ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ (ハヤカワ文庫NV)

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  • 早川書房 (2012年3月23日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (560ページ) / ISBN・EAN: 9784150412531

作品紹介・あらすじ

イギリス情報部〈サーカス〉の中枢に潜むソ連の二重スパイを探せ。引退生活から呼び戻された元情報部員スマイリーの孤独な闘い。

みんなの感想まとめ

緊張感あふれるスパイ小説が描くのは、冷戦時代の情報戦と、その中での個人の葛藤です。引退した元情報部員スマイリーが、組織内部に潜む二重スパイを追う物語は、単なるアクションではなく、深い人間ドラマが織り交...

感想・レビュー・書評

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  • 『海外ミステリーマストリード100』より。
    「ハニートラップ」の単語の出典元という興味深さ。
    一小説で使った造語からこんな言葉の定着が起きるなんて凄い。
    そんなにたくさんの人が読んだの?影響を受けた人が、同様な色んなとこで使ったから?

    さて、内容は国際諜報物。
    このジャンルには苦手意識があった。
    ベースにある各国情報機関の腹の探り合い、騙し合いみたいなのにあまりわくわくしない。
    裏の裏は表、最初の面はどっちで何回ひっくり返ったかだけのような気がするし、組織内でのパワーゲームも不毛で、追うものが覇権、そのエネルギーが野心てとこも萌えない。
    そういう生き方に魅力を感じないから。

    ところが本作、思っていたよりはるかに楽しめた。
    まさに諜報物だし、枠組みが小出しにされるので、それぞれの関係性がわかったようなわからないような状態(あぁ、こいつとこいつ過去に何かあったんだなー、でも詳しくは今は教えてくれない、みたいのが沢山)で進む。
    名作と謳われるだけあってエピソードの出し方、話の展開がバラエティに富んでいて飽きることはないながら、そんな状態が続き何となく悶々とするのだけど、200ページ過ぎたくらいで見え始める。
    そして少しページを戻り、はぁなるほどこのことを仄めかしていたのね。あ、これもの凄い複雑な関係性と過去の因縁をある意味とてつもなく上手く語っていると気付く。

    組織の失態の落とし前をつけさせられて今や一介の隠遁者、ジョージ・スマイリー。
    とある筋から浮き上がってきたあの事件の元凶を今一度追う。
    この追っていく過程がすこぶる楽しい。
    スマイリーがめっちゃ地味なんだけど、確実に迫っていく感じが夢中にさせる。

    終盤ちょっとまた無理に意味深な感じが出て読み難いところもあったが、「むろん最初からわかっていた」というくだりが、向き合わざるを得ない真相のやるせなさを強く感じ、凄く印象に残った。

    結果、ハニートラップはあんまり筋と関係ない(むしろ頭に残るのは「もぐら」)っていう。
    でもまぁ、飛び交う符牒と3部作というこの先にあるであろう大ボスとの対決への予感めいたものが多くの読者を虜にしたのであろう。
    次は『スクールボーイ閣下』。

  • 全方位重い!ややこしい!けどこのミクロとマクロを行ったりきたりする感じはたまらない。スパイモノと聞いてハードボイルドアクションを想像してたけど、もっと深くてもっと概念的で、最後がたまらんっ!

  • 英国情報部〈サーカス〉の中枢に潜むソ連の二重スパイを探せ。引退生活から呼び戻された元情報部員スマイリーは、困難な任務を託された。二重スパイはかつての仇敵、ソ連情報部のカーラが操っているという。スマイリーは膨大な記録を調べ、関係者の証言を集めて核心に迫る。やがて明かされる裏切者の正体は?スマイリーとカーラの宿命の対決を描き、スパイ小説の頂点を極めた三部作の第一弾。

    辰巳四郎の表紙が印象的な菊池光訳の文庫を読んだのが1986年だから、38年前である。映画は公開されてすぐと、一昨年リバイバル公開の際に観た。アナログの世界に生きるスパイたちの暗闘。翻訳の良し悪しは分からないが、小説として一級品であることは間違いない。

