- 早川書房 (2019年9月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (672ページ) / ISBN・EAN: 9784150414580
作品紹介・あらすじ
カンヌ映画祭「ある視点」賞受賞映画の原作である表題作をはじめ、北欧ホラーの旗手、リンドクヴィストの手腕を堪能できる短篇集
感想・レビュー・書評
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吸血鬼映画の名作『ぼくのエリ』の原作『モールス』のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの短編集。モールスのスピンオフが収録されているというので迷わず購入。基本的に文庫本は通勤電車で読みたいのだけれど、こちら670頁くらいあってしかもハヤカワ文庫ちょっとサイズが大きい。無理して電車で読んだら腱鞘炎が悪化しそうだったので自宅で読むことに。しかしうっかり忘れていたが自分、ものすごい怖がり。これ、ホラー短編集。案の定、「坂の上のアパートメント」を読んだあとはトイレ行くのが怖い。やっぱり電車で読めばよかった・・・。
閑話休題。まずは表題作「ボーダー 二つの世界」から。こちらすでに映画化されて来月(10月)日本でも公開予定(http://border-movie.jp/)100頁くらいの中編でしたが、タイトルだけで異世界パラレルみたいな感じかなと勝手に思っていたら全然違いました。派手なアクションもスプラッタもないし、しかもメインの登場人物二人はある理由で外見が醜いという設定で、一番怖いシーンの、怖さの種類も、キャー!っていうオープンな感じじゃなくて、ぐ、ぐろいかも・・・という地味なおぞましさ。収録作品の中にはもっと映画化むきの派手な作品もあったので(「最終処理」とか)なぜこれを映画化しようと思ったのか謎。
モールス後日譚になる「古い夢は葬って」はかなり後半の収録。例の事件から28年後のブラッケベリ、駅の改札係の男性が、カリンとステファンという仲の良い夫婦について回想する。カリンは例の吸血鬼事件の担当捜査官で、定年退職後も事件のことを気にしている。ステファンは列車の車掌で、吸血鬼事件で失踪した少年オスカー(本書ではオスカル)の最後の目撃者。二人の出会いはその事件がきっかけだった。あとがきによると、モールスの原題「Let The Right One In」の元ネタになったモリッシーの「Let The Right One Slip In(https://www.youtube.com/watch?v=5ah1kucA5rw)」という曲の、歌詞の続き「Let the old dreams die」が本作のタイトル。
映画『ぼくのエリ』を観たあと、オスカーは未来のホーカン(エリのパパ)になるんじゃないかと想像して私もぞっとしたけれど、なんと作者自身は映画を観て初めてその可能性に気づき自分でもびっくりしたらしい。つまり、作者はそういうつもりじゃなかったということ。そして、本作にはそれを否定する、別の結末が用意されている。なんというか、ちょっとホッとしました。ホラーとしてならオスカーだけが年老いてゆく未来もありだけど、あの映画のリリカルな空気感を踏襲するなら、この続編の結末こそ望ましい。映画を観たときも思ったけれど『ポーの一族』的な、抒情的な吸血鬼なところが個人的には好みだったので。このスピンオフは一読の価値あり。
「坂の上のアパートメント」はストーリーは関係ないけれど舞台は同じブラッケベリで、少しだけ吸血鬼事件について言及される。先に書いたけど、これ読むとトイレいくのが怖くなります・・・。その他印象的だったのは、ピンクフロイド『ザ・ウォール』が重要な役割を果たす「臨時教員」や、ザ・スミスの「Shoplifters of the World Unite」からインスパイアされたと思しき「マイケン」など。
最後に収録されている「最終処理」は150頁くらいあり、収録作では最長編。再生者と呼ばれるゾンビが隔離されている地区に荷物を運ばされることになった主人公が、ゾンビを成仏させる能力を持った女の子とそのお祖母ちゃん、さらに主人公がスタッフをしているバンドのボーカリスト(なぜか私の脳内イメージはアルフィーの高見沢さんだった・笑)らと協力して、研究材料として切り刻まれているゾンビたちを救出しようと奔走する。
読み終わって今更改めて気づいたのは、私はゴシック・ホラーは好きだけど、ホラーは苦手だということ・・・。
しかし本書の楽しみ方としては、北欧スウェーデンの作家らしく、あちこちにちりばめられた北欧ネタ(と書いた作者は思ってないだろうけど)。登場人物たちはもちろんドストエフスキーを読んだりもしてるんだけど、ヘニング・マンケル、シャスティン・エークマン、エイヴィンド・ヨンソンなどスウェーデンの作家の名前もたくさん出てくるし、「名探偵カッレくん」だの「やかまし村の子どもたち」だの、アストリッド・リンドグレーンはやっぱりスウェーデンでは国民的作家なのね、と思うし、映画監督といえばイングマール・ベルイマン、ヴィクトル・シェーストレム、ブルーノ・リリエフォッシュの絵、『くまのバムセ』のコミックブック、スミスやピンクフロイドだけでなくスヴァンテ・テューレソンなどのスウェーデンの音楽、などなど。あ、ABBAもスウェーデンか!
