黒い迷宮 上 ルーシー・ブラックマン事件の真実 (ハヤカワ文庫NF)
- 早川書房 (2017年7月20日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784150505028
作品紹介・あらすじ
2000年、六本木で働いていた英国人女性が突然消息を絶った。《ザ・タイムズ》東京支局長が丹念な取材をもとに事件の真相に迫る。
感想・レビュー・書評
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【まとめ】
2007年7月1日、六本木でホステスとして働いていたルーシー・ブラックマン(21)が失踪した。
ルーシーの友人ルイーズには、ルーシーの失踪後に「タカギアキラ」と名乗る人物から電話がかかってきていた。「ルーシーは千葉にあるカルトに入団することに決めた」「カルトの名前はザ・ニューリー・リズン・リリジョン」「彼女とはもう会えない」「彼女は無事だ、これからは借金をより良い方法で返済していく」そうしたやりとりの後電話は切れた。
失踪から10日後、ルーシーの元父親(離婚)であるティムと、妹のソフィーが来日し、英国大使館で記者会見を開いた。狙いはルーシーの失踪を世間の関心を惹く大事件にし、イギリスと日本の政治家、マスコミ、警察を巻き込むことだった。騒ぎを大きくしなければ、地球の裏側にある異国で捜索を進展させることはできない。
ティムとソフィーはホテルニューオータニ東京でトニー・ブレア首相と面会した。同日の午後、森喜朗首相との首脳会談の場で、ブレアは警視庁の努力に謝意を示し、ルーシーを捜し出すために「あらゆる手を尽くしてほしい」と要請した。事件の概要を事前に聞いていた森首相はこう返答した。「ルーシーさんを発見するため、警視庁はできうるかぎりの努力をしています。今後もそれを続けてもらいたい」
7月中旬、マスコミの報道によって、多くの一般人ボランティアが名乗りを上げるようになった。ティムはルーシー・ブラックマン・ホットラインを開設し情報を募集したが、手がかりとなるものはほぼ無かった。寄せられたのは自称目撃者、私立探偵、霊能者やダウザーなど全く素性の知れない人物たちからの情報ばかりである。この間、ティムは「マイク・ヒルズ」と名乗る男から「ルーシーの救出に協力しよう」と打診され、1万2500ドルを騙し取られている。
8月、状況が突如動き出す。警察あてに、ルーシーを騙った手紙が届いたのだ。ルーシーの筆跡を真似して書かれており、消印は千葉県内である。
「私は自分の自由意思で姿を消し、見つかることを望んでいません。心配しないでください。私は元気です。ふたりにはイギリスに帰国してほしい。その後、自宅に電話します」。ルーシー自身の文章でないことは明らかだった。
同月、小野誠と名乗る男から、ルーシー失踪に関連する決定的な情報を握っているとの連絡が来た。小野の知り合いでSM愛好家である松田隆二が、自身の嗜虐性癖を満たすために「ブロンドの外国人を誘拐して専用の地下牢に連れ込み、拷問して殺すまでの一部始終を撮影する」と言っていたのだ。小野はSMサークルに所属する友人の高本から「松田のルーシー殺しは間違いない」と断言されたが、その後高本からの連絡が途絶える。高本の奥さんから「主人が戻らない」と相談を受け、小野は高本の「秘密部屋」に訪れると、彼は首をくくり死んでいた。床にはガソリンがぶちまけられ、口には人糞が詰め込まれていた。部屋には青い地に白抜きの英語と日本語の文字、ほほ笑む外国人女性の写真――ルーシーの尋ね人のポスターが、壁に何枚か貼られていた。
高本の通報を受けたティムと支援者のアダムは、松田の「秘密部屋」に侵入し部屋を物色したものの、ルーシーにつながる手がかりは得られなかった。すでに警察は小野の話を知っていたが、調査は進展せずに終わった。