  • 再読。
    組織内部にいる誰が裏切者の「もぐら」かを探すという要素が、やや難解である本小説にキャッチーさを提供しており、スパイとスパイ組織を主役としながらもミステリーで一番おいしいフーダニットの箇所を味わえるように出来ている。とはいえ、犯人を突き止める方法は、ひたすら資料を読み漁り、軽いカマをかけつつ対話によって推論を行う調査であるため、ジェームズ・ボンドのような派手派手しいアクションはほぼ無く、抑制された文体も相まって一見すると地味。また、時制を入れ替え、ときたま視点人物が変わる点も本書の難易度を少なからず上げている要因で、挫折ポイントとなりえるかと思う。
    しかし含蓄と哀愁のある文章は二度三度の読書に容易に耐えうる強度を持ち、噛めば噛むほどにただよう憂色を愛おしく感じられることだろう。
    東西冷戦こそがスパイたちを生き生きと動かす花形の時代だったとするならば、すでに半世紀近くが経過し世界の対立構造が一変した後では「遠い時代」の物語といった印象を持たれてもおかしくはない。だが、個々の愛国心や民族として自己を規定すること、国と個人。組織と個人。こういった本書で扱われるテーマは時代を超えて普遍的――むしろ抑え込まれた歪みが武力行使という形で表出してしまった現代だからこそ、より意味を持つ様に見え、悲しみを覚えつつも改めて古びない作品であることを実感した。個人と組織の力関係を描くことによって、「国」や「体制」という、より大きな存在により個人が犠牲となる非対称な構図。ル・カレが本書で突いたこの矛盾は、警鐘となっていまこの時も、そしてこの先も響き続けることだろう。
    また、一歩引いて見てみると、本書は人間の性とも言える部分が描かれていると思う。状況を支配する能力を得て、それを行使することにより世界を動かす陶酔。その快楽が屈しがたいものであることは容易に想像できる。そういった人の性。どうしようも無さ。しかしだからこそ、それに対しどうしても、どうしようもなく、共感をおぼえてしまう自分がいる。
    そうして信じたものが粉々に砕かれながら、ル・カレは最後に一筋の希望を残す。失われた何かを取り戻すのではなく、また別の地点から生まれた小さな萌芽を残すという形で。張り詰め、ひりついた空気の中、置き土産のように置かれたその希望に、作者の想いを、優しさを感じ、少し心が安らいだ。

  • 映画「裏切りのサーカス」を観てから読みました。
    ストーリーの大まかな流れは同じだけど、原作のこちらの方がかなり濃密で複雑。
    冷戦の知識がないので苦労しながら読み進めました。

    面白い!
    頭脳戦でスリリングで、緻密な描写は風景が見えるよう。
    自分も一緒に相手の眉の動きや目線の行方を見てるような気持になった。
    お陰で読むと疲れたけど(笑)
    冷戦下のスパイは本当にこんなことしてたの?
    情報をめぐる攻防戦がすごすぎる。
    そしてピースが集まったら怒涛の終盤への流れ、
    読む手が止まりません。

    レビューでは翻訳が分かりにくいとの評判でしたが、読み進めるうちに慣れました。
    ちょっと古臭く?感じる表現もあるけれど、逆に時代背景に合っていたように思う。
    話の流れも映画で予習済だったのでそこまで困らず。


    とっても面白かったけどボリュームが大きいのでなかなか再読出来ない。
    でもまた読みたい作品です。

  • 語るべきことを語れば、予想を裏切る必要も、皆まで言う必要もない ただその語るべきことを語るのに5万年かかりそれを受け取るのに5万キロカロリーを消費します

  • 村上春樹が翻訳について書いた本の中で、ル・カレのスクールボーイ閣下を評価していて、読もうと思ったけど、順番的にこちらかと思い手に取る。

    アマゾンのレビューでは、評価がそんなに高くなく挫折した人も多いような気がします。併せて翻訳が悪い、読みにくいとの評価も。

    確かに最初はページが進まないのですが。イギリスの天気にあわせた、厚いカーテン、カーペットなどの室内を思わせる、重厚な表現になっているので落ち着いて読み進めると、そのうち面白くなります。

