火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者 (ハヤカワ文庫 NF 251)

  • 早川書房
4.02
  • (84)
  • (72)
  • (67)
  • (2)
  • (3)
本棚登録 : 947
感想 : 72
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150502515

作品紹介・あらすじ

すべてが白黒に見える全色盲に陥った画家、激しいチックを起こすトゥレット症候群の外科医、「わたしは火星の人類学者のようだ」と漏らす自閉症の動物学者…脳神経科医サックスは、患者たちが抱える脳の病を単なる障害としては見ない。それらは揺るぎないアイデンティティと類まれな創造力の源なのだ。往診=交流を通じて、不可思議な人生を歩む彼らの姿を描か出し、人間存在の可能性を謳った驚きと感動の医学エッセイ。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • どんなテーマパークより、人間の存在のほうがはるかにワンダーでファンタスティックなのだ、ということを、サックスの本はいつも教えてくれる。<BR>
    脳の損傷がもたらす信じがたい症状と、そこから生まれるさまざまな悲喜は心をひきつけてやまない。<BR>
    一見SFめいたタイトルは、ある自閉症の女性が言った言葉。その意味を知ったとき、たまらなくせつなくなった。

  • 少々長いなと思うようなところもあったが、まあ結論言いますと、みんな違ってみんないい、十人十色、につきますな。画家が色盲になってからの過程から、どんな悲劇、驚くようなことがあっても、物事をどう捉えるかによって世界は大きく変わるんだなと、深く再認識。単純なことだけどそれがなかなかできないんだよね。でも少し、変えてみただけで、マイナスで暗い世界が少しずつ明るくなっていく、素晴らしい。自分の短所と言われる部分がきっと武器になるんだろうなと、願いたい。


    以下抜粋

    さまざまな偏りのある能力と性格をもったあなたであり、わたしである。その意味では人間は誰もが奇妙な存在だ。健康とか健常という言葉は、実はむなしいのではないか。それよりも、ひとりひとりが自分の偏りを自覚し、それを大切な自分だといとこしむこと、そして他人の偏りも含めてその人だと受け入れることの方がよほど重要なのではないか。

  • オリバー・サックスのこれまでの著書の中で最も素晴らしかった。世の中には「杉山なお(著) / 精神病棟ゆるふわ観察日記」のような心療内科患者・生理学的障害を持つ患者を動物園のように「観察」する書籍もあれば、この著者のように限界まで「一人一人としての人間」を理解しようと試みる本気が伝わってくる著書もあるのですね。やはり一番印象的だったのは映画にも成った表題「火星の人類学者 テンプル・グランディン」さんのお話でしょう。日本人なら誰もが「村田沙耶香 / コンビニ人間」「同 / 地球星人」を連想したのではないでしょうか。後者は正に「私達は地球星人ではなかったのだ」という視点で書かれています。本書は一冊通してあまりにも考えさせられる事が多く、感想が一言でまとめられません。

  • この本に登場する人たちは、周囲と違うことで孤独を得たけど、その孤独は想像したこともないような、あざやかな世界を見せてくれるんだ、と思った。

  • これは脳神経科医の作者が実際に出会った、7人の脳神経に障害をもつ人々の話です。
    交通事故により、以前は全く正常な色覚だったのが世界の全てが白黒に見えるようになった画家の話。
    若い時、宗教に傾倒し、その間に全盲となり、さらに記憶力をなくした、即時記憶障害の男性の話。
    チックや脅迫的な衝動、奇妙な行動をとる、トゥレット症候群でありながら外科医である男性の話。
    幼い頃から目が見えず、手術により目が見えるようになったが、それが極度のストレスとなった男性の話。
    驚異的な記憶力をもつ男性、驚くべき視覚能力と記憶力をもつ自閉症の少年、自閉症の動物学者の女性。
    彼らと作者の交流、そして症状や行動の様子、それに対する脳神経科医という立場での見解が書かれた本となっています。

    全てが興味深く、こんな事が・・・と思うような話ばかりでした。
    特にこの本にはカラーで彼らの描いた絵が載っており、それを描いたのがどういう人で、どういう状況で描かれたのか、文章と併せて見るととても興味深く、感心しました。
    ただ、脳科学などの専門用語が出てくる記載は難しく、あまり興味もないので、ただ文字を目で追うだけとなってしまいました。

