞭然。流麗で気品があるけれど、どことなく不自然な美しさから連想が働く通りです。
    各話の味付けはやはりというか綾里流、それなりにダークで時にグロテスクでした。
    なにせ、開幕を飾る第一話からしてタイトルを聞いた瞬間、厭な予感しかしない胎児の話だったわけで。
    未読であろうと、誰もが耳にしたことがあろう『ドグラ・マグラ』の一節がリフレインするので嫌な予感は加速します。

    その一方で、異様なまでの取っつきやすさがありました。持って回った難解な言い回しのようでいて、実はすごく平易に噛み砕かれた文体のように受け止められます。たいへんフレンドリーに読者に接してくれている風にも感じられました。
    いつもの如くみっしり奇怪さが詰まった厭な事件が取り上げられるんですが、なぜだか読後感は爽やかでしたね。

    それもこれも母親が失踪して一人ぼっちになってしまった不幸があっても、たとえ人の心の闇と直面しようとも、決してくじけない助手・ひなげしの視点があまりにも強いからです。明るく能天気でユーモラスな視点に元気をもらえました。
    翻って探偵・夜狐が単独で依頼人と対峙し、救いようのない真相を暴きつつ怪異を祓った場合は後味のいい結末はやってきませんけどね。作中で言及される通り、夜狐に縋った果ては「圧倒的救済か、完膚なき破壊」の二択なわけです。

    ただし、探偵は依頼人に肩入れせず、冷然としていますがギリギリ悪趣味なわけではありません。
    奇怪な現状の打破を求めて足を運んだ依頼人が凄惨な末路を迎えても、因果応報なのでむしろ納得がいくでしょう。

    その点、ひなげしが立ち会う事件はまだ救いようがあります。
    彼女の介入によって、圧倒的に救われることになったとしても、やはり納得できました。
    犯人に情状酌量や引き返す余地があるので、彼女がしゃしゃり出て解決を明るい方向へ引っ張っていっても許される。

    先述した通り、戦前の国内外の名詩・名文が印象的に引用されますが、情景や帰結を暗に示したり、あるいはこれからの事件の呼び水としたりで用いられ方はさまざまです。副次的な効果ですが、近現代文学の入り口にもよいでしょう。
    結末を知ってから読み直すととても味わい深いのですが、いざ読み始める際にはご自由にお捉えください。

    夜狐は夜獣なる怪異を用いて怪異を祓う(=喰らう)ことを解決に向けた定石として位置づけます。そのため、ミステリとしては奇怪な情景や不可解な惨劇をどう捉え、事件(=怪異)の輪郭を掴むかの過程で九割方終わります。
    謎解きの難易度自体はさほどでない一方、目を逸らしたくなる現実をどう解釈するかにかかっているので常人が解決するのは難しいでしょうね。見た瞬間真相がわかっても、ただびとに解決は無理で括弧付きの「探偵」が必要になります。

    そこからの未来を紡ぐ手助けをする助手が不在か否かで、そこからの読後感は枝分かれするようでいて……?
    いや、言葉濁しておきますか。
    夜狐単独の事件の果てには予定調和の美しさがあるのですが、ひなげしが加わると破格の楽しさがあることは確かです。

    言ってしまえば一粒で二度美味しい。
    200ページほどの連作短編で、繰り出される六つの事件を追う中で、夜狐たちが向き合う一連の事件の黒幕である「白い女(あるいは「獏の女」)」との対決に至ること。そして最後の、怒涛の決着の付け方には圧倒されました。

    黒幕なのに白い女は数々の悲劇を引き起こした外道で、極めて不自然な存在です。
    しかし、あまりに鮮やかに終わったことや、どこか親しみを持ってしまった形容文のリフレインもあってか、彼女のことを憎めなかったことが我ながら不思議でした。

    ところで、読者に向けて披露される六つ目の事件は最も短いのにおそらくは最も凄惨だったのですけれどね。
    にもかかわらず真相に連れて行ってもらえるワクワク感と、因果応報の極致と言える不謹慎な笑いが込み上げてきました。――そして、作品の根幹を占める謎解きへの接続もあって大変に楽しむことができました。

    相手に向けて披露している体裁を取りながら事実上こちら側(≒読者)に向けて曝け出してくれた「種明かしそのものの種明かし」についてはもう笑うしかありませんでした。(きちんと作中で理屈についての説明はされています。)
    こんな無体な言い回しが許されるほどに、これだけ短いページ数で探偵助手コンビのキャラクター性を積んだというなら、もうお手上げです。ひなげしがそれだけのエネルギーを持っているなら、それを守る夜狐も力を持って然るべし。

    散々好き勝手やらかした黒幕には最高の意趣返しだと思います。読者としてもおいおいと微笑んでしまうようでした。

    以上。
    探偵「鏡見夜狐」のバックボーンはさっぱり不明で、正体不明の「夜」という概念を探偵という枠に押し込めたそういうモノって割り切り方は嫌いではありません。
    美貌をたたえた黒衣の男としての姿や女たらし(だけど誰の求愛にも振り向いてくれない)で人でなしってところも鑑みるに『夢幻紳士』シリーズの主人公「夢幻魔実也」もイメージソースにあるのでしょうか。
    外したとしても言ったもん勝ちですけどね、青春なら。

