火星年代記 (ハヤカワ文庫 NV 114)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150401146

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりに再読。持っているのは1976年版だが、この表紙とは違う。

    原著の出版が1946年ということは戦後すぐで、こういう先住民族の文化が破壊される理不尽をこの時期に書いているというのはすごいことだと改めて思う。戦勝国が植民地支配し、利益を恣にするのが当たり前と考える人が多かった時代に。この後10年もしないうちにベトナム戦争への介入が始まったわけで、自国の利益しか考えない人々の方が圧倒的多数であったことは(まあ、今もそうだけど)間違いない。

    コルテスのアステカ征服やピサロのインカ帝国征服のイメージから発想した物語であることは、火星人が水疱瘡でほとんど死滅してしまったことでも明らかだが、この物語が多少の古臭さ(1999年から2026年の設定であるにもかかわらず、ジュークボックスなどがある、黒人が白人の下働きをしている、火星探検隊はアメリカ人の白人男性がほとんど、女性は主婦)はあるものの、今も輝きを保っているのは、軍事的・経済的力の弱い国や少数民族の文化や歴史を蹂躙することが今も続いているからだ。
    もしそれが人類にとって過去のことになっているなら、この本も歴史的な価値はあっても、輝きは失うだろう。
    しかし、1984年もこの本も今も読まれ続けているのは現在の物語であり続けているからだ。

    しかし、この本の魅力は、そういった「現代性」だけにあるのではなく、小笠原豊樹の訳文のすばらしさも相俟って醸し出される詩情にもまた大いなる力がある。

    1999年2月「イラ」で描かれる火星の美しさ。

    2002年8月「夜の邂逅」
    「今夜の大気には、時間の匂いがただよっていた。トマスは微笑して、空想をかけめぐらせた。ひとつの考え。時間の匂いとは、どんなものだろう。埃や、時計や、人間に似た匂いか。時間の音とはどんな音か。暗い洞窟を流れる水の音か、泣き叫ぶ声か、うつろな箱の蓋に落ちる土くれの音か、雨の音か。そして、さらに考えれば、時間とはどんなかたちをしているのだろう。時間とは暗い部屋に音もなく降りこむ雪のようなものか、昔の映画館で見せた無声映画のようなものか、新年の風船のように虚無へ落ちていく一億の顔か。時間の匂いと、かたちと、音。そして今夜は―トマスはトラックの外に手を出し、風に触れた―まるで時間に触れることができるようだ。」(p136)

    翻訳には詩人の木島始も関わっており、昔は外国語に堪能な詩人が(生活のためもあっただろうが)翻訳することが多かった。(専業の翻訳家が少なかったというのもあり。)だから訳文は時に難解なこともあったが、美しかったと思う。今では詩人が翻訳することは少なくなり、優秀な翻訳家がたくさん出てきた。その分読みやすく、わかりやすくなっているのは喜ばしい。
    でも、こういう訳文もできれば残して欲しいと思う。

  • The Martian Chronicles(1950年、米)。
    もはや古典だが、いま読んでも十分に面白い。火星の古代文明に魅せられた考古学者の話(月は今でも明るいが)、たった一人で荒野に木を植える男の話(緑の朝)、最終戦争で生き残った家族が「火星人」と出会う話(百万年ピクニック)が好き。

  • 情緒的であり、ユーモアがあり、幻想的であり、文明批判や差別問題を提唱し、皮肉があり、優しさがあり、なんとも贅沢な読書時間でした。

  • 静かでしみじみとし寂寥感が溢れ出す物語。
    視角的よりすっと五感に沁み入る1冊。
    この季節ではなく秋に読みたかった。
    ブラッドベリの本はどれをとっても春、夏、冬というよりは深まった秋に読むのが適している印象。
    とても落ち着いた大人なSF。

  • 地球から火星に移住した人々が、結局、自分たちの暮らしよくするために、地球の文化を持ち込んで、火星を破壊し、作り替えていかなければならない。火星の文化をないがしろにする……という文明批判が各所に見られて、つらい。自分だって、離れた地に行くなら、なつかしいものを携え、あるいは似せて作らなければ、耐えられないだろうに、地球人が憎くなる。

