高い窓 (ハヤカワ・ミステリ文庫 チ 1-5)

  • 早川書房
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感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (343ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150704551

感想・レビュー・書評

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  • 『大いなる眠り』、『さらば愛しき女よ』と続いたフィリップ・マーロウ3作目の本書は一転して地味で素っ気無い題名。題名というのは読書意欲を喚起させるファクターとして私は非常に大事だと思っているのだが、文豪チャンドラーの作品とは思えないほど、飾り気のない題名はちょっと残念。

    マーロウは盗まれた時価1万ドルと云われる初期アメリカの古銭を探してほしいという依頼を受ける。それはマードック夫人の亡き夫の遺品であり、夫人は息子の嫁で歌手のリンダが盗んだと疑っていた。
    事務所に戻ると夫人の息子レズリーがいた。レズリーは妻のリンダのかつての勤め先のナイトクラブのオーナーに借金があり、金に困っていたと話す。マーロウはリンダを探しにそのクラブに行くが、オーナーはおらず、リンダの友達だったその妻と逢う。

    さらにマーロウは自分を尾行している探偵フィリップスに気づく。彼はコイン商に雇われていた。彼の話では件のコイン商が所有しているとの事で、マーロウはコイン商に逢い、1万ドルで買い戻す取引をする。
    マーロウが金を取りに行く途中でフィリップスのアパートに立ち寄るとそこには彼の死体が転がっていた

    と、この話は抜き出してみても非常に人が入れ替わり立ち替わりして、訳が解らなくなる。一体この小説のメインプロットは何だったかと、読者は困惑することだろう。要約すれば盗まれたコインを探すうちに、容疑者であるリンダを捜索を端緒に調査を始めると、件のコインに関係する人々が次々に殺され、依頼人に纏わる秘密が浮き彫りになるという内容だ。
    しかしチャンドラーは雰囲気で読む作品だ。例えばこんな文章にハッとさせられる。

    「家が視界から消えるにつれて、私は奇妙な感じにとらわれた。自分が詩を書き、とてもよく書けたのにそれをなくして、二度とそれを思い出せないような感じだった」

    こんな経験は誰でもあるのではないだろうか?こういう言葉にしたいがどういう風に言い表したらいいのだろうかともどかしい思いをチャンドラーは実に的確に表現する。
    詩的なのに、直情的。正に文の名手だ。

    本作では依頼人の秘書のマールと運転手のキャラクターが鮮烈な印象を残す。 特にマールの存在については現在にも繋がる問題として、読後しばらく考えさせられてしまった。金満家の未亡人の世間知らずな側面が招いた悲劇を描いたこの作品はロスマクにも影響を与えているのではないだろうか。

  • やっぱり、また会えたね、マーロウ君…
    (って、私がもちろん喜んで読んでおりますのですが)

    今回のマーロウ君は、ある裕福な未亡人からの依頼で
    盗まれた古い金貨を取り戻す、というもの。

    未亡人は姿を消した息子の嫁を疑っているが…
    話はもちろん、それだけでは終わらず…

    今回もポカポカと人が死にます。

    行かなくても…と言う場所にも赴き、
    いつもの様に危ない橋を渡り、
    様々な危険な現場に居合わせるマーロウ君。

    だが、もちろん権力には屈しませぬ。

    この作品は意外に美女率低め(ほぼ無し)であった。

    また、マーロウ君の心の拠り所となる人物
    (この人の為に、この仕事をしようと
    マーロウ君が思いを寄せる人)が
    哀しい、利用された立場だったので、
    全編を通して重たい空気。

    上記に加え、今回のマーロウ君はいつも以上に冗談も冴えないし
    なんだか堅苦しい印象で、
    チャンドラー晩年の作品なのかな?と勝手に思ったが違った。

    ただ、翻訳の清水さんが死出の病に倒れており、
    それをおして翻訳していたとのこと。
    関係あるかしらん?