  • 遠回しな状況説明、誰のいつのセリフかわからなくなるシームレスな回想シーンは、登場人物の多さや当時の時代背景以上にわかりづらいが、大筋がまったく理解できないほどでもない。細かい理解はあきらめて読み進めるか、逆に人物の相関図などをメモしながら丁寧に読むのが吉かと。キャラクター、ストーリーともに、まさに人間ドラマとしてのスパイ物の古典の風格。

  • 有名すぎるほどに有名な古典的スパイ小説。どうして今まで読まなかったのだろうか、というくらい。
    今になって読んでみて、すごい、面白い、につきますね。
    最初の方は人の名前とか、よくわからなくて、文体も理解しにくくて、私も年をとったな、名前覚えらんないや、と思っていました。他の人のレビュー見て、あ、私だじゃなかったのね、とちょっと安心。

    さらにレビューでよく書かれていた映画の「裏切りのサーカス」もみました。私は原作を先に読んだので、ああこのシーンね、とわかったのですが、映画だけ見た人にはわからないことも多かったのでは。

    若い頃に読めばそれはそれで面白かったでしょうが、今、読んでよかった。

    組織への忠誠とはなにか、信条とはなにか、人生において、それは、いかなる意味があるのか、ないのか。
    愛もまた、同じように繰り返し問われている。国への愛、妻を、恋人を、愛するものを信じること、裏切ること。愛ゆえに自分を裏切るものもいれば、自己愛ゆえに自分を裏切らないものもいる。
    スパイ小説、探偵小説であるとともに、愛の物語だったりするところが、この話のずるいところ。犯人が分かってそれで終わりにはならないのはそのせいだ。

    最後の方に行けば行くほど、この話が切なく、深くなるのは、問いかけの果ての答えが、この伏線の多い、二重スパイがテーマにふさわしく、複層だからだろう。

  • 「気を取り直せよ、ピーター。イエス・キリストだって弟子は十二人(トゥエルヴ)しかいなかったのに、そのひとりが裏切り者(ダブル)だったんだ」

    英国情報部〈サーカス〉の中枢に20年にわたり潜むソ連の二重スパイ〈もぐら〉がいる。その正体を炙り出すためにチェコで極秘に展開された『テスティファイ作戦』はしかし失敗。チーフであるコントロールは失脚し、ほどなく病死。コントロールによってチェコに送られたプリドーは背中を撃たれたうえで逮捕。〈サーカス〉は、その混乱のために機能停止状態に陥り、その後、新体制によって再起を図る。
    作戦失敗の余波を受けて、引退生活を余儀なくされた元情報部員スマイリー。
    彼のもとに、かつての同僚たちが姿を現す。スマイリーは密かに組織に呼び戻され、今は〈サーカス〉の上層部にいるはずの〈もぐら〉の正体を探る困難な任務を託される。
    スマイリーは英国政府・情報機関監視役レイコンと、未だ〈サーカス〉に所属するギラムによって集められた、情報部内に残された膨大な記録と関係者の証言を丹念にたどり、その正体を見出してゆく――。

    裏切り者を探すスマイリーをはじめ、ここに登場する人物はすべて誰かを裏切り、誰かに裏切られている。妻、夫、友人、恋人、上司、部下、仲間、組織、そして国に。
    信じていた、愛していた、尊敬していた、忠誠をつくした――それらのものに裏切られた個々の〈人間〉の哀切と、裏切り、裏切られるのが常である優秀な〈スパイ〉同士の諜報戦。相反する、しかし表裏一体の世界を稠密な文章と語りでたっぷりと味わうことができる、スパイ小説の金字塔。