    最後に登場した動物学者の女性は人の気持ちが理解できない自分のことを「火星の人類学者」のようだと言います。
    見た目は同じ人間なのに、理解できない・・・まるで異性人同士の私と彼ら。
    その深くて遠い距離がこの本を読むことで少しだけ縮まったように思います。
    まず、私は理解できてないし、想像力が欠如していると分かっただけでもこの本を読んで良かった。

    脳神経に障害をもち、人とのコミュニケーション能力、社会性が著しく欠如している彼ら。
    でも、彼らは皆たとえ病気が治せるとしても治したいと思わないと言います。
    色彩能力を失った画家はその替わりに色があるために感じとれない微妙な感覚を得、新しい視覚の世界、想像と感覚の世界を表現する事に成功しました。
    自閉症の動物学者も人とコミュニケーションをとれない替わりに、動物の心が分かると言います。
    そして、彼らは人から欠如していると思われている部分を自分の個性としてとらえている。
    そんな彼らは勇気があるし、素晴らしい存在だと思います。
    お互いを理解し合えなくても、根本的に相手を尊厳する気持ちは持っていたい、そう思いました。

  • 「図書館には不死が存在すると読んだことがあります。
    わたしが死んだらわたしの考えも消えてしまうと思いたくない。
    権力や大金には興味がありません。
    なにかを残したいのです。
    自分の人生に意味があったと納得したい。
    今、わたしは自分の存在の根本的なことをお話しているのです。」

  • 私は脳科学系の読み物が好きで、ことに知覚で形作られる世界は個人的なもので、普遍的なものではないという見方に非常に興味を持っている。本書はまさしくその興味を揺さぶられる内容だった。
    本書に描かれている人のうち数人が、自身が障害を持っているということを自覚した上で、障害を消したいとは考えない、とコメントしていたところが印象的だった。それほど彼らが抱えているものが彼らのアイデンティティとして切り離せず渾然一体となっていること、そしてそれほどに彼らが彼らの知覚している世界を守りたいと感じるのだとわかった。
    健常者は、ハンディを抱える人に対して、「正常な知覚ができる状態にできれば感動的だろう」と考えることがある(本書の「見えて」いても「見えない」に出てくる妻もその考えだったのだと思う)。私もそう思っていた。もちろん、正常な知覚を得たい、取り戻したいという人もいるだろう。だが、そういった人ばかりではないということを知ることができた。そして、アイデンティティと知覚的世界を守りたいという気持ちは健常者と変わらないと思った。

  • 病気を患っていても、悲観せずにむしろそこを生かすような人生を送っていてかっこいい。自分を真っ当から肯定する姿勢はすごいと思う。

    "生まれながらの盲人が、手で立方体と球体を識別することを学んだとする。その人が視力を取り戻して、触らずにどちらかを識別することは可能だろうか"

    色失った芸術家
    記憶を保持できないグレッグ
    トゥレット症候群の外科医
    触覚で生きる人々

    当たり前の五感がない世界はどう見えるのだろうか。

  • とりわけ印象に残ったのは『最後のヒッピー』。
    人生最高の1日を翌朝には忘れてしまうことについてしばらく考えてしまった。

  • ヒトのふりをするのは疲れたと最近思う。過去には火星の人類学者テンプル氏のライブラリ構築のようなことをしたことがある。(あそこまで大規模なわけでも、圧倒的な記憶力を持つわけでもないが)。ヒト擬態をエコモードに移行させたら、当然のように反感を買った。心が全く理解できないわけではないから火星とまではいかないが、北極くらいの立ち位置にいるような気がする。「感情に支配されている」人間界は疲れる。どうにか疲れない方法が見つからなければ、わたしという個人はわたしになれずヒトモドキとして一生を終えるだろう。見つかれば、本書のような「個人」として人生を送れるかもしれない。

全72件中 1 - 10件を表示

オリヴァー・サックスの作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ダニエル・タメッ...
サン=テグジュペ...
フランツ・カフカ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×