E=mc2――世界一有名な方程式の「伝記」 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
- 早川書房 (2010年9月22日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
- / ISBN・EAN: 9784150503710
感想・レビュー・書評
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昔に読んだ、著作かんべむさしの「水素製造法」に出てくる主人公になった気分になりました。
色々この世界一有名な方程式を扱った書籍を読みましたが、この書籍の様なアプローチハ初めてでした。
色々たくさんの登場人物が出てきますが、私のお気に入りはチャンドラです。
宣教師云々の所で気に入ってしまいました。
マタすごく読みやすくて、通勤電車の中で読むにはちょうど良かったです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
"E"の章、"="の章、"m"の章、"c"の章、そして"二乗"の章とそれぞれターゲットを分けた序盤はユニークだし面白かったです。でもそれ以降はちっとも面白くないし内容が浅いです。相対性理論へのアプローチも、他の本を散々こき下ろしておきながら結局似たり寄ったりだし、8章の「原子の中へ」は、これだけ?って感じだし。14章の「太陽の炎」も物足りない。星の内部で核融合が起き、他の元素が作られる話に関しては「宇宙創成」(サイモン シン)が非常に詳しいです。10章の第二次世界大戦の話では E=mc2に関連する原子爆弾のメカニズムよりも、当時のドイツ軍の動きの方が詳しいです。原子爆弾の仕組み、特にウラン、プルトニウム、それから爆縮レンズなど原爆の実現方法に関してはブルーバックスの「原子爆弾」(山田 克哉)が説明も詳しいし分かりやすいです。
著者はシカゴ生まれで現在はロンドンに住んでるらしく、そのような人が原爆を日本に投下したことについてどう思っているか、少しだけ触れられたのが収穫です。それ以外はネットでかき集める情報と大差ないように思えました。 -
章建ての仕方がとてもユニーク、というかわかりやすく、E,=,m,c,二乗それぞれについて知ることが出来ました。
物理学、というか自然現象がこうして戦争に使われていたったのだな…ということが分かる貴重な本だと思います。
他の重要人物のその後もなるほど!と面白かったです。とても丁寧に執筆していたのだなぁということが伝わってきました。オビの文句にあったサイモン・シン絶賛というのは間違いではなかったです。シンの作品好きの人にはぜひ -
すでに相対論の本であればその質量で時空が歪むほど出ているが、この発想はなかった。
方程式の理解ではなく、方程式そのものを主人公に見立て、その生い立ちを追うというこの発想は。
次
はじめに
第1部 誕生
1 一九〇五年、ベルン特許局
第2部 E=mc2の先祖
2 エネルギーのE
3 = (イコール)
4 質量(mass)のm
5 速度(celeritas)のc
6 2(二乗)
第3部 若かりし頃
7 アインシュタインとE=mc2
8 原子の内部へ
9 真昼の雪の中、ひっそりと
第4部 成熟期
10 先手、ドイツ
11 ノルウェー
12 後手、アメリカ
13 午前八時十六分 広島上空
第5部 時間が果てるまで
14 太陽の炎
15 地球をつくる
16 インドのバラモンが天空に目をむける
エピローグ アインシュタインのほかの業績
付録 他の重要人物のその後
謝辞
解説 アインシュタインがみんな悪い 池内了
文献案内
注
方程式そのもの理解であれば、例えば「あなたにもわかる相対性理論」の方がずっと正確で懇切で丁寧である。というか、本書における方程式そののの説明は、すでに知っている人はかなりむっとするのではないか。特にcをなぜ二乗しなければならないかを説明している過程で運動量とエネルギーを比べているのだが、そこで(古典的)力学エネルギーEが速度vの二乗に比例することは説明しても、もっと具体的な E = 1/2 mv2 は登場しない。私などは「素人だと思ってバカにするな!」といささかむっとしてしまった。注を見れば著者がきちんとわかった上で書いているのはわかるのだが、そうであればなおのこと。
E=mc2が、人々にとって何を意味したのかなのだ。E、=、m、c、2といった、方程式の各要素に関わった人々はどうだったのか。それを一本の方程式にまとめあげたアインシュタインにとってどうだったのか。それがただの理論ではなく、実際に原子の中で起こっていることを見いだしたマイトナーにとってどうだったのか。そしてその原子の中で起きている現象を兵器に応用しようとした、ハイゼンベルクとマンハッタン計画の当事者たちにとってどうだったのか…
本書はその意味で理系の本ではなく、科学の本ではない。文系の本であり、科学史の本である。
この観点から見ると、本書は出色の出来で、文理を問わず読ませる一冊に仕上がっており、その読み応えには満足できる。
いや、満足を通り越して、本書に登場する人物たちを英雄視する人は多少なりとも幻滅するかも知れない。土星探査器にも名を残すカッシーニが、光速を拒絶していただとか、ハイゼンベルグが原爆研究をノリノリでやっていたことだとか。
特にドイツが原爆研究であれほど先んじていたとは、本書を読むまで知らなかった。そしてそれが原爆へと「結実」しなかった理由が、連合国の破壊工作にあったということも。個々の破壊工作、たとえば重水工場爆破があったことは知識として知っていたが、それが実際にドイツに原爆を持たせぬことに決定的な役割を持っていた事までは知らなかった。
ハイゼンベルクみずからが、「重水があと500トンもあれば」と言っていたとは。
以前も書いたとおり、私から見ると20世紀最大の科学的発見は、一位は不完全性定理、二位は不確定性原理であり、相対論はその次である。そもそも科学的発見に優劣をつけるということ自体さほど意味がないが、あえてその理由を述べれば不完全性定理と不確定性原理はメタだが、相対論はベタだということ。相対論は科学を進化させたが、不完全性と不確定性の二つの「不」は理性の限界そのものを規定している。
この点において残念だったのは、日本が「単なる被爆国」としてしか登場しないこと。日本もまた原爆を研究していたことは疑いなく、戦後東京湾に捨てさせられたサイクロトロンは「無罪」でも、知の軍事化という点においては他国と何ら変わりなかったことも記しておけば、本書の読了感は一段と深いものとなっていただろう。
しかし著者も読者も全知全能にはほど遠い。誰でも知っている、そしてきちんと理解している人nも決して少なくないこの方程式の生い立ちが、これほど知られていなかったことを知らしめたことで本書の価値は十二分である。