暗闇へのワルツ (ハヤカワ・ミステリ文庫 ア 3-2)

  • 早川書房
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (494ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150705527

感想・レビュー・書評

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  • 「幻の女」読んで以来、一時期読み漁った作家さん。ストーリー展開は大体いつも同じパターンなのに引き込まれるし、心理描写も興味深いし、表現もなんとも叙情的でロマンチック。美しい言葉、セリフ回しにため息がでます。ヒロインの正体が判明するまでの話だとデュ・モーリア風ですが、この作品ではその後の展開がメインになります。悪女の道徳観念の欠如や狡猾さが分かっているのに、それでも読者も惹きつけられる。それこそルイスのように、理屈じゃなく彼女が彼女であることに魅力があるんです。こんな女性を描ける想像力と文章力。いつまでも読み継がれていってほしいです。

  • WALTS INTO DARKNESS 英語の方が刺さる気がします。もしくは「暗黒へのワルツ」とか。「暗闇」ではなく「暗黒」のような気がしました。

    凄いですねえ、主人公ルイスの愛。どうしようもない愛。まさに、堕ちる、落ちる、INTO です。どこへ? DARKNESSへとです。「闇」はジュリアへの思いの先にあるブラックホール。悪女、という形容詞では収まらない、闇をはらんだ女、ジュリアです。

    アイリッシュはこういう愛の形をどこで思い浮かべるのでしょう? 今まで読んだ中で一番きりきりとしました。ルイスの落ち具合が・・ 見ていられない。

    ・・しかし、一歩引いてみると、ルイスって男はなんてばかなんだ、と映りますが、男女問わず、恋の渦中に陥ると、こうなる時もあるんだろうなあ。

    修飾文体も冴えてます。逃避行の先で、
    「彼女の曇った金色の笑い声がたかだかと天井にはね返って、二人の頭上に偽造の銅貨のように降りかかった」

    含蓄あるせりふ、
    「あなたは下手な良心なんか持ってるから苦しむのだけど、あたしはそうじゃないの。・・事件が起きたら起きたで、それだけの話にしてすませるの」

    1880年、ニューオーリンズで事業をしている36歳のルイス。22才の時に結婚寸前で花嫁が死んだ。やっと文通で心通じる女性と知り合い、今彼女がやってくる。彼女の好みも聞いて壁紙も張った家も用意した。が、船から降りた女は写真と違った。写真は姉の、という言葉に納得し生活を始めるが・・ ある日彼女はお金を引き出しいなくなる。ここらへんまでは予想がつく展開。しかしそこからが、こうくるか、という展開だった。

    ある女性を好きになったがために人生が狂う男、という設定は「マンハッタン・ラブソング」と似ている。女性はどちらも「普通の家庭人」ではない毒のある女。マンハッタン~は若い男が年上の女性に、こちら暗闇~ではちょっと年いった男が若い女性に、というところが違う。ウールリッチの書いた年齢と、男女の年齢によって、物語の色合いは違ってくる。若い男、では純愛っぽい、年いった男では、なにを血迷った、となる。

    映画化
    「暗くなるまでこの恋を」1969 フランソワ・トリュフォー監督 カトリーヌ・ドヌーブとジャン・ポール・ベルモンド
    「ポワゾン」2001 マイケル・クリストファー監督 アンジェリーナ・ジョリーとアントニオ・バンデラス

    どちらも、ちょっと、イメージとちがうなあ。

    1947発表
    1976.10.15発行 1986.9.30第2刷 図書館

  • ウィリアム・アイリッシュ作品。 3作品目。

    「その望みが達せられるなら、どんな運命でも、たとえそれがスペードのエースでも、甘んじて受けましょう」ルイスは祈る。破滅の合言葉です。
    「あたし、いちかばちかってことをやる男が大好き」刹那に生きるギャンブラーの言葉が、加速させる。
    ただなぜこうなってしまったのでしょうか? 何度読み直しても、破滅した理由が、よくわからなかった。

    違和感があるとすれば、きっと金銭感覚。物語は、1880年に始まる。日本では、鹿鳴館ができた頃。具体的な金銭感覚は不明ですが、当時の$1は、現在の価値で考えると、1-2万円相当。(仮に1万円として)、ルイスがジュリアに持っていかれた金額は、5万ドル(5億円)。ルイスの全資産は10万ドルだから、その後、お金が無くなるエンディングまでに、同等の金額を使い切った換算。
    ボニーが浪費癖があるとはいえ、逃避行のホテル暮らしとはいえ、豪華な家&家政婦とはいえ、にわかに信じられないお金の使い方としか思えません。えっと、5億円あれば……。私だったら、指輪や宝石を買っても、ドレスをオーダーしても、ホテルで食事をしても、とても、使い切れない。

    破滅に向かう二人のコントラストが面白い。ギャンブラーと鴨・小心者。ただ、働き通しだったルイスも、ボニーとの逃避行は、希望こそ持てなく、単に浪費(お金と時間の)だけど、きっと、それまでの生き方よりも、幸せだったに違いない。だから、最後に、「あれ」を飲もうとしたのでしょう。
    一方、ボニーについて、最後はなんかルイスとワルツを踊って、愛?いや同情?したような感じでしたが、最後まで、小悪女を貫いてこと、と思うのは、私だけ?