  • 『裏切りのサーカス』が好きすぎて、DVDもBlu-rayも買ってしまった。こんなに好きなんだし原作を読まずにおれようかということで、お薦めいただいた旧訳ではなく新訳のほうで読了。ジョージ・スマイリーがとにかく好き。だから、妻のアン・スマイリーとビル・ヘイドンが憎たらしい。ジョージに何してくれるんじゃ(怒)という気持ちになる。コントロールがもぐらを「腐ったリンゴ」って表現していたのも、ジム・ブリドーがバカらしいと思いながらスマイリーに相談したかったんだというところも、スマイリーがレイコンの娘に怖がられるところもすごく好き。ピーター・ギラムはやはり男前なんだなぁと。ほっこりしそうな太った中年のジョージ・スマイリーは実はすごく厳しくてさみしい人だと思うのはアンがトカゲみたいなひとだって表現するところ。ジョージはひとりなんだなぁよくも悪くも英国のために生きている人なんだなぁとしみじみ、さらに好きになる。次は『スクールボーイ閣下』読みます。

  • 読むのに時間を要する文章だった。回想と現在に隔たりがなく、スマイリーは夢と現のあいだをさ迷うようにもぐらのジェラルドを追う。欺き、戦い続けるスパイにおいて自分と敵の境界はどこにあるのか。思想が意味を持たないならば、なぜ同じ人間で争わなければならないのか。スマイリーはコントロールではなかった。彼はカーラに自分を重ね、ジェラルドを憎むことができなかった。

  • 老巧な元英国情報部スパイ、ジョージ・スマイリーが情報部にはいりこんだソ連のスパイ、通称もぐらを突き止めるというストーリー。

    評判の悪い翻訳のせいか、そもそも原作が難解なせいか、多分両方なのだろうが、読みにくいところをあげたらキリがない。

    人物名がわんさか出てきて、一度ちょろっと説明があった登場人物については当たり前に知ってるでしょうとばかりにさらっと出てくるし、場面説明が非常にわかりにくくて、気がついたら主人公がよくわからない地名の場所に向かって歩いているといったかんじ。

    一度目はジム・プリドーが学校にやってくるところで自分の頭のなかでうまく映像が作れず断念。

    二度目はピーター・ギラムが情報部の資料をあさっているところ、情報部の人間が次々とでてきて、どっちが先に歩いているのか、部屋の中から二人が覗くのをギラムは部屋に入ったのか入ってないのか、ってなかんじでアタマがこんがらがって断念。

    原作なんてなにくそ。この作品は映画だけ見て話をつかめればいいかと思い、映画をレンタル。
    が、より心理描写を楽しみたいと思って、結局映画を見進めてはては原作を読み、また映画を見進めて、というのを繰り返しました。

    映画公式サイトの相関図をプリントアウトして原作の登場人物たちに“顔”を与え、原作を読んでどんどん書き込みをしていくことで本当の相関図を作っていき、映画で物語の大筋を把握しながら自分の中に映像を作っていきました。

    もちろん、原作と映画とでは設定が変わっていたり物語が前後していたりで、完全に並行に進められたわけではないけれど、ジム・プリドーに起こった事件がだいたいなんであるかというのを映画で知り得たお陰でだいぶわかりやすくなりました。

    そうやってがっつり1つの作品に“取り組んだ”のは初めての経験でした。
    映画と同様、何回も読むことで得られる要素がたくさんあるだろうと思うのですが、ボリュームがボリュームだけに、なかなかそうもいかなそうです。

    でもこんな風に、複雑な、中身のある作品がこの世にあることが幸せです。

    翻訳は、正直勘弁してよと思うくらい直訳を匂わしています。
    ただ、まあ直訳なので変な混じりけがないという意味ではこれを読めてよかったかもしれないと思いました。

  • 映画を観て読んでみたくなったんだけど、こちらもおもしろかった。映画とこの小説は幸福な補完関係のよう。映画で省かれている人間関係が小説ではよくわかるし、小説を読むときにも映画を観てるとイメージがつかみやすい。空白もなく時間が前後するので最初は難儀したけれど、緻密な描写による緊迫感はたまらない。

  • 映画『裏切りのサーカス』を観て、これは是非とも原作も読まなくては!と思い読み始めましたが…やはり前半は難しい…というか現在と過去が行ったり来たりする場面が多いから気を抜いてると「え?今なんの話?」となる。
    人物も多く、専門用語も多いから何が何やら…となる人が多いというのもうなずける。
    私は先に映画を二回観ていたのでストーリー展開とかはある程度わかっていたからなんとかついていけたけど、観てなかったら投げ出してた気がしてならない。
    といいつつも、真ん中あたりまでは読むのが辛く感じるとこもあり300ページくらいまでは放置したりまた読み始めたりで何ヶ月かかかった。
    しかし、300ページからは1日半で読めた。

