長いお別れ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-1))

制作 : 清水 俊二 
  • 早川書房
3.84
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本棚登録 : 1993
レビュー : 204
  • Amazon.co.jp ・本 (545ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150704513

感想・レビュー・書評

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  • ロマンティックな男は手ごわかったです。
    わたしの覗いたハードボイルドの世界にあったもの。酒とタバコとコーヒー。皮肉と痩せ我慢の美学に隠れた男の優しさ。忘れてはならないのが美女とのひと時の逢瀬と必ず訪れる別離。
    そして、さよならの向こう側で佇む男の友情。

  • 『大いなる眠り』の感想でも述べたが、私が最初に手に取ったチャンドラー作品がこの『長いお別れ』だった。
    これには理由がある。まず私はハヤカワミステリ文庫版から手をつけていたのだが、チャンドラーの背表紙に付けられた番号が1番であったのが『長いお別れ』だったのだ。順番を意識して読む私は当然刊行された順というのは古い順だろうと思い込んでいたが、それは間違いだった。そして私はいきなりこの名作から手をつけてしまったのだった。

    本作の何がすごいかといえば、『湖中の女』、『かわいい女』とあまり出来のよくない作品が続いた4年後にハードボイルドの、いやアメリカ文学史に残る畢生の名作を書いたということだ。一説によれば、チャンドラーが『湖中の女』の後、ハリウッドの脚本家に転身したのは作家として行き詰まりを感じていたのだという。そのハリウッドで苦い経験をした後、書いた作品『かわいい女』の評判もあまりよくなく、チャンドラー自身でさえ、「一番積極的に嫌っている作品」とまで云っている。そんな低迷を乗り越えて書いた作品が世紀を超え、ミステリのみならずその後の文学界でも多大なる影響を今なお与え、チャンドラーの名声を不朽の物にしたほどの傑作であることを考えると、単純に名作では括れない感慨がある。

    テリー・レノックスという世を儚んだような酔っ払いとの邂逅から物語は始まる。自分から人と関わる事をしないマーロウがなぜか放っておけない男だった。
    この物語はこのテリーとマーロウの奇妙な友情物語と云っていい。
    相変わらずストーリーは寄り道をしながら進むが、各場面に散りばめられたワイズクラックや独り言にはチャンドラーの人生観が他の作品にも増して散りばめられているような気がする。

    「ギムレットにはまだ早すぎるね」
    「さよならを言うことはわずかのあいだ死ぬ事だ」
    「私は未だに警察と上手く付き合う方法を知らない」

    心に残るフレーズの応酬に読書中は美酒を飲むが如く、いい酩酊感を齎してくれた。

    チャンドラーはたった7作の長編しか残していないが、その7作でミステリ史上、永遠に刻まれるキャラクターを2人も創作している。1人は『さらば愛しき女よ』の大鹿マロイ。そしてもう1人が本作に出てくるテリー・レノックスだ。
    大鹿マロイが烈情家ならばレノックスは常に諦観を纏った優男といった感じだ。女性から見れば母性本能をくすぐるタイプなのだろう。どこか危うさを持ち、放っておけない。彼と交わしたギムレットがマーロウをして彼の無実を証明するために街を奔らせる。

    本作は彼ら2人の友情物語に加え、マーロウの恋愛にも言及されている。本作でマーロウは初めて女性に惑わされる。今までどんな美女がベッドに誘っても断固として受け入れなかったマーロウが、思い惑うのだ。
    恐らくマーロウも齢を取り、孤独を感じるようになったのだろう。そして本作では後に妻となるリンダ・ローリングも登場する。

    本書を読むと更に増してハードボイルドというのが雰囲気の文学だというのが解る。論理よりも情感に訴える人々の生き様が頭よりも心に響いてくる。
    酒に関するマーロウの独白もあり、人生における様々なことがここでは述べられている。読む年齢でまた本書から受取る感慨も様々だろう。

    そう、私は本書を読んでギムレットをバーで飲んでやると決意した。しかもバーテンダーがシェイカーで目の前でシェイクしたヤツを。そしてそれを果たした。期待のギムレットは意外に甘かった。多分この本に書かれていたドライなヤツではなく、揶揄されている方のヤツだったのだろう。ただギムレットはチャンドラーのせいで、あまりにもハードボイルドを気取った飲物のように受け取られがちだったので、それ以来飲んでいない。

