- 本 ・本 (624ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150415198
作品紹介・あらすじ
ノースカロライナ州の湿地で青年の遺体が見つかる。村の人々は「湿地の少女」カイアに疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられ、人々に蔑まれながらたった一人湿地で生き抜いてきたカイアは果たして犯人なのか
感想・レビュー・書評
-
ディーリア・オーエンズ『ザリガニの鳴くところ』ハヤカワ文庫。
自然豊かな湿地帯で慎ましいながらも逞しく独り生きる女性の半生と共に静かに進行していくミステリー。
1952年から始まったノースカロライナ州の湿地に独り生きる少女カイアの成長の物語は、1969年に起きた青年チェイス・アンドルーズの遺体発見事件と交錯していく。
湿地帯に住む貧乏人と蔑まれ、親にも棄てられた独りの少女が自らの努力で未来を切り拓いていく感動の小説。最後の最後にさらなる驚きが待ち受ける。
ノースカロライナ州の湿地で両親と兄姉たちと暮らす6歳の少女カイア。酒飲みで甲斐性無しの父親の暴力に耐えかねた母親や兄姉たちが相次ぎ家を出て行き、たまに家に戻る父親と2人で暮らすカイアだったが、その父親も戻らず、ついに独り切りで暮らし始める。
学校にも通えず、読み書きも出来ないカイアにテイト・ウォーカーが読み書きを教える。成長と共にテイトに恋心を抱くカイアだったが、テイトは大学での学業を優先し、湿地を出て行く。
カイアは湿地に棲息する鳥の羽根や貝類の標本を整理しながら、水彩画を描いたりして平穏な日常を過ごしていた。やがて、女たらしのチェイス・アンドルーズという青年と知り合い、付き合うようになる。しかし、チェイスはカイアを裏切り、他の女性と結婚する。
そんなことがあってから湿地の火の見櫓でチェイス・アンドルーズが遺体となって発見される。容疑者となったカイアは保安官に拘束されるが……
本体価格1,300円
★★★★★詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2024年、本年の読書初めは、「本屋大賞」と「このミステリーがすごい」で話題になった本作からのスタートでした。なかなかボリュームのある作品で、チャプターに時系列は明記してありましたが、慣れるのに少し苦労しました。しかし、慣れてくるとヒロインの成長譚とミステリー要素に段々と引き込まれていきました。
本作は、村の人気者である若者が沼地で転落死体として発見されるところから始まります。転落死であるにも関わらず、その現場付近には、足跡の痕跡がなく自殺にしては不審な状況で、他殺の疑いが浮かぶ。そんな中、容疑者として浮かんだのは、その湿地帯にて生活する風変わりな少女だった。というストーリー。
本作はミステリーではありますが、どちらかというとスローテンポな作品で、序盤は湿地の少女の成長譚です。そのため、現代や被害者との繋がりが見えづらく、少し読みにくい印象ですが、この成長譚には恋愛や社会からの偏見や差別といったことが描かれ、それが物語に深みをもたらしているように思います。
「ザリガニのなくところ」というタイトルの謎が割と序盤に明かされますが、正直、その時点ではその意味がわからず、うーんとなりました。しかし、物語を最後まで読むと、本作のタイトルが何を表したかったのかがわかりゾクっとするとともに、不幸にも、読んだ状況と相まったこともあり深いタイトルだなぁと身に沁みました。 -
2021年本屋大賞翻訳小説部門第1位。ノースカロライナ州の湿地で、若い男性の死体が発見される。事件か事故か? 疑いの目は、「湿地の少女」と呼ばれるカイアへ向けられる。
彼女は6歳で家族に見捨てられ、たった一人で湿地の小屋で生き抜いてきたのだ。学校にも通わない彼女に読み書きを教えてくれた少年テイト。何かと面倒を見てくれるジャンピンとメイベル夫妻の存在に救われる。
そんな中、成長した彼女に近づくプレイボールのチェイスだが、前述のように死体で発見され、殺人容疑でカイアは逮捕される。1960年代いまだ人種差別が残る田舎の町。さらに白人間でも、貧乏白人(White Trash)と呼ばれる人々に対する偏見がある中で、彼女の裁判が開かれる。