    映画を観るきっかけは正直ギラム目当てのとこもあったけど、映画でも小説でも個人的に一番印象に残ったのはなんだかんだでジム・プリドーとビル・ヘイドンの関係だったりする。
    映画とは若干違う最後だけど、どっちも切なすぎる。
    今後のシリーズではもう彼らの出番は無いんだなと思うとちょっと寂しい。

    結果としてはやはり最後まで読んでよかった!と思うから三部作全部読んでいきたい。
    時間は…かかりそうだけど。

  •  東西冷戦期イギリスの諜報機関に身を置く男たちのドラマ。人によっては前半が退屈かもしれないけれど、とにかくそこを我慢してでもクライマックスにたどり着くことを強くおすすめします。前半で伸びに伸びた枝葉が呼応するうねりがたまらないので。
     訳は、個人的には旧訳を推したいところなんですけど絶版なので…文章自体は新訳の方がとっつきやすいかもしれません。

  • 二度読んだ。結果から言えば、ここは、と思わせる部分がないこともないが、全体的にはさほど読みづらさは感じなかった。読みづらさを感じる原因は、フラッシュバックを駆使した回想視点の導入による時制の交錯や、複数の視点人物の瞬時の転換といった原作者の文章にあるのではないか。しかし、一度目は多少苦労しても再読時は、主人公スマイリーの独白の沈鬱さを紛らわそうとするかのように絶妙のタイミングで挿入される情景描写の巧みさや、込み入った伏線を多用した構成の妙味にうならされるはず。旧訳や原文とつき合わせていないので、訳の巧拙についてはひとまず置く。ただ、それを理由に読まないですますのはもったいない。そう思わせる作品である。

    スパイ小説というジャンルには不案内で、ル・カレの作品も読むのはこれで二作目。だから全くの素人評だが、読後思ったのは、これは、一種の企業小説だな、ということ。業界紙の記者をやっていた藤沢周平が作家に転じ、「お家騒動」に材を採った時代小説を得意としたように、企業でも、江戸時代の藩でも、洋の東西を問わず、男が集まるところに権力争いはつきものだ。

    主人公スマイリーは、サーカスと呼ばれるイギリス情報部の幹部だったが、チェコで起きた事件の巻き添えを食って職を失う。愛する妻にも去られ、今は孤独な年金生活者である。その元スパイのところに大臣の側近レイコンから呼び出しがかかる。どうやら、サーカス内部それも幹部の中にソ連に通じている「もぐら」と呼ばれる二重スパイがいるらしい。スマイリーの馘首も直属上司であったコントロールの失墜もサーカスを牛耳ろうとする「もぐら」による策謀だった。スマイリ-は、権力の中枢から排除されたかつての仲間と諮り、もぐらの正体を暴こうとする。

    題名の「ティンカー、テイラー、ソルジャー…」は、マザー・グースにあるわらべ歌で、「鋳掛屋、仕立て屋、兵士、貧者、乞食」の意味。ここでは、それぞれサーカスの幹部、パーシー、ヘイドン、ブランド、トビー、スマイリーに見立てられている。「もぐら」の裏切りによってチェコに潜入したジム・プリドーは背中を撃たれ、現地の組織は壊滅した。いったい誰の仕業なのか。スマイリーは、その謎を解かねばならない。スパイ小説とは言い条、そのつくりはクインやクリスティ、横溝正史偏愛の童謡仕立てのフーダニット物ミステリに類する。

    スマイリーの調査活動は、レイコンや側近のギラムがサーカスから持ち出した資料を読むことと、事件の当事者の尋問。ぶ厚い丸眼鏡をかけた風采の上がらぬ小男という外見に相違して、スマイリーは有能なスパイだった。得意とするのは厖大な情報を精査し、そこに存在する齟齬から重要な問題点を読み解くことと、警戒する相手から得たい情報を聴き出す力。どちらも地味ながら情報活動では必須とされる力で、考えようによっては、これは名探偵の資質でもある。

