さらば愛しき女よ (ハヤカワ・ミステリ文庫 7-2)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (324ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150704520

感想・レビュー・書評

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  • ハードボイルドの古典、私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする長編シリーズの第2作目。村上春樹の新訳もある。

    独特の魅力を持つ私立探偵フィリップ・マーロウが偶然巻き込まれた二つの事件。背景が明らかになるにつれ、それぞれが次第に繋がり一つの真実に導かれていく。

    アクションありロマンスあり、巧みに張り巡らされた伏線による驚きの結末あり。文体も読みやすくて面白い。何よりも、登場人物たちの魅力が大きい。ミステリーは門外漢な上にハードボイルドは未知の領域だったけれど。古本で110円だったから……という安易な購入理由で読んだ本作は、やはり名作の香りが高く読み応えがあった。マーロウがやたらモテる理由がわからないことが、自分がモテない理由なんだろうな(笑)。読了後に検索していて知ったが、DSでゲーム化されていたとは恐れ入った。

  • ハードボイルドの古典であり永遠不滅の傑作である。レイモンド・チャンドラーが創造した探偵フィリップ・マーロウは、幾多の派生キャラの原型として、数多の作家達に大きな影響を与え続けている。「ロング・グッバイ」に続いてマーロウを読了した。


    「リリシズム」なる言葉を使ってチャンドラーの作風が評されることが多い、ハヤカワ文庫の裏にもその言葉がある。直訳すれば「叙情的」となるそうだ。主人公フィリップ・マーロウの生き様、そして事件の幕切れに共通する、ある種のオーラ?色彩?総じてリリシズムという言葉で括っているように思う。なるほど常にやるせなく切ない空気に包まれている世界観が、そこにある。


    ただし本当の意味でチャンドラーとマーロウのリリシズムを理解しようとするならば、原書で読まねばならないのではないか?海外作品を読む時に常によぎる感傷が、特に大きく感じられるのがマーロウものなのだ。

    自分のように日本語しか理解し得ない人々のために、翻訳者なる人物が存在していて彼等の仕事ぶりは、時に作者以上の影響力を持ち、優れた作品が世に出て広く知らしめらるにあたり必然たるものがある。今作の翻訳者は清水俊二氏である。


    清水氏は他のチャンドラー作品のほとんどを手がけており、元々は映画の字幕を翻訳されていた人物である。セリフにあわせて字幕を目で追う作業は、耳で聞く作業に比べ理解のスピードが劣る。これを観客に悟られることなく字幕を作る仕事において、それらセリフの一つ一つに翻訳者の意訳があり、時に原語を超えるセリフが生まれることさえある。


    「旅情」(1955)において「ステーキが食べたくても、ペパロニを出されたらペパロニを食べなさい」というセリフを「スパゲティを出されたら、スパゲティを食べなさい」と変えたのが清水氏であるそうだ。彼と時を同じくして映画字幕で活躍した高瀬鎮夫氏は「カサブランカ」において“Here's looking at you, kid を「君の瞳に乾杯」とあてた。


    そのような渦中にあった清水氏であるからこそ、チャンドラーの世界観を、言葉と気候自然を、つまり文化を超えて我々に提供してくれるにふさわしい人物であったようだ。

    今作においてマーロウ以外の人物においても、大鹿マロイ、グレイル夫人、アン・リアードン、ランドール警部補、レッドなど、それぞれの人物がそれぞれの「リリシズム」に彩られている。愛しき女を追い求めた大鹿リロイが迎えた結末もやるせななく、追い求められた女もさらに切なかった。

