ガラスの村 (ハヤカワ・ミステリ文庫 2-8)

  • 早川書房
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150701086

感想・レビュー・書評

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  • クイーン後期の〝問題作〟とされている1954年発表作。本作に犯罪研究家エラリイ・クイーンは登場せず、元軍人ジョニー・シンが主な謎解き役兼狂言回しとなる。同時期に米国で吹き荒れたマッカーシズムに対する義憤から着想を得たとういうのが定説らしいが、独善的「正義」を標榜し排外的性質を帯びる米国型民主主義への危機感が多少なりともあったのだろう。
    相変わらず人間の描き方に深みが無いため、雑多な登場人物を把握できずに中途まで混乱するのだが、ジョニー・シンのみは造型に力を入れており、戦場での異常な経験を経たニヒリストが、保守的で閉鎖的な村に突如「異邦人」として登場するという設定によって、物語に「動的」な趣向を凝らしている。
    肝心のプロット(謎解き)自体は〝甘い〟ものだが、クイーンは技巧を凝らしたトリックにもはや重点を置かず、殺人事件を通して一変する社会や人間の有り様、そこから生じる軋轢や揺らぎを「ミステリ」の中で表現することを試みていたのだろう。

  • 精緻な作りはさすがクイーン、そこは文句なし。
    でもクイーンの悪い所である、前半すごく間延びするってのと、登場人物が多すぎてよくわかんないってのが足を引っ張っている印象。特に前半がなあ。中盤以降はそれなりに引き付けるのに。

  • エラリークイーンは登場しない。代わりにジョニー・シンが活躍する作品。

    【あらすじ】
    アメリカの寒村で、画家の老婦人が自宅で撲殺される事件が発生。村民の手により浮浪者の男が身柄を拘束される。しかし、捜査権のある州警察当局が身柄の引き渡しを求めると、村人達は自ら裁きを下すといきり立つばかりで応じない。
    判事でもある従兄ルイスの招きで村を訪れていたジョニーは、浮浪者への聞き込みから彼が殺人犯ではない可能性を感じる。そして、捜査に非協力的な村民を納得させると同時に、一方では事件の真相を明らかにするため、ルイスとジョニーは村の中で裁判を開始する。

    【感想】
    推理小説として読めば物足りなさを感じる。トリックは目新しいものではなく、事件の展開にもやや無理があると思う(特に、絵に対する被害者の取り組み方や、真犯人に都合の良すぎる状況設定など)。多少目を引いたのは人以外のアリバイに言及するところ。
    しかし、読み物としてはとても面白い。過疎に喘ぐ村の様子、一癖ある村民の家族たち、彼らが持つ一方的な排他意識、他所者が起こした殺人事件とその結果(余所者は正当防衛で無罪になった)に対する鬱憤、などが良く書き表されており、読者自身もジョニーが感じた疎外感を味わえる。村の裁判では、すぐにでも私刑に処したい村民に対して、知識人が懸命に抗う姿を愉しむことができた。

  • 従兄弟であるルイス・シン判事の元にやってきたジョニー・シン。シンの辻を案内されたジョニー。その夜殺害された町に住むファニー・アダムズ。死体を発見したシン。ファニー・アダムズの家に侵入していた浮浪者ジョセフ・コワルチック。彼を犯人と思い込み自分達で裁こうとする町の住人達。ルイスを判事として開かれた裁判。弁護士として裁判に参加するファニー・アダムズの甥フェリス。ファニー・アダムズが描いていた絵。自分がたのまれたと主張するコワルチックの薪割り。消えた薪。ファニー・アダムズの絵に隠された秘密。

  •  <シンの辻>という小さな村をそこに住むシン判事と従兄弟のジョニー・シン。その村で、ファニー・アダムズが殺害されているのが発見され、浮浪者のジョゼフが捕まる。しかし、村の人々は過去の事件から、ジョゼフを手放さず自分たちで裁くという。強硬手段になる前に、シン判事は公式と偽った裁判を<シンの辻>で開始する――。

     ここまで読む進めてきて、初めてのエラリーが登場しない作品で戸惑ったものの、いつもと雰囲気の違うクイーンの作品で、クリスティでありそうな村の雰囲気の作品。小さな村で起こった事件で村の人々が、犯人と思う人物を糾弾する――。
     その雰囲気からいつものクイーンらしさはあまり見えませんが、ライツヴィルとは違う狂気の雰囲気が漂うこの村での描写は小さな村の自治という名の独裁国家で、かいま見える狂気の沙汰が怖かったです。そんな人ばかりだから、正論考えろよ! ってイライラしたりも。
     ただ、ラストはいつものクイーンの伏線によって納得いくラストでした。もっとも、これといった目立ったものではありませんが、作品の雰囲気からもしょうがないのでしょうか。
     いつものクイーンと違う面白い作品でした。

  • 作品の出来云々を措いても、論理の徒クイーンがこういう作品を書いた、という事実だけで好きになってしまう。

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