妻を帽子とまちがえた男 (ハヤカワ文庫 NF 353)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (435ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150503536

作品紹介・あらすじ

妻の頭を帽子とまちがえてかぶろうとする音楽家、からだの感覚を失って姿勢が保てなくなってしまった若い母親、オルゴールのように懐かしい音楽が聞こえ続ける老婦人-脳神経科医のサックス博士が出会った奇妙でふしぎな症状を抱える患者たちは、その障害にもかかわらず、人間として精いっぱいに生きていく。そんな患者たちの豊かな世界を愛情こめて描きあげた、24篇の驚きと感動の医学エッセイの傑作、待望の文庫化。

感想・レビュー・書評

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  • 何度繰り返し、この本を、読んだ事でしょう。
    人間の、精神に、興味がありました。自分が、精神の病を名付けられてからは、作者 オリバー・サックスの、変わった人々に対する温かいまなざしに、すがるような思いで、読みました。
     訳者 高見幸郎氏が、あとがきで、こう書いています。
     たしかにこれは、筆者の言うとおり、「奇妙」な話を集めたものである。脳神経になにか異常があるとき、奇妙な不思議な症状があらわれ、一般の想像をこえた動作や状態がおこる。ここに語られた二十四篇の話はいずれもそうした例といっていい。しかしわれわれが、これらをただ好奇の目でながめ、興味本位に読むのだったら、それはたいへんな誤りで、筆者の意図と真情を正しく理解したことにはならないだろう。病気の挑戦をうけ、正常な機能をこわされ、通常の生活を断念させられながらも、患者はその人なりに、病気とたたかい、人間としてのアイデンティティをとりもどそうと努力している。勝てなくても戦いつづけている。たとえ脳の機能はもとどおりにならなくても、それで人間たることが否定されるのではない。このことこそ、サックスがくり返し述べているところであって、ここが、問題の核心というべきであろう。

    、、、書いていて、スマホが、涙で、濡れてしまいました。

    ※ 私が読んだのは、晶文社の、単行本のほうです。


    りまの


    • りまのさん
      どんまい!です、胡桃さん。
      (nejidonさんの真似)
      どんまい!です、胡桃さん。
      (nejidonさんの真似)
      2021/02/22
    • 胡桃さん
      りまのさん、こんばんは(^-^)
      りまのさんが何度も読み重ねた思い入れある著書を読みたくてネットで予約注文しました。
      欲しさのあまり、翌日ま...
      りまのさん、こんばんは(^-^)
      りまのさんが何度も読み重ねた思い入れある著書を読みたくてネットで予約注文しました。
      欲しさのあまり、翌日また注文しダブルというおとぼけをやらかしました(´・ω・`)笑
      なので、単行本と文庫本が私の本棚に仲良くならんでおります。少し落ち着いたらゆっくり読もうと思います♫

      レビューではなく、近状報告でした。笑
      2021/03/27
    • りまのさん
      胡桃さん こんばんは(*^_^*)
      あらあら、それは、まあ。
      そのお話を知り、久しぶりに、この本を、パラパラと読んでみています。胡桃さんにと...
      胡桃さん こんばんは(*^_^*)
      あらあら、それは、まあ。
      そのお話を知り、久しぶりに、この本を、パラパラと読んでみています。胡桃さんにとって、良い読書となりますように!なんだかドキドキします。私は以前、夜型さんのおすすめ本に対して、ひどいレビューをしてしまったことがあります。胡桃さんが、どんな感想を持たれても、受け入れます。
      2021/03/27
  • 脳神経科医サックス博士が出会った患者達。
    妻を帽子と間違えた男:相手の顔がわからない。誰もいないのに誰かいるかのように振舞う。視覚的失認症の音楽家。
    殺人の悪夢:殺人の記憶を失った男が重傷を負い記憶を取り戻してしまう怖い話。

  • 専門的な言葉もあるが、知的障害を病的な見方ではなく、個性として捉えた作品。家族では難しい見方かもしれない、第三者だからこそ接し、その才能を発掘できるのかな。人間って、つくづく感覚=具体、現実の中で生きる生物なんだと思った。

