ダーウィン以来: 進化論への招待 (ハヤカワ文庫 NF 196)

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  • Amazon.co.jp ・本 (446ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150501969

作品紹介・あらすじ

ダーウィン進化論の登場以来、われわれの生命観は劇的に変わった。だがその一方で、ダーウィンの説ほど誤解され、誤用されてきた理論もない。それはなぜなのか。現代進化生物学の旗手グールドは、ダーウィンの原理を出発点としながら科学と社会、文化全般のありように新たな光をあてる。生命への限りない愛情と人類の未来への希望を巧みな語り口で綴る、グールド進化論の原点というべきエッセイシリーズ第1作。

感想・レビュー・書評

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  • ダーウィン進化論を軸にしたエッセイ集。
    著者の博識ぶりと科学者としての公正な立場からの言説が気持ちいい。

    進化論に関してはほとんど知識がなかったので知らないことが多くてそれだけでも楽しめた。
    第1部で紹介された、進化論自体はダーウィンだけでなく、当時すでに「かなりひろまっていた異端」だったという話にさっそく驚く。
    ダーウィンが自説の発表を遅らせたのは「進化論」自体ではなく「唯物論」のためだったというのだ。
    18世紀後半から19世紀前半においては唯物論者はかなり迫害されていたらしい。
    19世紀、唯物論とくればあの人たちとの関わりはどうだったんだろうと考えるのは当然だろう。
    グールドはそのあたりも抑えてくれている。
    マルクスもエンゲルスもダーウィンの「種の起源」を高く評価していて、マルクスは「進化論」第2巻にダーウィンに捧げる献辞をつけたいとまで言っていたのだ!
    こういうビッグネーム同士の絡みは単純にワクワクするな!

    第2部の「ヒトの進化」ではヒトは発育遅滞であり、幼形成熟であるという話が興味深い。
    この発育遅滞により、我々は長く学習する時間を得ることができ、家族の紐帯も強固にしたのだ。
    また、赤ん坊にいたっては「胎児として」生まれてくるというのだ。
    その理由をグールドはヒトの脳が大きくなりすぎたため、今のヒトの骨盤では十分成長してしまうと産むことができなくなるためとしている。
    ここは少し違和感があり、発育遅滞と同じで赤ん坊が早く生まれることで学習時間を長く取得できるからとも考えられないだろうか。
    ヒトの骨盤に問題があるならそれを解消するような進化をしてもいいのではないだろうか。
    (もっともどちらが主な理由かという程度の話なのかもしれないが)

    第3部では「極度に完成化された器官」が取り上げられた。
    「こいつらどうやってこんな進化できたんだろうなぁ」と感心するような生物たちのことだ。
    例としてランプシリスという貝の話が説明されている。
    彼らは体の一部を魚に似せ、別の魚をおびきよせるのだ。
    私も常々どういう経緯をたどったらこのような進化があり得るのかという点は不思議に思っていた。
    グールドは「前適用」という概念で説明する。
    前適用の原理は「構造はそのままで機能が変化する」というものだ。
    たとえば初期の魚にはあごがなかった。
    しかし呼吸の役割を担う骨はあり、それが変化してあごになったというのだ。

    第7部、第8部では人種差別や遺伝的決定論に強く反発している。
    もっともグールドはそのような主張は「いかなる新事実にも基づいていないし、その主張を支持するどんなデータも引くことはできない」と言っているだけだ。
    デマやいい加減な主張はいくらでも威勢のいいことを言える。
    対して、真っ当な科学者が言えるのはグールドのように「少なくとも今のところそのような主張を裏付けるデータはない」ということだけだ。
    これは非常に面倒くさい話だが、科学者は忍耐強くそのように主張するしかない。
    3.11以降の日本の放射能デマに対して、多くの心ある科学者たちがしてきたことでもある。
    そして、グールドは遺伝決定論に対して遺伝的可能性という概念を持ち出す。
    利己主義も利他主義もなるほど進化の過程で遺伝されてきたことかもしれない。
    しかし、それはそのような行動も可能であるという可能性の話であり、行動が決定されているわけではないのだと主張する。
    私はそのようなグールドの主張を支持したいと思う。
    我々の精神は肉体によって生まれ、肉体に縛られている。
    しかし我々は肉体の影響を受けながらも自由意志を持つ。
    それは制限された範囲内かもしれないが、少なくともその範囲内においては自由である。
    そのように信じたい。