    作者チャンドラーの偉業は言うに及ぶまいが、日本人は、翻訳者清水氏に、作者の同等の賛辞と感謝を送るに疑いない傑作であった。

    「ロング・グッバイ」は村上春樹氏訳を読んだ、やはり「長いお別れ」を読むべきだとあらためて思った。

  • 「さらば愛しき女よ」誰が訳したのか知らないが、心打つ名訳だ。1995年版ハヤカワ文庫
    一度は読むべき本である。

  • チャンドラー長編2作目にして不朽の傑作。

    私がこの作品と出逢ったことの最大の不幸は先に『長いお別れ』を読んでしまったことにある。もしあの頃の私がフィリップ・マーロウの人生の歩みに少しでも配慮しておけば、そんな愚行は起こさなかったに違いない。あれ以来、私は新しい作者の作品に着手する時は愚直なまでに原書刊行順に執着するようになった。
    そんなわけでチャンドラー作品の中で「永遠の№2」が私の中で付せられるようになってしまったのだが、全編を覆うペシミズムはなんとも云いようがないほど胸に染みていく。上質のブランデーが1滴も無駄に出来ないように、本書もまた一言一句無駄に出来ない上質の文章だ。

    マーロウが出逢ったのは身の丈6フィート5インチ(約195センチ)はあろうかという大男。大鹿マロイと名乗ったその男は8年前に殺人罪を犯して刑務所に入っていた。そして出所して早々かつて愛した女ヴェルマを捜していた。マロイはヴェルマを求め、黒人街の賭博場に入るがそこでまたも殺人を犯してしまう。マーロウは否応なくマロイの女ヴェルマを捜すことを手伝うことに。またマーロウは盗まれた翡翠の首飾りを買い戻すために護衛役として雇われる。しかし取引の場所でマーロウは頭を殴られ、気絶する。意識を取り戻すとそこには依頼人の死体が横たわっていた。

    事件はいつもの如く、簡単と思われた事件で殺人に巻き込まれ、それがもう一方の事件と関係があることが解り、結末へという道筋を辿るのだが、この作品が他の作品と一線を画しているのはとにかく大鹿マロイの愚かなまでの純真に尽きる。昔の愛を信じ、かつての恋人を人を殺してまで探し求める彼は手負いの鹿ならぬ熊のようだ。そして往々にしてこういう物語は悲劇で閉じられるのがセオリーで、本書も例外ではない。 悪女に騙された馬鹿な大男の話と云えば、それまでだが、そんな単純に括れないと抗う気持ちが残る。
    本書でもマーロウは損な役回りだ。特にヴェルマの捜索は無料で引き受けてしまう。だが彼は自分の信条のために生きているから仕方がない。自分に関わった人間に納得の行く折り合いをつけたい、それだけのために自ら危険を冒す。

    本書の原形となった短編は「トライ・ザ・ガール(女を試せ)」だが、チャンドラーはそれ以後も大男をマーロウの道連れにした短編を書いているから、よっぽどこの設定が気に入ったのだろう。そしてそのどれもが面白く、そして哀しい。
    そしてマーロウのトリビュートアンソロジーである『フィリップ・マーロウの事件』でも他の作家が大鹿マロイを思わせる大男とマーロウを組ませた作品を著している。つまり本書はアメリカの作家の間でもかなり評価が高く、また好まれている作品となっている。

    あとなぜだか判らないが、忘れらないシーンとして警察署のビルを上っていくのをマーロウが気づくところがある。この虫はやがて18階の事件を担当する捜査官の机まで来ている事にマーロウは気づく。このシーンがやけに印象に残っている。その理由は未だに解らない。
    本作の感想はいつになく饒舌になってしまった。そうさせる魅力が本書には確かに、ある。

  • ハードボイルドてわかりにくい。心理描写は少ないけれど、すべての推理が終わったときの、マーロウの心中描写は見事だった。いわゆる「砂の器」系の小説だと、すべて読み終えてわかった。誰にも知られたくない過去がある、と書くのは日本の推理小説家。「私は空しい冒険から戻ってきたお人好しのばか者だった」とチャンドラーは何も語らないのに全てを語る。書き込めないのがおしいなー。名作。

  • やっぱり・・・何度読んでも、この作品を越えるハードボイルド作品はないでしょう!あまりにもベタだけど・・・あはは
    ハードボイルド作品を読むと、どうしても探偵の原型はマーロウからきていわねーって思っちゃうんですよねぇ><
    他のチャンドラー作品も、「長いお別れ」は別として、霞んでしまいますもんね。
    それだけ私には本書が鮮烈だったわけなんです。ハメットもいいけど・・やっぱりチャンドラーかなぁ~。

