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Amazon.co.jp ・本 (272ページ) / ISBN・EAN: 9784150402105
感想・レビュー・書評
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ル・カレ二作目。唯一の本格ミステリだという。
舞台は伝統あるパブリック・スクール、カーン校。教師カーンの妻ステラは「私は夫に殺されそうだ」という投書を宗教誌「キリスト教徒の声」に送っていた。編集長ミス・ブリムリーは旧友のジョージ・スマイリーに内密に調査を依頼する。しかし時遅し、ステラは既に殺害されていた。警察は近所の狂女に容疑をかけるが、スマイリーは独自に聞き込みを重ねる……。
カーン校の重苦しい旧態依然とした空気が全体的に漂う。地道な捜査をきちんと描いており、一応のどんでん返しもあり、そこそこ面白い。しかし、地味。一作目の『死者にかかってきた電話』も地味な私立探偵小説といった印象(スマイリーは私立探偵ではないが雰囲気として)だった。三作目の『寒い国から帰ってきたスパイ』で化けるんだろうか。
カーン校の歴史を綴る冒頭からして上手い。
「カーン校の偉大さを、エドワード六世の賜物と見るに異論はなかった。そしてまた、王の教育への情熱が、サマーセット公爵の献言によるものであることも、歴史のあきらかにするところだ。しかし、カーン校の関係者たちは、この助言者の政治的経歴にいかがわしいものがあったのをきらって、もっぱらその校史を、人格高潔な国王ひとりにむすびつけた」
検索してみると、サマーセット公爵はエドワード六世の摂政だったが失脚して処刑されたらしい。彼の略歴を鑑みると、カーン校の設立が1547年から1549年のあいだらしいことがわかる。はっきり書かないのにわかるところが上手い。そして、カーン校の隠蔽癖と偽善性がこれだけで読者に伝わってくる。
本作で世界情勢にふれている記述は少ないが、被害者が1956年のハンガリー事件での難民救済事業に協力していたというくだりがある。実質的にソ連の支配下にあったハンガリー市民が蜂起し、ソ連は軍事介入、多数の死者と亡命者を出した動乱だ。
スマイリーがビュヒナーの寓話を思い出すくだりは、ドイツ文学研究者だという彼の経歴を僅かに示す。空虚な世界に一人残された子供が月を目指すがそこは朽ちはてた木材で、地球に帰ろうとするもその地球さえ消え失せてしまい、どこにも帰るところがなくなってしまうという筋らしい。
訳者あとがきによると、ル・カレ自身は高校大学時代をスイスで過ごしたという。詳細をみるコメント0件をすべて表示
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