スウェーデンではなくフィンランドだけど「ボーダー」の主人公はやたらとムーミンを引用するし、「古い夢は葬って」の主人公はノルウェーのオスロにあるムンク美術館へ出かける(ムンクには「吸血鬼」という絵がある)。そういう部分に、意外と読む機会のない北欧の小説を読む楽しみを地味に発見したりしました。
※収録
ボーダー 二つの世界/坂の上のアパートメント/Equinox(エクイノックス)/見えない!存在しない!/臨時教員/エターナル/ラブ/古い夢は葬って/音楽が止むまであなたを抱いて/マイケン/紙の壁/最終処理 -
ミステリーとも幻想文学ともつかない表題作が出色。他者とは異なる能力を持ち、他者とは異なる見た目を持ち、世界から虐げられてきた者が、出会いを通して境界線の先へと進む物語。社会の残酷さに打ちのめされ、こぼれ落ちてしまいそうな人々へと向ける作者の眼差しが暖かく、同時に痛切な気持ちになる。
『臨時教員』や『紙の壁』もまた、世界と自分、他者と私という境界線があわく溶け合う瞬間が描かれ、ホラーの手触りはあるものの、幼いころに感じていた「自分以外の他人、あるいは世界がすべて作り物に見える」というあの感覚を想起させる。
また、映画化された『MORSE -モールス-』のエピローグとなる「古い夢は葬って」については、罪が円環する可能性、ではなく、共に罪を背負いながら生きる、という方向の物語が描かれていて好み。『ぼくのエリ 200歳の少女』の哀しさと美しさのその先を知ることが出来て嬉しかった。
表題作のタイトルになっている「ボーダー」というテーマは11の短編すべてに通底して存在している。社会生活を営む中で自然と定義づけられていくあらゆる物事への境界線が、誰かによって、社会によって都合よく決められた線引きでしかなく、規定しながら他者を見つめることへの警鐘が響く。しかしその響きは誰かを痛烈に批判するようなものではなく、私たちの心に初めから備わっていた(しかし忘れてしまっていた)無垢さを呼び覚ますような響きだった。
あと『マイケン』はリンドクヴィスト版のファイトクラブだった。悪だくみの思想が広がっていく話はいつだって楽しく、いつだって魅力的だ。 -
詳細は、『あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート』を御覧ください。
→ http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1390.html
映画「ボーダー 二つの世界」
2019年10月11日(金)公開 ヒューマントラストシネマ有楽町
カンヌ映画祭・ある視点部門でグランプリを受賞した北欧ミステリー
原作の作者は、『ぼくのエリ 200歳の少女』のヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト。
原作は、ホラーよりはファンタジー。
でも映画は怖そうなので、見ないことにする。 -
数年前に『ボーダー』を映画館で鑑賞、さらに最近DVDで『僕のエリ』を見直した私だが、原作があることを最近になって知り、読んでみる。
なるほど、「スウェーデンのスティーブン・キング」と称される文体と筋運びである。
が。
たしかにキングっぽく、本筋とは関係ないエピソードが織り込まれているが、あんまり効果的でない気がする。というか、ダラダラしてちょっとイラつく。
あと、一人称の独り語りがどうも鼻につく。一時ジョナサン・キャロルにハマったが、一人称が鼻につき始めてやめたという前科のある私なのだからむべなるかな。
結局、11編あるうちの「ボーダー」「坂の上のアパートメント」と、『~エリ』の原作「古い夢は葬って」だけ読んで挫折。自分には合わなかった。 -
もっと彼の作品を読ませてください
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表題作が映画化もされた、「モールス」「僕のエリ」の原作者の短編集
思ったより幻想小説っていうかファンタジーっていうか…あれなんだな…
映画の方が過激になってるのかな… -
スウェーデン人作家による11編のホラーSFを収めた短編集。
何の予備知識もなく読んだ表題作からして衝撃的で、税関で出会った虫の孵化器を持った不思議な男の正体がじわじわとわかっていく展開と思わぬラストに心踊った。そういう路線の作風なのか。次の『坂の上のアパートメント』も、建物のちょっとした傾斜を科学的に解明しようとするところから、いきなり直接的なホラー描写になるストーリーは楽しめたし、『臨時教員』も20年間音沙汰がなかったクラスメイトからの打ち明け話にゾクゾクした。
どの作品も、見慣れた風景や人物、常識だと思っていたことが、あることをきっかけに別のものに変容していることに気づく、まさに境界線(ボーダー)を越えた世界を描いており、B級映画的な作風がとてもよくはまっている。
抑圧されたり鬱積された感情を書いた北欧のミステリはこれまでも読んできたが、ここまでストレートにほとばしるものと異生物の存在を直接的に書いた作品は初めてかもしれない。とは言え"北欧のスティーヴン・キング"という評価は大袈裟で、素人っぽい作品もあり評価は難しいが、ゾンビもの以外は楽しめた。 -
スウェーデンの作家の作品は初めて読んだが、不気味なものばかりで当惑した.11編あったが、最後の「最終処理」は気持ちが悪くなって途中で止めた.死体を処理することのおぞましさをなんと考えているのか.「臨時教員」では旧友との話の中からその教員の実態が炙り出される.「古い夢は葬って」ではカリンとステファン夫婦に巻き込まれた私が、うまく対処するのが楽しめた.表題作は、割と引き込まれたが、感動するものではなかった.
