博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話 (ハヤカワ文庫NF)
- 早川書房 (2006年3月23日発売)
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感想 : 59件
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Amazon.co.jp ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784150503062
感想・レビュー・書評
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オックスフォード英語大辞典(OED)。大学時代は図書館に仰々しく鎮座しているのを横目に通り過ぎ、今はネットで稀に検索をかける世界最高の英語辞典。本書はそのOEDの誕生秘話を綴ったノンフィクションである。
物語は2人の主役(protagonist )が登場する。一人は独学で様々な言語を習得し、学会にその名を知られることとなったジェームズ・マレー博士。すべての英単語を網羅した辞典を作るという、英国の威信をかけた一大プロジェクトの中心人物である。
辞典作成にはありとあらゆる作家の作品、新聞、雑誌の用例を当たらなくてはならない。そのためにはボランティアの力は不可欠である。膨大な仕事量ゆえに遅々として進まない編集作業にあって、連日、正確な用例を大量に送ってくる人物がいた。それがもう一人の主人公ウィリアム・チェスター・マイナー博士である。
マレー博士はこの謎の人物マイナー博士について驚くべき事実を知る。彼は、元アメリカ陸軍の軍医大尉であったが、今でいう統合失調症を患い、ロンドンで殺人を犯した結果、ブロードムア精神病院に終身収監されている精神病者だったのである。
2人の姿はネットを検索すれば、容易に見つけることができる。2人の写真を見ることで、この驚くべき物語が現実のものであるとより実感できる。作者のウィンチェスターはOED誕生秘話として知られる話が実はフィクションであり、真実はそれほど劇的ではないが、むしろより感動的であり、2人の友情に満ちた物語であることを明らかにする。
辞典編纂の物語、言葉にかける人の物語はなぜこうも人の興味を引くのだろう。英語辞典のもう一つの雄ウェブスターの編集者が書いた『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』も話題となった。日本初の国語辞典『言海』を扱った名著『言葉の海へ』もある。
本書では辞典編纂がいかに大変な作業かが詳しく描かれる。WordもExcelもない時代である。用例一つ抜き出すのも手書きであり、後から新しい用例が見つかっても挿入するのも一苦労である。OEDは第1版全12巻の完成までに結局70年以上を有し、マレーもマイナーもその完成を目にすることはできなかった。誤解を恐れずにいうならば、マイナー博士の狂気の力が無ければ、OEDはまったく違う形のものになっていた可能性すらある。運命の不思議さを感じずにいられない。
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今は、当たり前にあってその存在を疑うこともないものの一つに辞書、辞典があります。わからない言葉があれば、辞書や辞典を引くが当たり前に育てられてきました。少しの想像力があれば辞典を無から作ることが、とんでもない労力と時間がかかりそうで、一人で作りなさいと命じられたら、できっこないことを必死で泣きながら訴えるくせに、当たり前のように使っていました。ごめんなさい。
本書は、英語辞典「オックスフォード英語辞典(OED)」が完成するまでの物語です。
英語以外の辞書は、1225年にラテン語の辞書が出版、1612年にイタリア語の辞書が出版されていたようですが、英語のモノはなく、1692年に辞書や百科事典を引いて調べるという言い方が英語で使われるようになったそうです。ウィリアム・シェークスピアさんは1564年に生まれて1616年に亡くなっています。(徳川家康さんが亡くなった年と同じです。)シェークスピアさんは辞典が無い世界で、すべての作品を生み出したことになります。(すげぇ〜)
18世紀前半、辞典とは、英語の難解な言葉だけをまとめたものという常識から、一般の言葉を含める辞典へと徐々に変わっていきます。ナサニエル・ベリーさんが編纂した辞典が1721年〜1782年の間で25版を重ねベストセラーになります。その後、サミュエル・ジョンソンさんが、貴族の援助を得て1746年から新たな辞典の編纂に取り掛かかります。1750年までに単語収集を終え、1754年までに引用文の編集をし、11万8千の用例を選ばれました。言葉の定義を完成し4万3千5百の見出し語が決まり1755年に出版されました。