  • 脳神経科医オリヴァー・サックスによる、1985年発表の医学エッセイ。
    サックス教授は、自らの患者の脳神経に起因する奇妙で不思議な症例を綴った多数のエッセイ集を発表しているが、本作品は、後に映画化された『レナードの朝』(1973年)に次ぐ代表作のひとつである。
    本作品では、症例を大きく「喪失」、「過剰」、「移行」、「純真」の4つに分けて24篇が収められているが、「喪失」の部では、視覚、記憶、身体の認知、空間認知などの障害を示す症例が示した奇妙な現象、チックに伴う暴言、人の間違い、切断された足の幻影など、「過剰」の部では、てんかん発作などに伴う幻覚、夢など、「移行」の部では、知的障害や自閉症の高度な計算能力、描画などの特異な能力などが紹介されている。
    いずれも興味深いものではあったが、私が強く印象に残ったのは、重度のコルサコフ症候群の患者の症例である。重度のコルサコフ症候群の患者は、どんなことでも数秒間しか覚えていられず、自分についての過去の物語が持ちえない、即ち、自分のアイデンティティがないのである。そして、記憶障害以外の脳機能は正常な患者は、アイデンティティの喪失を埋め合わせるために、あらゆる話を打てば響くような素早さで次から次へと作り続けるのだという。これは、人間としては、最も耐え難い状態なのではないかと思う。(本人に自覚はないのだが)
    本書は出版から30年が経ち、その後の脳神経医学の進歩により、本書の症例の中にも、原因が解明されつつあるもの、或いは今後解明されるものもあるのだろう。
    一方で、不思議な症例を知るにつけ、脳に関わる機能の複雑さを感じるとともに、脳に関する根源的なテーマである「意識の発生のプロセス」はいつか解明されるのだろうかと、改めて思わざるを得ない。
    (2014年9月了)

  • 妻の頭を帽子と間違えてかぶろうとする音楽家、からだの感覚を失ってしまった若い母親――不思議な症状をかかえる患者たちと、サックス博士の驚きと愛情に満ちた医学エッセイ。

    まず言いたいのは、人間の脳と体って、なんて不思議なんだろう!ということ。
    ここに収められた24のエッセイでは、どれも常識を覆すような、奇妙で不思議な症状の患者が登場する。
    彼らはときにそんな症状に悩み、ときに自分のアイデンティティを失いそうになったりする。そんな彼らと、ともに考え、じっくりと観察し、物事を決め付けずに患者のあるがままを受け入れようと努力するサックス博士の姿勢が素晴らしい。そして、それを書き表す筆致もまた、素晴らしい。

    他人に理解されない、また上手く説明もできない身体的・精神的(あと神経的、も入れたほうがいいのだろうか? 違いはいまいちわからないけれど・・・)症状を抱えながら生きる、というのは、本当に、本当に、本当に大変なことだと思う。
    特に私は、第一部の「からだのないクリスチアーナ」の章で、ひどく共感してしまった。彼女は固有感覚という、いわば人間の第六感覚(いわゆる「勘」ではなく)を失ってしまっているのだが、表向きはごく普通の人間なので、それが他人にはわからないのである。しかし、説明しようとしても「固有感覚とはなにか」というところから説明しなければならないので、とても彼女のぎこちない動きを不審に思う人全てに、詳しく説明するわけにもいかないのだ。
    私はそんな彼女の悩み、また悲しさ、そして絶望を読んで、胸がぎゅうっと締め付けられるような気がした。

    私は脳の能力が、部位によって非常に差がある人間である。平均すればIQは平均値だけれど、とあるテストで計ってみると、能力の低い部位は、能力の高い部位の半分ぐらいの数値しかなかった。
    思考的能力には、ほぼ何の問題もない。しかし、これが短期記憶、動作性、符号や計算などの能力になるととたんに鈍くなる。暗記と暗算が壊滅的で、英単語や社会の年号がとても覚えにくい。忘れてしまうのではなく、覚えられないのである。
    しかし、こんなことをいちいち会う人ごとに説明してはいられないし、説明しても「そんなこと言われたって、私だって覚えられないよ」なんて笑って言われてしまうこともある。

    そんなとき、自分を理解してくれる存在がどれほどありがたいか。そして、そんな人の存在が、どれほど安心をもたらしてくれるか。
    私は幸いにも、そんな存在に出会うことができた。まさしく、この本で描かれた患者たちが、サックス博士に出会えたように。
    専門的に、理論的に、そして科学的に。この「生きにくさ」をそれらの言葉で教えてくれる存在は、私にとって、まさしく「自分のルーツを教えてくれた」存在にも等しかった。