ミステリに分類したが、謎解きの面白さといったものは、あまり強くない。謎解きよりも情景がよく書き込まれてる。後半にたびたび差し込まれるアマンダ・ハミルトンの詩とともに、この本の魅力と言えるだろう。実はこの詩人は〇〇なのだが。 -
初めての翻訳小説。全米で一番売れた本とのことでどうなの?おもろいの?って期待大。
幼少ころ家族に見捨てられ、ひとりで生きてきた湿地の少女の物語。孤独に人との関わりを断った生活に、手を差し伸べられ、そして裏切られ、傷つき、また孤独に落ちていく。
村の若者の死からカイヤに疑いがかかり、物語が湿地から裁判へと、そして判決。
貧困、家族、人種差別、偏見、貧富の差、男女、恋愛、孤独、どれもしんどいお話で辛くなる。
最後は大自然の掟に従った学者らしい終わり方。
そしてビックリのどんでん返し‼️ -
その舞台となるのは、ノースカロライナの湿地帯。
多くの生物達が生息しており、豊かな自然の中。
人が生きてゆくのは厳しい。
主人公カイアが7歳の時母親が家を出て行く。
兄姉達も次々家を出る。
残された父も酒に溺れ、カイアの面倒は見ないのに、10歳の時、出て行ってしまう。
「湿地の少女」と呼ばれ差別されながらも、一人強く生きて行く。
学校に行かないカイアの唯一の友人テイトに読み書きを習うけれど……
読み続けるのも嫌になるほど過酷な人生の連続。
しかし、後半からのミステリー部分、やめられなくなる。
最後の最後は圧巻!
読み終えてから、何日も何日もつい考えてしまった。 -
2018年8月刊のWhere the Crawdads Singを翻訳して、2020年3月早川書房刊。2023年12月ハヤカワNV文庫化。面白いタイトルだなぁと気になっていたら、映画化もされていた。手に取ると地味で、ストレートで、少し長くて、たいへんでしたが、ラストのちょっとした(いや、かなりかな)驚きもあって、悪くない読書体験でした。
-
過去と現在が交錯され進む物語。ミステリー要素を含みつつ、雄大な自然とそこで一人ぼっちで生きていく女性カイア。貧困と差別、様々な要素が含まれており、湿地に住む動物たちの描写も素晴らしかった。
-
この小説、洋書ではあるものの
日本の小説
かの有名な東野圭吾の
容疑者Xの献身、白夜行、この辺の空気感もあります。
要素配分としてはスパイス程度のものですけども。
そしてやはり伝記のヘレンケラーかなあ。
とはいえ
“湿地の少女”の成長譚は、
あまり見かけない感じだったかな。
著者が動物学者ゆえの文体だったと思われます。
幼児の母親層である年齢の現代を生きる自分にとって
前半は特に読み辛く感じました。
どっちみち、なんだか
評価は圧倒的に高く
99%の割合で★4から5を叩き出してるので
名作にならないわけがない的な雰囲気はあったから
読み辛かろうが読了めがけて読んだんですけど
昨日、8時から読書、再開したので
ページを捲る指が止まらなくなったのは
半分を超えた10時あたりからで
フローに至るまでは随分と長かったです。
なのでフロー入ってからは
ページ捲るの止まりにくくて深夜に及んでしまいました。
フローになるまでが長いのが洋書所以かと。
フーダニットミステリー観点から言うと
本当に最後まで犯人がわからなかったし予測つきませんでした。
中盤あたりから犯人の予測を立てながら皆さん読んでたと思いますけど……
大抵、外れてたんではないかと思います。
中盤以降の犯人の見立て
自分は絶対的な自信がありながら
思い切り外しましたしね
いや〜鈍感ですわ
“孤独に耐えて生きること”と“怯えながら生きること”は全くの別物だと
主人公が言ってる説もありました。
どっちが善悪というわけでなく別物だと。
死ぬべき時を決めるのは一体誰なのかというクダリも。
これらは、人間の倫理観は置いといても
心に強く迫る言葉かと思います
-
【感想】
少し前だが話題の作品!ずっと本棚に置いていたがついに読めました。
物語の途中は、家族に捨てられながらも周りに助けられながら逞しく暮らしていくカイアの成長を描いた「ポカホンタス」のような物語なのかな?と思って読んでいたが、終盤はしっかりと「ミステリー」だった。