「この英語辞典は、単語の由来を起源までたどり、さまざまな語義を一流作家の作品から引用した例文によって説明している。これによって、英語の変遷と文法が定められる。文学修士サミュエル・ジョンソン編、全2巻」
出版から100年、英語の規範であり続けました。
1857年に新しい辞典の編纂が決まります。ジョンソンさんの「英語辞典」は一定の言葉を選んで収録したものでしたが、すべての言葉を収録することを目的とした辞典の作成プロジェクトが動き出します。最初の完本である第一巻A-Bが完成したのが1888年、「オックスフォード英語大辞典(OED)」は1927年の大晦日に完成します。全12巻、41万4825語の見出し語が収録、182万7306の用例が引用された辞典がついに完成したのです。このOED制作秘話を知ることができるのが本書になります。
日本語最初の国語辞典『言海』は10年かけて制作され、1889年〜91年にかけて出版されていますが、4万語ほどと言われていますし、現在書店に並ぶ『広辞苑』の見出し語は第7版で約25万語です。OEDの見出し語は41万語を超えていますので、完成までに70年かかるのもうなずけます。
辞典編纂に人生ほとんどの時間と情熱をかけた二人の天才の物語が本書で描かれています。映画化もされているようです。
日本語の辞典づくりは、三浦しをんさんの作品『舟を編む』でお楽しみいただけます。こちらも映画化されていますね。言葉の使い方や、言葉の定義を端的かつ的確に伝えることについて、深く考えるきっかけを与えてくれました。こちらもお勧めです。 -
狂人というより、うーん。学人?ちょっとした思いつきですが。
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世界で最も偉大な辞典の一つであるオックスフォード英語大辞典の編纂をするにあたり殺人を犯し、精神病を患う博士を中心としたノンフィクション。しっかりした辞書が存在しなかった時代、それを0から作り上げる人々の個性的な方々が描かれる。
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オックスフォード英語大辞典OED
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ジェイムズ・マレー(1837-1915)はOED編纂の中心人物。ウィキペディアで彼の写真を見た時には驚いた。仙人のような風貌だったからだ……まるでことばの霞みを食って生きているかのような。
本書のもうひとりの主役はウィリアム・チェスター・マイナー(1834-1920)。軍医だったが、精神病を発症し、妄想から殺人をおかしてしまった。その後医療刑務所のなかにいて、16・17世紀の書物からOED用の例文をピックアップし続け、その完成に多大な貢献をした。ふたりは10年近くにわたって手紙のやりとりをしていたが、会ったことはなかった。本書のヤマ場は、1891年(俗説では1898年)、彼らが初めて対面する場面だ。
本書では、マイナーの病気は軍医時代の精神的トラウマが引き金になったとされているが、ニーチェがそうだったように、梅毒の後遺症の可能性もあるのではなかろうか(マイナーは売春宿に入り浸っていた)。
訳者は鈴木主税氏。訳文が少し硬く、氏らしくないように感じられた。
(p.s. 本書は2019年に映画化された。マレーをメル・ギブスンが演じている。) -
いやはや、素晴らしかった。
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2024.04.13 朝活読書サロンで紹介を受ける。オックスフォード辞典。マレー博士(=博士)、マイナー博士(=狂人)。マイナー博士は精神病棟にいた。
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「オックスフォード英語大辞典」の編纂に関わった2人の物語。
ノンフィクションなので、「舟を編む」ほどの面白さはなかった。
何かにのめりこむ人は思考のバランスが欠けている人なのだろうか。 -
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ずっと読みたいなと思ってた作品やっと読めました!ノンフィクションはほぼ初めてでしたが、小説みたいにスリリングで臨場感高く、読み応え抜群でした!