    まさに舞台装置って感じですが、そんな彼もひなげしとの掛け合いを介してきっちり人間味を見せるのが卑怯ですね。
    それだけヒロインのひなげしが狂言回しとして優秀で、なおかつ魅力的ってことなのかもしれませんけれど。
    あとは探偵が万能寄りですが、あらかじめ設定されたルールに従わないと十全に動けないのは綾里先生が同年に発表された『魍魎探偵今宵も騙らず』と同じです。

    同年に完結を迎えた『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない』とも時代設定などでは似通っています。
    神様や夢、蝶といった幻想的であると同時におぞましい、綾里先生が好まれるモチーフもやはり共通しています。
    しかし、ひなげしがいたおかげで予定調和の美しさを乗り越えることができて、圧倒的な新鮮味が押し寄せてきました。

    「名探偵 みなを集めて さてと言い」という川柳があります。
    探偵とは絶対の勝利の儀式を行う神官であり、予定調和の化身と言うならば、きっとそれはそうなのでしょう。

    そして夜狐は開き直ったかのように万能に見えるけれど、実際の移動にはタクシーや電車を使います。
    そんなところは煙に巻かれるようでいて、ひなげしはいつも翻弄されてばかりです。ルールに縛られつつも自由に見える辺りは、やっぱり人でなしです。
    そんな男がひなげし相手にきっちり虚を突かれる辺りは、ちょっとした仕返しのようで最高だったんですけどね。

    つまり、綾里流のゴア成分はしっかり据え置いているのに意表を突かれる楽しさが先立った。そこが新しいわけです。
    「女子高生」というなにもかも無敵に思える年代であり、実際に奇妙な信仰を向けられたりするのは知っての通り。
    劇中でも「少女」といういきものはさまざまに定義されています。しかして、それらについては紹介を割愛します。
    ひいては、ひなげしという“いきもの”を、いかに無敵に表現するかに綾里先生が筆力を注いだのかもわかりました。

    ちなみに、ひなげしが在室だったり不在だったりと多々あれど、構成上は全話どれも外せないのが本作です。
    そのため、全話お気に入りなのですが、個人的には第三話の学園ミステリ回が好みだったりしました。
    やはり少女の相手は少女が務めてこそですからね。彼女らとひなげしとは対等であるのだなと実感が得られましたから。

    積み上げたものを悪趣味に破壊する悦楽と、心の澱を吐き出して危機を回避するカタルシス。
    相反するふたつの結末がひとつの話の中で相剋し、どちらに転ぶかわからない不安定さが少女の帰結として大変に魅力的だったのです。それはきっと、作中で重きをなす小道具・黄金の天秤にも喩えられるものなのかもしれません。

  • 「胎児よ、胎児よ」
    冷蔵庫の中に眠る。
    大切な命を奪った後に、何故平然とした様子で次を考えることが出来たのだろうか。

    「少女神」
    ねじ曲がった真実。
    過去を改竄して記憶を塗り替えなければ、受け入れることすら出来なかったのだろ。

    「みっつの首」
    何度も落ちてくる。
    勘違いしたまま生涯を終えていればいいが、最期の瞬間に気付いたら最悪だろうな。

    「サナギの母」
    蝶となったのは誰。
    閉ざされた空間で行われている日常は、段々狂っていったとしても気付かないだろ。

    「鋼の羊」
    消えた探偵はどこ。
    最高な夢を見続けることが出来たとしても、そこにあるのは全て幻でしかないよな。

    「燦燦と晴れ」
    見ないし聞かない。
    目の前で自分の子供に起きていることを無視し続けれるなんて、残酷過ぎるだろう。

    「つまりすべてはどういうことであったのか?」
    対価を払った時に。
    釣り合わさせるためには仕方なかったとはいえ、こんな話しを信じたくないだろう。

  • 黒いモヤモヤと闘い続けた母が失踪し「黒屋敷に行きなさい」という手紙が残された。冬乃ひなげしは母の手紙に従いそこを訪れる。そこには黒ずくめの鏡見夜狐がいた。
    綾里けいし特有の残酷で残忍で救いのない展開、それでいてどこか美しさを感じる描写は相変わらずだ。異能もののバッドエンドやグロいものに抵抗がない人には合っている作品だと思う。
    メインキャラの1人鏡見夜狐、時に少年のように無邪気で時に青年のように無関心でで時に老人のように達観した独特で毒々しい存在。現段階では彼がどういう存在なのかは明らかにされていないが、謎は謎のままでいいのだろうかと感じさせる人物だ。
    もう1人のメインキャラの冬乃ひなげし、無自覚な聖なる存在。個人的にはこの作品の壊し屋の彼女を好きになれなかった。かわいらしい見た目、愛嬌のある性格、いざという時の度胸、守ってくれる唯一無二の存在。共通点がなさ過ぎた。
    各話の流れは黒屋敷に依頼が来る、それを鏡見が解決するだが、そこにひなげしがいるか、いないかで展開が変わる。ノーマルエンドかバッドエンドかくらいの差がある。ひなげしがいると物語の黒い靄がかかった舞台が強制的に明るく照らされる印象だが私はその無理矢理感が好きではなかった。

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著者プロフィール

2009年『B.A.D ―繭墨あざかと小田桐勤の怪奇事件簿―』(刊行時『B.A.D. 1 繭墨は今日もチョコレートを食べる』に改題)で第11回エンターブレインえんため大賞小説部門優秀賞を受賞し、翌年デビュー。主な著書に「異世界拷問姫」シリーズ、他多数。

「2022年 『偏愛執事の悪魔ルポ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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