    それを端的に表すのが、ロケットで旅立つ人々の半数が、出発時点で気持ち悪くなって、やめてしまうという話。
    それは、「さみしさ」という病。

    「百万年ピクニック」だけ、エンディングを知っていた模様。
    これは、救いがある。
    いずれ世代を追って、ダメになるかも知れないけれど、その地を愛するように、さちあれかしと願う。

  • 詩情豊かな連作集。絵になる詩編です。地球と火星のそれぞれが人間のつくりあげた科学(機械)の所為で巨大化した戦争で滅んでいく。僅かな人間がのこり、新しく火星の歴史を創っていく。なんて、愚かな人間たち。二グロ(今は禁止用語?)の火星移住のところが印象に残ってる。新天地はたまたま火星だったけど、地球の危機のとき、ロケットは回収され地球に戻される。残るのは変人の様な人々だけど、彼らがいなければ歴史は続かない。面白かったです。でも少し物足りない・・・ 雰囲気で読む作品ではあります。自分は華氏451度の方が好きです。

  • 高校時代に通学の電車内で読んでいた。その詩的な表現、儚さに感動した。自分に最も影響を与えた本の中の一冊。

  • ワタシが最初に読んだ作品が、この『火星年代記』でした。
    ロケットが火星まで届くようになったアメリカ。
    新たな開拓地を求めて、人々は火星へと旅立ちます。

    火星探検隊、移住した人々、火星人、そしてなぜか無人になってしまった火星の街。

    彼らのエピソードがオムニバスストーリーで綴られる中で、なぜなのか、繰り返し訪れるもの哀しさ。
    前進あるのみ、と邁進する火星探検隊や市民のフロンティアスピリッツ。アメリカをアメリカたらしめたそれは、希望にあふれているにも関わらず、何かを置き去りにしており・・・・・・やがて火星に降り立った人々は過去を振り返り、決してあけるつもりのなかった箱をあけてしまうのです。

    文明の進歩(と思われるもの)は、科学の発達は、何のためなのか。
    進歩すれば、発達すれば私たちも幸せになれるのではないかという幻想は、思ったよりも強い誘惑だったりする。
    だけどわたしたちは、それらが決して私たちの幸せとイコールだとは単純に思えないのだと気づき始めている。

    そんなことを、つい考えてしまう話なのです。

    中学当時、リリカルな言葉の連続に、うっとりしながら読んでいたけれど、何度も読むうちにSFという架空の、しかし現代の延長線上にある世界を舞台にした作品の持つ「文明を、人間を考える」パワーに、改めて気づかされたのでし。
    SFはただロケットが出てきてどきどきする空想の世界じゃない、それはほんのとっかかりなんだと。

    ぜひ、社会にも疑問を持ち始める思春期に、こういう話を読んでもらえたらと。
    14でこの作品に出会えた自分は、幸運だったと自信をもっていえますもん。
    授業では3年生に紹介しています。

    ★ブラッドベリの作品は、幸いにも学生時代に大学の英語の時間に原文で読む機会を得ました。英語でもきれいなんだよねえ、文が・・・・・。
    高校程度の英語力で読めますので、チャレンジしてもいいかも。

    でもこの文庫の翻訳も、素敵。他の翻訳が物足りなくなるくらいです。ワタシにとって、初めての大人向け翻訳作品『火星年代記』は、翻訳文学の文章の基準になりました。きっと、これもラッキー。

  • ずいぶん前から読もう、読もうと思っていて。もう20年以上経ってしまったかな。やっと読めました。火星人と地球人の出会い、地球人の火星への入植、地球の最後、その後の火星…。ドラマチックに熱く語るんではなく、あくまでも静かに、穏やかに、淡々と綴る。その文章のなんとまあ美しいことでしょう。

  • 淡々としていて素晴らしかった。しかし人々が地球へ戻る理由が解せなかった。

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著者プロフィール

1920年、アメリカ、イリノイ州生まれ。少年時代から魔術や芝居、コミックの世界に夢中になる。のちに、SFや幻想的手法をつかった短篇を次々に発表し、世界中の読者を魅了する。米国ナショナルブックアウォード(2000年)ほか多くの栄誉ある文芸賞を受賞。2012年他界。主な作品に『火星年代記』『華氏451度』『たんぽぽのお酒』『何かが道をやってくる』など。

「2015年 『たんぽぽのお酒 戯曲版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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