駆け込み寺の男 玄秀盛 (ハヤカワ文庫NF)

  • 早川書房 (2016年8月5日発売)
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感想 : 16
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  • 本 ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150504748

作品紹介・あらすじ

新宿歌舞伎町で14年間人助けを続けてきた男、玄秀盛。DV、借金、不倫、家庭崩壊、どんな問題も解決してきた男の壮絶な過去とは?

感想・レビュー・書評

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  • 価値観を大きく揺さぶられる一冊。
    書店の平積みで「駆け込み寺の男」という表題と腕組みをする強面の男•玄さんの佇まいに目が止まり手に取ったのが、先日逝去された佐々涼子さんの原点とも言える作品だった。

    韓国からの密航者の父から事あるごとに暴力を受け、四人の母の元を転々とし、情は一切かけられなかった。子守や盗みで食べ物を掠め命を繋ぎ、暴力で致命傷を負わない術を常に考え続けるという壮絶な日々。子よりも男を取る女はいるのだ。

    学校でも大勢に囲まれて暴力を受ける。が、彼は暗くなってから家の前に突然現れ、恐怖を植え付ける制裁を加える。「人は虚勢を張っているやつほど弱い。だから『家』。家庭にいるところを狙う」これが、その後も彼の力の源泉となる。

    長じて、寿司職人や大工などの職を転々とし、金を稼ぐ創意工夫を重ねるも、労災を契機に強欲な人夫出しに転じる。人を見抜く術と悪知恵で会社を興し、金であらゆる欲望を満たす。HTLV-1の罹患を転機とし、新宿駆け込み寺を立ち上げる。

    「人を見抜く術」を彼が語る件が妙に腹に落ちた。
    「一年で六百人以上、十四年で一万人近い男たちを使ってきた。人を見るときはな、過去に照らしてプロファイリングなんかしたらあかんのや。自分のものさしを持っていると、必ず見立てに狂いが生じる。何もないまっさらな気持ちで、そいつを見る」

    ヤクザとは、ミカジメ料の要求を拒絶する一方、組事務所の土方仕事を受けて一部を納める強かさを見せる。揉め事には奇襲で応じる。「あいつを怒らせたら何をするか、わからん」と思わせる。これも幼少期との上位互換。命がけ故の非情とはいえ、売掛金が支払えない水道屋の嫁の体を取り、日雇い労働者が列をなす光景には心が痛む。

    駆け込み寺への相談者は、スリップ一枚で駆け込むフィリピン人女性、顔にあざをつけたデブ専のソープ嬢、牛刀を隠し持った男、ゲイバーにはまり失踪した夫を探す妻、性的アイデンティティに苦しむ会社員など多種多様。

    玄さんは「すべては、鼻クソのごとくちいさな悩み」という。相談姿勢は一貫して、情を交えず、本人が執着する物事からの解放を後押しする。加害者や子どもも助かるように導く。清濁飲み込んできた故のシンプルなやり取りには清々しさすら覚える。

  •  佐々涼子さん、9月1日に悪性脳腫瘍のためご自宅で永眠されたとニュースで知りました(享年56歳)。ショックでした。『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』『エンド・オブ・ライフ』『ボーダー 移民と難民』と読み、どの作品も読み応えのある素晴らしいものでした。一昨年の年末に、悪性脳腫瘍であることを公表し、その後『夜明けを待つ』を発表されこちらも読ませていただいています。「ああ、楽しかった」と言える人生だったかな…でも、ご自宅で最期を迎えられたのは、佐々涼子さんらしいと感じました。

     で、こちらの作品は未読でした。いつか読もうと思っていたのですが、追悼読書になってしまいました…。この作品は、新宿歌舞伎町で「日本駆け込み寺」という機関を立ち上げた玄秀盛さんがDV・借金・不倫・家庭崩壊など様々な問題に対して相談援助活動を行うものです。なぜ、彼は様々な問題に的確なアドバイスを行えるのか…それは玄秀盛さんの生い立ちから今までの経験に基づくものでした…。

     この表紙の方が玄秀盛さん、強面で迫力ありそうな感じですよね…。その過去は壮絶なもので、私の理解の範疇を超えたものだったし、読みにくさを感じてしまいました。でも、その見た目通り、頼り甲斐はあるし相談者に対して見せる優しさやアドバイスは的を得ていました。佐々涼子さんがノンフィクション作家を名乗る原点というべき作品、この作品を描けたから、その後素晴らしい作品を世に出せたんですね…。今後佐々涼子さんの新作を読めないのは残念ですが、謹んでご冥福をお祈りします。