個人的に"湿地"というシチュエーションが、薄暗くどこか陰鬱とした表現に重なっていったような気がした・・・
あとがきに書いていた「貧乏白人(ホワイト・トラッシュ)」の説明がとても参考になったな。
先に時代背景などをうっすら理解して読んだら、また少し違った感想を持てたかも。
なんにせよ、とても面白い作品でした!一気に読み終えました。
【あらすじ】
ノースカロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。
6歳で家族に見捨てられたときから、カイアはたったひとりで生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女を置いて去ってゆく。
以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。
しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく……
みずみずしい自然に抱かれた少女の人生が不審死事件と交錯するとき、物語は予想を超える結末へ──。
【引用】
p481
「カイア、確かに今回はひどい経験をしただろう。だが、そのせいでますます人を遠避けるようになってはいけない。
精神的な苦痛を味わったのはわかるが、実用によっては、これはやり直すチャンスでもあるんだ。あの評決は、行ってみれば、お前を受け入れると言う宣言なのかもしれないぞ」
「普通の人は、受け入れてもらう前に無罪かどうかを調べられたりしないわ」
「私は人を憎んだことなんてない。
向こうが私を憎むの。私を見捨てて、嫌がらせをして、襲ってくるの。
私は人と関わらずに生きていく術を身に付けたわ。
あなたがいなくてもいい。母さんがいなくても、誰がいなくなったっていいの!」
p503
ホタル
愛の信号を灯すのと同じ位、彼をおびき寄せるのはたやすかった。
けれど、メスのホタルのように、そこには死への誘いが隠されていた。
最後の仕上げ、まだ終わっていない、あと1歩、それが罠。
下へ下へ、彼が落ちる、その目は私を捉え続ける。もう一つの世界を目にする時まで。
私はその目の中に変化を見た。
問いかけ、答えを見つけ、終わりを知った目。
愛もまた移ろうもの。
いつかそれも、生まれる前の場所へと戻っていく。
p504
テイトは長いこと食卓の椅子に座り、現実と向き合った。
深夜にバスに乗る彼女の姿を想像した。
彼女はボートに乗り換えて強い潮流を捉え、月がないことを利用して準備を整え、闇の中でそっとチェイスに呼びかける。
そして、彼を突き飛ばす。櫓を降りると、泥の中にしゃがみ込む。
ペンダントを取り戻すときには、死んで重くなった彼の頭を持ち上げたのだろう。
それから足跡を隠す。痕跡は決して残さない。
p508
あとがき
カイアは幼い頃に、家族に置き去りにされ、それからは、たった1人で、未開の湿地に生きていた。
偏見や好奇の目にさらされるせいで学校にも通えず、語りかける相手はかもめしかいない。
ただ、燃料店を営む黒人夫婦のジャンピンとメイベル、それに村の物静かな少年テイトだけはカイヤの境遇に胸を痛め、手を差し伸べようとする。
しかし別れや拒絶は宿命のように彼女につきまとう。
圧倒的な孤独の中、カイアは唯一近づいてきたチェイスに救いを見出すが、その先にはさらなる悲劇が待っていた。
チェイスを殺したのは誰なのか?
物語は、捜査が行われる1969年と、カイアの成長を追う1952年以降の時代を行きつ戻りつしながら進み、やがて思いがけない結末へと収束していく。
p510
・貧乏白人(ホワイト・トラッシュ)
南北戦争以前の南部の白人と言えば、大勢の奴隷を使用して、大農園を営む豊かな地主階級を創造しやすいが、当然ながら、白人にも小規模地主や自営農民といった様々な階層があった。
そしてその最下層にいるのが貧乏白人(ホワイト・トラッシュ)と呼ばれる人々だった。
彼らは、名誉と美徳を備えた地主階級とは対照的なイメージで捉えられ、自堕落、暴力的、不衛生などなど、人格的にも劣る存在とみなされた。
この呼称には、そうした負のイメージが、その後も根深く、残り続けたのである。
ディーリア・オーエンズの作品