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一応ホラーにカテゴライズされるものが多いのかな。幻想的な短編集。
お気に入りは「紙の壁」。正直なところを言えば、「え、ここで終わるの!?」という印象です。結局怖かったのか怖くなかったのかよくわからない……けれど、確実に恐怖は描かれています。いろいろ想像がありもしない恐怖を生む可能性も。
「マイケン」はどこかしら愉快な犯罪小説。こういうのをしたいとは思わないのだけれど、なんだかとっても楽しそうに思えてしまったのは私だけではないはず。
そして「MORSE」番外編である「古い夢は葬って」。あの二人がちらっと登場するのが嬉しいところだけれど。メインの物語は美しく、そして切なくて印象的でした。 -
長短11の作品集。どの話も、原文の筆の運びのせいか翻訳のせいかはわからないが、冒頭からグッと入り込んで読めました。著者は表題作の他にも映像化されている作品があり、世界観・設定がイメージしやすい文章なんでしょうね。異論は有ると思いますが乙一の作品と似たような感覚を持ちました。
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映画「ボーダー」の原作ということで読み始める。600ページ以上ある読み応えのある中短編集。表題作はほぼ映画と同じストーリー。良作。アパートが傾く話し「坂の上のアパートメント」、パパラッチが奇妙な体験を書く「見えない!存在しない!」はブッツァーティやコルタサルを思わせる秀作。「エターナル/ラブ」「最終処理」はサスペンス風ホラー。たの作品も読んでみたい。
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「モールス」の作家の短編集とはいっても中編も含まれる。いずれもテイストが異なり楽しめた。「最終処理」の前日譚は読みたいなぁ。「モールス」の続編は、予想していたものと違い驚き。
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ヒット作『モールス』のスピンオフも収録された短編集。スピンオフや続編にはさほど興味がないが(※〝モールス〟は面白かった)、こういう短編集に収録されていると、懐かしい人に再会したような気分になって嬉しかった。
しかしこの人、本当に名前が覚えられない……歳を取るってイヤだねぇ、と言いたいが、若かったら覚えられたのかと言われると、正直、自信が無いw ロシア文学を最初に読んだ時も混乱したが、北欧の人名もなかなか馴染みが無くて難しい……。
ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィストの作品

映画の「ぼくのエリ」のラストには、私も同じ未来を想像してました。きっとオスカーだけが老いて…の負のループ...
映画の「ぼくのエリ」のラストには、私も同じ未来を想像してました。きっとオスカーだけが老いて…の負のループ。
作者さんがそれを全く思ってなかったのは意外。私もホラーは苦手ですが、原作もこの作品も読んでみたくなりました。
ご紹介ありがとうございました。
「ぼくのエリ」やっぱりラストは不幸のループを想像しちゃいますよね。エリが生きていくためにはそのほう...
「ぼくのエリ」やっぱりラストは不幸のループを想像しちゃいますよね。エリが生きていくためにはそのほうが合理的だし・・・。なので、そっち系のスピンオフだったらいやだな~と思っていたので、全く違う結末ですごく安心しました。おすすめです!
原作「モールス」のほうは、映画では描かれていなかったエリの過去や、ホーカンとの関係性もしっかり書かれているので理解は深まりましたが、そのぶん映画よりグロテスクだった印象(-_-;)
でもホラー苦手な私でも大丈夫な範囲の怖さでした!