    そんな影響を与えたこの作品の評価は実は5ツ星ではない。全然足りないのだ、星の数が。
    ×2をして10個星を与えたいくらいだ。
    ミステリと期待して読むよりも、文学として読むことを期待する。そうすれば必ず何かが、貴方のマーロウが心に刻まれるはずだ。

  • 故あって再読。
    何十年ぶりだよ。
    そしてやっぱり感想は変わらず。
    おばちゃん、こんな日常生活に向かない男はイヤダ…。

  • 村上春樹が「ロング・グッドバイ」として、
    この小説を訳したとき、すぐさま買って読んだんだっけ。

    「キャッチャー・イン・ザ・ライ」では
    折々にムンムンと立ち込めてきた村上春樹臭も、
    こっちの翻訳の時は、例え鼻を近付けても、
    嗅ぎ分けることは出来ないという感じで、
    気を散らせずに、のめり込んだ思い出。

    「なんだか、ハードボイルドってのも、悪くないみたい!」と思ったり。

    何度か読み直したいと思っていたのだけれど、
    いかんせん、ハードカバーで厚みがあり
    持ち歩くのにちょっと躊躇していて…、時は流れに流れ…。

    この間、BBの本屋さんに寄って、
    恒例のミステリ棚の念入りチェックしていた時、
    そうだ、文庫で読めば良いんだ!と閃いて(大袈裟!)
    村上訳を買ったのでは芸が無いから、
    その前の清水俊二訳を求めてまいりました。

    そして、ここ二日とちょっとばかり、
    暇さえあれば読み続け(大概は外出持参本は電車内など移動時のみと
    決めているんだけれど、始業前・ランチタイム、などなど
    また自宅へ戻ってからも外出持参本を読んでいた、と言う
    私にしては珍しい行動)

    やっぱり、ハードボイルドって、悪くないみたい!

    いやあ、生半可な気持ちじゃあ無理だし、
    不器用で損する生き方って言うのは承知のつもりだよ…。

    なぜ、人は(私?)、大変に、のけぞるほど綺麗な女の人、
    素敵な男の人が登場すると安心して楽しくなるのでしょうね。
    (その登場人物が幸せか不幸かは、別。
    私が「チボー家の人々」を楽しめず、リタイアした理由は、
    この「素敵な見た目の人が登場しない」と言う部分が大きいのですが…
    くれぐれも私が読んだところまでなので(第一巻です)、
    そのあと出てくるとしたら教えてください…)

    入れ方に凝ったブラックコーヒーとか、こだわりのカクテルとか、
    まず自分のできるところから
    マーロウ君を真似する男性はあとを絶たないとお見受けした。

    村上訳、清水訳を読んで、
    やっぱり私の感想は
    「死が分かつ別れより、悲しい別れと言うものがある」と言うこと。

    私は翻訳小説を読む楽しみのうちの一つに、
    昔の翻訳小説の中のセリフだけにしか出てこない様な言葉使いを面白がる、
    と言うのがありまして、
    今回の清水訳ではそこらへんも存分に楽しめましたぞ。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      最近ドラマって殆ど見ないのですが、浅野忠信・主演の「ロング・グッドバイ」は見てみようかなと、、、
      最近ドラマって殆ど見ないのですが、浅野忠信・主演の「ロング・グッドバイ」は見てみようかなと、、、
      2014/03/14
    • 日曜日さん
      私のうちにはテレビが無いので、そのドラマの事、存じませんでした。日本が舞台で成立するのかな??
      私のうちにはテレビが無いので、そのドラマの事、存じませんでした。日本が舞台で成立するのかな??
      2014/03/20
  • 初ハードボイルド。ハードボイルドという言葉はよく耳にしたけどよくわかっていなかったので、なるほどこれがハードボイルドか!と納得。

    ミステリーとしては意外性はなく、予想通りの展開。ハラハラドキドキするのではなく、セリフや登場人物のキャラクターを楽しむ小説だった。

    面白くて読むのが止まらかったけど、じゃあ今から他のチャンドラー作品を読もう!という気がなぜかおこらない。私はどうもマーロウの皮肉っぽい性格が苦手のようで、この一冊で”お腹いっばい”になってしまったようだ。

