煙幕 (ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-12 競馬シリーズ)

  • 早川書房
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本棚登録 : 92
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784150707125

感想・レビュー・書評

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  • 競馬シリーズ11作目。

    「骨折」もそうだったが、冒頭の展開が素晴らしい。
    いきなり主人公が危険な目に遭っていて引き込まれる。
    といっても、
    前回の本物の誘拐と違って、
    今回は映画のワンシーンだが。

    馬に乗ったスタントマンから人気の映画スターになったリンカンは、
    母親のように思っていた女性からのお願いで、
    南アフリカに不調の競走馬の様子を見に行くことになる。
    もちろん映画スターなので、そう簡単にはいかず、
    いつもは引き受けないキャンペーンに協力するふりをして、
    エージェントや映画会社を驚かせながら。

    記者会見の席で録音用マイクの事故が起き、
    インタビュアーが死にそうになる。
    競走馬の不振とその事故は関係があるのか。
    リンカンは金鉱見学で襲われ、爆破に巻き込まれそうになり、
    さらには、映画監督たちと野生動物のいる国立公園で、
    映画と同じように砂漠で車に手錠でつながれる…。

    面白い話だった。
    私のイメージでは、リンカンは、ジェームズ・ボンドのような、
    世界的に有名でアクションもする、女性に大人気の映画スター。
    だが私生活は、浮気もせず、妻と子供たちと静かな暮らしをしている。
    プロモーションも記者会見も断って。
    娘が事故で障害を負っているせいもあるが、妻を愛しているから。
    母親のように思っている女性や、
    仕事仲間の映画監督やカメラマンとの人間関係も。

    なんだか、競馬は関係ない?

  • 競馬、金鉱、動物、アパルトヘイト……南アフリカの紀行小説といった感じ。アパルトヘイトを巡る登場人物……南アフリカ……の意見と主人公……イギリス……の所感は興味深い。最後のセリフは思わず笑ってしまった。

  • いつも通り、安心してドキドキハラハラできます。いつになく精神状態が安定した人が犯人でした

  • いつもながら期待を裏切らない面白さ

  •  主人公が映画俳優というのにはかなり意表をつかれた。相当売れっ子の俳優だけど、実に人間的で友達になりたいタイプの男である。スキャンダルを求めたり、広告塔として振る舞うことを求めたりする業界の人たちや、登場人物のキャラクターと俳優の人柄を混同する人たちのおかげで、主人公の魅力が引き立っている。わずかなシーンでしか登場しないのに存在感が大きな家族たちも、主人公人間像を魅力的なものにしていると思う。

    犯罪捜査の話でいうなら、途中の微妙などんでん返しが印象的だった。それがあるから犯人の邪悪さがはっきりと見える。このあたりは、さすがにうまいなあと唸る。

    主人公が俳優であることが大きく意味を持つのは、最後の山場だ。それを抜きにしても、シッド・ハレーものに匹敵するくらいの、 迫力のある設定で、読んでいて苦しくなる。だからラストの爽やかな友情がフワリと読者の心を打つのだと思う。

    全体としてあまりによくできた話であり、「味わい」という点では名作にはなりきれない作品なのかもしれないが、爽やかで気持ちよく読める傑作だと思う。

  • ハンサムな人気俳優が主人公。
    子供が多く、家庭を大事にしている中年男が主人公というのは数少ない。
    金鉱の話や苛酷な撮影の話がスリリング。

  • 11−12
    大好きです。
    主人公は、精神発達障害の子どもを持つ、冒険映画主役の、映画俳優です。だから競馬メインじゃないんだって…。

     監督と反発した主人公は、主人公が苦悩するシーンで、最高の演技を見せてやろうとします。
     
     友人のコンラッドが言います。
    「仕上がったフィルムは、君の気に入らないはずだ」
     間をおいたが、彼が説明しないので、私が聞いた。「なぜ?」
    「あの中に、演技とはべつの、演技を超えたものがある」
     彼がまた間をおいて、言葉を選んでいた。「わしのようなひねくれた見方をする人間ですら、あの苦悩の質には、胸が裂けるような感銘を受けたよ」
     私は黙っていた。彼が私のほうに目を向けた。
    「たいがいの場合、きみは、自分をさらけ出すことをほとんどしない、そうだろう? ところが、今回は、きみ、今回は…」
     私はグッと口を結んだ。――ある感情を、人が認識できるよう、また、多分はじめて理解できるよう、再現するためには、それが現実にどのような感じであるかをある程度知っていなければならない。知っていることを見せるのは、それを感じたことがあることを打ち明けるのに等しい。一個人にとって、自分をこの上なくあからさまに露呈することは容易ではなく、露呈しなければ偉大な俳優になれない。

    「何を考えているのだ」
     コンラッドが聞いた。
    「今後も、これまでと同様に、非現実的冒険活劇に専心することに決めていたのだ」
    「臆病者だな、きみは」
    「そう」

    「いーや」彼が首を振った、「本物が得られないことが判ったのに、張子で満足するものはいない」

     3位は『黄金』かな『告解』かな…それとも!?
     いっぱいありすぎて選べません。

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