    なんといっても、主人公の私立探偵マーロウの人物像が魅力的すぎる。
    これこそ男の鏡!みたいな考え方。決して幸せでも大金持ちでもない。でも彼の中には静寂があり、少しシニカルな物言いもなんだか全てが私にはヤバイのである!。あはは
    女心をくすぐるんですねぇ~(´゚艸゚)∴ブッ
    事件自体はそう複雑ではなく至ってシンプルだけど、翻訳物はやっぱり翻訳者にかかってきくるなぁ~って本当にそう思います。
    清水氏の翻訳は素晴らしいと思います。マーロウの人物像を壊すことなく翻訳されているし。
    そういえば、村上春樹が翻訳した本が出版されているんですよねぇ・・・。今のところ、触手は動きませんけど。どうなんだろう?

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「触手は動きませんけど。どうなんだろう? 」
      清水訳が素晴しいので、村上ファンでなければ読まなくても、、、いやいや、チャンドラーファンなら...
      「触手は動きませんけど。どうなんだろう? 」
      清水訳が素晴しいので、村上ファンでなければ読まなくても、、、いやいや、チャンドラーファンなら、完訳だから読むべきかも、、、やっぱり好みと言うコトでしょう。。。
      2014/03/25
  • 後半、一気に加速。

    正直、かなりご都合主義的なところもあるけど
    そこから注意がそれるほど、
    ぐいぐいと気持ちを引っ張っていく。

    たぶん、見落としているところも
    多い気がするので
    再読すると新たな発見がありそう。

  • 翻訳がすばらしく、『さらば愛しき女よ』というタイトルだけでも飯が食える。チャンドラーはとにかく恰好よさと哀愁ただよう雰囲気を味わえればいいと思っているので、そういった点においては、やはり本書も傑作であった。

  •  これぞハードボイルド!黒人街のバー、謎の依頼人に謎の女、富豪、宝石泥棒、賭博の停泊船…あんまりミステリーを読んでなかったわたしでも、「ミステリーっぽいーー!」ってなる要素がそこかしらに散っている。
     マロイが切ない。なんとも言えぬ哀切な感情が胸に残る。

  • 私立探偵フィリップ・マーロウの二作目。

    唐突な事件の始まり方、というか、巻き込まれ方が、
    とてもハードボイルドっぽい。
    というとハードボイルドに対する冒瀆だろうか、偏見だろうか。

    富豪の枠美しい妻や謎の女、沖合に停泊すると賭博の船と、
    まるで映画化してくれといわんばかりの設定のようの気がするのは、
    後の世からの後付けだろうか。

    今回も銀行強盗で服役していたと男や、元バーの経営者の妻といった
    個性際立つ登場人物が良かった。

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著者プロフィール

Raymond Chandler
1888年シカゴ生まれの小説家・脚本家。
12歳で英国に渡り帰化。24歳で米国に戻る。作品は多彩なスラングが特徴の一つであるが、彼自身はアメリカン・イングリッシュを外国語のように学んだ、スラングなどを作品に使う場合慎重に吟味なければならなかった、と語っている。なお、米国籍に戻ったのは本作『ザ・ロング・グッドバイ』を発表した後のこと。
1933年にパルプ・マガジン『ブラック・マスク』に「脅迫者は撃たない」を寄稿して作家デビュー。1939年には長編『大いなる眠り』を発表し、私立探偵フィリップ・マーロウを生み出す。翌年には『さらば愛しき女よ』、1942年に『高い窓』、1943年に『湖中の女』、1949年に『かわいい女』、そして、1953年に『ザ・ロング・グッドバイ』を発表する。1958 年刊行の『プレイバック』を含め、長編は全て日本で翻訳されている。1959年、死去。

「2024年 『プレイバック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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