スポーツ遺伝子は勝者を決めるか? アスリートの科学 (ハヤカワ文庫NF)
- 早川書房 (2016年7月7日発売)
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感想 : 10件
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Amazon.co.jp ・本 (544ページ) / ISBN・EAN: 9784150504694
作品紹介・あらすじ
ジャマイカやケニアの陸上選手はなぜ強い?「1万時間の法則」は本当? アスリート、スポーツファン必読の科学ノンフィクション
感想・レビュー・書評
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遺伝とスポーツに関するかなりガチ目の科学ノンフィクション。
この手の話が好きな人にとっては、ご馳走なのでしょうが、
自分にとっては洋書特有の回りくどさが相まって、
正直、結論をさっさと教えてくれ~となってしまいました。
著者が選んだたくさんのテーマの中には
興味深いテーマも含まれていただけに、
ちょっと自分の好みとはズレていたかな、という印象。
500ページを超える大作なだけに、
読む前に注意が必要です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
スポーツと遺伝子との関係について、情熱をもって世界中で取材を重ねて、整理をして世に出した本。一流のプレイヤーになるためには一万時間の練習が必要になり、逆に一万時間の修練によって一流のスキルが身につくと、ある種の誤解を含めて広まった「一万時間の法則」に反論する本としてとらえられたこともあり、米国では相応のベストセラーになったという。ただ、「一万時間の法則」論争に依らず、この本で書かれた内容はとても深く、興味をそそられる。
まず、遺伝子ではなく修練がその差をつける例として、野球が挙げられる。野球の打者は、猛スピードで飛んでくるボールを細いバットでとらえるために、超高度な予測能力を身につけている。予測が重要であるのは、まったく違う投げられ方をするソフトボールの速球を一流のメジャーリーガーがバットにかすりもしないことからもわかる。「全体像を把握して初めて、プレーヤーの配置状況や相手のかすかな体の動きから重要情報を入手し、次に起こることの予測が可能となる。これがスポーツにおける最重要事項だ」という。
ただし、そのための優秀な視覚ハードウェアが必要で、そこに練習によりソフトウェアをインストールすることがポイントになってくるらしい。
一方、遺伝子が重要な要件になる事例として、走り高跳が挙げられる。ほとんど練習しなかったにもかかわらず、オリンピック選手になった事例もある。一方で、多くの練習時間の上で、同じレベルに到達した選手がいることも同時に説明される。
また、遺伝子が与える影響として、男女における差が取り上げられる。男女の運動能力には筋肉量を始め明らかに差がある。オリンピックでも男女別に競技が行われることからも、それは一般的にも受け入れられている。ホルモンの影響によって体に大きな影響が出てくるのだが、性別変換によるホルモン注射など微妙な問題もある。
ジャマイカのスプリンター、ケニアの長距離走選手の例が民族の遺伝子による事例として論じられる。著者は、スプリント遺伝子なるものがあるのかどうか、何度もジャマイカに足を運んで調査をしている。しかしながら、明確なスプリント遺伝子というのは見つかっていない。
ウサイン・ボルトをはじめとするジャマイカ選手に関しては、ジャマイカではトレーニング環境と多くの優秀な運動選手がスプリンターになりたがる社会環境があるのも大きい。ボルトがアメリカに生まれていた場合に、アメフト選手にならずに陸上選手になっていただろうか、というのがそこに関わる問いでもある。結局は遺伝子と社会環境の結果としてジャマイカスプリンター集団が生まれたとするのが正解なのかもしれない。
一方、ケニア選手の成績には確かに驚異的なものがあるが、そこには細くて長い脚を作る遺伝子があるようだとされている。特に優秀なランナーは、ケニアの中でも、その多くがカレンジン族という特定の部族の出身者に集中していることからも、遺伝の強い影響が類推されている。
また、フィンランドのマンティランタの一族に伝わるEPO受容体遺伝子は、クロスカントリースキーの成績に大きく影響をしたことが推定されている。ただ、このような単一遺伝子が劇的な結果に結びつく例は極めて少ないこともわかっている。現在「スポーツ遺伝子」なるものはほとんど特定できていない。それがないとは言い切れないものの、おそらくは複雑な要因がかかわったものであるはずだ。その中には、集中して練習することができるための遺伝要因もあるだろう。
ちょっとした小話的情報を得ることも含めて面白い。スポーツがビッグビジネスになっている領域でもあり、これからも研究が進む領域なんだろうなと思う。 -
一流アスリートのパフォーマンスは、氏か育ちか、遺伝なのか環境なのか(nature or nurture)?この素朴な疑問の答えを探す旅。音楽の世界では、1万時間、意味のある練習をすることでプロの道が開けるという説があるが、それはスポーツの世界にも当てはまるのか。その検証。たとえば、1万時間、練習してトップレベルの走り高跳びの選手になった者もいれば、わずか8ケ月でそうなった者もいる。後者はアキレス腱が生まれつき長かった。つまり持って生まれたハードウェアと練習というソフトウェアが一流アスリートを作る。
長距離走ではケニア、しかもカレンジン族が強い。そんなに練習しなくてもメダリストになる者がいる。持って生まれた形質、足が細くて長いことが長距離走に有利に働いているのである。
このようにさまざまな興味深いエピソードで、遺伝子の持つ影響を明らかにしていく。
本の紹介文「ジャマイカ勢、ケニア勢が陸上競技界を席巻しているのはなぜ?