    ル・カレの真骨頂は、一見無関係とも思える情景から物語の中に読者を導く手際にある。冒頭、喘息の発作で授業を見学していた少年の目を通して描かれるジム・プリドーの荒々しいまでの登場シーン。雨中、窪地に突っ込むトレーラー車の描写が、これから始まる物語の不穏で酷薄な世界を余すことなく予告する。尋常でない魅力を身にまとった新任教師が垣間見せる孤独な姿に、少年は自分が庇護者になろうと決意する。すべてが終わり、心配しつつ待つ少年のところに彼は戻ってくる。裏切りに傷ついた男に新しい友情の誕生を予感させ、物語は余韻を漂わせて終わる。少年の挿話が陰惨なスパイ小説に一抹の救いを与えているのだ。

    かつて実際にあった二重スパイ事件をモデルに、東西冷戦を背景に権力闘争にうつつをぬかす男たちを冷静な視点から解析し、倫理的な判断を下す。男同士の友情と裏切りというテーマは、レイモンド・チャンドラーの『ロング・グッドバイ』にも通じる、ほろ苦い読後感をもたらす。ル・カレの代表作であり、これに続く『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』三部作は、スパイ小説の傑作とされている。

    「そろそろ生命保険の広告のいう“人生の晩年”だから、彼は不労所得生活者の見本になろうと努めた。だれも、だれよりもアンは、その努力を買いはしないが、彼は本気だった。毎朝ベッドを出て、毎晩ベッドにはいる。たいていひとりきりのそんな日々を送るうち、いまも、これまでも、自分はなくてはならぬ存在ではなかったのだと、自分にいってきかせた。」

    スマイリーの独白だ。人生のある段階にきた者にとって、この感慨を他人事と読みすごすことができるだろうか。自分はまだできる、できるはずだと思いながらも、一日はやってきては去ってゆく。その日の長さに耐えるため、自分に言い聞かせる。「いまも、これまでも、自分はなくてはならぬ存在ではなかったのだ」と。

    生きる記憶装置のようなコニーをはじめとして、ル・カレの創り出した人物は、誰もみな実在の人物であるかのごとく生き生きしている。彼らがすぐそばにいても何の不思議もない。バリバリの現役だったころならピーター・ギラムに感情移入し、いらいらしながらスマイリーの思考を追うだろうが、年金生活者の身ともなれば、スマイリーの境遇に自分をかえりみてしまう。スパイ小説の傑作と紹介してもまちがいではないが、すぐれた文学の持つ香気のようなものが全編に漂う。時間に余裕があって、再読、三読を愉しむことのできる世代にこそお勧めしたい。

  • 映画を観て面白かったので補完のために読みました。

    中盤からは盛り上がってきて一気に読み上げましたが前半キツかった(すこし読んでは数日あけ、またすこし読んでの繰り返し)
    今のシーンに集中したいのに別のシーンが割り込んできて中断、とかは私の好みの書き方でないことは確かです。
    話の筋はとても好きですが、文章が。。。なのは翻訳が悪いのか元の文章がそうなのかは原語で読めないのでわかりませんが・・・

    もう1度映画を観てさらに細かいところを楽しみたくはなりました。

  • 静謐な策略が巡るスパイもの。難しいけど、愛の話と捉えれば単純で面白かった。ビルとジムの愚かさと愛おしさ。ビルは、ジムを片割れだと言うのなら、西側に徹すれば良かったのに。ジムは、あんな男なんて捨てて生きれば良かったのに。

  • 英国情報部(サーカス)の中枢に潜むソ連の二重スパイを探せ。
    引退生活から呼び戻された元情報部員スマイリーは、困難な任務を託された。二重スパイはかつての仇敵、ソ連情報部のカーラが操っているという。スマイリーは膨大な記録を調べ、関係者の証言を集めて核心に迫る。やがて明かされる裏切者の正体とは?
    スマイリーと、カーラの宿命の対決を描き、スパイ小説の頂点を極めた三部作の第一弾。著者の序文を付した新薬版。

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