  • ジュリアかボニーか


     こんなに夢のある悪女小説は、ほかに読んだことがありません……★

     主人公のルイスは孤独に耐えかねて、文通で知り合った女ジュリアと、一度も会わないうちから(!)結婚の約束をとりつけていました。すると、やってきた花嫁は知らされていたよりだいぶ若く、そのうえ、目もくらむような金髪美女だったのでした。
     こう書いてもネタバレというほどのこともないでしょう。もちろん別人! ルイスは結婚詐欺にあい、まんまと金を持ち逃げされるのだ。愛が憎しみにかわって燃え上がり、復讐を決意。しかし、憎しみがふたたび愛にかわるような第二幕が……♥

     よくよく騙されやすい男なのでしょうね、ルイスという奴は。子どもっぽいくらい純真で、世間を知らない、ものを知らない、女を知らない! などと、たいして世間を知っているとも思えない私に言わせてしまうほど、ルイスのピュアネスは破壊的なのです。
     アイリッシュの書きっぷりもまたすごくて、

    〝いわば、彼は当然女の餌食になるように生まれついた男だった。彼自身もようやくそれに気がつきはじめていたが、たとえ彼女に食われなかったとしても、おそらくほかのだれかが彼を食っただろう〟

     だそうですよ。
     女に食われるべくして生まれたような男……!

     ある意味、ルイスははじめに考えていた「復讐」を果たしたと言えるんじゃないでしょうか? しかも、その騙されやすい、世間知らずな、ちょっと頼りない彼だったからこそ、悪女を食ってしまうことができたのです。
     ラストであの悪女「ボニー」は死んで、残ったのは彼の本当の妻「ジュリア」だったのかもしれない……。そんな夢を見ました☆

     この著者のなかでは大長編ですが、文体が最後まで魔力を失わず、一作に普通の小説の五、六作分くらいのエキスがバシャバシャ注ぎこまれていて、とても濃い。章が移りかわるたび、また新しい扉が開かれたように誘いこまれます。

  • ラストでルーが強壮ドリンクを飲みたいというシーンで泣いてしまった。・・・って、これ別にネタばれコメントじゃないよね?ドキドキ。

  • ここまで悪女ぶりを書ききるとは・・・。
    なんとなく映画「カサブランカ」に雰囲気が似ているかな。こっちの方が完全なる愛憎劇という感じでしたが・・・
    こちらも映画化されてるようで、機会があれば是非観てみたいです。

  • まさかアイリッシュがこんな悲恋の物語を書こうとは思わなかった。
    冒頭、別人になりすました若き淑女の登場から、度重なる齟齬から発覚する、花嫁入替りの事実。その事実が発覚すると同時に主人公の巨万の富を持ち出して逃亡する花嫁。復讐の鬼と化した主人公は1年と1ヶ月と1日を費やし、とうとう彼女を捕まえる。しかし、そこで彼女の巧みな話術によって誑かされ、結局彼女とまた2人の生活を始める。それが彼の正に人生の大きな過ちの始まりだった。
    花嫁の捜索を頼んだ探偵を自ら殺めることで闘争の日々が始まり、拠点を転々とし、ついに私財も底を尽く。彼女に唆されて博打ぺてんを仕掛けたものの、呆気なくばれて、ついに一文無しになり、彼女は昔付き合っていた悪党に手紙を送り、とうとう主人公の保険金殺人を図るのだが・・・とまあ、波乱万丈な物語で特に主人公が復讐を成し得なかった辺りから正に先の読めない展開となり、主人公は人生の落伍者へと、花嫁は希代なる悪女へと転進していく。

    この花嫁、ボニーの造型が素晴らしい。
    時には天使のような、時には状況の犠牲になったか弱い乙女のような、そして時には人生の酸いも甘いも経験し尽くした売女のような女として描かれ、しかもそれが全て違和感なく1人の女性としてイメージが分散しない。特に最後の辺りで主人公に毒殺を図る鬼気迫るやり取りは背筋が凍りつく思いがした。
    こういった人物造型含め、心情を暗示させる風景描写、移ろいゆく人々の心情描写がアイリッシュは抜群に上手い。真似をしたい美文・名文の宝庫である。

    恋は惚れた方が負けである。それは自分の人生経験でもそうだった。
    しかしアイリッシュは最後までその愛を貫くことで人間は変わる、そんな美しくも儚い物語を綴ったのだ。

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