警察と家族、有志たちによる懸命の捜索は続いていたが、元父のティムは、ルーシーの失踪に心を痛めながらも、東京での生活を「満喫しすぎている」きらいがあった。支援者のヒュー・シェイクシャフトは「この困難な状況に対して、ティムはいっさいの関心を示そうとしなかった。家族が悲惨なトラウマに直面したときに、誰もが抱く感情――その感情のひとつたりともティムは見せなかったのです」と、手記に綴っている。ティムは金がいくら集まり、次のテレビのインタビューがいつになるか、そういうことをしきりに気にしていたという。また実際、「調査」という名目で六本木を飲み歩き、朝帰りすることも珍しくなかった。秋ごろになると、東京ではティムの悪い噂を耳にすることが多くなった。
その後、捜査線に浮上したのは「コウジ(ユウジ)」という男だった。コウジは外国人ホステスを海辺のマンションまで車で連れて行っては、酒に薬物を入れてレイプに及んでいる。六本木に勤めていたホステスの間でも、同じ被害を受けている人が何人かいた。
捜査本部の刑事、宇佐美と浅野は、クラブの経営者の宮沢とレイプ被害にあったケイティを車に乗せ、彼女がコウジに連れていかれたルートを辿った。ルートの到着地点は逗子マリーナだった。
また、夏から秋にかけて、通話記録の追跡が山場を迎えようとしていた。失踪当日、ルーシーと出かけたとされる男が〈代々木ハウス〉のピンク電話にかけてきた通話の発信元や、『コウジ』と『ユウジ』がケイティとクリスタに教えた電話番号の所有者の特定が急ピッチで進められた。電話会社の調査によって、生前のルーシーが最後にかけた電話が逗子の基地局を経由していたことも判明した。
警察は逗子マリーナの部屋の所有者を割り出し、4314号室の所有者の男の車が、ルーシー失踪当日に東京から逗子まで移動していたことを確認する。警察はその男に対し、ルーシーではない別のホステス1名に対する強姦容疑で逮捕状を取り、身柄の確保に向け準備を始めた。
10月12日、男のマンションに張り込んでいた捜査官が彼の身柄を確保し、1996年3月31日のクララ・メンデスに対する拉致および準強制猥褻の容疑で逮捕した。その日の夕刊には、容疑者として48歳の会社社長、織原城二の名前が掲載された。
黒い迷宮(下)のレビュー
https://booklog.jp/users/suibyoalche/archives/1/4150505039詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
一気に読めた。
英国人の著者は自分に正直に各登場人物を評していた。
英国から見た日本とはこんな感じなんだ、英国と日本の文化の違いというのを知れて面白かった。(日本の性産業の歴史、客室乗務員に対する両国のイメージの違い、など) -
もう20年以上も前のニュースで、詳しい内容は記憶からすっぽりと抜け落ちている。でも、ルーシー・ブラックマンという名前は耳に残っている。ある意味でありふれた事件、少なくともありふれた事件だと思える事件に日本中の注目が集まったのがどうしてなのか。本書によれば、被害者の父親が戦略的に選んだマスコミ対策の影響が大きかったようだ。
同じ著者による『狂気の時代』を読んだあと、たまたま古書店で目に付いたのが本書。本筋からは外れるが、外国人から見た日本に関する記述が興味深い。 -
リチャード・ロイド・パリー『黒い迷宮(上)──ルーシー・ブラックマン事件の真実』ハヤカワ文庫。
ザ・タイムズ東京支局長による事件の細部、被害者女性、ルーシー・ブラックマンの過去にまで迫る渾身のルポルタージュ。
2007年7月に六本木のクラブでホステスとして働いていたイギリス人女性が突然、行方不明になる。英国から来日した家族の必死の働きかけにも関わらず、日本警察の初動は遅く、捜査はなかなか進展しない…
東京の六本木をまるで魔都の如く描きながら、次第に事件の核心部分へと迫る展開は見事と言うしかない。
著者プロフィール
リチャード・ロイド・パリーの作品