辞書編纂の仕事…いいなぁ
辞書編纂ものの本は何気に今年4冊目? -
41万語以上の収録語数、オックスフォード英語大辞典(OED)の誕生に貢献した精神病院患者マイナー博士と編纂責任者との奇妙な交流。マイナー博士の数奇な生涯と苦悩と病棟の日々、協力者を募るOED編纂手法が興味深い。辞書好きにお勧め
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たしかにマイナー博士の人生は驚きだが、辞書編纂の大変な苦労、マレー博士の努力にもっと言及して欲しかった。
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2021-11-10
先に映画を観たのだけれど、映画よりスリリングだった。けどそれは文章ならではのもので、映画も悪くは無い。 -
辞典を作るという途方もない作業
その作業に人生を捧げられる人物とは?
悲しい運命の上に成り立つ辞典編纂の物語
南北戦争などの勉強にもなる -
映画が面白そうだったので、映画を観る前に原作を読んでみた。
オックスフォード英語大辞典(OED)の編纂のノンフィクション。事実は小説より奇なりというしかない。
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英語の辞書をめぐる物語。
映画を観て原作を知り、読みました。
映画とはまた違ったところから始まるので、違う物語を読んでいるようでもありました。
映画の時も『舟を編む』の時も思いましたが、小説が一から作っていくものだとしたら、辞書の編集はあるべき場所に収めるような感じでした。
正確さが大事。
それにしても当時の辞書の膨大なこと。
何冊にも及ぶ辞書だそうなので持ち歩くなんて考えもしなかったのだろうな。
そして映画でも挙げられてたけれど、マレー博士とマイナー博士の相対する感じが面白かったです。
彼らの天才的な言語センスはどうやって生み出されるものなのか。母国語にすら、英語ひとつにすら苦労する私に教えて欲しいです。 -
出町柳の古本屋さんで偶然見つけて購入.
「オックスフォード英語大辞典」はよく知らなかったのだが,語源,意味の変遷を,時代ごとの大量の例文によって示した大辞典で,編纂には足かけ70年を要したという大作である.清の時代の康熙字典のようなものか.
その編纂作業の中盤の中心人物であったマレー博士と,在野にありながら多大な貢献をしたマイナー博士の二人を描く.独学で言語学の第一人者となったマレーと,蔵書から大量の,しかも適切な例文を見つけて提供してくる謎の人物マイナー博士の交流には,何か胸が熱くなる. -
オックスフォード英語大事典(OED)を作った二人の天才、ジェームズ・マレーとウィリアム・マイナーの人生を描いたノンフィクション。
マレーは貧困の中に生まれて独学で学び、友人の伝手で言語協会の会員になり、OEDの編纂に加わることとなった。これも十分にドラマティックだが、マイナーの人生はさらに数奇。彼は裕福な家の出で高い教育を受け医者になったものの、精神を病んで人を殺め、病院の中から手紙で用例文を送り続けることで辞書編纂に多大な貢献を行った。
両者とも当時の正統なアカデミックのキャリアからは外れていたと言える。特にマイナーの方は、最後まで妄想から自由になることはできず、社会から切り離されていた。そういう人物が辞書編纂に携わることを可能にしたのが、閲読者という制度。学者に限らず一般のアマチュアに、用例収集を広く呼び掛けたもの。現代で考えればWikipdeiaの成り立ちを思わせる。
OED編纂に至る背景として、17-18世紀の英語辞書の歴史も概観する。帝国の版図拡大につれて規範たる英語の在り方が求められるようになり、かつその動きはイタリアやフランスに比べても遅れていたこと。辞書編纂者の苦労話は[ https://booklog.jp/item/1/4167906856 ]等も思い出させる。またOEDの話も含む、辞書編纂にまつわる話ならこちら[ https://booklog.jp/item/1/4121022513 ]。
「あとがき」で、著者はマイナーの衝動的殺人の被害者となったジョージ・メリットの人生の証として本書を書いたとしている。病ゆえ隔離され、隔離されたことによってOEDの協力者として名を残したマイナーと、彼に殺されたことによって縁もゆかりもない日本人読者の脳に名を残したメリット。世の中は妙なもの。
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