    清水さんは食道がんで水が一滴も喉を通らなくなっても、
    病室で翻訳を続けておられた、とのこと。

    最後の原稿は、「彼」の編、ギョウニンベンで終わっていた、そうです。
    完成間近の残された原稿を仕上げたのは戸田奈津子氏。

    戸田奈津子氏と言えば、映画の字幕での狼藉ぶりに
    映画ファンを悲しませている、と言うのを聞いている。
    映画館で映画が始まって、字幕 戸田奈津子と出ると
    溜息が聞こえると、聞いた!
    私はまだ、これは…!と憤った体験はないのですが…

    そんななか(?)
    今回、実際、違いはわかりませんでした(!)

    食道がんに関しては、私も身内を同じ病気で亡くしているので、
    その病気がどんなに辛いか、ちょっとはわかるつもり。

    清水さんもハードボイルド、なのですねえ。

    いつものミステリガイドでは圏外。

    ネタばれの嵐なので、その本を読んだ後、
    その部分だけをよむ、「海外ミステリ・ベスト100」では、
    池上冬樹と言う方が、この「高い窓」を評価しておられた。

    読み終えて、しばらくして、
    「ああ、そうか」「そうだったのか」と
    思い出して、納得して、しみじみと味わえる、逸品!

  • ロンググッドバイからの流れでチャンドラーのマーロウ7長編リレーを敢行したが、ちょいとこれは話の流れで複雑でいろんな要素が絡み合ってるせいか、読んでてロンググッドバイほどの謎解きの爽快感はあんまり感じないかな。でもやっぱりブレない男マーロウのセリフまわしは抜群にしびれます。

  • 謎解きの部分が後付っぽく感じてしまったところはあったんだけども、フィリップ・マーロウが人に優しいところが好きだったなぁ・・・。気取ってんだろうけども嫌味ない感じした!

  • レイモンド・チャンドラーのマーロウものの3作品目。ぼくはこの小説の第1章がすごく好き。

  • 村上春樹訳の『ロング・グッド・バイ』を読む前に、フィリップ・マーロウに出会いたくて読んだ1冊。ハードボイルドってこういうもんなのね。フィリップ・マーロウが取り敢えずクールで素敵。村上春樹が影響を受けているのが痛いくらいにわかった。2010/100

  • フィリップ・マーロウものの長編はこれで全部読み終わったことに…
    7編しか書かれていないことが悔やまれてならない。

  • 皮肉と諧謔の応酬の激しいこと激しいこと。途中でついていけなくなって、言葉通り受け取っていいのかわからなくなることも。でもその位振り回されるくらいが掛け合いのノリを楽しめて自分にはちょうど良かった。

  • マールのキチガイっぷりがたまらない。マーロウの「どうにかしてくれ」感がひしひしと伝わってくる。誰も得をせず、誰も幸せにならない。かろうじてマールが救われたような気がするが、本人はそうは思わないだろう。少なくとも当面は。徒労感に襲われる。面白かったけどね。

  • 『長いお別れ』よりもこっちが好き。ミステリとしての謎はすぐ割れちゃうけど、なによりチャンドラーは文章がいい。

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著者プロフィール

Raymond Chandler
1888年シカゴ生まれの小説家・脚本家。
12歳で英国に渡り帰化。24歳で米国に戻る。作品は多彩なスラングが特徴の一つであるが、彼自身はアメリカン・イングリッシュを外国語のように学んだ、スラングなどを作品に使う場合慎重に吟味なければならなかった、と語っている。なお、米国籍に戻ったのは本作『ザ・ロング・グッドバイ』を発表した後のこと。
1933年にパルプ・マガジン『ブラック・マスク』に「脅迫者は撃たない」を寄稿して作家デビュー。1939年には長編『大いなる眠り』を発表し、私立探偵フィリップ・マーロウを生み出す。翌年には『さらば愛しき女よ』、1942年に『高い窓』、1943年に『湖中の女』、1949年に『かわいい女』、そして、1953年に『ザ・ロング・グッドバイ』を発表する。1958 年刊行の『プレイバック』を含め、長編は全て日本で翻訳されている。1959年、死去。

「2024年 『プレイバック』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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