  • 「サヨナラを言うのは少しだけ死ぬことだ」

    世界的名作のハードボイルドミステリー、レイモンド・チャンドラーの「The Long Goodbye」

    偏屈で厭味ったらしくも確固たる自分を持った私立探偵フィリップ・マーロウがとある縁で知り合ったテリーレノックス。
    前半部分でのこの二人の奇妙な友人関係は変わっていてもどこか憧れる魅力がある。
    馴れ合いや依存ではない、ただ夜にバーでギムレットを飲むだけの友人。そんな友人テリーが何か事件に関わった様子でマーロウの元へ現れる。テリーを国外に逃す手伝いをマーロウは引受るが、テリーは逃亡先で自殺してしまう。

    自殺で片付けられた事件だったが、違う事件に関わるうちにマーロウはテリーの死の真相に近づく。

    テリーの死の真相に近づくにつれ、様々な人がマーロウの周りに現れ、その人々と関わる偏屈なマーロウの魅力は言葉では言い表せない。


    そして、事件の真相にたどり着いた時がこの作品の最大の見せ場。トリックだとかの驚きではなく、謎が明かされると同時に広がる全体を包む寂寥感が素晴らしい。

    この作品はミステリーを読む人もそうでない人も是非一度読んでもらいたい。

  • 自分が小説にハマった原点は、
    高校時代に読み漁った
    アガサ・クリスティーと
    レイモンド・チャンドラー。
    (初めて小説を読んだのは赤川次郎だけど笑)


    特にチャンドラーの
    ハードボイルドな世界観は、
    甘っちょろい16歳のガキだった自分には
    かなり衝撃的でした。


    それまで男というものの価値は、
    力がすべてで、

    力を誇示し
    強いものがカッコいいって
    単純に思ってたけど、

    『男は強くなければ生きていけない。
    優しくなければ、
    生きていく資格がない』

    に代表される、

    本当は
    堪えることがカッコいいという、
    日本の武士道にも通づる
    「痩せ我慢の美学」を教わったし、

    強さや優しさの
    本当の意味に気付き、

    自分の横っ面を
    思い切りシバかれた感じでした(^_^;)


    当時の悪い先輩や(笑)
    バンド仲間や
    好きなロックバンドたちが、
    こぞって
    チャンドラーを支持していた理由も
    読めば読むほど分かったんです。


    だから
    我慢の美学という点で言えば、
    寅さんの『男はつらいよ』シリーズや、

    悪漢の陰謀に
    堪えに堪えて、
    引っ張って引っ張って
    最後に読者を涙させる漫画
    『ワンピース』や、

    痛みや喪失感に堪え抜く主人公を描いた
    村上春樹の小説なんかも
    実はれっきとした
    ハードボイルドなんですよね☆



    で、チャンドラーの作品の中で
    一冊を挙げろと言われれば、
    やはりコレ。


    現代の騎士・
    私立探偵フィリップ・マーロウは、
    今作品でも
    殴られて
    痛めつけられても、
    テリー・レノックスとの友情のため、
    仁義のために
    堪えに堪え抜きます。


    ダンデイズムあふれる世界観と
    詩的でストイックな文体、

    散りばめられた
    宝石のような名言の数々。


    エモーショナルに胸を打つ
    ドラマチックなストーリーと
    ラストのどんでん返し。



    10代、20代、30代と
    10年ごとに
    何度となく読み返してきたけど、
    やはり一生付き合える逸品だと改めて感心したし、

    上質なワインのように
    時が経てば経つほどに
    より芳醇な味わいに気付く、
    ハードボイルド小説史上に
    燦然と輝く金字塔です。


    カッコいい男が知りたければ
    読むべし!

  • P243に誤字。夫ではなく失になってる。
    80刷までいってるけど、残ったままみたい。

  • これぞハードボイルド。その文体は、あとがきで清水俊二は「気障の一歩手前」と呼んだが、それを実現させたのはもちろん、邦訳の手腕もあるだろう。皮肉屋で世間から一歩引いていながら、時には激高し相手が警官だろうが平気で喧嘩を売るマーロウの人柄を違和感なく描いたことに舌を巻く。物語の最後、あのエンディングが訪れたのはマーロウの性格によるものだし、事件の契機となる出来事もマーロウの性格によるものだった。ただ人と人がぶつかり合い、そして起きる出来事だけが積み重ねられて、この物語になる。

  • うおお渋い。探偵フィリップ・マーロウの粋き様ならぬ生き様。垣間見える彼の人間らしさが、物語により深みを与えてくれる。
    ♪"FAREWELL BLUES(cowboy bebop)" "Elm(同)"をbgmに読むと驚きの相乗効果が生まれる。はず。

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