    私の現在の症状(?)が悪化したのは高校1年のときである。それまでも、覚えが悪い、他の人に比べて、動作性の情報の伝達が鈍いと感じたことはあった。
    しかし、高校で自分に合わない勉強方法に無理やりついていこうとしてしまったせいで、以前から自分の体質に合わない学習方法を、今度は体ごと受け付けないようにしてしまった。
    私は今でも、高校1年以前の自分はいったいどうしていたんだろう、と何かにつまずくにつれ、よく思う。高校1年より前の自分は、こんなこと簡単にできていたのではないか、だとか、高校1年以前の能力のままの私なら、もっと将来に可能性があったのに、だとか。
    しかし、この症状が今の私のアイデンティティの形成に、大きく関わっていることもまた、確かなのである。この症状になる前の自分を美化してしまうのはやめられない。おそらく、これからも一生高校生になる前の自分の能力を美化して、私は自分の過去の栄光に浸るのだろう。
    けれど、私はそんな自分と付き合って、ときには折り合っていくしかないのだ。それが今の「私」であり、これからの「私」なのだ。

    この本では、そういう「症状を持っている自己」のアイデンティティのことも詳しく、そしてとても真摯に描かれていて、そこのところも私は大変共感を覚え、またその描かれ方を素晴らしいと思ったのだった。

  • 本作を知ったのは、頭木弘樹さんの「絶望読書」のなかで紹介されていたことがきっかけ。
    「人間に、こんなことって本当にあるの?」という症例が多種多様に描かれている。
    難しい内容や専門用語が多いので、医者や理学療法士なんかにとっては、とても面白く読めて、かつ参考になるのではないかと思った。

  • 著者のサックス先生がもつ人間に対する興味とものすごく柔軟な視点、見立てに舌を巻く。そういう感覚って簡単に持てるものじゃないし才能だろうなと思うけど、知れただけで人生豊かになる感じがする。精神医学の世界に触れたことがない人でも、用語置いといても事例の状況やそのひとの振る舞いとその裏の感情・意図など入り込んでいける文章。

  • 個性と多様性の本。

    冒頭にウィリアム・オスラーの「病気について語ること、それは『千夜一夜物語』のようなものだ。」という言葉が載っている通り、(本人や周囲の人には辛いこともあるだろうけど)出来の良い短編を読んでいる様な驚きや発見がある。

    身体の一部であったり神経や脳の機能が喪失したり過剰だったりで、こんなにも多様な症状が出ることに人間の身体の不安定さと同時に安定性も感じる。

    そして、本当の意味で「感覚」の違う人との相互理解は出来ないからこそ、理解しようとする姿勢と一方の「感覚」での評価の意味のなさがわかる。




    p. 91 私が診ていたある患者は、後頭葉への血管の塞栓のために、脳の視覚をつかさどる部分が死んでしまった。たちどころにこの患者は完全に盲目となったが、本人はそれを知らなかった。見たところ盲人なのに、彼はひとつも不平を言わない。質問や検査をしてみてわかったことだが、彼は盲目となった—脳の皮質の上でそうなってしまった—ばかりでなく、およそ視覚的な想像力も記憶もいっさい失ってしまったのである。それでいて、失ったと言う意識もないのだった。「見る」という観念そのものが存在しなくなり、なにひとつ視覚的に叙述することができないばかりでなく、私が「見る」とか「光」といったことばを口にすると、それが理解できずに当惑してしまう。すべての点で視覚と無縁な人間になってしまったのである。彼のこれまでの人生の中で「見る」ことに関係あった部分いっさいが抜けおちてしまった。



    p. 188こうなるともう、天賦の才能なのか呪われた欠点なのかわからなくなってくる、とも言った。


    p. 204このように考えると、われわれは、通常とは逆向きの流れのなかに立つことになりかねない。病気は幸福な状態で、正常な状態に復する事は病気になることなのかもしれないのだ。興奮状態はつらい束縛であると同時に、うれしい解放でもあるのだ。


    p. 324 今までやってきたのはこの相についてのテストで、そこでは非常に劣っていることがわかっていた。しかしそのテストでは欠陥以外の事は何もわからない。欠陥の向こうにあるものは見えてこないのだ。


    p. 376 「かくして、天才少女から天才がとりのぞかれておわった。あとには何ものこらなかった。ただひとつの優れた点はなくなり、どこをとっても人なみ以下の欠陥ばかりとなった。こんな奇妙な治療法を考えつくとは、いったいわれわれはどういう人間なのか?」

  • 得るものが多すぎて言葉に出来ない

  • レナードの朝の元ネタのお医者様の神経医学に関する24の事実を元にしたエッセイ。
    病気事故生まれつき、原因は様々だが脳が通常と違った状態になった人々の話。
    病気の状態の方が良かったのではないかという話がいくつかあって興味深い。
    そしてこの先生の患者さんに対して思うことが正直に書かれてて、なおかつ優しい。
    ただ記憶障害は本当、人として過去が無くなるということの不思議さがある。

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