  • 浪人生から学生時代にかけて、グールドのファンでした。

    この本を今読み、自分の「進化」という概念に対する認識は、やはりグールドの影響を強く受けているのだなぁ、と再認識しました。

    それにしても、元になったエッセイ群は、自分が生まれた頃に連載されていたんだな、というのを思うと、いっそう深いものがあります。

    本当の「博識」「教養」というのは、こういう文章が書けることを言うんだろうな、というのが良くわかります。

  • やや古くさい感じもした。
    でも内容は抜群。

    特に面白かったのは、

    ・k戦略とr戦略(たくさん産むか、少なく産むか)

    ・人間がなぜ胎児で生まれてくるのか?
    (脳が大きすぎて骨盤がじゃまで通れないから)

    の2つでした。

    ただし後半は進化論と遺伝学による差別の助長の告発が続いてちょっと疲れた。

  •  再読。読んだのは十数年前で、内容はほとんど覚えていないが、わりと面白い読み物だった記憶がある。
     進化論に関する言説は最初の方で展開され、その後は生物学や遺伝学に関わる軽いエッセイが大半を占める。
     グールドはダーウィン進化論を正当なものとしてほぼ全面支持し、それがいかに誤解されてきたかを指摘している。なるほど、マルクス主義者とマルクスは違う、というのとおなじで、ダーウィンの理論を「利用」して好きなこと言っていた連中とダーウィン理論そのものは混同してはいけないのかもしれない。
     たとえば「自然淘汰」は19世紀以降の産業経済の動向にいいように組み込まれ、あたかも「弱者を抹殺する方便」であるかのように振り回されたが、グールドによると、むしろダーウィンの「自然淘汰」は創造的なものなのだということだ。「進化」という言葉自体、ダーウィンは最初使わなかった。「進化 evolution」は漢字で書いても「進歩 progress」に類似しているが、英語圏においても、これらはすぐに連想される、親近感のある語同士であるらしい。
     なるほど、直線的に「高度さ」へと向かう「進歩」イメージを用心深く払拭して、「進化」概念をもういちど考え直してみるというのは、意味深いかもしれない。
     そのへんは考え方だというか、なかなか難しいところに感じた。
     進化論から少し逸れたエッセイ類は、既に知っていることもあり(前に読んだのだから当たり前だ)、さほど興味を惹かれなかった。

  • 今ではすっかり古くなった感のある「ワンダフル・ライフ」の著者によるエッセイです。知ってるようで知らないダーウィンの進化論を元に、様々な学説を分かりやすく語り、一見風変わりな生物たちを題材に理論を例証してみたりと、実に軽妙で面白く読み進められます。で、やっぱりこれにも少々古びたところが散見されますが、もともとの刊行が70年代ですから、むべなるかなというところ。
    2002年(だったかな?)60歳で亡くなられたのが惜しまれます。

  • 平易な文章で読み易い。連載エッセイをまとめたものなので、区切り良く読み進めることが出来る。
    特に進化論に興味があったわけではないが、タイトル買いで当たりだった一冊。

  • 生物学の研究者による、一般向けエッセイ集。特に人の進化の過程について詳しく書かれている。また、その内容を誤解されやすいダーウィンの進化論について丁寧に解説を加えている。読むのに集中力が必要だが、進化について知りたい人には非常にお勧めの本です。

  • 単行本は上下二分冊。多摩市立図書館には下巻しかないので、他館から借りて貰った。下巻だけあるってどういうことよ〜。

    マルクスから唯物史観、マルサスから自然淘汰を着想…って、駄洒落みたいだ。

    いわゆる「科学読み物」なんだけど、普通の科学者とその主張がバンバン出てくる。なんか科学"民度"みたいなのが違う感じ。

  • 自然史と進化に関する科学エッセイ。啓蒙、啓発されるところ多し。エッセイにしては翻訳の文体が硬い。

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