    • かなさん
      1Q84O1さん、こんにちは!
      それ、いいですね(^^)
      クズものの間に挟むのは、名案です♪
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      2024/09/06
    • ヒボさん
      「虫の知らせ」ですね。
      他の本も一気に借りてこよっと♪
      あっ、予約枠埋まってた^^;
      「虫の知らせ」ですね。
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      2024/09/06
    • かなさん
      ヒボさん、こんにちは!
      いつでもいいので、
      読めるようになったらぜひ佐々涼子さんの作品
      読んでもらえたら嬉しいです(^^)
      ヒボさん、こんにちは!
      いつでもいいので、
      読めるようになったらぜひ佐々涼子さんの作品
      読んでもらえたら嬉しいです(^^)
      2024/09/06
  • 歌舞伎町の深い闇、そこで駆け込み寺をやっている凄腕の男の物語

    親の愛なんてものを見たことも触ったこともない人間には、そんなもんわからんのや。愛情なんていう概念すらわからん

    彼は自分からは決して喧嘩をしようとしなかった。売られた喧嘩もよほどのことがなければ買うことはなかった。何しろ彼のプライドは容易に傷つかなかったのだ

    生きるためにものを盗って何が悪い。何もしなければ死ぬだけだ。社会道徳も、倫理も、何ひとつ俺を守ってくれなかったよ

    そうする以外、生き延びるために何ができる?だからええんや。何ひとつ後悔なんかしてへんよ

    秀ちゃんの小便、血がでとる おれの体、おかしかったんか

    ヤクザより、普通の人間のほうがよっぱどこわい。ヤクザはいい。だいたいの予測がつくからな。でも、普通の人間は追い詰められると何をするかわからん。一見善良そうな臆病な男が刃傷沙汰をおこすんや

    がまんできない人は結局できないんです。だんだん年を取るとね、なかなか器用にはできないから

    ワルをやるのは、ひとりがいいわ。徒党を組むとアガリは全員と分けならんし、誰かがヘタを打つと芋ずる式にパクられる

    だが、17歳の時、彼は突然死のうとした 大量の市販薬を飲んで、自殺を図ったのだ

    彼女たちはみなと同じだ。つぎ込んだものが大きければ大きいほど、必死になってだまされていることを否定する

    未練はない?―ううん、ぜんぜん、私、今までの人生で、一度も人を信じたことがなかった

    上にいたやつらがどんどん下へ落ちてきている。じゃあ、下にいるやつが上に上がれるかって?上げれるはずがない。下にいたやつは、もっと下に行く。底なし沼や。下から、上へ這い上がれへん。まともにやっていても上げれんよ。ただ下へ、どんどんどんどん下へ落ちていくだけや

    人を見抜く術や―人を見るときはな、過去に照らしてプロファイリングなんかしたらあかんのや。自分のものさしを持っていると、必ず見立てに狂いが生じる。何もないまっさらな気持ちで、そいつを見る。

    玄は自分を脅かす相手をそのまま放置しておくような男ではなかった。それが彼の中でのルールなのです

    玄はものを所有することに何の興味もなかった。ロレックスであろうが、ベンツであろうが、同じことだった

    なあ、俺が何を頼りに生きてきたか知っているか?自分やで。俺のほかに何がいる?

    目次









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    おわりに(文庫版のために)

    ISBN:9784150504748
    出版社:早川書房
    判型:文庫
    ページ数:288ページ
    定価:680円(本体)
    発売日:2016年08月15日発行

  • エンジェルフライトがドラマ化されていたのを観てそう言えば佐々さんの作品で未読があったなと購読。
    何と言うか原点と言うか。
    かなりの主観が入っている様に感じるのも取材対象が人たらしと評される所以か。
    人を助けることで過去の自分を救っていると言ってしまえば感傷的過ぎるのかも知れないが。
    この世の彼方此方に玄的な人が居て救われている人もいるのだろう。