「1万時間の法則」はどこまで本当か?
女性はやがて男性より速く走るようになる?
プロになるには何歳から始めればいい?
遺伝子操作で理想のアスリートは作れるか?
――最先端科学でアスリートの肉体の秘密に迫る」 -
ビルゲイツ2020末推薦本の著者
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結果としては、遺伝的な要素も環境的な要素もどちらも大事なんだろう。
興味深い内容が満載であったけれど、いかんせん長い…。
専門的な部分にはそれ程関心があったわけではないので、ボリュームありすぎて読むのがなかなか大変だった。
自分の子供にスポーツをさせる上で、何か参考になるところもあるかと思って読んだが、薄々気付いてた通り、そういう感じの本ではなかった。 -
2018年7月8日に紹介されました!
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スポーツでの成功を決めるのは遺伝子か、それとも1万時間の練習か。
人口300万人のジャマイカなかでもトレローニー教区はウサイン・ボルトをはじめとするスプリンターを生み出してきた。「身体が丈夫な人間がアフリカから船に乗せられ、そのなかから、過酷な船旅に耐えられた者だけが生きてジャマイカにたどり着き、さらにそのなかから、最も屈強な者だけがジャマイカの辺境の地でマルーンの戦士の仲間入りをした。そして今日のオリンピック・スプリンターは、この戦士の遺伝子が継承されている地域の出身者である。」よくできたストーリーだが遺伝子的にはマルーンも他のジャマイカ人も西アフリカ人も非常に多様な先祖を持つ。
鎌状赤血球遺伝子はマラリアの危険地帯で出現確率が上がる。この遺伝子を一つ持つとマラリアに感染すると赤血球が鎌状に変形しマラリアごと取り除かれる。持久系のスポーツに不利なこの形質はスプリンターには多く現れる。ヘモグロビン値が下がると速筋繊維が増えることはラットでは確認されたが人間ではまだだ。
過去にマラソンで2時間10分を切ったアメリカのランナーは17人、一方でケニアのカレンジン族は2011年10月だけで32人が達成した。アメリカの高校生で1マイル4分を切ったのは5人、同様にカレンジン族がトレーニングを積む場所の高校では同時期に4人が達成した。カレンジン族とデンマークのランナーには最大酸素摂取量にも遅筋比率にも差はなかった。違いがあったのは脚の太さでカレンジン族ランナーの脚は500g軽かった。1km走るのに8%のエネルギーが節約されることになる。細長い身体と狭い腰幅に細長い手足はマラソンに向いた体型だ。またケニアの高地には蚊が少なくマラリアも鎌状赤血球遺伝子もほとんど存在しない。
低緯度の低地出身者は人種に限らず手脚が長くなる傾向にある。同じ身長で重心が高くなると走るのには有利で、低いほうが泳ぐのには有利だ。現在、短距離走と長距離走のいずれでも、最速の人間は黒人である。では遺伝子が成功を決めるのかというとやはりそれだけではない。「チャンプス」の名で知られるジャマイカの高校陸上競技大会は、1910年から継続して開催されている。ジャマイカでは、ほとんどすべての子供が何らかの形でスプリントレースに参加する。そして陸上競技大会に熱心な大人が足の速い子に着目し、陸上競技に力を入れている高校に入るように働きかける。クリケットのスター選手になりたいと思っていたボルトは14歳の時にダントツの1位となり練習嫌いで有名だったが、ジャマイカにいたから陸上の世界に入ったと言える。
ケニアのランナーは子供の頃走って通学するしかなかった。ケニアには、趣味でジョギングをする者はいない。いるのは、移動手段として走る者、トレーニングのために必死で走る者、そして、全く走らない者がいる。世界2位の長距離走大国エチオピア人とケニア人のDNAを調べた結果系譜は必ずしも近くはない。エチオピア人のミトコンドリアDNAはむしろヨーロッパ人に近いのだ。そもそもアフリカ大陸の遺伝的多様性は非常に大きく、500万年前に生まれた人類のごく一部がアフリカから出たのが2万年前、つまりおそらく世界で一番遅い人間もアフリカにいる。
1万時間の法則にもかなりのばらつきがあり人により必要な時間は変わってくる。1万時間を目標にトレーニングをするのではなく、一人一人に向いた競技とトレーニング法が有るというのがこの本の結論に近い。特定の競技を除けば専門を固定するのは必ずしも速い方が有利ではない。高校卒業時に175cmしかなく、妹の方が大きかった男はその後2年のバイト暮しの間に203cmになり再びバスケを始めた。そしてその頃には以前ほど不器用ではなくなっていた。21歳まで組織だったチームでまともにプレーできなかった男は奨学金を得て大学に入り最後はNBAの殿堂入りを果たした。デニス・ロッドマンだ。
「すべての人間が異なる遺伝子型を保有している。よって、それぞれが最適の成長を遂げるためには、それぞれが異なる環境に身を置かねばならない」
ハッピートレーニング! -
読了
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原題:THE SPORTS GENE
著者:David J. Epstein(1983-)
訳者:川又政治(かわまた まさはる)
監修:福 典之(ふく のりゆき)
