- 早川書房 (2024年12月2日発売)
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感想 : 10件
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Amazon.co.jp ・本 (688ページ) / ISBN・EAN: 9784150506124
作品紹介・あらすじ
数とは文化的に創られたものではなく、ヒトに生まれつき備わる能力=数覚が関与していた! 内なる数的処理の仕組みを解き明かす
感想・レビュー・書評
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タイトルの「数覚」は、味覚や視覚のようなものといっしょで人間の持つ数の感覚のことです
抽象的でとっつきにくそうなので、読者を遠ざけているかもしれません。
動物が持つ、ひとつふたつみっつ的な数の感覚から、人間の赤ちゃんの持つおなじような数の感覚へ、そして足し算引き算へ
算数教育をしている先生などは読んでみるといい発想が得られるかもしれません。
そこそこ厚めの本(最近ではそうでもない?)で、作者さんがこまかい性格なので、読書に時間がかかりがちです。
作者さんは、実験そのもの、実験の結果が、実験者が思っている通りなのか検証するんですね。そのこまかい考えを読む方も考えさせられるので、読書スピードは遅くなるのです。
でも、実験をする人、実験の結果(成果)を活用する人にとってはいい訓練になりそうです。
その後は、数学の才能は天性なのか? という話題になります。遺伝、男女差、数学の天才の特徴、職業による計算の才能などを見ながら探っていきます。
その次は、脳の損傷による数の感覚の喪失です。数に関する不思議な症状により、脳の仕組みが垣間見えます。ここから先は脳に興味ある人にも、とてもおもしろいだろうと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いまや数の認知科学における古典的名著。原著は1997年刊。
著者ドゥアンヌはパリのエコル・ノルマル出身、数学で修士、心理学で博士号。本書を出した時は32歳(もとのフランス語版出版時はなんと30歳!)、学識と洞察と刺激に満ちあふれ、とても若書きとは思えない。
訳は安定していて、読みやすい。number senseを数感覚や数的感覚とせずに、「数覚」にしたのもいい。そういえば、数学者の小平邦彦が数学的直観を「数覚」と呼んでいたことがあるが、本書での意味もこれに近い。
文庫新版は、2011年の英語改訂版の追加分が入り、さらに充実した1冊に仕上がっている。
(p.s. フランスは数学の国で合理性が売りなのに、数の呼称はかなり複雑。10進法、12進法、20進法、60進法が入り混じる。たとえば70はsoixante-dix(60+10)、90はquatre-vingt dix(4x20+10)だもの。ドゥアンヌもどうにかならないもんかと書いている。確かに、フランス語学習者がとりわけ難儀するのは、11以上の数と年号。でも、言語は文化。合理的というわけにはなかなかいかない。) -
良質な科学的作品だった。
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人が自在に操る「数」の正体を解説
言語を超えて数という概念は使われている
人が数を操る時、脳で起こっていることを解説 -
数の認識は生得的な直感に根ざしており、人間の脳は進化の過程で数を直感的に理解し、操作するためのメカニズムを発達させてきた。
数の認識能力の進化:人間だけでなく、一部の動物も数を直感的に認識する能力を持っている。これは進化的に有利な特徴である。
赤ちゃんの数の理解:赤ちゃんは生後すぐに、基本的な数の概念(1、2、3など)を理解する能力を示す。
直感的数覚の存在:人間の脳には、正確ではないが、おおよその数を把握する直感的な「数覚」が備わっている。
文化的影響と数の表現:数の認識や表現は文化によって異なり、言語の違いが数の処理速度に影響を与える。
象徴的数理解の発達:人間は象徴(数字や記号)を用いた数の表現を学び、これが高度な数学的思考の基盤となる。
動物の数の能力:チンパンジーなどの動物も数量の比較や基本的な計算が可能であると示されている。
数の正確性と曖昧さ:日常的な会話や思考では、数の正確性よりも曖昧な概数表現がよく使われる。
脳の数処理メカニズム:脳の一部(下頭頂小葉)が数の認識や計算に深く関わっている。
数の処理速度:数字の発音時間が短い言語(例:中国語)は、数の記憶容量が大きい傾向にある。
教育と数覚の発達:幼児期の教育や環境が、数覚の発達に大きく影響する。
計算の自動化:熟練者は複雑な計算を高速で行うために、脳内で自動化された手順を用いる。
数覚の障害:脳損傷などにより数覚に障害が生じることがあり、これは「ディスカリキュリア」として知られる。
大きな数の直感的理解の限界:人間の直感的な数の理解は、小さな数に限定される傾向がある。
視覚的数覚の存在:視覚的に物の数を直感的に把握する能力がある(例:素早く点の数を識別する能力)。
計算機と脳の比較:脳の数覚はデジタル計算機とは異なり、アナログ的でノイズを伴う処理を行う。 -
本書の初版は1997年に「The Number Sense: How the Mind Creates mathematics」という題で出版。2011年に第2版が出版。その際に1章追加。今回のハヤカワ文庫NFは、第2版の全訳になる。数の認知に関する研究の流れが丁寧に書かれ、わかりやすい。サイエンスに興味のある多くの方に楽しんでもらえる一冊だと思う。