    早く新作出ないかなー。

  • 佐々涼子(1968~2024年)氏は、早大法学部卒、専業主婦として2児を育てつつ、日本語教師等を経てライターになった、ノンフィクション作家。2012年、『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』で開高健ノンフィクション賞、2014年、『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』でダ・ヴィンチ BOOK OF THE YEAR第1位等、2020年、『エンド・オブ・ライフ』で本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞。 2024年9月、悪性脳腫瘍のため死去。享年56。
    本書は、新宿歌舞伎町に「日本駆け込み寺」を設立し、長年代表を務める玄秀盛氏について、本人及び多数の関係者に行った取材をまとめたもので、2011年に出版、2016年に加筆・修正・改題の上、文庫化された。
    私はノフィクション物を好み、佐々さんは好きな書き手の一人で、『エンジェルフライト』、『紙つなげ!~』、『夜明けを待つ』、『エンド・オブ・ライフ』を読んできた。
    私はこれまで(不覚にも)玄秀盛氏のことを全く知らず、本書については、他の作品と比べてやや地味に見えたこともあって、読むのを先延ばしにしていたのだが、読み始めてみると、第一印象とは全く異なり、テーマ(要するに、玄秀盛という人物)にも、佐々さんの取材や書き振りにも惹き込まれ、一気に読み切ってしまった。
    その玄秀盛氏とは。。。1956年、大阪市西成区の在日韓国人の家庭に生まれ、両親の離婚などで4人の母、父のもとで育つ。中学卒業後は、自動車修理工、寿司屋、トラック運転手、キャバレー店店主などを経験し、更に、40代までに、建設、不動産、サラ金など10を超える会社を起こした。その間、ヤクザとの抗争も絶えなかった。1990年に天台宗の酒井雄哉大阿闍梨のもとで得度。2000年に白血病を発症する可能性のあるウイルスに感染していることがわかり、上記のビジネスを全て止めて、2002年にNPO「日本ソーシャル・マイノリティ協会」新宿救護センター(後の「日本駆け込み寺」)を開設。2014年に「再チャレンジ支援機構」を設立。
    「日本駆け込み寺」では、DV、金銭トラブル、家出、ストーカーなどの相談、刑務所出所者からの相談に対応し、これまで数万人以上を救ってきたという。また、「再チャレンジ支援機構」では、刑務所出所者が働く居酒屋の経営ほか、出所者の就労支援などを行っている。
    それにしても、壮絶な人生である。。。玄氏は、自分のことを「ひとつのイメージで描くことを、かたくなに拒んだ」というが、宜なるかなと思う。佐々さんは、「彼は、悪人であり善人、被害者であり加害者。捨てられた子どもであり捨てた親でもある。・・・玄秀盛は、この世のどんな人間模様も映し出すひとつの鏡でしかないのだ。他人や自分に対するイメージなど、どれもがつかのまのもので、一時のまやかしであっる。我々はほんの小さなできごとや、他人の無意識の言動によって、容易に誘導され、世間や他人によって、思い込まされてしまうニセモノを本物のように思っている。そして、そのイメージを、あたかも本物のように、後生大事に死守しようともがいている。」と書いている。どんな人間でも「善」と「悪」の両面を持っている、玄氏はそのことを常人の想像を超えて体現しているのだ。
    そして、佐々さんは次のように加える。「もしも過去を捨て、他人へのものの見方や、自分へのものの見方、周囲の評判や、地位や名誉を捨ててしまうことができさえずれば、あとはただ、そこに自由な人間がいるだけだ。間違ったり躓いたりしたら、もう一度選択しなおせばいい。そうすれば、何にでもなれるし、どんなところへでも行ける。新しくやり直すことも、人生に感謝することもできる。そう玄は説いているのである。」
    もうひとつ。本作品は佐々さんの出世作(実質デビュー作に近い)となったわけだが、「おわりに(文庫版のために)」の中にこんなフレーズが出てくる。「何度怒られただろう。しかし強烈なダメ出しをされながら、辛抱強く話を聞かせてくれた彼の懐の深さが、離れてみた今ならわかる。・・・彼が私を作家にしてくれたのだ。」ノンフィクション作家・佐々涼子を作った一冊でもある。
    (2025年2月了)

  • 著者は玄さんに何度も強烈なダメ出しをされながらも話を聞かせてもらい、ノンフィクション作家として鍛えられたと書かれている。それはまず最初に、著者が玄さんの懐に飛び込んだ結果、作り上げられた関係性なのだと思う。
    そんなふうに人と向き合える著者の取材スタイル、というより人となりをうらやましく思いながら読んでいます。

  • 佐々涼子さん経由で読了。
    玄さんオーラ半端なさそう。

  • ノンフィクションライター佐々涼子氏のデビュー作であり、歌舞伎町で駆け込み寺を運営した伝説的な漢のドキュメント。

    あまりにも壮絶な人生のため、ノンフィクションとしての作品っぽくなく、また、主観的にしかまとめざるを得ない感じ。もちろん相当に引き込まれる内容である。

  • 「駆け込み寺の男 玄秀盛 佐々涼子 ハヤカワノンフィクション文庫 2016年 680円」金や男女男男関係、仕事、DV、貧困などのトラブルをかけた人の逃げこむ場所を提供している実在の人物の壮絶な話。エグくて、自分の悩みが小さい物だとわかるのでこの手の本は好きだ。

  • 駆け出しのルポライターが書いた文章のように、あまり深さはないがおもしろみはある。
    それはこの主人公のドラマがあまりにも破天荒であるからである。新宿の駆け込み寺のエピソードはもちろんその場においての取材で得た情報なので真実であろうが、主人公の生い立ちがどこまでが本当で嘘なのかわからないくらいの内容なのだ。詳細は本書に譲るとしてそのような生い立ちの人間がいるということと、やんちゃをしてしていても更正できるということを理解した。
    一度お会いしてみたい衝動にかられたのはいうまでもない。

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。著書に『エンジェルフライト』『紙つなげ!』など。

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